2009年02月08日(日) |
昴、サスペリア・テルザ、グラン・トリノ、カンフーシェフ、刺青奇偶、ストリートファイター/チュンリー、エンプレス |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『昴−スバル−』“Dance Subaru” 曽田正人原作によるビッグコミックスピリッツに連載された 同名コミックスの映画化。主演は黒木メイサ。共演は桃井か おり、平岡祐太、佐野光来、韓国女優のAra。他に前田健、 筧利夫らが脇を固めている。 さらに製作と配給会社はワーナー、製作会社には『レッドク リフ』を手掛けたエイベックスも名を連ねているが…脚本と 監督は香港出身のリー・チーガイ、製作は『グリーン・デス ティニー』などのビル・コンによる中国=香港映画。 物語は、ダンサーの天分を持つ女性が、困難を乗り越えて国 際大会に出場するなど、才能を花開かせて行く姿が描かれて いる。そしてそんな彼女を支えるのが、アメリカからやって 来た天才ダンサーや、場末で劇場を営む元ダンサーの女館主 だったりというものだ。 最近、この種の若き天才芸術家を主人公にした作品をよく観 るような気がするが、撮影技術や編集技術の進歩で、こうい う作品が作りやすくなっているのかな。とは言えクラシック バレエはなかなかハードな題材のようにも思えるが、そんな 題材を出演者達はよくこなしているようにも観えた。 因に、桃井かおりと前田健は共に元バレエダンサーである訳 だが、特に桃井はバレエ初体験の黒木に対して、ダンサーら しく見せる立ち方や手の組み方なども伝授したと、試写と同 じ日に行われた記者会見で発言していた。 なお同じ記者会見では、桃井は以前にバレリーナを目指した 人間として、バレエが題材の映画には出来るだけ近寄らない ようにしていたのだそうだ。しかし今回は、その事情も知る ビル・コンが敢えて桃井にオファーをし、桃井も自分がやら なくてはいけないという決意で撮影に臨んだとのこと。 それで黒木と一緒に2時間に及んだダンスシーンも撮影した が、完成作品ではそのシーンがほとんどカットされてしまっ たのだそうで、その点を悔しがっていた。黒木も頑張ったよ うなので、特典DVDにでも収録されたら観てみたい気もす るところだ。 主演は日本人だし、主な台詞は全て日本語の作品なのだが、 何となく日本映画とは違う味わいもある。鑑賞中はその辺が 面白くも感じられた。
『サスペリア・テルザ/最後の魔女』“La Terza madre” 「決してひとりでは見ないでください」のキャッチフレーズ が鮮烈な印象を残す1977年の『サスペリア』を監督したダリ オ・アルジェントによる2007年の作品。 因に本作は、『サスペリア』、1980年の『インフェルノ』に 続く魔女3部作の最終章と位置付けられており、80年作品に 登場する「3人の母の館」に纏わる完結編となっている。し かし物語的には互に独立した作品であり、単独で観ても全く 支障はないものだ。 大体、前の作品から30年近くも経っているのだから、あまり 関連性があっても困ってしまうところだが、実は3作の登場 人物の中にサラという共通の名前があって、本作ではそのサ ラが主人公になったりもしている。 物語は、古い墓地の工事中に区画の外から19世紀の棺が掘り 出され、その副葬品を納めた箱を開けたことから呪いの魔女 が復活してしまうというもの。そして主人公のサラは考古学 の助手で、しかも彼女の母親の因縁から事件に巻き込まれる ことになる。 魔女の復活によってローマ中に悪が蔓延り出すといった描写 は、どこかで見たような…という思いは抱きつつも、背景に 写るイタリア建築そのものが、そこにオカルトを感じさせる 雰囲気なのはさすがというところだ。 そしてその場所をヒロインが彷徨うシーンなどは、正に『サ スペリア』を思い出させてくれるものになっていた。しかし 当時描けた過激なショックシーンは、DVDが基準となる今 の時代では規制も厳しくなっているようで、なかなか思い通 りにはできないところもある。そんな中でのアルジェントの ぎりぎりのホラー演出が見られる作品ともなっている。 サラ役はアーシア・アルジェント。近頃はハリウッドの大作 にも出演する監督の愛娘が、久しぶりに父親の作品に主演し ている。また77年作に出演したウド・キアの登場や77年作の 脚本に協力しアーシアも誕生させた女優ダリア・ニコロディ の共演など、それなりの集大成の感はあるようだ。 他にも『黄金の七人』のフィリップ・ルロアなど多彩な顔ぶ れが登場している。また、映画の中でちょっと怪しい日本語 を喋る若い女性を演じているのは、市川純というイタリア在 住の日本人女優だそうだ。
