2009年01月31日(土) |
スラムドッグ、イエスマン、ロックンローラ、トワイライト、ビバリーヒルズ・チワワ、アンティーク、レイチェルの結婚、ベルサイユの子 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『スラムドッグ$ミリオネア』“Slumdog Millionaire” 『28日後...』などのダニー・ボイル監督の最新作。日本 でも話題を呼んだクイズ番組「ミリオネア」のインド版を巡 って、史上最高の賞金2000万ルピー(約3600万円)に挑む若 者の苦難に満ちた半生が描かれる。 その若者は、賞金2000万ルピーを賭けた最後の問題に挑もう としていた。しかしそこで放送時間が終了し、最後の問題は 次回に持越しとなる。ところがスタジオを出ようとした若者 は警察に拘束され、不正が行われていたのではないかとの尋 問を受ける。 その若者はムンバイのスラム街の出身で、仕事は電話会社の オペレーター室のお茶汲み。まともな教育を受けたこともな く、それまでの回答を知識として知っていたはずがないと疑 われたのだ。 ところが、警察での取り調べが進む内に、彼がそれまでの人 生の中でそれぞれの問題の答えを知るに至った過程が明らか にされて行く。それはスラム街出身の若者が辿った恐怖と悲 しみに満ち溢れた物語だった。 原作の小説はあるようだが、ボイル監督がこの映画で目指し たのはインド・ムンバイ版の『シティ・オブ・ゴッド』では なかったかと感じた。特に前半のスラム街の中を縦横に走り 回る子供たちの姿は、ブラジル映画とは違う意味で生き生き としていたものだ。 しかしその子供たちが、ブラジル映画以上に過酷な運命に晒 されて行く。インド国内では「現実と違う」という批判も出 たようだが、過酷な運命に立ち向かって行く子供たちの逞し さは見事に描かれていた。 脚色は、『フル・モンティ』でオスカー候補に挙がったサイ モン・ビューフォイ。脚本家は3度インドを訪問し、その際 にスラム街で感じ取った人々のヴァイタリティを脚本の描き 込んだということだ。 またその脚本は、物語の展開や構成も見事で、実はいくつか のシーンでは今年初めて落涙する羽目にも陥ってしまった。 なお本作は、先に発表されたゴールデングローブ賞で、ドラ マ作品、監督、脚本、音楽の4部門を受賞しており、アカデ ミー賞(オスカー)では作品賞を含む9部門で10個の候補に 挙げられている。
『イエスマン』“Yes Man” ジム・キャリー主演の今回は真性ファンタシーではないが、 ちょっとファンタスティックなコメディ作品。 主人公は銀行の融資窓口の担当者。職業柄‘no’と答えるこ とが多く、実生活でも何かにつけて‘no’と答えてしまう。 その上、2年前の離婚を引き摺ったまま人付き合いが億劫に なり、カウチポテトの生活は友人たちにも心配されていた。 ところが、偶然出会った昔の友人に誘われたセミナーで、彼 は行き掛かりから「‘yes’としか言わない」ことを誓約さ せられてしまう。しかも破ると天罰が下るという条件付き。 もちろんそれは本心からではない主人公だったのだが。 最初は出任せに‘yes’を連発してみると…、さらに‘no’ と言ってしまうと…。そして物語は、‘yes’を連発したこ とで巡り会った女性とのロマンスを縦軸に、ショートコント のようなエピソードをちりばめて展開されて行く。 ジム・キャリーというコメディアンは、なかなか日本人の感 性には合わないようで、本作でもちょっと眉をしかめたくな るようなエピソードも登場する。でもそのファンタシーの志 向は、実は僕は大いに気に入っているもので、今回もそれは 存分に楽しむことができた。 中でも本作の「‘yes’としか言わないことで、普通は拒否 されることが肯定され、それによって良い結果がもたらされ る」という展開は、特に今の時代には重要なメッセージのよ うにも思えた。 脚本は、2008年『寝取られ男のラブ♂バカンス』では監督を 務めていたニコラス・ストール。彼はキャリーとは2005年の 『ディック&ジェーン 復讐は最高!』以来の再会となる。 因に、物語はダニー・ウォレスという人の書籍に基づくが、 原作は小説ではないようだ。 監督は、1991年に“Back to the Future”のテレビアニメー ションなどを手掛けたペイトン・リードが担当している。 共演は、『テラビシアにかける橋』などのズーイ・デシャネ ル。他にテレンス・スタンプが重要な役柄で登場し、物語の 要所を締めている。 まあ基本的には夢物語ではあり、何事もこんなにうまく行く とは思えないところではあるが、今の世の中にはこんな考え 方も必要なのではないかな。しかもそこにはちゃんと現実的 な側面も持たせてあって、その辺りの見識が作品の質を高め ているようにも思えた。
