2008年04月27日(日) |
セルラー・シンドローム、バカバカンス、敵こそ我が友、キング・ナレスワン、ミー・マイセルフ、ST3、シチズン・ドッグ、ダイブ! |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『セルラー・シンドローム』“วิดีโอคลิป” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 タイのティーンエイジャーには「盗撮」への興味が蔓延して いるのだそうだ。実際にタイの大学生未満が2006年1年間に 「盗撮」とサーチエンジンで検索した回数は250万件に達す ると言われ、その世代の人口がどれほどかは判らないが由々 しき問題であるらしい。 そんな状況を踏まえて作られた作品。実は題名からは単純な ホラーを連想して、『着信あり』のパクリだったら困るなと 思って観に行ったが、実体はもっと深刻な、社会性の高い作 品だった。 物語は、1人の女子高生が携帯電話を握って自殺する衝撃的 なシーンから始まる。次に物語は大人の男女の話へと進み、 最初のシーンとの関連は明かされないままとなる。そして、 徐々にその関連が明かされて行くことになるものだ。 先にホラーを連想したと書いたが、映画が始まってからもそ の作りはホラーの乗りで進んで行く、その流れが徐々に現実 に摺り替わるものだが、その構成はそれなりにうまいと感じ られた。 この手の作品では、普通は現実からホラーに入って行くもの だが、その逆では後から出てくる現実シーンをかなりしっか り撮らなければならず、これは案外難しそうだ。因に監督の 前作はホラーだったのだそうで、そちらのテクニックは充分 だったようだが。 出演は、元ミュージシャンのパウポン・テープハサディン・ ナ・アユタヤーと、この映画のために発掘されたという現役 女子大生のガームシリ・アーシラルートシリ。特にガームシ リは、ちょっと竹内マリアにも似た日本人的な顔立ちで評判 になりそうだ。 それにしても、画像の流出の様子などには、この春に芸能欄 を賑わした香港の映画スターのPCからの流出事件を思わせ るものもあって、製作年度は昨年の作品だが、香港の事件を 予言していたような感じもした。 と言うか、先にこの映画を観ていたら、香港の映画スターも もう少しはPCの修理に気を使ったかも知れない。そんな意 味での警鐘にもなりそうな作品だった。
『バカバカンス』 フリーの助監督として、唯野未歩子監督の『三年身籠もる』 や、富樫森監督の『あの空をおぼえている』にも参加してい る宮田宗吉の監督デビュー作。宮田は、本作の脚本も自ら執 筆しているものだ。 上映時間78分。ちょっと人をおちょくったようなタイトル。 日本映画でこの手のものは、あまり良い印象を持たない。で も、まあ時間が合えば観に行くのが僕の信条と言うことで… と言うときに、案外な拾い物に出会えると嬉しくなる。これ はそんな作品だった。 物語の主人公は、オムライス作りには自信があるらしい独身 のコック。同棲していた女性は別の彼氏のところに行ってし まったが、いまだに表札から彼女の名前は消せないでいる。 そして留守電に残った彼女の声を聞きながら夜食を食べてい る。 そんな主人公の勤めていたレストランが、オーナーの金の持 ち逃げで閉店。一方、彼氏に振られて元カノの女性が戻って くる。そこに、元の同僚がオーナーの妻の車を借りて現れ、 元カノも乗せて、逃げたオーナーの逃亡先を探すことになる が… つまらないギャグや奇を衒った演出も無しで、基本的に真面 目に物語を描いていることに好感が持てる。しかしこのシチ ュエーションでは、傍から見れば可笑しいことは沢山ある訳 で、その辺のユーモアが自然に描かれているのも作品の良さ と言えそうだ。 それにこのシチュエーションの中で、男性主人公の心情など もいろいろ考えられていて、その辺もよく理解できるものだ った。 出演は、須田邦裕、奥田恵梨華、渋川清彦。基本的には脇役 で頑張っている若手たちのようだが、しっかりとした演技を してくれるのは見ていて安心感があった。それに須田は実際 にオムライスを作っているようで、その手際にも感心した。 上映前の監督の挨拶では、「自主映画のようなものです」と 言っていたが、意ばかり先走っているようないわゆる自主映 画とは違って、映画というものがよく判っている地に足が着 いた感じのする作品。これからも頑張って欲しいと思える監 督の作品だった。
