2008年08月24日(日) |
ウォーリー、ハンサム★スーツ、弾突、M、ウォーダンス、ファム・ファタール、私の恋 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ウォーリー』“Wall-E” ディズニー=ピクサーの最新CGアニメーション。両社が合 併してからの第1号とされる作品。 環境汚染が進み、人類が地球を捨てて宇宙に旅立ったとき、 地球には、地表の汚染を除去して人類が戻れるようにするた めのロボットWaste Allocation Load Lifter,Earth class= WALL-Eが残された。 それは最初、膨大な台数で共同作業を行っていたが、やがて 人類の調査隊が来ることもなくなり、徐々にその機能を停止 していった。そして映画の始まりでは、地球に残された最後 の1台だけが与えられた任務を遂行し続けていた。 その最後の1台は、嵐の来襲時に避難する小屋の中に、機能 を停止した仲間から回収したスペア部品と、何故か自分の気 に入った宝物を集め。作業の出来ない夜間には『ハロー・ド ーリー』のヴィデオを鑑賞しながら暮らしていた。 やがてそのロボットは、自らをウォーリーと呼び、ゴキブリ と友情を分かち合う。そこには、感情に似たものが芽生え、 さらにヴィデオの出演者たちが手を繋ぐシーンに、いつの日 か自分も誰かと手を繋ぎたいと思うようになっていく。 そんなある日、ロボットがいつものように作業を続けている と、突然上空からロケットが飛来し、純白に輝くロボットを 放出。その姿を観たウォーリーは、それこそが自分の手を繋 ぐ相手と確信するが… 地表にはウォーリーが処理して積み上げた瓦礫が蟻塚のよう にそびえ、その中をロボットと地上で唯一の動く生物である ゴキブリが行き来している。そんな大らかな世界から、一転 ウォーリーの思いもかけぬ冒険が繰り広げられる。 その物語の展開は、僕の予想とは多少違ったが、ピクサーの 今までの作品から観ればこれかなという感じのもの。つまり これは安心して観ていられるというものだ。しかもそこから 結末への展開にも、心暖まるものが感じられた。 そしてエンディングクレジットに添えられた映像は、その解 釈がいろいろに出来るものだ。その辺にもうまさを感じた。 なお本作の劇場公開には、『マジシャン・プレスト』という スラップスティックの短編アニメーションが併映される。
『ハンサム★スーツ』 それを着ると不細工な男がハンサムになるという魔法のスー ツを巡って、塚地武雄と谷原章介が2人1役を演じるファン タシー・コメディ。 男であれ女であれ、ハンサム/別嬪であれば人生が変わると 思っている人が、世間にどのくらい居るのかは知らないが、 そういう人たちにとってこの映画は、正に夢のような物語と 言えるものだろう。 塚地扮する不細工だが人の良い男が、そのスーツを着ること によって谷原扮するハンサムに変身し、男性モデルにスカウ トされ、トップモデルの女性と一時を共にする。確かに、こ んなことになれば男冥利という生活が実現するものだ。 でも本当の幸せは何処にある…?当然、本作のテーマはそこ に行くものだが、ただまあ、人生を60年近くも生きてきた自 分としては、かなり微妙に感じるテーマではある。その微妙 さが、他の人にどう採られるかが判らない部分だ。 脚本は、「ブスの瞳に恋してる」で話題になった構成作家の 鈴木おさむ。最近、この手の構成作家の映画を観る機会があ るが、得手してつまらないギャグの羅列に辟易するものだ。 しかし本作は、意外と言っては失礼だが、予想以上にしっか りした脚本になっていた。 もちろんそこにはつまらないギャグの羅列もあるのだが、そ れが塚地演じるキャラクターに合っていて、一種のアンチテ ーゼのようになっているのもうまいところだ。しかもそれを 谷原のシーンに振っているのもうまいし、それを谷原もよく 演じていた。 