2008年05月04日(日) |
ランボー最後の戦場、グーグーだって猫である、アクロス・ザ・ユニバース、スカイ・クロラ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ランボー最後の戦場』“Rambo” 1982年から88年に3作品が製作された『ランボー』シリーズ の20年ぶりの第4作。なお本シリーズでは初めてシルヴェス ター・スタローンが監督も務めている。 第1作ではアメリカ国内で帰還兵の怒りを描き、第2作はヴ ェトナムを舞台に未帰還兵の奪還を行う。そして第3作では アフガニスタンでソ連の軍団と戦ったジョン・ランボー。そ のランボーが第4作で登場するのはビルマ国境のジャングル 地帯。 ここでランボーは、小さなボートを操り、蛇を採集するなど して静かに暮らしていた。ところがそこに、ビルマのカレン 族に医薬品を届けようとする宗教家の1団が現れる。その熱 意にほだされたランボーは、彼らを危険な川の上流に送って 行くことにするが… それから何日かたったある日、1人の男が現れ、先に送られ たグループが帰還しないため傭兵を雇ってその奪還に向かう から、彼らを送った先まで連れて行ってくれと頼まれる。そ してその依頼を受けたランボーの内には、フツフツと戦士の 血が滾り始めていた。 極めて微妙な地域を舞台にした作品だが、映画自体は戦争ア クションとして普通に楽しめる娯楽作品になっている。ただ その背景は多少なりと描かれてはいるもので、注意して観て いればミャンマーの現状も垣間見えてくるものだ。 それは、今年1月に紹介した『ビルマ、パゴダの影で』では 描き切れなかった部分が、ここに再現されているとも言える 作品になっている。とは言っても、娯楽作品の範囲であるこ とは変わりないものだが、そんな制約の中では良くやってい る方だろう。 正に秒殺と言えるランボーのテクニックなどは健在で楽しめ るし、また今回は撮影にタイ映画のスタッフが加わったよう で、その物量を掛けた戦闘シーンにも見応えがあった。 共演は、『バイオハザード3』や『アナコンダ2』にも出て いたマシュー・マースデン、次回“Saw V”に出演している ジュリー・ベンツなど。 因に、本作の日本公開ではR−15指定を受けることになって いる。これは地雷爆発のシーンなどがリアルに描かれている ためで、それは修正することもできたが、これらのシーンは 映画がミャンマーの実情を描くために必要なものだとして、 あえて修正せずにそのまま公開に踏み切るとのことだ。 ただし、原語の台詞でははっきりとBurma(ビルマ)と発音 されているものが、字幕ではミャンマーとなるのは、政治的 に仕方がないことのようだ。
『グーグーだって猫である』 大島弓子原作の自伝的エッセイ漫画の映画化。原作は現在も 角川書店発行『本の旅人』に連載中とのことだ。 東京の吉祥寺を舞台に、人気漫画家の許にやってきた猫と、 漫画家やそのアシスタントたちの生活が描写されて行く。 その漫画家は、サバと名付けた猫を10年以上に亙って飼って いたが、ある締め切りに追われて徹夜した日に、その猫は誰 にも看取られないまま死んでしまう。そのショックで腑抜け のようになってしまった漫画家は、やがてグーグーと名付け る別の猫を飼うが… この猫を縦糸に、漫画家の淡い恋物語やアシスタントの決心 などが、井の頭公園や動物園などの四季の風景と共に描かれ る。また、吉祥寺の街もいろいろ描かれ、ちょうど試写会の 前日にサトウのメンチを食べたばかりの僕には、特に嬉しい 作品だった。 出演は、漫画家役に小泉今日子、そのアシスタント役に上野 樹里。他に、加瀬亮、林直次郎、お笑いトリオの森三中、小 林亜星、松原智恵子らが共演。また『SAYURI』で主人 公の少女時代を演じた大後寿々花も出演している。 脚本・監督は、『ジョゼと虎と魚たち』や『メゾン・ド・ヒ ミコ』の犬童一心。監督は年1作程度のペースで撮っている ようだが、僕が観たのは上記を含めて3作目で、前2作がか なり強烈なキャラクターの登場する作品だったのに比べると 大人しい作品に観えた。 それでも、基調となる人への思いやりの様なテーマはしっか りと描かれているもので、それは心地よいものだった。それ に以前に猫を飼っていた身としては、登場する猫の愛らしさ には思わず相好を崩してしまうものだ。 因に犬童監督は、1982年『赤すいか青すいか』、99年『金髪 の草原』に続いて3作目の大島原作の映画化となるもので、 試写会の舞台挨拶でも大ファンと称していたが、それは確か なようだ。 一方、主演の小泉も大島のファンとのことで、また自身が猫 好きであることも本作には良い効果をもたらしているように 見える。 なお、映画の物語は原作者の年譜に従うと1995年から98年頃 を背景にしているものだが、ここには生きる勇気などが凝縮 して描かれている。
