2008年08月10日(日) |
キズモモ、東京残酷警察、シルク、ワイルド・バレット、女工哀歌、春琴抄、ゾンビ・ストリッパーズ、文七元結 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『キズモモ。』 ユナイテッド・シネマ主催シネマプロットコンペティション 第2回に応募された作品からの映画化。 主演は、今年2月に紹介した『カフェ代官山』に出演の馬場 徹と、舞台『テニスの王子様』に出演の古川雄大。『カフェ …』の時に書いたのと同様、若い女性向けのイケ面映画とい う感じの作品だ。 実はマスコミ試写に行けなくて、サイエンスホールで行われ た舞台挨拶付き完成披露試写会に行ったのだが、これが唯の 舞台挨拶ではないトークショウ、主題歌の生歌付きのしっか りしたもので、実は入場料3800円と有料だったらしい。 それで、場内は99%が若い女性という感じだったが、彼女ら がほとんど満足げに帰っていったのだから、『カフェ…』の 時に書いた疑問は解消されたというところだろう。しかも、 帰り道では9月の封切り初日にも行くという声が数多く聞か れたものだ。 映画のお話は、過去に痛みを背負っているらしい若者の再生 を描いたもので、そこには自転車旅行の旅先での出来事、特 に痛みの原因になった幼馴染みにそっくりな若者が触媒のよ うに登場する。 題名は、片仮名では判りにくいが、『傷桃』ということで、 桃であったり傷であったりが、青春というブランドの中でい ろいろなことを象徴しているものだ。そうした物語が、人気 イケ面2人の初共演で描かれるのだから、これはファンには 堪らないものだろう。 さらに物語の舞台は、自然に包まれた山間の町(秩父でロケ されたらしい)。そこに年配の時計職人とその弟子といった キャラクター設定は、まさに王道という感じで、これを沃目 もなくやっていられるのも、この分野の利点と言えそうだ。 共演は、河合龍之介、水木薫、小林且弥、甲本雅裕、それに 大ベテランの織本順吉。監督は『さくらん』などの助監督を 務めた山本透が担当した。 まあ、あまり男が1人で観る映画とは思わないけれど、こう いう世界もあるということは理解できる。男性にはそんなこ との勉強にはなる作品だ。 それと当日の舞台挨拶では、女性司会者の仕切りの良さに感 心した。若い女性ばかりの観客相手はかなり難しいものと思 われるが、当意即妙の笑いの取り方、間の入れ方で、それは 見事なものだった。舞台では名告らなかったと思うが、どう いう人なのか気になった。
『東京残酷警察』 TOKYO SHOCKと題された海外資本によって製作さ れるスプラッターアクションシリーズの第2弾。警察機構の 民営化というかなり微妙な問題を背景にした近未来(?)、 あるいはパラレルワールド物といった感じの作品。 エンジニアと呼ばれる謎の殺戮者が現れる。それは身体が切 断されると、その切断面からさらに凶暴な武器を備えた肉体 が生えてくるという特殊な人体改造を施された犯罪者たち。 その事態に政府は治外法権法を発令して警察を民営化、取り 締まりの強化を目論む。 そして主人公は、警官だった父親を殺され、警察署長の許で 育てられた女性刑事。正義感も強く、優れた身体能力もあっ てエースとなって行くが、母親の自傷癖も引き継いでいる… という設定で、とにかく物凄いスプラッターが展開される。 脚本(共同)と監督は、山口雄大監督の『MEATBALL MACHINE』などの特殊効果を務めた西村喜廣。彼は、 本作の特技監督、残酷効果、クリーチャーデザイン、編集も 手掛けるワンマン映画だ。 この西村監督は、自ら残酷効果請負人とも名告っているそう で、その面目躍如という感じの作品でもある。とにかく大量 の血糊の中、マシンガンやチェーンソーが振り回され、身体 が切断されては吹き飛び、血飛沫が噴出するという作品。 実際この種の映像は、日本の大手の映画会社では描写が規制 されて、なかなか実現できないそうだが、それを本作では海 外資本の導入によって、規制なしの過激な描写を可能にして いる…というもののようだ。 ということで、好きな人には堪らない作品となりそうだが、 取り敢えずは思い切りやらせてもらえた監督には嬉しかった 作品のようだ。なお初回の試写会には監督も立ち会っていた が、終った後も満足そうだった。 それで観客も、その勢いに乗って観ていればいいという感じ の作品で、七面倒くさいことは考えずに、ニヤニヤケラケラ と笑っていれば良い。それができない人は、最初からこの作 品の観客対象ではなかったというものだ。 ただし、間に挟まるフェイクのCMなどには、かなり痛烈な 社会批判のようなものも含まれていて、それはそれでこの映 画の気に入ったところでもあった。
