2009年04月19日(日) |
USB、ボルト、フィースト2、海の上の君は…、そんな彼なら捨てちゃえば?、ブッシュ、消されたヘッドライン+製作ニュース |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『USB』 舞台作品における映像プランナーとして実績を持ち、2006年 ベルリン映画祭に出品された『カインの末裔』などの映画作 品も手掛けている奥秀太郎監督による最新作。 原子力施設を抱える町を舞台に、低濃度とされる放射能汚染 が始まり、その環境下で暮らす人々にいろいろな思惑が交錯 する。 主人公は、開業医の息子で医大を目指すも浪人6年目という 男性。その父親が亡くなり、病院は閉鎖、主人公にも多少の 焦りは見られるが、まだ悠長に暮らしている状態だ。そんな 主人公の周囲を放射能汚染が蝕み始め、またそれを利用しよ うとする連中も現れる。 一方、主人公は浪人生活の中で手を出したギャンブルの借金 が嵩んでおり、地元の暴力団と思われる連中から、ドラッグ の売人になることを強要される。さらに予備校で付き合った 女性が妊娠し、金の工面のために危険な医療実験の被験者に もなるが… この主人公を、2007年に『キャプテン・トキオ』を監督した 渡辺一志が演じ、脇役には桃井かおり、大森南朋、大杉漣、 野田秀樹らが配されている。他に、ロックバンド銀杏BOYZの 峯田和伸らが出演。 『キャプテン・トキオ』は、試写は観たがサイトにはアップ しなかった作品で、何というか取り留めの無い物語の展開が 納得できなかった。今回の作品は、脚本も奥監督が書いてい て直接の関係はないが、何となく取り留めの無さが似ている 感じもする。 それでこの2人の監督は、共に海外での評価は高いそうだか ら、こんな作風が海外では評価され易いようだ。でも、僕は あまり好きな感じではない。 今回の作品でももっと1本筋を通して描いた方が、いろいろ とアピールもしやすいようにも思えるのだが、どうもそうい う志向ではないようだ。でもまあ、何かを何となく感じられ るところがそれで良いのかな。きっとそうなのだろう。 そんな作品だが、取り立てて嫌になるような部分は無かった し、テーマが放射能汚染ということでは、現代における警鐘 でもある訳で、そんなことでこの作品は紹介しておくことに したい。公開は6月上旬ごろのようだ。
『ボルト』“Bolt” ピクサーの創設者ジョン・ラセターがディズニー・アニメー ションの責任者になり、その第1作として製作された作品。 テレビの人気ドラマでスーパードッグとして活躍するタレン ト犬が、誤ってハリウッドのスタジオからニューヨークに搬 送されてしまう。ところがそのタレント犬は、実はスタジオ 以外の世間を知らずに育てられ、自分を本物のスーパードッ グだと思い込んでいた。 そんな世間知らずのタレント犬が、遠くハリウッドの飼い主 の許を目指して大陸横断の旅を開始する。そしてその旅に、 世間擦れした痩せこけの黒猫と、透明のボールに入ったまま だがテレビには詳しいハムスターが道連れとなり… 飼われていた動物たちが遠く離れた飼い主の許へ向かって旅 をするお話というと、ディズニーの作品では1963年の“The Incredible Journey”(邦題:三匹荒野を行く)が思い浮か ぶ。本作がそこからヒントを得たのでは?という意見はアメ リカでも出ていたようだ。 もちろん、現代のアメリカが舞台では背景は荒野ではなく、 主人公もタレント犬だったりと設定はいろいろ変ってはいる が、飼い主を思う気持ちでその許を目指すというコンセプト はディズニーが最も大切にしたいと思っているものだろう。 そして本作では、スーパードッグだと信じていた自分が、実 はただの普通の犬だったと判る挫折感のようなものが、現代 社会のいろいろな部分で共感を得られるような物語が作り上 げられていた。 声優は、アニメ初挑戦のジョン・トラヴォルタと、テレビの “Hannah Montana”のマイリー・サイラス、他にマルカム・ マクダウェルも重要な声を務めている。 因に、本作はディズニーが初めて当初から3Dの設計で製作 した作品となっている。今回の試写は2Dで行われたが日本 公開は8月1日でまだ先なので、それまでには3Dでの試写 も観せて貰いたいものだ。 また本作の上映では、“Tokyo Mater”(邦題:メーターの 東京レース)という短編が併映される。作品は2006年『カー ズ』に登場したレッカー車のメーターが東京に来てドリフト レースに参加するというものだが、その途中に出てくるカタ カナ書きの看板がファンには注目だ。
