井口健二のOn the Production
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2008年12月28日(日) ブラッド・ブラザーズ、ダウト−あるカトリック学校で−、チェ28歳の革命/39歳別れの手紙(再)

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ブラッド・ブラザーズ』“天堂口”
『レッドクリフ』でアジア復帰を果たしたジョン・ウー監督
が、その前に製作者として関っている中国作品。1930年代の
上海を舞台に、ウーが興した香港ノワールを髣髴とさせる物
語が展開される。
2006年『女帝』などのダニエル・ウーが扮する主人公は、農
村地帯のとある寒村で貧しいけれど堅実な暮らしを続けてい
た。ところが親友の兄に上海でウェイターの仕事が決まり、
一緒に上海に出て一旗上げようと誘われる。その誘いに最初
は慎重だった主人公も、家計を助けるとの名目で上海行きを
決意する。
こうして上海に到着した主人公とその親友の兄弟だったが、
その兄には定職があるものの、弟と主人公は人力車の車夫程
度の仕事しかありつけない。しかし兄の誘いで、兄の勤める
キャバレー「天国」に出入りするようになった彼らは、徐々
に危険な裏社会へと足を踏み入れて行くことになる。
そしてある抗争事件に巻き込まれた主人公は、偶然手にした
拳銃で相手を射殺、これで殺し屋としての手腕を認められて
しまう。これにオーナーの右腕の先輩殺し屋や、オーナーの
愛人のキャバレーの歌姫などが絡んで、派手なアクションの
陰に潜む、切ない物語が展開されて行く。

他の出演は、親友の兄弟役に『王妃の紋章』のリウ・リエと
『僕の恋、彼の秘密』などのトニー・ヤン、歌姫役に『トラ
ンスポーター』などのスー・チー、先輩殺し屋役に『レッド
クリフ』に出演のチャン・チェン、さらにオーナー役に『梅
蘭芳』のスン・ホンレイ、主人公の地元の恋人役に『シュウ
シュウの季節』などのリー・シャオルー。
監督は、台湾出身の写真家で本作が長編映画デビューとなる
アレクシ・タン。写真家出身らしい映像で物語が綴られる。
なお本作は、東京では1月17日〜2月6日に六本木シネマー
トで開催される「香港電影天堂」と題されたシリーズ企画の
中心作品として上映される。
それから本作では、主人公たちが倉庫に押し入る場面でライ
オンの刻印の押された箱を探すというシーンがあり、そこで
見つけるのがウーのプロダクション=ライオンロックのロゴ
マークの付いた箱、その中身は…これにはちょっと笑えたと
ころだ。

『ダウト−あるカトリック学校で−』“Doubt”
本年度ゴールデン・グローブ賞に演技賞など5部門でノミネ
ートされている人間ドラマ。ケネディ大統領暗殺の衝撃も覚
め切らない1964年早春、ニューヨーク・ブルックリンに所在
するカトリック系の私立学校を舞台に、他人を疑うことの恐
ろしさを描き切った作品。
主演は、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞ドラマ部門に、
コメディ/ミュージカル部門『マンマ・ミーア!』とダブル
ノミネートを達成したメリル・ストリープ。
その彼女が演じるのは、カトリック系の学校に君臨する厳格
な校長。流行のボールペンも筆跡が乱れるとの理由で使用を
禁止するほどの保守的な考えの持ち主だが、修道女の身分の
彼女は、司祭の地位にいる男性教師を指導することまではで
きない。その中でも進歩的な考えを持つ男性教師は特に目に
付く存在だ。
そんなある日のこと、新任の女性教師がとある状況を目にす
る。それはその男性教師が生徒の少年に不適切な行為を行っ
ていることを疑わせるものだった。そして、その男性教師を
詰問した校長は一層疑いを深めるが…、同席した女性教師は
彼に理解を示す。
果たして男子教師の言い分は正しいのか。校長の疑いは彼を
憎むあまりの妄想なのか。それでも校長は、その男性教師を
排除するための最後の手段に出るが…。
この物語に、生徒が校内で唯一の黒人生徒であるなど、いろ
いろな状況が絡み合って先の見えないドラマが展開される。
共演は、男性教師役にフィリップ・シーモア・ホフマン、新
任の女性教師役にエイミー・アダムス、さらに生徒の母親役
ヴィオラ・デイヴィスの3人がゴールデン・グローブ賞の助
演賞にノミネートされている。
脚本と監督は、本作の元になった戯曲でトニー賞とピュリッ
ツァー賞演劇賞をダブル受賞しているジョン・パトリック・
シャンリー。マイクル・クライトン原作『コンゴ』などの脚
本家が、1990年“Joe Versus the Volcano”以来のメガホン
を取ったものだ。因に、ゴールデン・グローブ賞の脚本賞の
候補にもなっている。
規律について語る憎々しげなストリープの演技は迫力満点だ
し、さらに彼女とホフマンの2人だけの対決シーンは見応え
充分に作られている。

