井口健二のOn the Production
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2009年02月14日(土) 鴨川ホルモー、恋極星、チョコラ!、ヤッターマン、ピンクパンサー2、ニセ札

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『鴨川ホルモー』
テレビドラマ化された『鹿男あおによし』の原作者でもある
万城目学によるデビュー作の映画化。歴史の町=京都を舞台
に、陰陽道を背景にした奇想天外な物語が展開される。
主人公の安倍明は二浪して京都大学に合格。しかし入学はし
たものの直ちに五月病で、葵祭りのアルバイトに参加はした
が目標も何もない生活ぶり。ところがその帰り道、京大青竜
会なるサークル活動に誘われる。それはごく普通のサークル
だというのだが…
新入部員は10人。取り敢えず飲み会などごく普通に始まった
サークルは、祇園宵宮の四条烏丸交差点で他校3校との邂逅
があったときから怪しげな雰囲気が漂い出す。
そこに来たのは、北は京都産業大学、南は龍谷大学、西は立
命館大学、そして東が京都大学の面々。彼らは京都の平安を
守るため、1000年の歴史を持つホルモーを行う集団だったの
だ。そんな集団に巻き込まれた主人公の、いろいろ起きる学
生生活が描かれる。‥‥で、ホルモーって何?
物語はごく普通の学園もののように始まる。ここでは三大祭
や保津川下りなどの京の風物詩が次々登場し、1年を通じて
の京都観光のような雰囲気が楽しめる。ところがそこに徐々
に摩訶不思議なものが登場し、映画の後半は大VFX大会と
なってしまうのだ。
しかしその物語の展開は巧みで、この有り得ない話がごく自
然に物語の中心にすり替わって行くのは見事なもの。もちろ
んそこには主人公の恋模様など、主人公を物語の中心から外
さない仕組みも付けられている。

出演は、山田孝之、栗山千明、濱田岳、芦名星、石田卓也、
斉藤祥太・慶太、荒川良々、そして石橋蓮司。さらに、映画
の後半の主役ともいえるVFXのCGIアニメーションは、
『ブレイブストーリー』などのGONZOが担当している。
また、作品に登場する珍妙な踊りの振り付けをパパイヤ鈴木
が担当しており、さらにその珍妙な振り付けを出演者たちが
真面目に演じているのも好感が持てた。この種の作品では、
それを演じる出演者の真面目さがキーになるが、その点でも
満足できる作品だった。
原作は、「本の雑誌」でエンタテインメント第1位に選ばれ
るなど、特に若者の評価が高いようだ。そして映画化では、
恐らくその雰囲気を壊さないように作られているのだろう…
かなり飛んだ作りの作品だが、押さえどころはちゃんと押さ
えている感じがした。
それに、四季に渡る京都の風景が見事に映像に写し取られて
いるのも魅力的だった。

『恋極星』
2005年の別冊フレンドに読切り掲載されたというミツヤオミ
原作のコミックス「君に光を」の映画化。北海道を舞台に、
若くして両親を亡くした女性と、幼馴染みの男性との切ない
ラヴストーリーが展開される。
前に母親を亡くしている少女は、幼い弟と共に父親の解説す
るプラネタリウムで星々の話を聴くのが好きだった。そして
そこには幼馴染みの男の子の姿もあった。しかしその男の子
は両親と共にカナダに引っ越してしまう。必ず迎えに来ると
約束して。
やがて父親も亡くなり、弟は星の話題にしか興味を示さない
問題のある子として施設に預けられる。そして彼女は、町の
小さな建設会社で働きながら彼が迎えに来る日を待ちわびて
いた。それが叶わぬ夢かも知れないと感じながら。
愛した誰もが自分の前から去ってしまう。そんな哀しい思い
を何度もしてきた彼女。ところがしばらく音信不通だった彼
が彼女の前に現れる。そして再び訪れた素晴らしい日々。し
かしそこには、思いも寄らぬ落とし穴が待ち構えていた。