『フィースト2−怪物復活−』 “Feast II: Sloppy Seconds” Project Greenlight受賞作品で昨年2月に紹介した『フィー スト』の続編。 お話は前作の続きで、前作で荒野の一軒家を襲った怪物集団 が、本作では田舎町に襲いかかる。そこには前作で生き残っ た老バーテンダーや、前作に登場した女バイカー=ハーレー ・ママの双子の姉妹(同じ女優が演じる)もいたりして、怪 物集団との戦いが繰り広げられる。 そして今回のサーヴァイヴァたちは、町中のとある工場に追 いつめられ、そこからの決死の脱出が敢行されることになる のだが… 前作は、アメリカ映画では久しぶりの本格スプラッターだっ たが、本作は前作にも増した仕掛けや映像が展開される。そ れにお笑いのシーンも、前作にも増してブラックになってお り、正にスプラッターの粋が凝らされた作品というところだ ろう。 監督は、前作と同じくジョン・ギャラガー。本作にも出演し ているベテラン俳優クルー・ギャラガーの息子だ。そして脚 本も前作と同じくパトリック・メルトンとマーカス・ダンス タン。脚本家の2人は『ソウ4』『5』にも起用されるなど 売れっ子になっている。 出演は、前記のギャラガーに加え、『幸せのレシピ』のジェ ニー・ウェイド、今回は妹役のダイアン・ゴールドナーが前 作から再登場。他に、『POTC』のマーティン・クレバ、 監督の弟のトム・ギャラガーなど、個性派というかいろいろ な顔ぶれが揃っている。 因に本作は、アメリカ国内の映画祭で上映された他はDVD での公開となっており、劇場で一般公開されるのは現在のと ころ世界中でも日本だけとなっている。しかもノーカットの 無修正公開となるようで、日本は他の規制は多いがこういう ものだけは寛容だ。 また、本作に続いては『フィースト3−最終決戦−』も公開 されるもので、これで3部作の完結となるようだ。 『ソウ』シリーズはまだまだ続く計画で、物語もそれを意識 した明確な結末のない作り方になっているが、その脚本家た ちがちゃんとした決着を付けられるかどうかも興味が湧く。 第3部の試写は来月行われるので、それを観たらまた報告す ることにしたい。 ただまあ、前作に比べると、怪物がかなり弱く感じるのは、 物語の進行上仕方ないのかも知れないが、その辺が最終話で 修正されるかどうかも気になるところだ。
『海の上の君は、いつも笑顔。』 2003年『星砂の島、私の島』、2005年『ライフ・オン・ザ・ ロングボード』といういずれも海をテーマにした作品を発表 している喜多一郎監督の最新作。 喜多監督作品では、昨年4月に『サンシャイン・デイズ』と いう作品を紹介しているが、本作はそれに続けて茅ヶ崎を舞 台にしたもので、海を愛する若者たちの青春ドラマが繰り広 げられる。 主人公は、県立茅ヶ崎高校に通う女子高校生。顧問の教師か らバスケ部の次期キャプテンに指名されるほどの運動神経の 持ち主だが、生活に目標が無いためか何をやるにも投げやり な態度だ。 そんな彼女が、密かに憧れる同級生がサーファーと知り、兄 の遺品のボードを持ち出して海に挑む。ところが波に巻かれ てボードを失ってしまい、しかも兄の三回忌も近付いて、彼 女は必死にボードの行方を捜すのだが… 実は彼女の兄は将来を属望されたサーファーだったが、プロ デビュー戦の直前に交通事故で命を落としていた。彼女のボ ード捜しは、そんな兄の軌跡をたどる旅にもなって行く。そ してそこにはいろいろな出会いや新たな世界が開けて行く。 主演は『神様のパズル』などの谷村美月。共演は、『さらば 仮面ライダー電王』の桜井通、『エリートヤンキー三郎』の 山本ひかる、『コドモのコドモ』の甘利はるな。その脇を、 伊藤裕子、山本太郎、大杉漣、津田寛治、『サンシャイン』 の麻宮美果らが固めている。 もの捜しが亡き人の軌跡を辿り、そこに主人公の目標が生ま れて行くという展開は過去の映画にもありそうなお話だが、 そこに茅ヶ崎から江の島までの海岸の風景が重なって、とに かく明るく元気な作品を観せて貰った。 因に、隣町の平塚で生まれ育った僕は、今でも月に数回茅ヶ 崎通過してサッカーの応援に行くが、映画には以前に平塚競 技場に来てくれていた茅ヶ崎高校のチアリーディング部の姿 や、HANAダンスタジオの生徒の演技なども登場して嬉しく感 じられた。 ただ、その隣町の平塚の話が一切出てこないのも気になった ところだが、実は『サンシャイン』の試写の時に「平塚市長 にも表敬訪問に行ったが、けんもほろろだった」というよう なぼやき声が聞こえてきて、そんな影響かなとも思ってしま った。 もっとも海流の関係で、茅ヶ崎で流されたものが江の島方向 に行くのは理に叶った話ではあるのだが…。現平塚市長の地 元意識の低さも地元民には良く知られたところなのだ。
