井口健二のOn the Production
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2009年02月01日(日) 第176回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回も賞レースの情報から。
 まずは1月22日に発表されたアカデミー賞の最終候補で、
VFX部門には、
“The Crious Case of Benjamin Button”
“The Dark Knight”
“Iron Man”
が選出された。これはまあ前回も書いたように予想通りのも
のだろう。これに対して、メイクアップ部門には、
“The Crious Case of Benjamin Button”
“The Dark Knight”
“Hellboy II: The Golden Army”
が選出された。幸い選ばれたのは観ている作品ばかりになっ
たが、この内“Hellboy II”が選ばれたのは、前作からそれ
ほど進化したと認められたのだろうか。僕としては“Tropic
Thunder”の方が、ロバート・ダウニーJr.が助演賞候補にも
選ばれているし、トム・クルーズの怪演もあって、いけたの
ではないかと思っていたのだが…
 この他のSF/ファンタシー関連の作品では、上記に加え
て“Benjamin Button”が、作品、主演男優(ブラッド・ピ
ット)、助演女優(タラジ・P・ヘンスン)、監督、脚色、
撮影、編集、美術、衣装デザイン、作曲、音響にも選ばれ、
今回では最多の13部門の候補になっている。
 また“Dark Knight”は、ヒース・レジャーの助演男優、
撮影、編集、美術、音響、音響編集を加えて8部門。さらに
“WALL-E”が長編アニメーション作品、脚本、作曲、歌曲、
音響、音響編集の6部門。“Iron Man”は、音響編集を加え
て2部門。“Wanted”が音響、音響編集の2部門の候補にな
った。
 なお長編アニメーション作品には、他に“Bolt”と“Kung
Fu Panda”が選ばれた。また外国語映画には『おくりびと』
が候補になっているが、さらに短編アニメーション作品に、
ピクサー製作“WALL-E”併映の“Presto”と並んで、加藤久
仁生監督『つみきのいえ』(La Maison en Petits Cubes)
が選ばれており、こちらも期待したいところだ。
 “Benjamin Button”が雪崩をうってタイ記録達成となる
かどうか、受賞者の発表と受賞式は2月22日に行われる。
        *         *
 さらに1月18日には、こちらも恒例となった第7回VES
賞の候補作も発表された。こちらはテレビやコマーシャル部
門もあるが、ここでは映画の各部門の候補を紹介しておく。
 まず、VFX主導映画のVFX賞候補は、
“The Chronicles of Narnia-Prince Caspian”
“The Crious Case of Benjamin Button”
“Hellboy II: The Golden Army”
“Cloverfield”
“Iron Man”
オスカーでは初期候補にもならなかった作品がこちらには登
場しているが、これが専門家の目ということなのだろうか。
 VFX主導でない一般映画の助演VFX賞候補は、
“Changeling”
“Eagle Eye”
“Valkyrie”
“Nim's Island”
“Synecdoche, New York”
因に、最後の作品はチャーリー・カウフマン監督の新作で、
フィリップ・セイモア・ホフマン扮するブロードウェイの舞
台監督が、セットと称して実物大のニューヨークの街角を作
り、そこに俳優たちを暮らさせるというお話のようだ。
 年間単独VFX賞候補は、
“Cloverfield”の自由の女神の破壊及びウールワースタワ
ーの崩壊
“The Crious Case of Benjamin Button”の主人公の生涯
“The Day the Earth Stood Still”のクラトウの再生
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
の峡谷の破壊
“Iron Man”(シーンの指定なし)
となっている。
 実写映画におけるアニメーションキャラクター賞候補は、
“The Crious Case of Benjamin Button”の主人公
“Hellboy II: The Golden Army”の各シーン
“Iron Man”自身
“The Spiderwick Chronicles”のHogsqueal
 マットペインティング賞候補は、
“Changeling”
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
“Synecdoche, New York”
“Speed Racer”
