2009年02月22日(日) |
ミーシャ、新宿インシデント、パニッシャー、レイン・フォール、太陽のかけら、今度の日曜日に、GOEMON |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ミーシャ/ホロコーストと白い狼』 “Survivre avec les loups” 第2次大戦後半の時期にベルギーからウクライナまでを踏破 したユダヤ人少女の物語。 物語の始まりは1942年、ナチスのユダヤ人狩りが激しさを増 すベルギーの首都ブリュッセルで、8歳のミーシャはユダヤ 人の父親とロシア人の母親と共に隠れ暮らしていた。 やがて父親が入学許可を手に入れ、彼女は学校に通えること になる。ただし、外出中にある言葉を聞かされたら、何も言 わずにその人について行くこと…それが通学の条件だった。 そして人々がナチスに追い立てられる中、彼女はその言葉を 聞かされる。 連れて行かれたのは郊外のベルギー人の家。そこで彼女はそ の家の子供として暮らし始める。それは辛く厳しい生活だっ たが、そこでも彼女は近所の老人やその飼犬と仲良くなるな どして行く。 そんなある日、両親が東の方に連れていかれたと聞かされた 少女は、老人から貰った小さな玩具のコンパスを頼りに、た だ東に向かって歩き始める。しかしその先には、狼の棲む原 野や厳しい冬の寒さが待ち構えていた。 原作は、17カ国で翻訳されたベストセラー小説だそうで、特 に実話に基づくとはされていないようだが、大自然を背景に 過酷な時代を果敢に生き抜いた少女の姿が描かれる。 その映画化を製作脚本監督の3役で作り上げたのは、1997年 ソフィー・マルソー主演『女優マルキーズ』などのヴェラ・ ベルモン。ロシア、ポーランドの血を引くユダヤ人であるベ ルモンが、自身の宿命と感じて描いた作品とのことだ。 因にベルモンは、1981年ジャン=ジャック・アノー監督『人 類創世』なども手掛けた映画製作者でもあるとのことで、絵 作りなどには何となく同じような雰囲気も感じられた。 主演は、本作が映画デビューのマルチド・ゴファール。実年 齢に近い出演と思われるが、我儘一杯の少女が現実に晒され 成長して行く姿が見事に演じられている。 そして彼女に付き添うのが白、黒、赤毛の3頭のオオカミ。 他にも子供のオオカミなど総勢15頭が集められた撮影では、 主演のゴファールを群れのリーダーとして認めるように訓練 されたオオカミたちが、超音波などの策略も使って「演技」 しているそうだ。 なお本作は、以前に紹介した『ベルサイユの子供』などと共 に、3月12日から六本木で開催される2009フランス映画祭で 上映された後、5月に日本公開が予定されている。
『新宿インシデント』“新宿事件” コメディタッチのアクション映画でお馴染みのジャッキー・ チェンが、不法入国者として登場し、東京新宿の歌舞伎町を 舞台に大暴れする最新作。 巻頭にはユニヴァーサル映画のロゴマークが映出され、普段 の香港映画とは違った雰囲気となる。しかも映画の発端は中 国東北部での残留日本人のエピソード。そして主人公の恋人 が日本人と判明し、日本に帰国してしまうという展開。 正直、いつものジャッキー映画を期待する観客には、最初か らがつんと喰らわされるような作品だ。 さらに物語では、日本に行った彼女が音信不通になり、心配 した主人公は日本への不法入国を試みることになる。そして 若狭の海岸に漂着した主人公は、一路新宿に住む同郷人たち の許を目指し、日本の裏社会へと潜り込んで行く。 その裏社会では大陸出身者と台湾出身者が対立し、現状では 日本の組織に取り入っている台湾系が幅を利かせていた。そ んな中で主人公たち大陸系の人々は、違法就労の3K日雇い などで暮らしを立てていた。 一方、日本の組織のトップが交替し、そこに中国人ともうま くやっていこうとする若頭が登場する。その若頭は大陸系の 連中にも目を掛け、やがて主人公との交流も始まる。こうし て主人公は徐々にその地位を上げて行くことになるが… この主人公をジャッキー・チェンが演じ、いつものコミカル さを封じたリアルな闘いが繰り広げられる。しかもそれは、 日本での公開がR−15指定になるほどの過激な演出となって いるものだ。 