物語的にはちょっと甘いところが多い感じもするが、原作が
少女マンガということでは、これが原作の味なのだろう。多
分観客もこれを了解できる人たちが狙いというものだ。それ
にまあ最近の日本映画の水準では、これでも纏まっている方
のようにも思える。
出演は、『デスノート』で弥海砂役の戸田恵梨香、『猫ラー
メン大将』などの加藤和樹。若い2人が懸命に生きて行こう
とする薄幸のカップルを良い感じで演じていた。他に。若葉
竜也、吹越満、熊谷真実らが共演。
監督はAMIY MORI。本業は世界的に活動している女流写真家
だそうで、美しく撮影された北海道の風景は、それだけでも
心に染みるものがある。因に本作は、脚本家の横田理恵、製
作者の木村元子が全て女性という日本映画では珍しい体制で
製作されている。
なお星がテーマの作品ということで、映画の中では流星雨が
再現され、それは美しかった。しかもその星の流れる方向が
徐々に変化しているのには芸の細かさも感じた。もっとも、
映画の設定時間でこの変化はないはずだが、それは映画的な
創作というところだろう。
それに、その状況に至る部分の説明には、ちょっと感動させ
られるものがあった。それも甘い話ではあるのだが、それが
この物語の良さでもあるものだ。


『チョコラ!』
東アフリカ・ケニア共和国の首都ナイロビから自動車で1時
間ほどのところにある地方都市ティカ。この人口10万の町の
ストリートで暮らす子供たちを追ったドキュメンタリー。
その子供たちは、道端で鉄屑やプラスティックの容器を拾い
集め、それを回収業者に売って得た小銭で生活している。そ
んな子供たちは、スワヒリ語で「拾う」を意味する言葉から
「チョコラ」と呼ばれている。
子供たちには親がいない訳ではなく、ただ親許では暮らせな
いから路上で生活している。それは逆に、孤児ではないから
孤児院に収容することもできず、彼らに教育を与えるための
デイケア施設はあるが、そこに寝泊まりはすることができな
いものだ。
そんな環境の中でも、子供たちは小銭で買ったり漁ってきた
食料を仲間と分け合い、時には歌や踊りにも興じながら逞し
く生きている。特に映画の最後に出てくる子供たちの間に歌
い継がれているという歌は、見事な作品になっていた。
本作はドキュメンタリーであるから、一概にフィクションと
の比較をすることはできないが、『シティ・オブ・ゴッド』
や『スラムドッグ$ミリオネア』に描かれた子供たちとはま
た違う、最低辺に暮らす子供たちの姿が描かれている。
もちろんそこには諸外国からの援助もあって、中では日本人
女性が運営する施設も紹介されているが、それこそ焼け石に
水のような努力を続ける姿には、ただ頭が下がるという以外
の言葉が見つからなかった。
ただし映画全体の流れとして、中で母親を写しているシーン
に相当の時間を費やしているのが、ちょっと奇異にも感じら
れた。結局、彼女の立場を観客に理解させるために必要だっ
たということにはなるのかもしれないが、これは余分に感じ
られた。
その分もっと子供たちの姿を観たかったし、それより現地で
活動する日本人女性の行動なども、もう少し判りやすく描い
て欲しい感じもしたものだ。まあ、いろいろな思惑はあるの
だろうが、観ていてこの点だけが少し気になった。