『シルク』“詭絲” 8月23日から開催される台湾シネマ・コレクションで上映さ れる内の1本。2006年台湾映画興収第1位を記録した作品。 『レッド・クリフ』にも出演のチャン・チェンと、日本から 江口洋介の共演で、死後世界に取り憑かれた科学者を描く。 物語は、白人のカメラマンが台湾のアパートで幽霊を撮影す るところから始まる。その撮影成功の知らせに、直ちにその 周囲には立入禁止の処置が施され、江口扮する科学者を中心 としたチームが乗り込んでくる。 一方、チャンが扮するのは警察の特捜班の刑事だが、彼には ちょっと特殊な能力があるらしく、捕獲した幽霊の調査のた めに現場に呼び寄せられる。そして、読唇術なども使って幽 霊の正体を調査して行くことになるが… 物語の背景には、人体の発する精神エネルギーを活用して、 反重力などを開発しようとする日本政府のプロジェクトがあ り、日本政府の圧力の下で事件が動かされるという特殊な状 況も垣間見させる。 実は作品は、台湾製作のホラー大作として話題になったもの で、一昨年の東京国際映画祭でも上映されたがスケジュール の都合で観られなかった。おそらく日本公開もすぐに行われ るだろうと思っていたが、今になってしまったものだ。 日本の公開が遅れた理由は、ホラーブームが下火になったこ となどもあると思われるが、本作はチャンによるアクション の要素もあって、映画全体は観客を飽きさせない面白い作品 になっている。 それに、英語、中国語、日本語などの台詞が次々に発せられ るのも面白いところで、しかも相互に理解しているという設 定は、それなりに納得もできたものだ。 ただ、物語の展開の中では反重力などのSF的な要素が充分 に消化し切れておらず、その辺がSFファンとしては不満足 なところもあって、ホラーの部分とのバランスが上手く取れ ていない感じはした。 とは言え、劇中には結構見事なVFXなどもあって充分に楽 しめる作品ではあった。
『ワイルド・バレット』“Running Scared” 『ワイルド・スピード』などのポール・ウォーカー主演によ るアクション映画。 主人公は、犯罪に使われた銃器の始末をする係のチンピラだ ったが、ある日、警官殺しに使われ始末を依頼された小型拳 銃が隣家の子供に持ち出され、虐待する親に向けて発砲され てしまう。しかも、その子供は拳銃を持ったまま行方をくら ませてしまう。 この事態に、拳銃の取り戻しと証拠の隠滅、さらに息子の親 友でもあるその子の発見救出のために主人公は行動を開始す るが…。これに、警察や地元のヤクザや、地元に進出を図る ロシアマフィア、その他の有象無象が関って、事件はあらぬ 方向に進展する。 ヤクザな主人公が子供を救うために活躍するというお話はい ろいろあると思うが、本作の物語は、その発端は特殊であっ ても比較的納得できるもので、しかも、現在のアメリカの抱 えるいろいろな問題が見事に描かれた作品でもある。 それはマフィアだけでなく、麻薬、ポン引きから幼児ポルノ まで、正に現在アメリカの病巣が凝縮されているという感じ もして、それは物凄い迫力で描かれていた。そのため、上映 時間は2時間2分と多少長目にはなっているが、それだけの ものは描かれている作品だ。 脚本・監督は、南アフリカ出身のウェイン・クライマー。ハ リウッドからは距離をおいて活動している監督だそうで、前 作では出演者がオスカー候補になり注目されたが、それでも 本作の製作では、『モンスター』などのメディア8を製作会 社に選んでいる。 因に本作は、ニュージャージーが舞台の物語なのに、主要な シーンをチェコのプラハで撮影したとのこと。それはもちろ ん製作費の削減の目的でもあるが、ハリウッドに背を向けて いるという感じもするものだ。 共演は、2006年8月に紹介した『アダム』などのキャメロン ・ブライト。強烈な印象を残す子役だが、2006年米国公開の 本作の後では、『ウルトラヴァイオレット』『Xメン3』な どにも重要な役で出演している。 他には、『ディパーテッド』のヴェラ・ファーミガ、『ブロ ンクス物語』のチャズ・パルミンテリらが登場。特に、ファ ミーガの女っぷりが良かった。 前半にはちょっと首を傾げるシーンも登場するが、最後には それがピタリと納まる。そんな脚本も良い感じだった。