監督脚本は、アンディ・ラウ主演の青春映画なども手掛ける イー・トンシン。共同脚本に『セブンソード』などのチュン ・ティンナムが参加して、日本人としてもかなり緊張する物 語が展開されている。 共演は『香港国際警察』のダニエル・ウー、『風雲ストーム ライダース』のシュー・ジンレイ、『墨攻』のファン・ビン ビン。そして日本側から竹中直人、加藤雅也、故峰岸徹らが 登場する。 因にこの作品は、中国本土では公開中止になったそうで、そ の理由は過激な暴力描写とのことだが、中国人が日本で凶悪 犯罪を起こしているという物語が、北京政府の気に触ったと いう説もあるようだ。
『パニッシャー:ウォー・ゾーン』 “Punishaer: War Zone” 1974年にスタートしたマーヴェル・コミックスを原作とする 映画化作品。 同じ原作からは、1989年と2004年にも映画化があるが、今回 は04年作の続編という位置付けのようだ。ただし主演には、 89年作ドルフ・ラングレン、04年作トマス・ジェーンに替っ て、テレビドラマ“Roma”が評判のレイ・スティーヴンスン が新登場している。 物語は、日本の『必殺仕事人』と同じく、司直の手の届かな い巨悪に鉄槌を下す闇の仕置人を主人公としたもので、特に アメリカでは、司法取り引きによって仲間を売れば死刑囚で も罰を免れるという現実が背景となっている。 なお本作では、闇の仕置人パニッシャーの出自などは省略さ れているが、取り敢えず悪党どもをバッタバッタと倒して行 く展開はすぐに理解できるし、その存在が警察にとっては目 の上の瘤にはなるものの、警察側にも理解者が現れることは 容易に理解できるものだ。 そして今回のお話は、ハンサム・ビリーの異名を持つマフィ アの殺し屋と、その弟でその名もルーニー・ジムを敵役に、 大量殺戮武器の密輸入を企むテロリストや、当然FBIなど 警察関係も絡んでの大アクションが展開される。 さらに今回は、パニッシャー自身にもある出来事から葛藤が 生じており、それもあっての後半は、復讐に燃えるハンサム ・ビリーが町中の悪党どもを結集してパニッシャーに集団戦 を仕掛けるという…まさに戦争の火蓋が切って落とされる展 開になる。 その1対20〜30人の闘いは、元プロのマーシャルアーツ格闘 家で、ハリウッド映画のスタントウーマンとしても活躍して きた本作の女性監督レクシー・アレクサンダーが見事に映像 化している。さらに、本作の製作はゲイル・アン・ハードが 担当の女性2人が仕掛ける作品だ。 それにしても演じられるアクションは、まさに現実ならこう なるだろうというリアリティと、さらにオリジナリティに溢 れたもので、従来の格闘技アクションとは一線を画した強烈 なものとなっている。因に本作の公開は、R−15指定とされ ているものだ。 共演は、ビリー役に『300』のドミニク・ウェスト、ジム 役に『グリーンマイル』のダグ・ハッチンスン、他に『バイ オハザード』のコリン・サーモン、『ランボー最後の戦場』 のジュリー・ベンツ、『氷の微笑』のウェイン・ナイトらが 出演している。
『レイン・フォール』 元CIAの極東エージェントだったとされる作家のバリー・ アイスラーが2002年に発表した小説の映画化。脚色と監督は オーストラリア人のマックス・マニックス。製作会社はハリ ウッドのソニーピクチャーズという作品だが、実は日本資本 で作られており、国籍は日本映画となっている。 日系アメリカ人の暗殺者が東京に現れる。それを追うCIA の捜査員たち。しかし暗殺者は着実に仕事を為遂げて行く。 しかもその標的は、官吏でありながら汚職で私腹を肥やして いたような連中。そして3人目の標的が暗殺されるが… この暗殺者を椎名桔平が演じ、CIAの捜査員のリーダーに ゲイリー・オールドマンが扮している。さらに物語は、標的 が持っていたはずの1個のメモリースティックを巡っての、 CIAと暗殺者の戦いとなって行く。 こんな物語が東京を舞台に展開される。まあ物語自体が絵空 事だと言われてしまえばそれまでだが、官僚支配の日本の政 治体制などもそれなりに反映されているし、さらにそれを裏 で牛耳ろうとするCIAの動きなども、無いとは言えなさそ うな展開のものだ。 