『ロックンローラ』“RocknRolla” 2000年『スナッチ』などのガイ・リッチー監督によるロンド ン裏社会ものの新作。 リッチー監督のこの種の作品は定評のあるところだが、今回 は突然の不動産バブルに踊るロンドンを舞台に、ロシアなど から流入する巨額資金を巡っての裏社会の混乱が描かれる。 と言っても、情勢は変わっても伝統あるロンドンの裏社会の 気風は不変のものだが。 その裏社会を仕切るのは、2007年『フィクサー』などで2度 オスカー候補になったトム・ウィルキンスン扮する顔役。彼 は大型開発の建設許可を巡って裏で市議会議員を操り、うま い汁を吸い続けている。 その罠に引っ掛かったのが、ジェラルド・バトラー扮するワ ンツーらのチンピラ一味。お陰で彼らは多額の借金を背負う ことになり、その挽回のため危ない橋を渡り始める。一方、 もっと危ない橋を渡りたがる女会計士がいて… これに若くして財をなしたロシア男や、顔役の右腕、さらに ジャンキーやロックローラの失踪事件などが絡んで物語が進 んで行く。 まあ何とも危ない連中ばかりが登場するお話で、まともな奴 は1人も居ない。でもそれがリッチー作品の面白さだし、そ のリッチーワールドが存分に展開されている作品だ。 しかも今回は、不動産バブルという日本でもお馴染みの状況 が描かれるから、これは日本人にも理解されやすそうだ。特 に行政を巻き込んだ建築許可を巡る話などは、日本でも同じ だったんだろうな…と想像させる。 共演は、2004年『リディック』などに出演のタンディ・ニュ ートン。昨年末公開の『ワールド・オブ・ライズ』にも出て いたマーク・ストロングなど。 製作は。『マトリックス』などのジョール・シルヴァ。彼が 主宰するダーク・キャッスルの作品で、この会社は元々ホラ ー映画専門として立上げられたはずだが、このような映画も 製作することになったようだ。 なお、撮影は全編がHDヴィデオで行われているが、サッカ ーの聖地ウェンブリー・スタジアムが初めて劇映画のセット として使用されたり、ロンドンの地元の人も知らないような 風景が出てくるということで、それらの背景も楽しめる。
『トワイライト−初恋−』“Twilight” 2005年に発表されたステファニー・メイヤー原作の映画化。 全米では昨年11月に公開されて、社会現象とまで言われるほ どの興行成績を上げた。 物語は、ワシントン州の小さな町に引っ越してきた少女が、 転校した高校で異様な雰囲気を持つグループと出会うことか ら始まる。彼らは全員が校医の養子となっているが、美男美 女の集まりで、他の生徒たちとは一線を画している。 一方、主人公の少女も、南から来た転校生ということで人気 者になるが、彼女自身は生物の授業で一緒になった養子グル ープの1人に心を引かれて行く。しかしその彼は彼女とのつ きあいを避けたがっているようにも見える。 それでも彼への想いを募らせる主人公は、やがて彼らの重大 な秘密に近づいて行くことになるが… 彼らがヴァンパイアであることは、今更ネタバレにはならな いと思うが、人間は襲わないと誓っている彼らと、人間を食 料としか見ていないグループとの抗争や、それでも彼女の血 を吸いたいとの想いを止められないヒーローの葛藤などが描 かれる。 ヴァンパイアたちが人間を超えた能力や不死性を持っている にも関らず、自分らを怪物と見做して主人公の女性を仲間に 引き入れられないとか、いろいろと微妙な設定はあるが、結 局のところは、物語の全体は女性向きのロマンスストーリー が展開されて行く。 その辺りは、1994年に映画化された『インタビュー・ウィズ ・ヴァンパイア』など、同様の作品はいろいろあるが、中で も本作は、特に若年の女性にターゲットを絞ったことが成功 の秘訣とも言える作品になっている。 そして映画化に当っても、脚本には『アリーmyラブ』のメリ ッサ・ローゼンバーグを起用し、監督には『サーティーンあ の頃欲しかった愛のこと』のキャサリン・ハードウィックを 招請するなど、少女向けの作品に万全の体制がとられている ものだ。 主演は、『パニック・ルーム』『イントゥ・ザ・ワイルド』 などのクリスティン・スチュワート。そしてヴァンパイアの 恋人役に、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』でセドリ ック・ディゴリーを演じたロバート・パティンソンが扮して いる。 なお、続編“New Moon”の製作もすでにスタートしており、 全米では今秋公開となるようだ。