『敵こそ、我が友』“Mon Meilleur Ennemi” 2006年『ラストキング・オブ・スコットランド』で、フォレ スト・ウィティカーにオスカー主演賞をもたらしたケヴィン ・マクドナルド監督によるドキュメンタリー作品。 ナチの戦犯でありながら、1983年にフランス政府によって逮 捕されるまで南米ボリビアで勢力を保ち、一時は南米に第4 帝国の設立を目指したクラウス・バルビーの生涯を追う。 バルビーはドイツ生まれだが、1942年から44年までフランス のリヨンで現地のゲシュタポを指揮し、特に、ドゴールの命 を受けてレジスタンスの統一を目指していたジャン・ムーラ ンの逮捕処刑に関与したとされている。 しかし、それ自体は戦犯の容疑ではなく、彼がリヨンの孤児 院から34人の幼いユダヤ人の子供を強制収容所に送ったこと が、最終的な罪の根拠となっている。実際、戦時中の戦闘員 に対する行為は裁判の対象とされず、それが裁かれた東京裁 判とは違う様相を見せる。 それはともかくとして、映画は、戦後のバルビーが対共産主 義戦略の一環としてアメリカ諜報機関の手先となっていたの ではないかと言う疑問を検証して行く。 その戦後に、バルビーがアメリカ陸軍情報部(CIC)に所 属していたことは事実のようで、その庇護の下、彼とその一 家はフランスの訴追を逃れてボリビアに移住している。そし てボリビアでは、チェ・ゲバラの活動を恐れるアメリカの意 向に沿って、その逮捕にも貢献したということだ。 しかしそれは、彼自身にとっては第4帝国の創設の夢へとつ ながり、彼の許には各国からの訴追を逃れた元ナチの残党た ちが集まり始める。そして彼らはボリビアの軍事政権の設立 にも関って行くが、結局その軍事政権が麻薬組織とつながっ たことから、アメリカ政府は世論に押されて彼を見捨てるこ とになる。 まさに、戦後の隠された歴史と言えそうな物語だ。しかしこ こに描かれたバルビーの人生は、よくいう歴史に翻弄された と言うものではない。彼自身が信念のものとに繰り広げたも のだ。ただしそれは、明かな犯罪者の人生でもある。 そして映画は、その犯罪者を利用しようとして、結局は民衆 に多大な被害をもたらしたアメリカのやり方を痛烈に批判し ているものでもある。南米の、今まであまり詳しくは知るこ ともなかった側面が描かれた興味深い作品であった。
『キング・ナレスワン』“ตำนานสมเด็จพระนเรศวรมหาราช” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 14〜18世紀に亙って栄えたタイ(シャム)のアユタヤ王朝に あって、西暦1600年前後に王位に就き、中興の祖と讃えられ るナレスワン大王の生涯を描く3部作の第2章。ビルマの支 配下に置かれたタイ中部で、アユタヤ王朝を独立に導く戦い が描かれる。 上映時間169分の超大作。事前の情報では2部作とあったの で、2作一緒の上映かと思っていたら、第1章は別に167分 あるそうだ。これで製作中と言われる第3章も同様の長さな ら、合計は8時間半近い超大作となる。 第1章では、ナレスワンが、傀儡政権と化していたタイ王朝 からの人質としてビルマにいた頃の話が中心となるようで、 第2章ではそのビルマに反旗を翻すまでが描かれる。なお、 映画祭では第1章も上映されるが、試写会は第2章のみ行わ れた。 当時のアユタヤは交易で栄えていたようだが、軍事的に優位 に立つビルマの支配下に置かれていた。しかしビルマ国王の 崩御に伴い各地で反乱が勃発。最初はその制圧に力を貸して いたナレスワンだったが、やがてアユタヤの独立を目指すよ うになる。 しかもナレスワンは、ビルマでの人質(国王の養子という名 目だった)時代に戦術などの軍事的な教育を受けており、そ れを基礎にさまざまな戦術を編み出し、それが功を奏して行 くことになる。 この辺の状況は、第2章だけを観ていると多少判り難いが、 そういうことだったらしい。 そして映画の物語は、最初は戦術に長けただけの軍師であっ たナレスワンが、国王としての資質を高め人望を集めて行く 様なども描かれて行く。この辺の人間描写はかなり分厚くし っかりと描かれているものだ。 さらに映画では、幾多の戦闘も描いて行くことになるが、こ れがタイ映画に特有の、特に火薬などの物量を注ぎ込んだも ので、迫力と言うか、本当に大丈夫かというシーンも続出す る凄まじいものになっている。 因に、映画の製作にはタイの軍隊も協力しているようで、戦 闘シーンの迫力は正に本物。さらに主人公のナレスワンを演 じているのも、実際の陸軍少佐という人だそうだ。しかしこ れが実に逞しく歴史上の大王を見事に演じ切っている。 この他には、タイの人気モデル兼俳優や、ロック歌手という 人も出演しているが、男優も女優も身体はちゃんと動くし、 特にヒロインを演じた女優の弓を射るシーンの凛々しい姿は 気持ち良く楽しめるものだった。 また山田長政も登場するが、これはちょっとコミカルな表現 で、映画の中ではコメディリリーフ的な扱いとなっている。 この役は現地在住の矢野かずきという人が演じているが、こ の人はタイ版の『ウルトラマン』にもレギュラー出演してい るようだ。 ただし史実に従うと、長政とナレスワンは直接には出会って いないようだが、当時のタイに戦国時代の日本を離れた武将 は既に数多くいたようで、エンターテインメントとして判り 易くしたということでは認められる範囲だろう。このため扱 いも上記のようであったとも思われる。 東南アジアの歴史というのは、僕らにはあまり良くは判らな いところで、その辺のことをこのような映画作品で教えても らえるのは嬉しいことだ。時間が合えば映画祭で第1章も見 たいと思っている。