ただ、物語が絵空事のように観えるのは、写されている東京 の雰囲気にもあるところで、確かに秋葉原から有楽町、臨海 線までの舞台は東京の風景なのだが、そのいずれもが何処か 現実味の乏しいものになっている。 それは多分、舞台が自分の知らない街なら違和感にはならな いのだろうが、普段暮らしている街では何か不思議な感覚だ った。そんな違和感がさらに昇華してファンタスティックに なればまた面白いとも思えるが、本作はそれを追求するよう な作品ではなかった。 でもまあ、そんな一種異様な雰囲気も味わい方によっては面 白くも感じられるし、日本人ではない監督が撮ることによっ て生じる新しい感覚とも言える。 共演は、長谷川京子、柄本明、清水美沙。因にピアニスト役 の長谷川は、ジャズピアノを吹き替えなしで演奏しているそ うだ。 なお、原作は2002年に発表された本作を第1作として、同じ 主人公による作品が2007年まで毎年1冊ずつ計6作発表され ているようだ。本作の評価が良ければ、映画のシリーズ化も あるのかな。
『太陽のかけら』“Déficit” 『ブラインドネス』などで国際的に活躍するメキシコ人俳優 ガエル・ガルシア・ベルナルによる初監督作品。 父親が政治家か官僚という感じの若者が、両親の居ぬ間に自 宅の邸宅に仲間を引き入れて乱痴気パーティを繰り広げる。 そこには彼の妹の仲間も集っていて、まさに無軌道な若者の 生態が描かれていく。 また、新参加の女性を見初めた主人公が、後から来る恋人の 到着を遅らせるためにわざと間違った道順を伝えたり、酒や ドラッグに浸るなど、まさしく刹那的に生きる若者の姿が描 かれている。 その一方で、使用人のインディオに対してはフレンドリーで あるかのように見せて、実は差別しているなど、屈折した若 者の心理も描かれる。画面外からは打ち上げ花火の音が聞こ え、町ではお祭りが開かれている日のことのようだ。 最初の内は、唯々若者たちの無軌道ぶりが描かれている。し かしそこに徐々に現実の厳しさが入り込んでくる。それは人 種差別であったり、社会の経済破綻であったり、まさに今、 世界中が直面している問題も描かれている。 脚本はキッザ・テラサスという人物が書いているが、原案は ベルナル自身のもののようだ。そのベルナルの視点は、見事 に現在の若者が抱える問題を見詰めたものであり、ちょっと ファンタスティックでもあるメキシコの風景の中で現実的な 物語を描き切っている。 因に原題は「不足、劣性」といった意味のようで、「危機」 「低下」「不安定」などの単語と共に、ベルナルの育ってき た環境の中に常にあった言葉だそうだ。それがメキシコ人の 考えるメキシコの現実なのだろうか。 主人公をベルナルが演じている他、親友ディエゴ・ルナの恋 人と言われるカミラ・ソディが妹役で出演。因にルナは本作 のプロデューサーに名を連ねている。その他は、モデルなど ベルナルの普段の仲間たちのようだ。 なお本作は、2007年カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に 出品されて居合わせた監督たちから絶賛され、2008年の初夏 からのメキシコ公開では5カ月に及ぶロングランを記録した とのことだ。
『今度の日曜日に』 2007年上期選出の日本映画エンジェル大賞受賞作。日本の大 学で映像を学んでいる韓国からの女子留学生と、その被写体 に選ばれた中年日本人男性を描く日韓交流ドラマ。 主人公は、映像を学ぶため日本に留学した先輩の後を追って 日本にやってきた。しかし、先輩は彼女への連絡もせずに休 学して帰国していた。そのため目的もなく学校に通うことに なった主人公は、実習課題の「興味の行方」の被写体も決め られない。 そんなとき彼女は、学校の用務員として働く1人の中年男性 に目を留める。その日本人男性は、用務員だけでなく朝昼晩 といろいろな仕事に就いており、さらに立ったまま寝るとい う特技ももっているようだ。 こうして被写体を決めた主人公は、その取材の過程で日本人 男性の人生を知って行くことになる…という物語が、長野県 松本市の信州大学キャンパスなどを背景に描かれる。 