『ビバリーヒルズ・チワワ』“Beverly Hills Chihuahua” ビヴァリーヒルズの女社長に飼われていたセレブ犬のチワワ が、とある事情でやってきたメキシコで保護者とはぐれてし まい、闘犬場に拉致されたり、メキシコ原産である自分のル ーツに触れたり…の大冒険を繰り広げるファミリー映画。 大事に飼われていたお嬢様犬が町に迷い出て…という展開で は、1955年のアニメーション“Lady and the Tramp”(わん わん物語)を髣髴とさせるが、同じディズニーが製作した実 写の本作でも、闘犬場の檻のシーンなどにはアニメ作品を思 い出させるところもある。 しかも実写化ということでは『102』も思い出すところだ が、200頭を超える実際の犬を調教によって演技させて、さ らにCGI技術も巧みに使用したこの作品は、動物(犬)主 演の映画では最高レヴェルの作品と言えるものだ。 映画には他にも、メキシコで彼女のサヴァイヴァルを援助す るジャーマンシェパードや、その仇敵のドーベルマン、ヒス パニックの飼い主と共に救出に駆けつけるチワワの雑種犬な ど多彩な犬種も登場して、犬好きには堪らない作品になって いる。 原案・脚本はテレビ『恋するマンハッタン』などのジェフ・ ブシェル。監督は、1999年の『25年目のキス』や、2002年 『スクービー・ドゥー』などのラジャ・ゴスネル。自ら犬好 きと称する監督がアニメのスクービー以来の犬の主人公を見 事に演出している。 そして、これらの実写の犬たちを演技させたのは、2006年版 の『南極物語』などを手掛けたマイク・アレキサンダー。彼 は『チャーリーとチョコレート工場』のリスの演技でも知ら れるが、今回は豊かな犬の表情を見事にフィルムに写し撮ら せた。 一方、コメディー・リリーフとして登場するネズミとイグア ナのコンビはオールCGIで作成されているが、これを手掛 けたのが『ジュラシック・パーク』などのティペット・スタ ジオ。『スター・ウォーズ』なども手掛けたフィル・ティペ ットが率いるこのスタジオでは、コミカルな動物のCGIは お手のものだ。 人間の出演者は、2006年『プレステージ』などに出演のパイ パー・プラーボ。またチワワの飼い主役で、『ハロウィン』 などのジェイミー・リー・カーティスが登場する。 さらに、犬などのヴォイス・キャストでは、ドリュー・バリ モアが主人公のセレブ犬を演じる他、アンディ・ガルシア、 ジョージ・ロペス、チーチ・マーリン、そして3大テノール の1人プラシド・ドミンゴらが登場している。 小さな愛玩犬チワワのルーツが描かれたり、映画の最後には 動物を飼うことの心構えが訴えられるなど、ペットブームの 現状もしっかり見据えた作品にもなっていた。
『アンティーク』“서양골동양과자점 앤티크” 日本では、テレビドラマ化やアニメ化もされているよしなが ふみ原作「西洋骨董洋菓子店」の韓国版映画化。 子供の頃の誘拐事件のトラウマ(?)からケーキを食べられ ない男性が何故か洋菓子店を開店し、そこにゲイのパティシ エや元ボクサーの見習い、さらに無器用なウェイターなどが 集まって、新たな誘拐事件に絡むドラマが展開する。 日本での映像化がどうなっていたかは知らないが、今回の韓 国映画では、巻頭に男同士の愛の告白シーンなどゲイが前面 に描かれていて、これがまあ若い女性には受けるのかも知れ ないが、中年過ぎの小父さんにとっては何かなあという感じ のものだ。 美形キャラが登場する作品といっても、『カフェ代官山』な どは、映画の作りが稚拙でもまあ許すのだが、どうもここま でくると、ゲイを認知しろと迫られてもいるようで、多少そ の圧迫感に辟易する感じもした。 オカマ文化は別として、日本でゲイがどのくらい受入れられ ているのか判らないが、でも多分、韓流の美形若手男優がそ ろっているということでは、日本の韓流ファンにも受けるこ とが期待される作品なのだろう。 出演は、去年1月に『俺たちの明日』という作品を紹介して いるユ・アイン(見習い役)以外はテレビドラマの俳優のよ うで、主人公の店主役には『魔王』などのチュ・ジフン、パ ティシエ役を『コーヒープリンス1号店』などのキム・ジェ ウクが演じている。 物語は、過去の誘拐事件や現在の幼児誘拐事件などが適当に 絡まり合って、それなりのものが展開されている。また、い ろいろ登場する洋菓子も美味しそうなものを見せてもらえる し、特に若い女性には格好の作品というところだろう。 因に、パティシエを演じるキムとユは、それぞれ数ヶ月の修 業の末、撮影では一切吹き替えを使わずに洋菓子作りの手際 を披露しているようだ。その他、フランス語やダンスなども レッスンとトレーニングの成果ということで、かなり本格的 に観られるものだ。 若手の俳優を使ってじっくり映画作りをする。これも映画製 作では重要なポイントだ。