でもまあ、世界でこういうことが起きているのだと教えて貰
えるのはありがたいことで、この現実をもっと日本人に知っ
て貰いたいものだ。

『ヤッターマン』
1977年1月1日から79年1月24日まで全108話が放送された
タツノコプロ製作によるギャグアニメシリーズの実写版。
僕はこの頃のテレビアニメをほとんど観ていないので、オリ
ジナルとの比較はしずらいが、情報によると毎回がほぼワン
パターンの展開で、そこにいろいろなギャグが挿入されてい
たもののようだ。そのギャグも、いろいろ定番のものが繰り
返し使われていたとある。
僕は本作をその程度の予備知識で観に行ったもので、正直、
ストーリーに乗れなかったらどうしようとの不安もあった。
しかしそれは杞憂でしかなかったようで、ストーリーの展開
やギャグも判りやすいし、映画は何の違和感もなく楽しむこ
とができた。
しかも、アニメのハチャメチャな展開とスケールを、できる
限りそのまま実写で再現しようとした努力は見事なもので、
巻頭の崩壊した「渋山」駅前の景観に始まって、実寸大に再
現された各種の造形など、本当によくやってくれたという感
じがした。
物語は、オリジナルシリーズと同様の4つのドクロストーン
を求めて、ヤッターマンと敵役ドロンボー一味との戦いを巡
るもの。またその1個をすでにドクロベエが持っていること
や、一味が最初に繰り出す巨大メカがダイドコロンなのは、
オリジナルの踏襲のようだ。
さらに物語では、冒険考古学者の海江田博士やその娘などが
登場して、全地球的な所狭しの冒険がVFXやワイアーアク
ションなどを駆使して壮大に展開される。そしてそこに挿入
されるギャグの展開も絶妙なものだった。

出演は、ヤッターマン1号に「嵐」の櫻井翔、同2号に『櫻
の園』の福田沙紀、海江田博士役に阿部サダヲ、娘役に岡本
杏理。一方、ドロンボー一味はドロンジョに深田恭子、ボヤ
ッキーに生瀬勝久、トンズラーにケンドーコバヤシ。さらに
山寺宏一、滝口順平らの声優も登場する。
前にも書いたが、この種の作品では如何に出演者が真面目に
役に取り組むかが大事なものだが、本作では、櫻井も福田も
ポーズをちゃんと決めるし、特に深田、生瀬、ケンドーが、
アニメそのままの踊りやアクションを再現しているのは素晴
らしかった。

脚本は、テレビの『こち亀』などを手掛けてきた十川誠志、
監督は三池崇史。多作の監督には当り外れの振れの大きさを
感じるが、今回は当りのように思う。それに何と言っても、
巨大なセットや造形からCGIまでのVFXが見事に納まっ
た作品だった。
『マッハ Go!Go!Go!』には退いてしまったアニメファンも、
今度は楽しんで貰えるかな?

『ピンクパンサー2』“The Pink Panther 2”
1960年代、70年代にピーター・セラーズの主演、ブレイク・
エドワーズの監督で人気のあったシリーズが、スティーヴ・
マーティンの主演を得て2006年に再開された本作は第2弾。
因に、オリジナルの題名表記は『ピンク・パンサー』で、新
シリーズは「・」が無いのだそうだ。
僕は昔のシリーズの何本かはテレビ放送などで観ているが、
実は新シリーズの第1作は配給会社の関係で観ていなくて、
今回が久しぶりのクルーゾーとの再会となった。
シリーズは基本的に一発ギャグのオンパレードのようなスタ
イルで、中にはどうかと思うものもあるが、全体的には気楽
に笑えるものだし、特に本作では謎解きの推理などにセンス
の良さも感じられた。
しかも、共演者にはジャン・レノ、エミリー・モーティマ、
リリー・トムリン、ジョン・クリースらが顔を揃え、また、
今回は各国代表の捜査官役で、アンディ・ガルシア、アルフ
レッド・モリーナ。さらに、インドからアイシュワリアー・
ラーイ・バッチャン、日本からは『硫黄島からの手紙』など
ハリウッド映画で活躍する松崎悠希が出演している。
ガルシア、モリーナに比べると日本人の配役がちょっと弱い
気がするが、こういう作品に真面目に出てくれないのが日本
人スターというところだ。
物語は、大英図書館のマグナカルタ、トリノの聖骸布、日本
は天叢雲剣が相次いで盗難に遭い、その現場にトルネードの
犯行を示すカードが置かれていたことに始まる。
トルネードとは、10年前まで犯行を重ね、突如姿を消した怪
盗の名前。その活動を再開した怪盗が次に狙うのはフランス
が誇る宝石ピンクパンサー。その前にパリ警察のクルーゾー
が立ちはだかる。
こうして、クルーゾーの頓珍漢な大活躍とそれに振り回され
る上司や各国の捜査官たちの珍騒動が展開される。と言って
も今回は、各国代表の捜査官も相当に曲者で、クルーゾーは
恥さらしから英雄までの見出しを乱高下することになる。
まあお気楽に楽しめれば良い作品だし、昔からのファンとし
ては、ケイトーは居ないが自宅アパルトマンでの空手騒動が
再現されているのも嬉しかった。
脚本はマーティンが執筆。監督は2004年3月に紹介した『エ
ージェント・コーディ』などのハラルド・ズワルト。製作総
指揮を、前作の監督で『ナイト・ミュージアム』なども手掛
けるショーン・レヴィが担当している。

