井口健二のOn the Production
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2009年03月22日(日) それでも恋するバルセロナ、お買いもの中毒な私!、アルマズ・プロジェクト、人生に乾杯!、ザ・スピリット、群青

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『それでも恋するバルセロナ』
             “Vicky Cristina Barcelona”
ペネロペ・クルスがオスカー助演女優賞に輝いたウッディ・
アレン監督作品。
1人は結婚を控え、もう1人は自分捜しをしている。そんな
2人のアメリカ人女性がスペインのバルセロナを訪れ、そこ
で前妻と泥沼の離婚劇を繰り広げたばかりの情熱的な芸術家
のスペイン人男性と巡り会う。
このアメリカ人女性を、レベッカ・ホールとスカーレット・
ヨハンソン、スペイン人男性をハビエル・バルデム、その前
妻をペネロペ・クルスが演じている。ホールとヨハンソンは
2006年『プレステージ』でも共演済みだが、4人が正にがっ
ぷり四つに組んだ共演作品だ。
他に、『エイプリルの七面鳥』パトリシア・クラークソン、
『ダーウィン・アワード』ケヴィン・ダン、『近距離恋愛』
クリス・メッシーナらが脇を固めている。
2人のアメリカ人女性は、一方の親戚を訪ねてバルセロナに
やってくる。その親戚の伝で画廊のパーティに出席した2人
は、同じパーティに出席していた男性画家に目を留める。そ
してその後に酒場でも巡りあった2人は、画家から週末旅行
の誘いを受ける。
この誘いにホールが演じるヴィッキーは乗り気ではないが、
ヨハンソンが演じるクリスティーナが賛成し、結局2人はそ
の誘いに乗ることになる。もちろん男性画家の目的は…なの
だが。しかしその旅行は意外な顛末となって行く。
こうしてヴィッキー、クリスティーナと画家、さらにはその
前妻とヴィッキーの婚約者、またバルセロナの親戚らも巻き
込んで、いろいろな人間模様が描かれる。
アレン監督は今回も出演はなかったようだが、2005年にニュ
ーヨークを離れて以来、いろいろなものに興味の目を向けた
楽しい作品が今回も展開されている。
アレンは元々は人嫌いだったように思えるが、この作品では
人間への興味も大きくなっているように感じられる。それが
出演3作目となるヨハンソンのお陰かどうかは判らないが、
アレンにとってニューヨークの束縛から逃れたのは良いこと
だったようだ。
本作では、南欧の明るい風景の中で、見事な人間賛歌が描か
れた。
なお、映画中でクリスティーナは、短編映画を監督したとい
う設定だが、ヨハンソンはこの作品に前後して“New York,
I Love You”の1篇を監督しており、それを反映しているよ
うだ。

『お買いもの中毒な私!』
            “Confessions of a Shopaholic”
最近、日本の若者にも増加していると思われるクレジットカ
ードの使い過ぎによる多重債務者を主役にしたロマンティッ
ク・コメディ。コメディであり、多分に御都合主義の物語で
はあるが、それなりに現実の厳しさも描いている。
ソフィー・キンセラの同名の原作(邦訳題:レベッカのお買
いもの日記1、2)を映画化したものだが、原作者は金融ア
ナリスト出身の作家で、本人の「お買いもの中毒」は直って
いないのだそうだ。
主人公のレベッカは園芸雑誌の記者だったが、ファッション
雑誌に憧れてこっそり面接を受けに行くことにする。しかし
その道筋で衣料品のセールに出くわしてしまい…しかも、彼
女のクレジットカードは、支払いを何枚にも分けなければな
らないほど限度額一杯。
それでも何とか購入して出版社にたどり着いたのだが、すで
に席は埋まった後。それでもファッション誌への踏台になり
そうな金融雑誌の面接を受けてしまう。とは言え、金融のこ
とは右も左も判らなかったのだが…
そんな彼女が、債務の取り立て屋に追われながら成功への階
段を昇って行く姿を、結婚を控えた親友や両親との交流。買
い物依存症脱却セミナーや、雑誌編集長への密かな憧れなど
と共に描いて行く。
主演は、2005年『ハッカビーズ』などのアイラ・フィッシャ
ー。共演は『ジェイン・オースティンの読書会』のヒュー・
ダンシー。
他に、ジョーン・キューザック、ジョン・グッドマン、クリ
スティン・スコット=トーマス、ジョン・リスゴー、『べガ
スの恋に勝つルール』のクリステン・リッター、『アイアン
マン』のレスリー・ビブら多彩な顔ぶれが脇を固めている。
監督は、1997年に『ベスト・フレンズ・ウェディング』を大
ヒットさせたP.J.ホーガン。2003年『ピーター・パン』以
来の久々の映画作品だ。製作は、『POTC』などのヒット
メーカー=ジェリー・ブラッカイマーによる作品。
なお映画では、買い物依存症の幻想をILMの見事なVFX
で描き出しているのも見ものになっている。