『そんな彼なら捨てちゃえば?』 “He's Just Not That Into You” 『SEX AND THE CITY』の脚本スタッフだったグレッグ・ベー レントとリズ・タシーロ共著によるベストセラー本からの映 画化。男女の出会いも複雑な現代社会の中で、恋に憧れる男 女の姿がアンサンブル劇として描かれる。 アンサンブル劇の中心となるのは『ウォーク・ザ・ライン』 などのジェニファー・グッドウィン扮するジジ。失恋履歴多 数の彼女は出会った男のいろいろなサインに心をときめかせ るが、『ギャラクシー・クエスト』などのジャスティン・ロ ング扮するバーテンダーのアレックスには、いつも「それは 違う」と忠告される。 因に原題は「彼は君には興味が無い」というような意味だそ うで、そんな男女の心のすれ違いが、上映時間2時間10分に たっぷりと描かれている。監督は2005年9月に紹介した『旅 するジーンズと16歳の夏』などのケン・クワピス。この種 の作品はお手のものだ。 上記以外の出演者は、ジェニファー・アニストン、ジェニフ ァー・コネリー、ドリュー・バリモア、スカーレット・ヨハ ンソン、ベン・アフレック、ケヴィン・コノリー、ブラッド リー・クーパー、そしてクリス・クリストファースン。 主役級を揃えた女優陣に比べて男優がちょっと弱いような感 じもするが、映画自体がそういうお話なのだからそれは仕方 がない。それにしても、アニストン、コネリーの2人が、正 に填り役という感じなのも面白かった。 なお映画の製作はフラワー・ピクチャーズ。従ってバリモア は製作総指揮も兼ねているもので、彼女の交遊関係も伺われ る作品でもあるようだ。脚本は、バリモア主演の1999年作品 『25年目のキス』などのアビー・コーンとマーク・シルヴ ァスタインのコンビが担当している。 アンサンブル劇というのは、話が入り組んでくると結構観て いて混乱することがあるものだが、その点では本作は整理も うまく着いている感じがした。もっとも本作では女優陣に見 慣れた顔が多くてそれも判りやすかった所かも知れない。そ の分、男優側ではちょっと混乱してしまったが… いずれにしても、今まであまり描かれなかった男女の本音が 観える作品ということでは、今更こういう事態には陥らない と思う者にとっても面白く観ることができた作品だ。
『ブッシュ』“W.” 1991年『JFK』、1995年『ニクソン』を手掛けたオリヴァ ・ストーン監督が、3度目に挑んだアメリカ大統領を描く作 品。しかもアメリカでは、本人が在職中の昨年10月に公開さ れたものだ。 因に、『JFK』は撮影、編集のオスカーを受賞し、作品、 監督、脚本などの候補になり、『ニクソン』では主演男優、 助演女優などの候補にも挙がったものだが、本作は0。同じ 大統領ものの『フロスト/ニクソン』が5部門の候補になっ たのと対照的だった。 とはいうものの、史上最悪とも言われた第43代アメリカ大統 領の最後を飾るには、この映画は全く相応しいものだったと 言えるだろう。因にストーン監督は、「ブッシュが笑える奴 だったから映画にした」とまで言い切っている作品なのだ。 アメリカ史上2組目の親子で大統領になったブッシュ父子。 しかし、父親の第41代大統領が本当に望んでいたのは、長男 ではなく次男のジェブ(前フロリダ州知事)を大統領にする ことだった。 元々長男は、親の威光で名門大学に合格したものの学生生活 では問題を起こして警察に逮捕されたり、卒業後はどこに就 職しても長続きせず、それでも父親の大統領選挙では選対を 指揮して辣腕を発揮するものの、父親からは労いの言葉も貰 えなかった。 そんな男のエディプス・コンプレックスが、ふと出会った宗 教家に感化され、やがて神の啓示を聞いたと言い出して大統 領選に出馬。大統領になるも9/11後には湾岸戦争で父親も 行わなかったイラク侵攻を実施してアメリカを泥沼へと引き 摺り込んでしまう。 という、アメリカに不幸の道を突進ませたジョージ・W.・ ブッシュの「実像」が描かれる。確かに、実にお馬鹿な奴が 大統領になったことは判る作品だが、これを気楽に笑い飛ば せるほどには、まだ彼の悪業の跡が消えていないことも事実 だろう。 主演は本人も名優の息子というジョッシュ・ブローリン。共 演は、父親役にジェームズ・クロムウェル、副大統領チェイ ニー役にリチャード・ドレイファス、ラムズフェルド役にス コット・グレン、パウエル役にジェフリー・ライト、ライス 役にタンディ・ニュートンなど、それぞれ名の知れた俳優が 実にうまく化けている。