『アクロス・ザ・ユニバース』“Across the Universe” 『ライオン・キング』のブロードウェイ・ミュージカル版を 手掛け、映画では『タイタス』『フリーダ』を監督している ジュリー・テイモアが、満を持して映画ミュージカルに挑戦 した作品。しかも登場する33の楽曲が、全てビートルズとい う画期的な作品だ。 物語の背景は1960年代。主人公はリヴァプール!!の造船所で 働いていたが、ある日職を辞してアメリカ行きの貨物船に乗 り込む。一方、アメリカの若者たちは義務兵役でヴェトナム 戦争に狩り出され、日々その戦死者が増加していた。 そんな時代、アメリカにたどり着いた主人公は1人の青年と 意気投合し、彼の両親の家で開かれる感謝祭のディナーに招 かれ、そこで青年の妹と巡り会う。 やがて、ニューヨークにやってきた主人公と青年は、女性歌 手のコンドミニアムで共同生活する若者たちのコミューンに 加わり、そこでいろいろな出会いと別れを経験することにな る。こんな物語が、ビートルズの数々の名曲に乗せて綴られ て行く。 1960年代。音楽やアートに若者文化が勃興し、もしかすると 若者が最も元気だった頃かも知れない、そんな時代の若者た ちの物語。しかし、そこにはヴェトナム戦争が影を落とし、 反戦運動や学園紛争も起き始めている。 監督と原案も務めたテイモアは、1952年生まれということな ので、1960年代にはちょっと出遅れているかもしれないが、 そんな彼女が多分憧れを感じて見ていた時代を描いているの だろう。そんな気分は1949年生まれの僕には痛いほどに判っ た気がした。 ちょっとドラッグや、ちょっとセックスも登場するが、若者 が今よりもっと純粋で希望を持ち、何かしようと、何かでき ると思っていた時代。そんな素晴らしい時代が描かれる。そ してそこには素晴らしい恋も待っている。 主演は、この作品の後に『ラスベガスをぶっつぶせ』に抜擢 されたジム・スタージェス、『敬愛なるベートーベン』など のジョー・アンダースン、『シモーヌ』『ダウン・イン・ザ ・バレー』『ママが泣いた日』などのエヴァン・レイチェル ・ウッド。 その他、脇役には、本業は歌手やダンサーのデイナ・ヒュー クス、マーティ・ルーサー・マッコイ、T.V.カーピオらが 配されている。さらに、『フリーダ』のサルマ・ハエック、 ミュージシャンのボノ、ジョー・コッカーらのゲスト出演も 見ものだ。 それにしても、ビートルズの楽曲が見事に当時の世相を切り 取っていたことが、この作品で良く判った。その歌詞の意味 を改めて理解できたのも嬉しかった。 ただし、主人公の名前がジュードというのは、どう考えても ネタバレになる気がする。 それから、クライマックスにはAll You Need Is Loveが流れ るが、そこにShe Loves Youが挿入されるのは、多分BBC の世界同時中継Our Worldの時と同じタイミングと思われ、 当時の生放送を見ていて喝采した記憶のある者としては、嬉 しい再現だった。
『スカイ・クロラ』 『攻殻機動隊』押井守監督による、劇場用のアニメーション では2004年の『イノセンス』以来となる新作。森博嗣原作の 小説シリーズからの映画化で、我々の住む地球と似ているが ちょっと違う星の物語。 青空に白い雲の浮かぶ中を単座の戦闘機に乗った若者が、新 たに配属された航空基地へと降り立つ。その基地では彼が乗 ってきた戦闘機は回収され、新しい(?)機体が用意されて いる。 その基地には3人の先任パイロットがいる。また、若い女性 の基地司令も以前は戦闘機に乗っていたらしい。そして彼は 敵戦闘機との戦いの任務につく。そんな戦いの合間には、戦 友と酒を酌み交わし、娼館で女を抱く、普通の戦時の生活が 繰り広げられるが… やがて物語が進む内に、彼らがキルドレと呼ばれ、思春期の まま年をとらない存在であることが明らかにされる。そして 彼らが死を迎えるのは、戦闘中の戦死だけであることも。 原作は、すでに5冊が刊行されているほどの人気シリーズで あるらしい。このような代理戦争ものはSFでは珍しくはな いし、本作のどこが(何が)評判になっているのかも、僕に は判っていない。 ただ、プレス資料によると、押井監督はこの原作に、サリン ジャーの小説のような若者の生き様を感じたとされている。 そして監督は、2005年『春の雪』を手掛けた当時23歳の新鋭 伊藤ちひろを脚本家に招請し、若者の視点で脚色することを 求めたようだ。 従ってこの作品は、SFの視点では語られていない。ここに あるのは、一種異様なシチュエーションの中で生きる若者た ちの姿だ。 ただし、そこで彼らが直面するのは、どうにも越えられない 壁に対抗する空しさであったり、そこから生じる厭世感であ ったり…。それらは現代の若者にも通底するものでもあるの かもしれない。そんなところが、この原作の魅力なのかなと も思わせた。 SF的なシチュエーションの作品ではあるし、そのシチュエ ーションはそれなりに面白いものではある。しかしそのSF 的なシチュエーションは映画の中では明確にされない。この ため、この映画をSFで評価するのはかなり難しそうだ。 でもまあ、しち面倒臭いSFなどは元々制作者の眼中にない のだろうし、それはそれで一般的な青春映画として観れば、 それでも良いのではないか…と思わせる作品にはなっている ものだ なお声優は、菊池凛子、加瀬亮、栗山千明、谷原章介らが担 当している。
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