『アルマズ・プロジェクト』“Almaz Black Box”
1998年、ロシアの軍事宇宙ステーション=アルマズが消滅し
たという情報に基づく作品。
アルマズというのは旧ソ連の軍事衛星に付けられる名前だそ
うで、一般にはサリュートと呼ばれる内の2号、3号、5号
がそれぞれアルマズ1号〜3号と呼ばれているようだ。そし
てアルマズ4号も計画されたが、ソ連政府の崩壊で打ち上げ
はキャンセルされたという。
ソ連の宇宙ステーションでは、原子炉を積んで最後は2002年
インド洋に墜落したミュールが有名だが、アルマズはそれと
は別もので、兵器なども搭載して衛星撃墜など宇宙での軍事
研究も行われていたと考えられているようだ。
その他にもアルマズTと呼ばれる無人の衛星もあり、こちら
も4号機は計画のみで実施はされなかったとなっているが、
高精度のレーダーアンテナが搭載されて、特別な軍事研究が
計画されていたとのことだ。
そして今回は、そのアルマズの宇宙ステーションがウクライ
ナに墜落し、そのフライトレコーダー(ブラックボックス)
を政府機関に先んじて反政府組織が回収、その記録を公開す
るという触込みの作品…。
実は、本作の脚本監督に記載されているクリス・ジョンスト
ンというのは、2006年7月に紹介したアフガニスタン潜入レ
ポート『セプテンバー・テープ』のクリスチャン・ジョンス
トンのようで、また性懲りもなくという感じの作品になって
いる。
ただまあ今回は後半に多少捻りがあったりもして、それなり
に面白くはなってきた。それにしても、前作同様というか、
前作以上に画質が悪いのは、作品の設定上仕方ない面はある
のだが、もう少しまともな作品も撮ってもらいたいとは思っ
てしまうところだ。
本当に好きな人が一所懸命に作っている感じがして、その辺
は好感も持てる作品になっている。後は、トピックスとして
テレビ番組などで取り上げて貰えると面白いのだが、何年か
後に矢追純一辺りが、新発見の「事実」として紹介するのが
オチかな。
なお、劇中の子供の映像には、『2001年宇宙の旅』への
オマージュを感じさせるところもあるし、謎の映像としてア
レキサンドリアの位置を思わせるものや、巨大遺跡らしきも
のが写るのもニヤリとするところだ。その他にも、いろいろ
細かな点はありそうだ。


『人生に乾杯!』“Konyec”
81歳と70歳の老夫婦が年金だけでは暮らして行けなくなり、
銀行強盗を働いて…という現代の縮図のような物語を、ユー
モアを込めて描いたハンガリー映画。
年金の問題は、日本でもいろいろあると思われるが、旧共産
主義だった国家ではさらに問題は複雑になりそうだ。ただし
本作は、国家の体制に関わらず年金生活者というより老人に
関する普遍的な問題を描いているとも言えるものだ。
始まりは1950年代。しかしそこから時間は一気に飛んで現代
の老夫婦の物語が開幕する。その夫婦は81歳と70歳。慎まし
い暮らしぶるだが、年金だけでは家賃の催促にもなかなか応
じられなくなっている。そこはいろいろ機転を利かせたりし
て切り抜けていたが…
ある日、遂に思い出のアクセサリーを手放さざるを得なくな
った夫婦。そして81歳の夫は永年整備を怠らなかった60年代
の名車チャイカで出掛けて行く。その向かった先は郵便局の
窓口、そこで老人はピストルを見せ静かに現金を要求する。
犯人は高齢者、しかも乗っているのはクラシックカー。こん
なに目立った犯罪者に、警察は直ちに犯人を特定して逮捕に
乗り出すのだが…という物語に、浮気がばれて仲が険悪にな
っている男女の刑事や、今も元気なキューバからの移住者な
どが加わって、ユーモラスな、そして心に染みる物語が展開
される。

ペンションというのが年金のことで、年金生活者が引退後を
悠悠自適に暮らす姿だと教えられたのは随分と昔になるが、
その頃は自分も老後にはそんな生活者になれると信じていた
ものだ。
しかし現実はそう甘くはなかった訳で、永年天引きで強制的
に取り上げられていたお金は何処に消えてしまったのか。政
府を信じて納め続けてきたサラリーマンの老後はどうしてく
れるのだ…と言いたくなるのは僕だけではないだろう。
そんな生活困窮者が犯罪に走るというのは、いかにも短絡的
な物語だが、それでも納得して共感してしまう現状は、国家
としてかなり恐ろしい状態にあるとも言えそうだ。とは言え
今の政権では、政府の無策は変らないのだろうが。
映画では、華麗に走り回るチャイカの雄姿や意外な能力など
も楽しめて、クラシックカーファンにも喜ばれそうだ。