実際、谷原というタレントはテレビの司会程度でしか知らな かったが、案外まじめにコメディと取り組んでいるのには好 感が持てた。因に映画は初主演だそうだ。 共演は、女優陣が北川景子、佐田真由美、大島美幸(脚本家 夫人)、本上まなみ、佐々木希。男優陣は池内博之、山本裕 典、ブラザートム、温水洋一、中条きよし、伊武雅刀。それ ぞれ臭い部分もあるが、この物語には合っていたようだ。 監督はCMディレクター出身の英勉。長編映画は初作品のよ うだが、全体的なバランスも良い感じだし、こちらもこの手 の人材としてはまともで良い感じだった。 テーマ的にはどうかなあと思う作品ではあるが、まじめに作 っている感じは良かったし、細かいところではいろいろ引っ 掛かる部分もありはするが、映画の全体としては悪くない作 品だった。
『弾突DANTOTSU』“Pistol Whipped” スティーン・セガール主演による格闘技アクション映画。 セガールアクションでは、1992年『沈黙の戦艦』以降、正式 の続編は1本だけなのに『沈黙』シリーズと称された作品が 多数あるが、2001年『DENGEKI電撃』頃からローマ字 +漢字2文字の日本公開題名もあったものだ。 また今回は、1988年『刑事ニコ』で主演デビューから20周年 の作品とも称されており、「もう『沈黙』しないで」という 娘・藤谷文子の言葉も添えられている。これで『沈黙』が終 わるかどうかは知らないが。 物語は、元は殺人許可証を持つ政府機関の暗殺者で、その後 は地元の刑事になったものの酒とギャンブルに身を持ち崩し た主人公が、その借金(123万ドル)を謎の男に肩代わりさ れ、それと引き換えに暗殺を指令されるというもの。 その標的は、地元の顔役など裏社会にいる人間たちで、法律 では裁けない悪を倒すある種の『仕事人』のようなものだっ たが… 過去のセガール作品では、主人公は常に清廉潔白、敵も間違 いなしの悪人で、ただバッタバッタと打ち倒していたが、今 回の主人公はアル中でギャンブル狂など、ちょっと今までと は違う雰囲気も出している。 それに、指令される暗殺も、必ずしも納得は出来ないものだ し、その他のプレッシャーも掛けられる。特に実の娘との関 りを含めての謎の男が繰り出す心理的な部分は、それなりに うまく描かれていたような感じもするところだ。 とは言え、アクション映画であることには変わりなく、一旦 ことが始まればいつも通りのセガールが出現する。それは、 格闘技と銃撃戦のオンパレードで、一時期スタントマンも使 ったようなド派手なアクションではないが、それなりに堅実 に作られたものだ。 共演は、ランス・ヘンリクセン、レネ・ゴールズベリー、ポ ール・カルデロン、それにブラチャード・ライアン。スター 級ではないが脇役としてはそこそこの顔ぶれが集められてい る。 監督はオランダ出身のロエル・レーヌ、脚本は、『RONI N』などのジェイ・ディー・ザイク。典型的なB級アクショ ン映画で、それが目当ての観客には、これで充分と言えるだ ろう。
『M』“엠” 9月下旬開催の「韓流シネマ・フェスティバル2008」で 上映される作品の1本。新作の執筆に行き詰まった作家が、 ふと訪れた路地裏のバーで不思議な体験をする。 その前には、その作家をストーカーする若い女性がいたり、 その女性や主人公が鏡の中の存在であることを暗示したり、 街角の風景が歪んだり、油絵のような感じになったりなどな ど、いろいろ摩訶不思議な映像も登場する。 バーの名前がLupinであったり、全体的にサスペンス調で展 開されるが、実は本当の物語はそうではなかったりもする。 何にしろ目眩ませのような展開続出の作品で、物語も作家が 書き掛けの新作なのか、あるいはただの妄想なのかも判然と はしない。 ただしその物語の全体には、何処か懐かしさや、青春の想い 出のようなものも忍び込んできて、そこには心地よさも感じ られる。