『消されたヘッドライン』“State of Play” イギリスBBCで2003年に放送されたミニシリーズをアメリ カを舞台に映画化した作品。ただし、製作は『ミリオンズ』 などのアンドリュー・ハウプトマンが担当、監督には『運命 を分けたザイル』などイギリスのドキュメンタリー監督ケヴ ィン・マクドナルドが起用されている。 首都ワシントンの街角で、ヤク中の男とピザ配達人が銃撃さ れる。その取材に現場に現れたのはワシントンの有力紙の記 者カル・マカフィー。それはただの麻薬絡みの殺人事件に見 えたのだが… その翌日、兵器企業の疑惑を追求中の議員の女性スタッフが 死亡。その報道で涙を見せた議員に不倫疑惑が高まる。その 議員はカルの大学時代からの親友だった。しかし政界の問題 は彼の取材対象ではなかった。 ところがその2つの事件が繋がりを持ち始める。果たして、 女性スタッフの死は不倫が基の自殺だったのか? それとも 疑惑の追求を妨害しようとする兵器企業の陰謀か? カルの 取材の前に次々に謎が生じ始める。 この新聞記者カルをラッセル・クロウ。議員役を『ペイチェ ック』のベン・アフレック。他に、『きみに読む物語』のレ イチェル・マクアダムス。『ナショナル・トレジャー2』の ヘレン・ミレン、『ベオウルフ』のロビン・ライト・ペン、 『ハンコック』のジェイスン・ベイトマンらが脇を固めてい る。 政治陰謀ものはその基になる疑惑が大きいほど面白くなる。 本作のそれはアメリカの国防に関るもので、それは現実には 起こらないと信じるしかないほどに驚愕のものだ。でも、ア メリカでは起きなくても日本ではどうなのかな、そんなこと も考えてしまった。 ただし映画は、その陰謀そのものを描くのではなく、事件の 真相を暴こうとする新聞記者の執念を描いていくもので、そ こには既に大企業に乗っ取られている本社の思惑や、締め切 り時間との競争、そして挫折などいろいろな要素が詰め込ま れている。 さらに複雑な人間関係など、その多様性が、この作品をいろ いろな人に楽しめるエンターテインメントに仕上げていると も言えそうだ。 なお試写会の後で、事件の発端部分の理由が判らないと息巻 いている若者がいたが、その理由は明白、それが大人の世界 なのだよとだけ教えて上げたかった。 それから、オリジナルのミニシリーズは昨年NHKBSで放 送されたようだ。 * * 最後に製作ニュースを一つ。 2004年6月に紹介した『フォッグ・オブ・ウォー』などの ドキュメンタリー監督エロル・モリスが、初めてのドラマ作 品として人体の冷凍保存=クライオニクスを題材にした作品 を計画している。 この作品は、1960年代からクライオニクス運動に参加して きたロバート・F・ネルスンの回想録“We Froze the First Man”に基づくもので、この回想録はドキュメンタリー番組 “This American Life”でも、“You're as Cold as Ice” の題名で取り上げられたとのことだ。そしてこの原作から、 2006年『主人公は僕だった』などを手掛けたザック・ヘルム が脚色を進めているもので、映画化の題名は未定だが、内容 的にはダークコメディになるとされている。 クライオニクスは、金魚を液体窒素に漬けて凍らせた後に 常温水に入れると再び泳ぎ出すという実験にヒントを得たも ので、死んだ直後の遺体を冷凍して、いつの日かその死因を 取り除ける未来において復活させようというもの。本当は死 ぬ前に冷凍保存すべきだが、それは法律上問題があるため、 死の直後に行うことで何とか辻褄を合わせているものだ。 そしてアメリカでは、すでに何10人もの遺体が冷凍保存さ れているようだが、現実にはそこから復活された人はまだ確 認されていない。しかも、人間のような高等な脳は冷凍に耐 えられないなどの問題も指摘されており、そこまでも含めた 再生技術が完成するのはまだ近い未来とは言えないようだ。 そんな未来の技術を題材にしたダークコメディとなるが、 もちろんSF映画の世界では、1973年のウディ・アレン作品 『スリーパー』から、『エイリアン』『スター・ウォーズ/ 帝国の逆襲』のハン・ソロまで枚挙に暇のないもので、それ を今回はどのように脚色、映画化するかにも興味が湧く。 ドキュメンタリー出身の監督では、上でもケヴィン・マク ドナルドの作品を紹介しているが、ザック・ヘルムの脚本と 共に切れ味の良い作品を期待したい。
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