『ザ・スピリット』“The Spirit”
1940年から続くアメリカンコミックスを、2005年『シン・シ
ティ』ではロベルト・ロドリゲスとの共同監督を務めたアー
ティストのフランク・ミラーが、初めて単独で監督した映画
作品。
ミラーは、『バットマン』のグラフィックノヴェル化などで
アメコミを現代的に改革した立て役者とも言われるが、製作
者として参加した『300』の映画化でも、グラフィックノ
ヴェルの映像感覚をCGIによってスクリーンに再現するこ
とを成功させた。
そのミラーが初の単独監督に選んだのは、敢えて自作ではな
く、1940年にウィル・アイズナーによって創造された新聞コ
ミックスの映画化。因にこの原作は、当時は日曜日の別刷り
付録としてタブロイド版16ページが、全米で毎週500万部発
行されていたとのことだ。
物語は、スピリットと名告るスーパーヒーローを主人公にし
たものだが、この主人公には特殊な超能力はなく、ただ死な
ないというだけ。そのため平気で銃に向かったり、高所から
飛び降りたりの無茶をしながら悪漢を倒すとことになるが…
何か微妙な能力だ。
しかも重傷を負った彼の身体を修復する女性外科医とのやり
とりや、敵役にも同じ能力の奴がいて2人が出会えば必ず死
闘が始まる戦いが始まるといった定番の展開があり、その雰
囲気は旧来のアメコミの感覚でもある。
ただし本作は、そのアメコミ感覚も含めて見事な映像化が行
われているもので、『シン・シティ』『300』での試みを
さらに1歩進めた作品とも言えそうだ。また本作では、当初
からPG−13での公開を目標にしており、その描写も慎重に行
われているようだ。
主人公を演じるのはガグリエル・マクト。2004年『ママの遺
したラヴソング』などの出演はあるが、大作の主演は初めて
という俳優。その脇を、エヴァ・メンデス、サラ・ポールス
ン、パズ・ベガ、スカナ・カティック、スカーレット・ヨハ
ンソンらの女優と、敵役にはサミュエル・L・ジャクスンが
配されている。
『シン・シティ』と同様の版画のような白黒画面にネクタイ
だけが赤く色付けされたり、その他にもアメコミの画を髣髴
とさせる映像が随所に表現される。また、使い捨てのクロー
ン人間など微妙なギャグもいろいろ登場。俳優たちの演技も
楽しそうだし、それらを纏めて気楽に楽しみたい作品だ。

『群青』
沖縄県の離島を舞台に、海の恩恵を受けながらもその海に愛
するものを奪われる。そんな人々の生活を描いた作品。
主人公は故郷の島に1年ぶりに帰ってくる。その島には、幼
い頃から一緒だった同い年の男女も暮らしていた。しかし今
は、その女性だけが暗い顔で海岸に佇んでいる。そんな彼女
と海、そして音楽との関りが描かれて行く。
彼女の母親は高名なピアニストだった。そのピアニストが病
気療養のためにグランドピアノと共に島を訪れる。その演奏
に、1人のウミンチュ(漁師)の男性が心を打たれる。そし
て求愛。2人の間には娘が誕生するのだが…
その年の島には他に2人の男の子が誕生し、3人は兄弟のよ
うに育って行く。やがて思春期、男子の1人は島に残ること
を決意し、他の2人は希望する資格や学問のために島を出て
行くことになる。
ところが、男子の1人が彼女に求愛の歌を贈り、彼女がそれ
に応えることで、島を出て行くのはもう1人の男子だけにな
る。しかし島に残った2人の前途にも、いろいろな出来事が
待ち構えていた。
出演は、娘役に長澤まさみと、父親役に佐々木蔵之介、母親
役が田中美里。そして幼なじみの2人の男子を福士誠治と良
知真次が演じている。
沖縄の美しい海がふんだんに写し出され、その中で波乱に富
んだ愛の物語が展開される。原作はあるようだが、沖縄の美
しい自然を映像で満喫できるのは映画ならではのものだ。そ
んな美しい沖縄で、悲劇とそこからの再生が綴られる。
ただ、物語の展開としては何か物足りない感じがした。それ
は特に後半の陶器を作るお話の部分が唐突で、それ以前に伏
線があった方が良いような感じがしたものだ。他にも、突然
海底から救出されるのも、何時間も素潜りで潜水していたの
か…という感じで、現実との違和感があった。
また、島の恋歌にしても、突然それを出されてもという感じ
がして、全体的に何か描き切れていないように思えた。素晴
らしい背景に流されて観ていても良いのだが、やはり心に残
るのは物語で、それはしっかりと描いて欲しいものだ。


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井口健二