そして結末では、一応の纏まりは付けられるが、そ れがその通り終わっているかどうかも明白ではない。 つまり、物語の解釈は観客に委ねられる部分が多く、このよ うな作品を好む人には、かなりの高評価も得られそうな作品 だ。 監督は、2006年『デュエリスト』などのイ・ミョンセ。主演 は『オオカミの誘惑』などのカン・ドンウォン。他に、『百 万長者の初恋』のイ・ヨニ、『火山高』のコン・ヒョジンら が共演している。 主人公の住居や、路地裏の風景、さらにバーLupin、編集者 と打ち合わせをする料亭などのヴィジュアルもかなり鮮烈に 描かれており、そういった部分の面白さでも満足できる作品 にもなっている。 因に、題名の『M』は主人公の名前のミヌによるものだが、 当然その他の意味も持つものだ。また、物語の間に挿入され るナレーションは、完成された映像を観て詩人のチェ・ホギ が書いたものだそうで、その手法も面白く感じられた。 それから、主人公が作家ということで、大量のタバコを吸う シーンが登場するが、主演のカンは禁煙しており、これらの シーンで使われているのは全てヨモギの葉。本来のタバコよ り煙の量は多いそうだが、それはかえって雰囲気を出してい たようだ。
『ウォーダンス/響け僕らの鼓動』“War Dance” 内戦の続くウガンダで、年に1回開催される小学生による音 楽祭。そこに、現在も紛争地域である北部難民キャンプから 初めて参加することになった小学生たちを記録したドキュメ ンタリー作品。 300kmを2日間かけて移動する生徒たちの乗ったトラックに は、常に銃を構えて警備する政府軍の兵士も同乗している。 そこに乗っている子供たちは、片親や両親を失った子たちも 多く、生まれてから銃声を聞かなかった日はないとも言う。 取材はその大会の2週間前、子供たちに最後の指導をするた め、専門の2人の音楽教師が訪れるところから始まる。もち ろんこの2人の教師にとっても命懸けの仕事だ。しかし、彼 らは子供たちに子供らしさを取り戻させるためにその仕事を 買って出たのだ。 そして子供たちは、伝統の民俗舞踊や民俗音楽、西洋風の賛 美歌のコーラスなど8部門の課題に挑んで行くことになる。 その子供たちの中には、「木琴ならウガンダ1だ。その実力 を見せてやる」と豪語する子もいるが、その実力のほどは未 知数だ。 一方、両親を殺された女子は預けられている親戚の理解を得 られなかったり、父親の殺された場所を初めて訪ねて出場を 報告する子供の姿なども描かれる。彼女らの家はキャンプか らさほど離れていない場所だが、今は反政府軍の支配地域で 居住は許されない。 つまり彼らは自国内で難民生活を送っているもので、それは 本来なら5家族ぐらいが住む土地に5万人以上が押し込めら れて暮らしているのだという。その伝統的な住居がぎっしり と並ぶ風景は、昔に観た大らかなサバンナの風景からは想像 もつかなかったものだ。 そんな中でも彼らはたくましく生きて行こうとしている。そ してそのためにも、音楽祭でのトロフィーは絶対に必要なも のになって行く。しかし、初めて観る平和な首都の姿や、高 層ビルや車の渋滞、そんなカルチャーショックも彼らには襲 いかかる。 そして競争相手の生徒たちからは、「人殺し」と罵られたり もしたようだ。 映画はあくまでも前向きに子供たちの未来を向いた姿を描こ うとしている。しかし、そこに垣間見られる現実の恐ろしさ も、しっかりと捉えている作品だ。こんな現実が、世界中に はまだたくさん残っているのだ。