この被写体となる日本人男性が、ガラス瓶のコレクターとい う設定で、主人公には最初はゴミにしか見えない様々な形の ガラス瓶が、徐々に男性の人生を語りだし、そしてドラマを 作り上げて行く。 出演は、日本で歌手デビューした韓国出身のユンナと市川染 五郎。映画初出演のユンナの初々しさと市川の飄々とした佇 まいが物語の雰囲気に填っている。また『殺人の追憶』など のベテラン韓国女優チョン・ミソン、日本側は竹中直人らが 脇を固めている。 それと物語のキーになるガラス瓶には、5万本のガラス瓶を 並べたボトルシアターを作っているという日本有数のコレク ター=庄司太一氏の監修で、様々な趣のあるガラス瓶が登場 している。 ガラス瓶に託つけた人生の語り口には上手さを感じるし、そ れが直接ドラマに結びつく展開も見事なものだ。ただ、映画 の見せ場がそこに集約されすぎて、他にもあるはずの物語が そこで一気に消されてしまっているような感じもした。 もちろん1点での集中力は大切だが、観客としてはもっと他 にも、それほど大きくなくてもいいから何かの感動があって 欲しいような気もしたものだ。先輩との再会の辺りがあっさ りしすぎている感じなのかな… 因に、日本映画エンジェル大賞は、この作品が選出された回 をもって終了したようだ。
『GOEMON』 2004年に『CASSHERN』を発表した紀里谷和明監督の 5年ぶりの新作。写真家としても著名な監督が、前作と同様 の映像感性を目一杯に繰り広げた作品。 1582年本能寺の変を契機に豊臣秀吉が天下を取り、戦国時代 が終結した安土桃山の時代を背景に、後に義賊と称えられる 石川五右衛門の活躍を描く。 戦乱の世が終り人々は自由を取り戻したものの、一般民衆の 貧富の差は拡大し、金持ちと役人たちが幅を利かせ始める。 一方、秀吉を頂点とする政権は、大名たちの会議なども行わ れているが、秀吉は海外派兵も目論んでいるようだ。 そんな時代に五右衛門は、金持ちから財宝を盗み民衆にばら まく義賊として人気を高めていたが…ある日のこと忍び込ん だ土蔵で一つの小箱を手にする。そしてその小箱に隠された 秘密は、やがて天下を揺るがして行くことになる。 五右衛門が抜け忍とする説は以前からあるようだが、本作で はさらに霧隠才蔵や服部半蔵、織田信長、茶々らとの特別な 関係も描き、また猿飛佐助や石田三成、徳川家康、千利休な ども登場する歴史絵巻が展開される。 そしてその配役を、五右衛門=江口洋介、秀吉=奥田瑛二、 才蔵=大和たかお、茶々=広末涼子、信長=中村橋之助、家 康=伊武雅刀、利休=平幹二朗。その他、ゴリ、要潤、玉山 鉄二、チェ・ホンマン、寺島進、佐藤江梨子、戸田恵梨香、 鶴田真由、りょう、福田麻由子、広田亮平、田辺季正などの 多彩な顔ぶれで描いている。 義賊の五右衛門を描いた映画作品は過去に例が無いとのこと だが、本作のお話自体は、先に何処かで発表されているかも 知れないと思えるものだ。しかし本作で特筆すべきは、その お話より衣裳やセットなど美術デザインの奇抜さだろう。 特に衣裳は、使用される素材は当時実在したものに限定する としながらも、南蛮との交流が進んだ安土桃山の時代背景を 拡大解釈して、かなり異様とも言えるデザインを造り出して いる。しかもそこに和風のテイストも残しているのは見事な ものだ。 さらに背景は、異様に天井の高い室内や多層に構築された安 土城など、過去の日本の時代劇からは想像もできない風景が 登場する。そしてそれらをCGIとグリーンバックを駆使し て映像化しているものだ。 技術的には、『CASSHERN』の時よりカメラを自由に 動かせるようになった…とのことだが、そのCGIの風景の 中で繰り広げられるスピード感に溢れたアクションシーンな どは、まさしく前作を越えた映像が楽しめる。 前作『CASSHERN』を楽しめた人にはその先の世界を 楽しむことが出来るし、前作を観ていない人も、ここに展開 される新しい映像世界は一見の価値があると言える。特に、 その映像感性が、他では全く観ることの出来ないものである ことは確かだ。
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