井口健二のOn the Production
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2009年03月14日(土) 腐女子彼女、THE CODE/暗号、ザ・バンク 堕ちた巨像、おっぱいバレー

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『腐女子彼女。』
オタクの女性と付き合うことになった男性の姿をコミカルに
描いた作品。
最初にタイトルだけ見たときはちょっとゾンビ物かな?なん
て期待もしたが、そうではなく普通に「腐女子」物だった。
監督が『ちーちゃんは悠久の向こう』の兼重淳なので、それ
でちょっと期待も持ったのだったが、逆にそれはこの監督の
テリトリーではなさそうだ。
ただしこの作品では、「腐女子」という存在を肯定的に真面
目に捉えていて、それなりにオタク文化を大事にした作品に
はなっているように思えた。
物語の主人公は大学生の男子。彼はバイト先の年上の女性に
恋をしてある祭りの宵に告白。その告白は受け止めて貰えた
が、彼女は「自分は腐女子だけど、それでもいいか」と釘を
刺す。そこでは「腐女子」の意味も判らず了承してしまった
主人公だったが…
彼女とのデートは、「執事喫茶」での仲間との会合やアニメ
イトでの同人誌漁りなど…普通ではない。しかも彼のPCに
勝手にエロゲーをダウンロードしたり、彼のことをセバスチ
ャンと呼んだり…彼の周囲のオタク度が上がり始める。
それでも何とか耐え続ける主人公だが、ある日、思い余った
彼は、同じ彼女との関係が4年も続いているという大学の友
人に相談をしてみる。その答えは、「僕らは趣味が同じだか
ら」……
僕自身がSFファンで、どちらかと言うとオタクと思われて
いる側の人間だから、この映画を観ていても彼女の方の行動
を単純に理解するし、それに振り回される主人公の気持ちも
それなりに判ってしまうものだ。
そういう眼で観ていてこの映画は、上でも書いたように「腐
女子」という存在を肯定的に真面目に捉えていて、好ましい
感じで観ることができた。しかもオタクには聖地とも言える
「執事喫茶」やアニメイトまで紹介されるのには、結構嬉し
くも感じられた。
その上、声優の共演や『ガンダム』絡みのネタなども登場。
これは正にオタク向けに作られた作品と言えそうなのだ。欲
を言えばこれにもう二つ、三つファンタシーなネタがあれば
申し分ないところだが、それは『ガンダム』のシーンで製作
費が尽きちゃったのかな。
いずれにしても、僕は観ていて気分は害さなかったし、多分
自分のオタク度が気になる人には理解して貰えるのではない
かな…と思える作品だった。

『THE CODE/暗号』
2005年9月に紹介した『探偵事務所5』シリーズの最新作。
シリーズは前作の紹介時にも書いたようにウェブサイト向け
に2シーズン50話以上が製作され、今回はその集大成とも言
うべき劇場作品が再度製作されたものだ。因に、劇場作品で
はもう1本『カインとアベル』という作品があるようだが、
それは観ていない。
その「探偵事務所5」は、川崎に本部を置く創立60年を迎え
る伝統の事務所で、そこには5で始まる3桁の番号で呼称さ
れる100人の探偵が所属している。シリーズはその100人の探
偵たちの個人やチームでの活躍を描いている。
そして今回の物語は、川崎市がテロ集団の時限爆弾攻撃が曝
されているところから始まる。その攻撃は探偵事務所5の協
力で見事に解決するが、そこで活躍したのが事務所5の研究
所で暗号解読を専門とする探偵507だった。
探偵507は「誰にも解けないとされた暗号を初めて解くの
が解読者の夢」と語り、日々暗号の解読に天分を発揮してい
た。その探偵507の前に1つの暗号が提示される。それは
事務所5の上海支部に依頼があったものだと言うのだが…
一部だけの提示ではさすがに解けない暗号に、探偵507は
上海行きを志願する。その暗号は旧日本軍が隠した軍資金の
在処を示すものとされ、その解読には上海の地下組織も動い
ていた。そしてその暗号には、1人の女性の哀しい人生が刻
まれていた。
この探偵507を歌舞伎役者の尾上菊之助が演じ、アクショ
ンは苦手だが頭脳明晰な探偵を好演している。他に稲森いず
み、松方弘樹らが共演。また、宍戸錠、佐野史郎、貫地谷し
ほりらが前作から再登場の他、シリーズを飾った探偵たちが
多数ゲスト出演している。
脚本と監督は林海象。元々シリーズ創案者である林監督が、
プロローグのVFXを満載したテロ攻撃の様子から、後半の
上海ロケまで、思う存分に作り上げた作品と言えそうだ。
宍戸と松方の因縁シーンなどちょっとお遊びのシーンもある
が、暗号の専門家という設定を活かした台詞など「上手い」
と思わせるシーンも多く観られ、存分に「映画」を楽しませ
てくれる作品になっていた。