『ニセ札』
構成作家・俳優…の木村祐一による第1回監督作品。1951年
1月に戦後初めて発行された新千円紙幣を巡って、山梨県下
で実際に起きた村ぐるみの紙幣偽造事件。その実話から想を
得て描かれたオリジナルの物語。
実際の事件は「チ−五号」と呼ばれるもので、小学校の元校
長や元陸軍の将校らが犯人として逮捕起訴されたそうだ。そ
の実話から映画では、元陸軍の将校と共に地元小学校の女性
教頭らが関与したものとして再構成されている。
この女性教頭を倍賞美津子が演じていて、教育者がこのよう
な事件にのめり込んで行く過程としての当時の社会に対する
不満や世相が描かれる。これがまた現代に通じるものとなっ
ているのはなかなか良質な脚本と言えるところだ。
共演は段田安則、村上淳、青木崇高、板倉俊之、三浦誠己、
西方凌と、監督の木村祐一。芸達者が揃っている感じだが、
中でも新人の西方と障害者を演じた青木の若い2人がよく頑
張っている感じがした。
その他、宇梶剛士、泉谷しげる、遠藤憲一、中田ボタンらが
出演している。
物語は、偽札作りに至るいろいろな状況が丁寧に描かれてい
て、それは偽札作りそのものよりも、女性教頭を中心とした
止むに止まれず犯罪に走る庶民の足掻きであり、現代人にも
共感を持って捉えられるものだ。
その一方で偽札作りがだんだん楽しくなって行く心境の変化
や、登場人物たちがそれにどんどんのめり込んで行く様子な
どが描かれていて、その辺は犯罪心理の映画としても面白い
ように感じられた。
因に、脚本は『橋のない川』などの製作者山上徹二郎の企画
に基づき、監督と、『リンダ・リンダ・リンダ』などの向井
康介、2006年11月に紹介した瀬々監督版『刺青』などの井土
紀州が共同で執筆している。
初監督の木村の演出は、出演者に恵まれたとも言えるが問題
はなく思えたし、このような感じで撮って貰えるならまた観
てみたい感じもした。ただ、プレス資料によるとSF映画に
は多少偏見があるようで、その辺も含めたちょっとスキのあ
るSF映画も作って貰いたいものだ。
それから、映画に登場する大型の製版カメラは1946年製造の
大日本スクリーン社製で、恐らくは実働する世界唯一と言わ
れるもの。他にも、印刷機など当時の実物が登場して貴重な
動く姿を見せてくれている。
なお試写会の後で、あんないい加減な装置で偽札が作れる訳
が無いと息巻いている人がいたが、本作は偽札作りを指南し
ようというものではないし、映画の中でも真券と比較すれば
一目で偽物と判るような粗雑なものだったことは明らかにさ
れている。
そんなことより本作は、現代にも共通する当時の庶民の苦し
みなどを描いているおり、その点で僕は大いに興味を持って
観ることが出来た。


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井口健二