『女工哀歌』“China Blue” 中華人民共和国におけるジーンズ衣料の製造現場を取材した ドキュメンタリー作品。 スポーツウェアの製造に関るアジア搾取の問題は、2000年の 映画『ズーランダー』の背景にもなっていたから、問題が発 覚したのはその前ということになるが、当時はマレーシアで 行われていた搾取は、今や中国に舞台を移しているようだ。 しかも、スポーツウェアの時はブランドが発注主だったのに 対して、今回の発注元はウォルマート。そのセール品の製造 ということでは、もはや買い叩きは当然で、その原価はどん どん低下して行くことになる。 実際、作品の中でも、ジャケットとジーパンのセットの価格 交渉のシーンがあったが、その妥結額は$4.10、ジーパンだ けだと1$台だという。それを製造するのだから、そこから 工員に払われる賃金は押して知るべし。 さらに、納入期日に間に合わせるための徹夜の残業などは日 常だが、それに残業手当が出る訳でもなく、しかもその微々 たる賃金は3カ月以上の遅配となっている。 そんな状況でも、独りっ子政策の下で次女として生まれた少 女たちには、教育を受ける機会もなく、16歳の就労年齢に達 すれば、農村から都会に来てこのような工場で働くのが、唯 一の生きる術となっている。映画の中には、14歳で偽造の身 分証明書を持ち、すでに働いて2年という少女も紹介されて いた。 そんな過酷な条件の中でも、ベテランになればそれなりの給 料も貰え、中には別の工場で働く少年と共に将来を誓いあっ ている少女もいる。彼女らの夢は、いつか自分たちの工場を 持つことだというが… 取材対象の工場を経営しているのは、元は地元の警察署長だ ったという男性。つまりそういうところに利権が集まり、そ ういう連中だけが超え太っているという図式だ。ボールに一 緒盛りの食事(代金は給料天引き)を食べている少女たちの 姿に並行して、豪華な会食をする経営者の映像が写し出され る。もちろんそれはより良い契約を得るためのものだが… 搾取というのは、何時の世にも在ることとは思うが、共産主 義を唱える国家の実情がこれでは余りに情けない。オリムピ ックで浮かれている国のお粗末な実態が描き出される。
『春琴抄』 谷崎潤一郎原作による名作の映画化。過去には著名なものだ けで5回の映画化があるようだが、今回は1976年山口百恵、 三浦友和の共演作以来、32年ぶりとなる作品。 美貌だが盲目で我儘な師匠と、それに仕える奉公人の男。こ の2人の崇高の愛を描いた物語を、今回は『スキトモ』など の斎藤工と、9月公開『ロックン・ロール・ダイエット』な どの長澤奈央の共演で映画化した。 物語については、改めて書くこともないだろう。谷崎という ことで耽美的な側面が取り上げられることの多い原作のよう だが、映画化は飽く迄も崇高な愛を捧げ通す男の物語として 描かれている。 監督はピンク映画出身で2006年『青いうた』などの金田敬。 脚本は『死神の精度』などの小林弘利。どちらもそつなくと いうか、きっちりと仕上げている感じの作品だ。特に、明治 の時代の雰囲気などはそれなりに出ていたように感じた。 主演の2人については、僕がここで紹介した作品ということ で上記の作品を挙げたが、特に斎藤に関してはNHKの連続 ドラマの主演などでも人気があるようだ。なお、この原作の 映画化は通常女優の主演で紹介されるが、本作は斎藤の主演 となっている。 という人気者の主演作だが、その公開はモーニング&レイト ショウのみとのことで、何か勿体無い感じもする。しかし、 元々興行よりもDVD売りが目的の作品ということなのか、 これで商売になるというのもご立派なことだ。 因に、本作DVD売りは先のことになるはずだが、すでに斎 藤工をフィーチャーしたメイキングDVDは発売されている ようだ。また、完成披露試写会はサイエンスホールで有料で 行われるようで、そういう体制が整ってきているということ なのだろう。 共演は、『仮面ライダー龍騎』などの松田悟志。さらに語り 手でもある下女役に扮した沢木ルカのちょっと人を食ったよ うな演技は面白かった。