『グラン・トリノ』“Gran Torino” クリント・イーストウッドが、2004年『ミリオンダラー・ベ イビー』以来の監督主演を兼任した作品。異民族の流入が進 む郊外の住宅地を舞台に、そこに住む妻に先立たれた一徹な 老人と、その隣家に引っ越してきた東洋人一家のぎこちない 交流が描かれる。 イーストウッドが演じる主人公は、朝鮮戦争に出征し、戦後 はフォードの組み立て工場で働いていたという男性。その男 性の妻の葬儀の模様から物語はスタートする。 葬儀の後、住宅地の自宅で開かれたパーティには多くの人が 集まってくれたが、主人公は来訪した息子がトヨタに乗って 来たことも気に食わない。そんな主人公の住む家の隣に、東 洋人の一家が引っ越してくる。 その住宅地は治安も悪化し始め、住んでいた白人の多くはす でに別の場所に転居しているような場所だった。そして引っ 越してきた一家のちょっと内気な息子が、早速トラブルに巻 き込まれる。そのトラブルの原因が、主人公が手入れを怠ら ない1972年フォード製グラントリノであったことから、主人 公はその一家と話を交わすことになる。 実は、主人公は東洋人に激しい偏見を持っていたが、それは 戦場での体験が影響しているようだ。そして主人公は、東洋 人の一家がアメリカに移住してきた原因が自分たちにあるこ とも教えられて行く。しかし息子を巡るトラブルは激しさを 増して行き… 朝鮮やヴェトナムなどアメリカが外に向けて行ってきた戦争 が暗い影を落とし、本来ならもっと目を向けられなければな らないアメリカ国内の状況が描かれる。主人公だけでなく、 アメリカの白人社会全体が疲弊している…そんな様子も伺え る作品だ。 イーストウッド以外の出演者はほとんどが新人で、特に隣家 の姉弟役には、現地ミネアポリスで行われたオーディション で選ばれた演技経験もほとんどない2人(アーニー・ハーと ビー・ヴァン)が扮している。 他には、テレビやインディペンデントの映画に出演している クリストファー・カーリー。さらにハリウッドでは脇役中心 のブライアン・ハーレイ、『ロッキー・ザ・ファイナル』に 出演のジェラルディン・ヒューズ、『ゾディアック』などの ジョン・キャロル・リンチらが脇を固めている。 僕は、本作の結末には決して納得しないが、イーストウッド が全身全霊を掛けて訴えようとしている内容は、真摯に受け とめなければならないものと感じる。これがアメリカの良心 なのかも知れないと思いつつ。
『カンフーシェフ』“功夫厨神” 巨漢カンフースターのサモ・ハンが主演し、台湾版『花より 男子』のヴァネス・ウー、元モーニング娘。の加護亜依が共 演する中国料理の厨房を舞台にした香港カンフー映画。 香港の老舗中華料理店を巡って、伝説の包丁を継承する料理 人と彼に父の包丁を奪われたと思い込む甥との確執や、老舗 の名を掛けた料理勝負の顛末が、カンフーアクションを織り 込みながら描かれる。 サモ・ハン扮する料理人は、とある村の伝統の料理店で腕を 振るっていたが、謀略に合いその村を追われる。そして香港 に現れた料理人は老舗の料理店を訪れ、一皿の料理を注文す る。それは四川で究極の料理とされているものだった。 一方、ヴァネス・ウー扮する若者は、料理学校を主席で卒業 したが、料理のテクニックはあるものの、満足のできる仕事 ができたことはない。そして偶然香港の料理店に居合わせた 若者は、そのまま料理人の弟子となってしまう。 その料理店は若い姉妹が店主を務めていたが、シェフの人材 に恵まれず、店の先行きも怪しい状態だった。そこに現れた 料理人は弟子を鍛えながら店を立て直して行くが…シェフの 座を奪われた連中からの反撃も受けることになる。 この店主姉妹の妹を加護が演じ、姉をアンディ・ラウ作品な どに出演のチェリー・リン。他に『カンフー・ハッスル』の ラム・ジーチョンやブルース・リャン、さらにサモ・ハンの 長男のティミー・ハン、『少林キョンシー』のルイス・ファ ンらが脇を固める。 サモ・ハン、ヴァネス・ウー、ルイス・ファンらの激しいカ ンフーアクションと共に、映画の後半には『料理の鉄人』の ような料理対決も登場して、中国料理人の華麗な手捌きなど も披露される。そんな手練の技が存分に堪能できる作品とい うところだ。 ただお話の方は如何にも取って付けたようで、特に料理シー ンとカンフーシーンが完全に遊離してしまっているのは残念 なところ。でもまあ、それが香港映画だということでは、今 も昔も変わらないサモ・ハンが観られるところでもある。 なお、加護も頑張っているが役柄は中国人とのことで、音声 は全て中国語に吹き替えられている。口許は日本語を喋って いるようにも観えたが、できたら彼女の声も聞きたいファン も多いところだろう。 彼女の声を活かした日本語吹き替え版は出来ないのかな?