 ミニチュア賞候補は、
“The Dark Kinght”の塵芥回収車の破壊
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
(シーンの指定なし)
“Iron Man”のスーツ装着装置
『山のあなた−徳市の恋』の温泉
なお日本映画は、“My Darling of the Mountains”の英名
で公開されたようだ。
 背景賞候補は、
“Cloverfield”のブルックリン橋
“The Dark Kinght”Imax版のゴッサムシティ
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
の寺院の中心
“The Mummy: Tomb of the Dragon Emperor”の雪崩シーン
“Synecdoche, New York”の環境創造
 合成賞候補は、
“The Chronicles of Narnia-Prince Caspian”
“The Crious Case of Benjamin Button”
“Iron Man”
“Quantum of Solace”
 特殊効果賞候補は、
“The Dark Kinght”の全体
“The Dark Kinght”の塵芥回収車の破壊
“Defiance”の特殊効果
などとなっている。
 また、アニメーション映画における特筆アニメーション賞
候補は、
“Bolt”
“Kung Fu Panda”
“Waltz with Bashir”
“Roadside Romeo”
“WALL-E”
“Waltz…”はイスラエルの作品で、アカデミー賞外国語映
画部門の候補にもなっているものだ。
 アニメーション映画のアニメーションキャラクター賞候補
は、
“Bolt”のBolt
“Bolt”のRhino
“Kung Fu Panda”のPo
“WALL-E”のWALL-EとEveが一緒のシーン
なお“WALL-E”では音響技術者のベン・バートが受賞候補者
になっている。
 アニメーション映画における特殊効果アニメーション賞候
補は、
“Bolt”の各シーン
“Kung Fu Panda”の秘密の起源のシーン
“Madagascar Escape 2 Africa”のアフリカのシーン
“WALL-E”のWALL-E自身の効果
と発表された。
 アカデミー賞では2次候補にまで残った“Australia”と
“Journy to the Center of the Earth”が完全無視という
のも面白いところだが、結局“10,000BC”はどちらからも無
視されてしまったようで、僕としては残念な気がした。
 こちらの受賞者の発表及び受賞式は2月21日に行われる。
なおアメリカでは、今年から録画でのテレビ中継も実施され
ることになったそうだ。それだけVFXに対する注目度も上
がっているのだろう。
        *         *
 ではここからは、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは待望の情報で、アイザック・アジモフの原作による
大河未来小説“The Foundation Trilogy”に関する映画化権
のオークションが行われ、コロムビアがその権利を獲得して
ローランド・エメリッヒ主宰のセントロポリスと共に映画化
に乗り出すことが発表された。
 この計画に関しては、昨年8月1日付第164回でも紹介し
たが、その時に報告されたユニーク・フューチャーズの計画
は契約に至っていなかったようで、改めてそのオークション
が行われたものだ。
 そしてその争奪戦は、2003年11月1日付第50回で紹介した
当時の主体で、昨年11月15日付第171回で紹介した“End of
Eternity”の計画も進めているフォックス+ニュー・リジェ
ンシーと、当然ユニーク+ワーナーも参加して行われたもの
だが、その中からコロムビア+セントロポリスが6桁の中盤
から7桁($)の契約金額で獲得したものだ。因にコロムビ
アの参加は、前記2社には想定外だったようだが、実はセン
トロポリスを共同経営するマイクル・ウイマーという製作者
が以前からこの権利を狙っていたのだそうだ。
 物語は、人類が大宇宙に進出し繁栄した遠未来を背景に、
その人類文化の衰退を予見した科学者が、人類文化を保存し
衰退期間を短縮するための手段としての組織を作るというも
の。その組織自体の盛衰や人類の未来が壮大なスケールで描
かれる。それをエメリッヒの監督で映画化することになる訳
だが、『スターゲート』から『GODZILLA』『紀元前1万年』
もこなすSF大好きの監督が、果たしてどのような未来図を
描き出してくれるか、楽しみなことだ。
        *         *
 次も長年の計画で、2007年6月1日付第136回などで紹介
してきた“Masters of the Universe”の映画化が、ジョー