『ゾンビ・ストリッパーズ』“Zombie Strippers!” 現在、アメリカのポルノ業界で最高人気女優の1人と言われ るジェナ・ジェンスン主演によるセクシーゾンビ映画。 死者を蘇らせて、死をも恐れぬ兵士を生み出そうというアメ リカ軍の秘密研究が破綻し、ゾンビが市中に溢れ出す。いつ もお決まりのような発端だが、本作ではそれが違法な地下ク ラブのストリッパーに感染して… 映画の巻頭では、ブッシュ大統領が4選を決め、アメリカが 世界中に戦争を仕掛けている状況が説明される。これが結構 ありそうで笑えるが、あまり笑ってばかりいられないような 感じにもさせてくれるものだ。 共演は、地下クラブのオーナー役としてロバート・イングラ ンド。『エルム街の悪夢』のフレディ・クルーガー役で有名 なホラー俳優が、何故このような作品に出ているのか不明だ が、裸の女優たちを眺めてにやにや演じている姿は、正に役 得という感じがした。 脚本と監督はジェイ・リー。元々が低予算のホラー映画を量 産してきた人のようだが、その当時から「どんな作品のコン セプトでも、ゾンビ・ストリッパーよりはまし」と思ってい たそうだ。それがずばりその作品を作ったのだ。 ただし、脚本の下敷きにはウジェーヌ・イヨネスコの『犀』 があるとのこと。この作品はナチスの台頭を許した民衆の無 関心を描いたとされているものだが、映画の冒頭に置かれた 映像には、それを考えさせるものも含まれている。 そして、ジェンスンもその政治思想に共感して出演を快諾し たということだが、それはそれとして、本作は彼女の見事な ポールダンスなど、ストリップティーズの演技も楽しめる作 品になっている。 因に物語の設定では、ゾンビになるとダンスが上手くなり、 より多くの男たちが魅惑される…となっていて、それで率先 してゾンビになろうとするダンサーも現れることになる。そ んなところも政治的な意図で読み取れる作品ということだ。 もちろんコメディ仕立ての作品だが、意外と深いものも持っ ている。アメリカ映画界も、そろそろそういう目が強くなっ てきているようだ。
『人情噺/文七元結』 シネマ歌舞伎と呼ばれる映像作品の第6作。今回は、三遊亭 円朝の原作口演による落語の人情噺を歌舞伎にし、その舞台 面をハイヴィジョン撮影したもので、その撮影の際の監督を 山田洋次が務めている。 江戸時代の庶民の話。左官の長兵衛は仕事の腕は上等だが、 大の賭博好きで酒好き。お陰で借金も積もり積もって後妻の 女房との間に喧嘩も絶えない。そんな大晦日も近いある宵、 娘のお久の姿が見えなくなる。 ところが、娘を捜しに行こうと慌てているところに訪ねてき たのが吉原の茶屋の男。男はお久が父親の仕事で知っていた 茶屋を訪ね、家の借金を払うために自分の身体を売りたいと 言い出したのだという。 駆け付けた父親に茶屋の女将は、金50両を貸すから今ある借 金を払い。しっかり1年間を働いて貸した金を返すように説 教する。その間は、お久に客は取らせないという条件だ。そ こで長兵衛は心を入れ替えると誓うのだが… その帰り道、大川端で若い男が身を投げようとしているのを 発見した長兵衛は、その男が預かった店の金50両をスリに盗 られたと聞かされ、人の命には替えられないと、借りたばか りの50両をその男に与えてしまう。 元の落語は、僕は故三遊亭円生の高座で聞いているが、「黄 金餅」「紺屋高尾」と並ぶ江戸商家の縁起話の一つで、中で もこの話は、笑いの中にほろりとさせられる人情が上手く織 り込まれて、僕はいつもそれに行かされてしまった方だ。 それに今回は、演じている歌舞伎役者たちの口調が円生師匠 にそっくりで、それも心地良かった。そんな訳で、話が佳境 に入ってからはスクリーンがぼやけることも多くなったもの で、知った話を別の形態で観るのも良いと認識できた。 舞台が、歌舞伎としてどのように評価されているかは知らな いが、落語好きの自分としては、充分に満足できる作品だっ た。 ということで、作品は気に入ったのだが、実は今回の撮影、 上映に関してはいくつか引っ掛かるところがあった。 まずは上映だが、僕が見た試写会では多分2.35:1のスクリ ーンに、16:9の映写が行われていた。つまり、スクリーン の両側に余白があり、マスクがされていなかったもので、こ れは場末のポルノ館ではあるまいし、プロの上映としてはか なりお粗末なものだ。 それに撮影がパンフォーカスでないのも気になった。特に座 った全身が写る程度のサイズの時に後ろの役者の表情がぼや けている。これは舞台面の撮影であることを考えると、観客 は全ての役者に目が行くもので、それがぼけていてシネマ歌 舞伎はおかしなものだ。 今回の作品は題材が好きな話なので目を瞑ることにするが、 今後も続く計画のシリーズでは、特にプロにはプロとしての 仕事を期待したいものだ。
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