『刺青奇偶』 シネマ歌舞伎の第10作。ここで紹介するのは昨年8月に1作 と12月に紹介したのが2作分で4作目となるが、落語2作と 舞踊の後は、長谷川伸原作の世話物となった。 物語は、遠くに江戸の空を臨む下総行徳。そこの船着き場で 若い女が身を投げる。それを救ったのが博徒の男。男は江戸 を追われてこの地に流れてきたものだが、同じような境遇の 女の身の上に心を乱され、女に財布を渡して勇気づけようと する。 しかし女は、今までの人生で体目当ての男としか出会ったこ とがなく、金だけ置いて行こうとする男の心情が判らない。 そんな男の後を女は追い掛けて行くが… やがて夫婦となった2人だったが、男は生来の博徒で、金は 賭博に注ぎ込むために日々の生活もままならない。それでも 男に寄り添う女だったが、ついに苦労が祟って医者も見放す 病となってしまう。 そして、死期を悟った女は男の二の腕に賽子の刺青を彫り、 男に博打から足を洗うよう説得するのだが…。そんな切ない 男女の仲が、中村勘三郎と坂東玉三郎の共演で繰り広げられ る。 賭博を止められない男など自業自得だし、それと一緒に暮ら す女も五十歩百歩だが、そこに至る経緯などが絶妙に語られ て、心に染みる男女の物語が描かれる。今さら聞いたような 話と思いつつも、心を打たれてしまうところだ。 特に玉三郎が演じる女は、美しさ妖麗さが持て囃されるもの とは違って、しっかりと足を地に付けたリアルさで演じられ ており、その儚い美しさには、成程これが歌舞伎の女形だと 思わされもした。 他に、片岡亀蔵、市川高麗蔵、片岡仁左衛門らが共演。特に 仁左衛門の親分振りが少ない出番で光っていた。いつもなが ら、こういう芝居がシネマとなって、地方でも手軽に観られ るようになるのは良いことだ。 因に、題名は「いれずみちょうはん」と読ませるが、本来は ちょう(丁)が偶数ではん(半)は奇数。しかし文字の座り や一般的な呼びやすさなどから、原作者の希望で敢えて誤読 となっているそうだ。
『ストリートファイター/レジェンド・オブ・チュンリー』 “Street Fighter: The Legend of Chun-Li” 1987年に第1作が発表され、以来15種が発表されたシリーズ の累計で2500万本以上を販売、対戦型格闘ゲームの元祖とも 呼ばれるヴィデオゲームを映画化した作品。 同ゲームからは、1994年にスティーヴン・E・デスーザ脚本 監督、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演による映画化が すでにあるが、今回はゲームと言うより、その登場キャラク ターの1人に焦点を当てた物語が展開される。 その物語の主人公は春麗(チュンリー)。前作ではマカオ出 身のミナ・ウェンが演じた役柄を、今回は“Smallville”で ケントの初恋の相手ラナ・ラング役を務めるクリスティン・ クルックが演じている。因に彼女は、母方に中国系の血が交 じっているそうだ。 そして今回の映画では、春麗の幼い時から父親の失踪事件、 またカンフーの師匠ゲンとの出会いやインターポール捜査官 との協力、さらに宿敵シャドルーとの戦いなどが、格闘技や ワイアーも駆使したアクションシーンと共に描かれる。 なお物語では、ゲンの許に辿り着くまでの様子や、インター ポールからの捜査官の動きなどもそれなりに描かれていて、 前回の映画化でのアクションに取って付けたような物語の展 開とは一線を画している。 その脚本を手掛けたのは、ワーナーが準備中の“Masters of the Universe”も担当しているジャスティン・マーカス。