ル・シルヴァの製作と、『カンフー・パンダ』の共同監督を
務めたジョン・スティーヴンスンの実写監督初挑戦で進めら
れることになった。
 計画はマテル社が発売する男の子向けのキャラクター人形
に基づくもので、その設定は、地球の中世にも似た魔法世界
エターニアを舞台に、超能力を持ったHe-Manと呼ばれるヒー
ローと、スケルターと名告るアンチヒーロー率いる悪の軍団
との戦いを描くというもの。同じ設定からは、1987年にドル
フ・ラングレンのHe-Man役、今年のオスカーに『フロスト/
ニクソン』でノミネートされているフランク・ランジェラの
スケルター役での映画化も行われている。
 その再映画化を、過去にはジム・ヘンスンと『ダーク・ク
リスタル』『ラビリンス』や、ディズニーで『ジャイアント
・ピーチ』などにも参加していたスティーヴンスン監督の手
で進めることになったもので、かなりファンタスティックな
作品が期待できそうだ。因に脚本は、今月公開の『ストリー
トファイター/ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』を手掛
けたジャスティン・マークスによる第1稿がすでに完成され
ているようだ。
 ただしスティーヴンスン監督は、この計画に最初はあまり
乗り気ではなかったそうだ。それが心変わりしたのは、監督
自身がマテル社に招かれて、開発中のデザインやコンセプト
アートを見学してのことで、「そこは、エスコート無しでは
入れない場所なのだが、そこには特別な衣裳や神秘的な生物
や建物などのデザインがぐるりと置かれていて、正に我々が
作るべき世界が提示されていた。それを見た途端、『これは
やれるぞ』と思った」とのことだ。
 一方、この計画にはマテル社側から製作総指揮の担当者が
派遣されるなど、玩具会社もかなり気合いを入れた映画化に
なりそうだ。その担当者のバリー・ウォルドは、「スティー
ヴンスンのヴィジョンは、マテル社が希望するメイジャー・
スタジオでのHe-Manの活躍を確実なものにしてくれた」とし
て、監督の考えを尊重する意向を表明している。
 なお玩具のコンセプトを映画化するこの計画は、今年6月
26日全米公開の“Transformers: Revenge of the Fallen”
や、8月7日公開予定“G.I.Joe: The Rise of Cobra”の流
れを汲むものだが、さらにマテル社とワーナー=ジョール・
シルヴァでは、2004年7月15日付第67回での紹介当時はコロ
ムビアの計画としていた“Hot Wheels”の映画化も進めてい
るそうだ。
        *         *
 お次はちょっとやばそうな計画で、ドイツのUFAシネマ
から“Fatherland”という計画が発表されている。
 この作品、イギリスの作家ロバート・ハリスが1992年に出
版した同名のデビュー作を映画化するもので、その内容は、
第2次世界大戦でナチスドイツが勝利して、イギリスがベル
リンの支配下となっている世界を舞台にしたもの。物語は、
その設定下での政治ミステリーが描かれるとのことで、同じ
原作からは1994年にアメリカでルトガー・ハウアー主演によ
るテレビ映画もあるが、戦前のナチスの宣伝映画を作り続け
たUFAの名前の付いた会社での映画化というのは、かなり
刺激的なものだ。
 なお、ヨーロッパ最大のメディアとされるRTLグループ
の傘下で昨年設立されたUFAシネマでは、総数で80の製作
計画が進行中とのことで、今回の作品もその1本でしかない
ものだが、日本でも昨年末に、第2次世界大戦がなく旧帝国
体制が継続した歴史を背景にした作品があったようで、この
手の話は特に政権が右傾化しやすい経済不況下では受けると
いうことなのかな。
 因にハリスの原作では、2007年11月15日付第147回で紹介
したロマン・ポランスキー監督作品“The Ghost”の撮影も
ドイツ国内で開始されたところで、ちょっとブームのような
感じにもなっている。
 どんな映画になるのか、どちらも楽しみだ。
        *         *
 続いて原作もので、アメリカのSF作家ダン・シモンズが
執筆した“Hyperion”4部作の映画化計画がワーナーで進め
られ、その監督に、昨年フォックスで“The Day the Earth
Stood Still”のリメイクを発表したスコット・デリクスン
の起用が報告されている。
 物語は、人類が地球を脱出し、大宇宙の星々をテラフォー
ミングしつつその版図を広げた28世紀の未来を背景にしたも
の。数世紀の未来予測も可能なA.I.群と、そこに不確定要素
として影響する辺境の星ハイペリオンに置かれた時間を超越
する存在「時間の墓標」を巡っての人類の存亡を賭けた冒険
が展開される。
 原作は、1989年に発表された“Hyperion”に続けて、90年
の“The Fall of Hyperion”、さらに96年の“Endymion”、
97年の“The Rise of Endymion”で完結し、それぞれの作品