『ザ・バンク 堕ちた巨像』“The International”
国際的な金融機関による不正取引を追求するインターポール
の捜査官を主人公にしたアクション作品。
その金融機関は、ルクセンブルグに本拠を置くIBBC。世
界第5位と言われる巨大な国際銀行だが、そこには常に黒い
噂がつきまとっていた。その銀行を捜査しているのは、スコ
ットランドヤードから派遣されているサリンジャー。
そのサリンジャーは新たにIBBCが始めた事業の謎を追っ
ていたが、その捜査は各方面の妨害あっていた。しかもイン
ターポールの捜査官には犯人を突き止めても逮捕の権限はな
く、各国警察への情報提供に限られ、それも無視されること
が多いという。
しかし彼の捜査には各国の警察内部の協力者も多く、そんな
中でもニューヨーク検事局のエレノアは最大の協力者の1人
だった。そして今回の捜査はエレノアとの共同で進められて
いたが…
金融機関がミサイル誘導装置の取り引きを進めている。そん
な訳の判らない状況がこの事件の底流をなしている。その取
り引きでIBBCが得るものとは…。昔の武器商人は単に武
器を売るだけだったが、現代の国際社会はそんな単純には動
いていないようだ。
そして利潤の追求という錦の御旗の前では、次期国家元首の
暗殺をも厭うことはないという凶悪犯在組織の実態。そこに
は地元警察の協力の陰も観え隠れする。そんな強大な敵を相
手に、主人公の壮絶な戦いが繰り広げられる。
しかも舞台は、ベルリンからニューヨーク、ミラノ、イスタ
ンブールと、全て現地にロケされた背景の中で展開されて行
くという大形作品だ。
エンロンや昨年末からの世界金融危機は、バブルの崩壊など
言ってみれば外的な要因が切っ掛けにあるが、本作の銀行が
行っているのは確信犯の不正行為。もちろんエンロン問題に
も結果的な不正はあるが、本作とは条件が全く異なる。
もしこんなことが現実に行われていたら、正に神も人類を見
捨てるだろうという悪魔の行為とも言えるものだ。でも最近
のモラルの低下では、本作のようなことが現実に行われてい
ないという保障はどこにもない。そんな恐ろしい物語が展開
される。
主演は、クライヴ・オーエン、ナオミ・ワッツ。その脇を、
旧東ドイツ出身のアーミン・ミューラー=スタール、デンマ
ーク出身のウルリッヒ・トムセン、アイルランド生まれのブ
ライアン・F・オバーンらが固めている。
監督は、ドイツ出身で『パフューム ある人殺しの物語』な
どのトム・ティクヴァ。本作は今年のベルリン国際映画祭の
オープニングを飾った。

『おっぱいバレー』
1979年北九州。赴任早々の中学校で弱小男子バレーボール部
の顧問に就任させられた女性教師が、地区大会で1勝したら
おっぱいを見せるという約束をしてしまったことから始まる
実話に基づいた生徒と先生の交流のドラマ。
主演の綾瀬はるかが演じるのは、23歳の中学校の女性教師。
朝礼での赴任の挨拶でも不注意な発言をしてしまうほど初な
彼女は、空席だった男子バレー部の顧問を仰せつかるが、そ
れは練習もろくにしたことが無く、馬鹿部とも呼ばれるぐう
たらチームだった。
ところが彼女を迎えたチームの歓迎会で、彼女が地区大会で
1勝したら何でもしてあげると発言したことから、生徒たち
は勝手に「1勝したらおっぱいを見せてもらう」と決めてし
まう。それも止められない主人公。
そしてその目標のために生徒たちは今までにない頑張りを見
せ始め、彼女はその指導にも熱を入れて結果も伴ってくる。
さらに有望な新人のスカウトや地元実業団チームのコーチも
受けられるようになるのだが、その先にあるものは…
題名が刺激的で、シネコンの入場券売り場でこの題名を言え
るのか?という意見もあるようだが、お話は至って真面目。
主人公のトラウマや生徒たちのいろいろな想いもストレート
に伝わってくる。この種の青春物もいろいろあったが、その
中でも上位の作品だろう。
監督は、『海猿』シリーズや『逆境ナイン』の羽住英一郎。
女性主人公の作品は初めてだそうだが、綾瀬の初々しさと、
主人公のトラウマや芯の強さを見事に描き出している。それ
に写真1枚のプリントにまで気を使っているのも好感だ。
実話に基づく作品らしく展開もシビアだし…。でも人を信じ
たくなるような余韻も感じさせてくれる。そんな素敵に愛ら
しい作品を観せて貰えた。因に、去年公開された綾瀬主演の
2作はいずれも僕の中では了解できなかったが、今度は大丈
夫だった。
共演は、青木崇高、仲村トオル、石田卓也、大後寿々花。他
に福士誠治、光石研、田口浩正、市毛良枝らが出演。また、
オーディションで選ばれたという6人の生徒役の子供たちも
個性豊かで魅力的だ。
ただ、問題はやはり刺激的な題名。この題名を入場券売り場
で平気で言えるほどに、映画の存在を浸透させなければいけ
ない。


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井口健二