原 作ゲームの大ファンと自称する脚本家はなかなか良い仕事を しているものだ。 監督は、2000年にジェット・リー主演『ロミオ・マスト・ダ イ』などを手掛けたアンジェイ・バートコウィアク。アクシ ョン監督には『スパイダーマン2』などのディオン・ラムが 参加している。 共演は、ゲン役に香港出身で『バイオハザード』のアクショ ン指導なども担当し、リメイク版『デス・レース』に出演の ロビン・ショウ。ナッシュ役にはリメイク版『ローラーボー ル』に出演のクリス・クライン。 さらに、ヴェガ役に『マイノリティ・リポート』のニール・ マクドノー。そしてバイソン役に、1999年『グリーン・マイ ル』でオスカー候補になったマイケル・クラーク・ダンカン などが登場している。 なお、本作はゲーム会社のカプコンが直接ハリウッド映画の 製作に乗り出した第1作となる作品。同社では以前にもアニ メーション映画などは手掛けているが、本格的な実写映画は 初めてのようだ。 同業のコナミは『サイレント・ヒル』を成功させており、日 本のゲーム会社の動きもこれから注目されそうだ。
『エンプレス−運命の戦い−』“江山美人” 『花の生涯〜梅蘭芳〜』などのレオン・ライ、『アンナ・マ ンデリーナ』などのケリー・チャン、『ブレイド2』などの ドニー・イェンの共演により、中国の民間伝承の一つ「江山 美人」に基づいて描かれた武侠映画。 ただし伝承は、若くして帝位についた明の聖徳帝と、身分の 違う酒屋の娘との悲恋物語とのことで、本作とはかなり趣の 違うもののようだが、わざわざ題名を引いているということ は、それなりの基になるものもあったのだろう。 という本作の物語は、中国古代の燕国が舞台。その国は隣国 の趙国と長く戦いを続けてきたが、最早その戦いの意味さえ も判らなくなり始めている。そんなときに燕国の国王が討た れ、王は死ぬ間際に全権を将軍の雪虎に委ねると告げる。 ところが家臣たちは血縁の繋がらない将軍が継ぐことには反 対し、王の甥が継承者として名告りを挙げる。それに対して 雪虎は、幼馴染みでもある王女の飛児を継承者に推し、自ら が彼女を相応しい人物にすると宣言する。 こうして雪虎による王女の訓練が始まり、王女は軍師として の実力を高めて行く。ところが彼女が初めての勝利を納めた 戦場からの帰路、王位を狙う甥の放った暗殺集団が襲い掛か り、王女は行方不明になってしまう。 そのため国は混乱し、その混乱に乗じて甥が王位を奪う事態 に発展するが…。その頃、王女は暗殺者の毒吹き矢によって 倒れたところを隠遁生活をしている男に救助され、その男に よっていろいろな世界に目を向けるようになっていた。 この隠者の男をレオン・ライ、王女をケリー・チャン、将軍 をドニー・イェンが演じて、古代中国の戦いや隠者の男のか なりファンタスティックな生活振りなどが描かれる。特に森 に隠された男の住いは樹上高くに作られ、水車など各種のメ カまで装備された見事なものだ。 そんな、ちょっと摩訶不思議な雰囲気まで備えた物語が展開 され、その中にはあっと驚く発明品まで登場する。 その一方で戦場のシーンでは、すでに数々描かれた中国古代 の戦闘の中でも、さらに進化した戦法が繰り出され、まさか 本当にあったとは思えないものの、ひょっとしてあっても可 笑しくないような、見事なアクションシーンが次々展開され ていた。 中国武侠映画もいろいろ公開されて、そろそろ種も尽きる頃 かなとも思っていたが、中国4千年の歴史には、まだまだ描 かれていない物語が沢山あるようだ。
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