はアメリカのSF賞のヒューゴー賞やローカス賞、翻訳本は
日本のSF大会で授与される星雲賞なども受賞している。少
なくともSFファンには人気の高い作品と言えそうだ。なお
今回の報道では、全体を“Hyperion Cantos”と呼んでいた
ようだ。
 そして今回の計画では、短編映画作家のトレヴァー・サン
ズが“Hyperion”と“The Fall of Hyperion”の2作に基づ
く脚本を執筆したもので、今回の結果によって後続の2作の
映画化も実現することになりそうだ。なおサンズは、2002年
に“Inside”と題された短編を発表している他、ディメンシ
ョンの製作でマーティン・ケイディン原作の“Six Million
Dollar Man”のリメイクや、デイヴィッド・ブリンのSF小
説“Startide Rising”の脚色なども担当している。
 それからデリクスンの監督では、昨年12月15日付第173回
でジョン・ミルトン原作“Paradise Lost”の映画化計画も
紹介しているが、同作も今回と同じワーナーで進められてい
るもので、どちらが先になるかは明らかにされていない。ま
たデリクスンは、2005年の『エミリー・ローズ』で共同脚本
を手掛けたポール・ボールドマンと共に、“Devil's Knot”
という作品の脚本も手掛けているとのことだ。
 デリクスンは、他人の脚本を監督だけした前作では、かな
りの総スカンを食っているようだが、元々ファンタシー系が
好きな監督のようでもあるし、壮大なスケールとなりそうな
今回の計画で、失地回復となって貰いたいものだ。
        *         *
 もう1本原作もので、ダニエル・トラッゾーニという女流
作家の新作小説“Angelology”の映画化権が、7桁($)で
ソニー・ピクチャーズと契約され、ウィル・スミス主宰のオ
ーヴァブルックの製作で映画化が進められることになった。
 物語は、23歳の修道女の主人公が、ヴァーラインと名告る
angelogist(天使学者?)と共に、宗教的な謎に挑むという
もので、『ダ・ヴィンチ・コード』と『ナショナル・トレジ
ャー』を一緒にしたような作品と紹介されていた。因に原作
の出版権は、6桁($)の契約金でヴァイキング社と契約さ
れたとのことだ。
 SPEでは、5月に公開される『ダ・ヴィンチ・コード』
の続編“Angels & Demons”の前宣伝の意味も込められてい
るのかも知れないが、出版権の金額も高いほうのものだし、
これで映画化がウィル・スミスの出演となれば、それもまた
ヒットの期待も高まるところだ。
        *         *
 後はリメイク(?)の話題をまとめて紹介しておこう。
 まずはワーナーから“Samson”という計画が発表されてい
る。この作品は、1949年にも映画化された旧約聖書に基づく
『サムソンとデリラ』の物語を、未来を舞台に再話しようと
いうもので、実は『8マイル』を手掛けたスコット・シルヴ
ァの脚本と『アイ・アム・レジェンド』のフランシス・ロー
レンス監督のセットで立てられた企画がオークションに掛け
られ、争奪戦の末に7桁($)の金額で契約されたものだ。
ローレンスはワーナーで“I Am Legend”の前日譚の計画も
進めているようだが、どちらも楽しみだ。
 次もワーナーで、2001年と03年に公開されたゲームの映画
化“Lara Croft: Tomb Raider”シリーズを再開する計画が
発表された。このシリーズの前2作はパラマウントが製作し
たものだが、実は、昨年末にタイム=ワーナー社がゲームの
権利を保有するEidosという会社の大株主となり、このため
パラマウントが権利を返却、新たにワーナーでの再開が検討
されているものだ。そして製作者には『ディパーテッド』や
“Terminator Salvation”も手掛けるダン・リンが発表され
ており、まだ初期の段階ではあるがやる気は充分のようだ。
それでアンジェリーナ・ジョリーの主演はあるのかな?
 ユニヴァーサルからは1982年ジョン・カーペンター監督の
“The Thing”のリメイク計画が発表されている。この作品
は、元々はジョン・W・キャンベルJr.の原作小説を1951年
にハワード・ホークスの製作で映画化したもので、カーペン
ター版はすでにそのリメイクだった。それを今回は、テレビ
新版の“Battlestar Galactica”を手掛けるロン・モーアの
脚本とCF出身のマチス・ヴァン・ハイニンゲン監督により
リメイクするもので、準備はかなり進んでいるようだ。なお
ヴァン・ハイニンゲン監督は、トヨタやペプシ、ハイネケン
などのCFを手掛けている他、ザック・スナイダーの製作で
ワーナーが進めている“Army of the Dead”の監督にも起用
が発表されている。


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井口健二