『チェ28歳の革命/39歳別れの手紙』(再)
11月16日付で紹介した作品だが、その後でスティーヴン・ソ
ダーバーグ監督と主演ベニチオ・デル=トロの来日記者会見
が行われ、自分も質問したのでその報告をしておきたい。
会見は、12月18日に東京神田駿河台にある明治大学の記念講
堂を使用して実施されたもので、かなり広い会場の前半分に
マスコミ、後半分には学生と一般も入るという公開形式で行
われた。
その会見の前半はマスコミ対象のものだったが、そこで僕は
2本の作品のスタイルが全く違うことについて監督に質問を
してみた。
その回答は、「監督には2つの人種がいて、その1つは物語
が何であっても自分のスタイルを貫く人、もう1つは物語に
合せてスタイルを変える人。自分はその後者で、今回の2作
品では、『28歳の革命』に関しては、チェ自身が著わした
キューバ革命を総括した本などもあり、その全体を見渡す作
品を作れた。しかし『39歳別れの手紙』では、チェ自身の
日記などを基にしたが、それは1日先の生死も判らないよう
な緊迫したものだった。だからそのような緊迫感や恐怖を描
くスタイルにした」とのことだった。
実はここで、僕は前の質問と一緒に、「この2作品が監督の
フィルモグラフィー上でどちらが先になるか」という質問も
していたのだが、それがはぐらかされそうになった。そこで
マイクを握ったまま質問を繰り返したのだが、これがちょっ
と会見の進行を妨害する形になってしまった。ただし、監督
からは「2作品は常に対比するものとして構想していたし、
色使いも一方は暖色を基調にし、他方は寒色を多くするなど
常に相互関係を考えながら作った。したがって2本は1つの
作品として考えている」との回答を貰えた。
監督の全体像を考えるときに、作品の変遷は足掛かりとなる
もので、2作品の順番というのは情報として重要なものだ。
今回は、作品の構想としては『39歳』が先にあり、その後
に『28歳』が出てきたことはプロダクションノートなどで
も明らかにされているが、その監督としての位置づけが聞き
たかったものだ。同時というのはどう解釈すれば良いのかは
判らないが、とりあえずの情報としては得られた。
なお監督は、会見の中で「芸術の表現手段として、何が一番
観る人に思いを伝えられるかを常に模索している。今は映画
が一番だと思っているが、もっと良い方法が見つかれば将来
的に映画を捨てる可能性もある」とも発言しており、そうな
ったときに、そこに至る作品の変遷は考察してみたくなりそ
うだ。
なお、マイクを放さなかったのは、後ろに一般の観客もいる
場所では、マスコミの意地を見せたかったりもしたもので、
その辺ご了承くださいというところだ。
        *         *
ということで1年が過ぎたが、今年1年はフリーターだった
こともあって、映画は昨年の311本を大幅に越え、試写会+
映画祭のマスコミ上映+サンプルDVDを合せて丁度400本
となった。映画祭の報告はまだ書けていないが、その他の作
品の紹介はかなりの本数を掲載することができた。来年は再
就職の計画もあり、今年ほどにはできないかも知れないが、
とにかく来年も映画は見続けていきたいと思っているので、
よろしくお願いします。
では、最後に私的なベスト10を挙げておきます。対象はこの
欄で紹介した作品で、期間は2008年に東京で一般公開された
ものとし、SF/ファンタシー映画と一般映画に分けてそれ
ぞれで選んであります。なお、選択に洋邦画の区別はしませ
んでしたが、一般映画は洋画のみとなりました。それから、
一般映画とSF/ファンタシー映画で作品が重なっていない
のは、出来るだけ多くの映画を挙げたかったためで、それぞ
れのジャンルで優劣がある訳ではありません。

一般映画           SF/ファンタシー映画
1.潜水服は蝶の夢を見る   1.GHOST IN THE SELL 2.0
2.幻影師アイゼンハイム   2.ダークナイト
3.スウィーニー・トッド   3.アイアンマン
4.イントゥ・ザ・ワイルド  4.ゲットスマート
5.アクロス・ザ・ユニバース 5.真木栗の穴
6.コレラの時代の愛     6.永遠の魂
7.ゼア・ウィル・ビー…   7.ちーちゃんは悠久の…
8.つぐない         8.ダイアリ・オブ・ザ…
9.愛しき隣人        9.センター・オブ・ジ…
10.レス・ポール伝説     10.スピード・レーサー

では良い年をお迎えください。


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井口健二