『レイチェルの結婚』“Rachel Getting Married” 『羊たちの沈黙』などのジョナサン・デミ監督が、2004年の “The Manchurian Candidate”(クライシス・オブ・アメリ カ)以来の劇映画のメガホンを取った作品。 因にこの間のデミ監督は、ハリケーン・カタリーナ以後のニ ューオーリンズの姿を追ったドキュメンタリーや、ニール・ ヤング、ボブ・マーリーらのミュージシャンを題材にしたド キュメンタリーを手掛けていたようだ。 そのデミ監督の5年ぶりの作品は、長女の結婚式を2日後に 控えた一家を巡るドラマ。その次女がある施設から帰ってく るが、彼女の精神状態は穏やかでなく、また過去にもいろい ろなトラブルがあったようだ。 そして帰宅した次女は、自分が花嫁の第1介添人に選ばれな かったことから怒り出す。さらに介添人の衣装の色などにも 次々難題を吹っかけるが…その次女は、依存症患者のミーテ ィングで自分の過去に起きた悲しい出来事を語り出す。 語られる時間軸は一つだが、そこにさまざまな過去の出来事 が甦ってくる。そこには構成上でのトリッキーな要素はない が、巧みな描き方で徐々に登場人物たちの心情が解き明かさ れて行く仕組みだ。 恐らくその脚本の巧みさが、デミ監督を動かしたことにもな るのだろう。その脚本を執筆したのは、名匠シドニー・ルメ ット監督の娘のジェニー・ルメット。映画化が実現したのは 本作が初めてのようだが、演劇の先生でもあるという彼女の 力量は確かなものだ。 出演は、本作でオスカー主演賞候補にもなっているアン・ハ サウェイ。他に、ローズマリー・デウィット、デブラ・ウィ ンガー、バンドTVオン・ザ・レディオのメムバーのトゥン デ・アデビンペ、中国系の詩人のボー・シアら多彩な顔ぶれ が共演している。 なお撮影は、ソニー製映画用HDヴィデオで行われており、 エンドクレジットには久しぶりにCineAltaのロゴマークが表 示されていた。 またパーティや結婚式のシーンなどでは、出演者が持つカメ ラで撮影された映像も使用されており、その撮影者としてデ ミ監督の師匠のロジャー・コーマン監督などがゲスト出演し ていたようだ。
『ベルサイユの子』“Versailles” フランスの名優ジェラール・ドパルデューの息子で、昨年の 11月に急逝したギョームの主演による昨年のカンヌ国際映画 祭‘ある視点’部門の出品作品。 マリー・アントワネットが栄華を極めたヴェルサイユ宮殿の 周辺の森には、現在ではホームレスたちのテントや掘っ立て 小屋が数多く見られるのだそうだ。この映画では、そんな掘 っ立て小屋に住む男の許に置き去りにされた幼い少年を巡る 物語が展開される。 その少年は、最初は母親と共にパリの町を彷徨っていた。そ してヴェルサイユの収容施設に入所が決まり、2人はその施 設にやってくる。ところが母親は施設に居ることが疎ましい らしく、翌朝には施設を出てパリ行きの列車の駅を目指そう とするが… 歩き始めた2人は森で迷い、1軒の掘っ立て小屋の前にたど り着く。そこには1人の男が暮らしており、男は2人を小屋 に招き居れる。そして1夜を過ごした母親は、男を信用でき ると思ったのか少年を残して去ってしまう。 こうして始まった男との共同生活ではいろいろな出来事が起 き、やがて男は少年を守るために町に戻ることを決心する。 こんな大人たちの勝手な思惑や行動に、少年は健気に付き随 って行く。 この少年を、パリの学校に通う小学生で、映画出演は初めて というマックス・ベセット・ド・マルグレーヴが演じて、正 に天使が舞い降りたような、演技かどうかも分からないほど の見事な仕種や表情を見せてくれる。その健気さは観客には 堪らないものだ。 一方、本作でセザール賞の候補にもなっているドパルデュー は、2003年以降は右足が義足のはずだが、そんなことは感じ させない見事な演技を展開している。父親との確執もいろい ろあった俳優だが、他人の子供への父性を描いた作品で候補 というのも皮肉な話だ。 なお本作は、セザール賞では新人作品賞の候補にも選ばれて いる。 未曾有の世界不況の中、お先真っ暗な日本でもホームレスは 激増しているのだろう。しかし何かを糧に未来を切り開いて 行こうとする。そんなこの映画の主人公の姿は、どこかに共 感を呼ぶものにもなっている。
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