『ファム・ファタール』“무방비도시” 9月下旬開催の「韓流シネマ・フェスティバル2008」で 上映される作品の1本。大阪で発生した韓国スリ団による傷 害事件を題材に、韓国広域捜査隊の刑事とスリ団の女首領と の暗闘を描いた作品。 主人公は、広域捜査隊の特捜班の刑事。彼の班はある犯罪者 を追っていたが、新たに班長が着任し、日本の警察からの要 請によるスリ団の捜査に変更されることになる。しかし主人 公には、その捜査をすることに苦い思い出があった。 一方、スリ団の女首領は大阪での事件の後に帰国して、ソウ ルで新たな事業を始めようとしていたが、そこは彼女と確執 のある別の組織の縄張りだった。そして、その縄張りを取り 仕切るボスはなかなか彼女にその場所を与えようとしない。 こうして、警察と2つの組織の暗闘が始めるが… 物語が進むに従って、刑事の立場が明らかにされて行き、彼 の苦渋に満ちた人生が描かれて行く。そして、それに対する 女首領の背景にもドラマが隠されている。 そんな物語が、韓国版『白い巨搭』などのキム・ミョンミン と、2002年『酔画仙』などのソン・イェジンの共演で描かれ る。特に、清純派女優と言われるソンの妖艶なファム・ファ タールぶりが見事だった。 監督は、『リベラ・メ』などの助監を務め、本作がデビュー 作のイ・サンギ。 凶悪な韓国スリ団の手口が克明に描かれる。その手口は、映 画や小説で芸術とまで称される日本のスリとは異なり、被害 者を傷つけることも厭わない凶暴なもので、その恐ろしさも 目の当りにさせられる。 そんなスリの様子は、イ監督が6ヶ月間、捜査隊に同行して 取材したものだということだ。この韓国スリ団の犯行は報道 などでも聞いてはいたが、ここまで恐ろしいものとは思わな かった。 しかも大阪の事件の描写では、女首領が日本人の群集に向か って言い放つ台詞も見事に決まってその恐ろしさを描き切る が、それを曝け出す監督の見識にも感心した。その他、警察 とスリ団の闘いも、日本映画にはないリアルさで見事に描か れていた。
『私の恋』“내 사랑” 9月下旬開催の「韓流シネマ・フェスティバル2008」で 上映される作品の1本。『青春漫画』で有名なイ・ハン監督 による青春群像劇。いろいろな状況の男女の恋愛模様がグラ ンドホテル形式で描かれる。 大学に復学した先輩に片思いの後輩女子大生、ちょっと奇矯 な女性と彼女を愛してしまった男性、妻に先立たれたコピー ライターと広告代理店の女性チームリーダー、久し振りに帰 国して6年前の約束の電話を待つ男性… この内の一つは回想であったり、細かな構成が巧みに織り込 まれて、全体として素敵な物語が展開される。同じ形式の韓 国映画では2006年8月に『サッド・ムービー』を紹介してい るが、この形式には正に映画を感じさせてくれるものだ。 しかも今回は「サッド」な物語ばかりではなく、中には微笑 ましいものもあって、心地よく観終えることができた。それ に物語が全体的に前向きで、未来への展望を感じさせるエン ディングにはほっとするところもあった。 しかも、全て物語が最後に一気にクライマックスを迎える構 成は、映画的に見事にやられたという感じもさせてくれた。 この辺は、脚本監督ともに見事なものだ。 出演は、1970年生まれのカム・ウソンから、1988年生まれの イ・ヨニまで幅広い年齢層に股がっており、その辺もそれぞ れの世代の登場人物に感情移入ができて、自分の思い出など にも重ねて楽しむことができた。 特に、『M』にも出演していたイ・ヨニの演じる清純さとコ ミカルさを兼ね備えたヒロインは、両作品を併せると際立つ 面白さだった。他に、チェ・ガンヒ、オム・テウン、チョン ・イル、リュ・スンニョン、イム・ジョンウンらが出演。 なお、物語の一つで8月20日がキーの日付となっているが、 実は先に紹介した『M』でも8月20日がキーになっていた。 韓国では何か特に意味のある日付なのだろうか。因に、本作 では皆既日食もキーになっているが、2001年以降のソウルで はないようだ。 それから本作では、車窓の風景や学生街、オリンピック公園 など、ソウルのロケーションも楽しめるものになっている。
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