『ミー・マイセルフ/私の彼の秘密』“ขอให้รักจงเจริญ” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 タイの映画の特徴として、いわゆるゲイの人がかなり頻繁に 登場する。実は今回の試写会で鑑賞した作品では、その傾向 の作品は少なかったのだが、本作は正にそのテーマの作品と いうことになる。 物語は、キャリアウーマンの女性を主人公に、彼女が偶然に 起してしまった交通事故の被害者の男性の面倒を見る羽目に 陥るところから始まる。その男性は実は事故の前に何者かに 襲われていたらしく、その影響で記憶を喪失していたが… 女性の主人公は、以前に同棲していた男性と別れた経験があ り、その後は仕事一筋で実績を上げ、ついに独り立ちの仕事 も任せられるようになっていた。そしてそれまでの過去を引 き摺っていた彼女は、男性の登場で徐々に自分らしさを取り 戻して行く。 一方、男性には記憶喪失の境遇から正に自分を取り戻すこと が必要だったが、それには彼女との絆を損なう危険が伴って いた。 まあ、元々のテーマが上記のものなので、いまさらネタバレ ということにはならないかもしれないが、つまり映画はオカ マを好きになってしまった女性の物語となる。そこにはいろ いろ微妙な問題もからんでくるが、物語としてはそれなりに 面白いものになっていた。 ただ、最初に書いたようにタイ映画にはゲイの人がよく登場 するので、それなりに市民権があるのかと思っていたら、こ の映画によるとやはり迫害は受けているようで、結局そんな ものかなあというのが率直な感想だ。 これなら他の国でもいい話だったし、ここにタイ映画らしさ があれば申し分なかったが、現実はそういうものでもないら しい。逆に言えばそれだけ一般的な物語になっている訳では あるが、その辺は難しいところだ。 なお、主人公の女性がイヴェントの企画会社に勤めていると いう設定で、映画にはそのイヴェントのシーンも登場する。 これもなかなか面白かった。
『スターシップ・トゥルーパーズ3』 “Starship Troopers 3: Marauder” ロバート・A・ハインライン原作『宇宙の戦士』の映画化第 3弾。映画化第1作は1997年の製作、第2作は2003年に製作 されており、今回は2008年作品。ほぼ5年置きにシリーズが 作られていることになる。 監督は、第1作が『ロボコップ』などのポール・ヴァーホー ヴェン。第2作は『スター・ウォーズ』にも参加していたス トップモーション・アニメーターのフィル・ティペット。そ して、本作では第1作から一貫して脚本を担当してきたエド ・ニューマイヤーが初監督している。 因に、ヴァーホーヴェンは、第2作以降のクレジット上では 直接の製作者ではないが、第2作では“Special Thanks”と 記載されているし、今回もニューマイヤーは助言を求めるな ど、映画の製作にはかなり深く関っているようだ。 一方、ニューマイヤーは全作に関っているものだが、第2作 は彼自身にフラストレーションが残る作品だったそうで、本 作は満を持して自らの監督で実現したものだ。さらに本作で は、第1作に主演したキャスパー・ヴァン=ダインも主演に 返り咲いている。 物語は、軍事政権となって全体主義的な色も見える地球連邦 と、昆虫から進化したバグズとの戦いを描いているが、特に 今回は地球連邦政府の全体主義的な色合いがかなり戯画化し て描かれており、この辺に脚本家=監督の意図も見えるよう だ。 そして本作では、ついに原作で有名なあれが登場する。実際 のところ、『宇宙の戦士』の日本での評価は、これに関する 部分が大きいはずだが、前2作の映画化では何故か登場して いなかった。 この点に関してニューマイヤーは、「第1作のときにも登場 させるべきだったが、当時の技術では製作費が膨大に掛かる ことが予想され踏み切れなかった。それが今ではCGIの進 化で、低予算でも容易に実現できるようになった」とのこと だ。 従って、物語はようやくここから出発となる訳で、また5年 後とは言わず続編を期待したくなるものだ。 ヴァン=ダイン以外の出演者では、テレビシリーズの『エン タープライズ』でバルカン人女性副司令役を演じていたジョ リーン・ブラロックらが共演している。 なお、配給会社では本作に『ST3』という略称を使わせた いようだが、“Star Trek”と紛らわしくなりそうだ。
『シチズン・ドッグ』“หมานคร” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 2001年11月18日付で紹介した『快盗ブラック・タイガー』の ウィシット・サーサナティアン監督による2004年作品。実は 2005年の東京国際映画祭でも上映されたが、その時は時間の 都合で観ることができなかった。 物語の背景は現代だが、監督の前作と同じくかなりシュール レアリスティックな雰囲気の作品で、実際バンコックの町中 にペットボトルを積み上げた巨大な山が出来上がっていると いうような風景が登場する。 そんな作品の主人公は、田舎からやってきた青年。彼は最初 は単純労働者として缶詰工場で働き始めるが、かなり奇想天 外な展開で友人ができたり、不思議な雰囲気を持つ少女と巡 り会って付き合い始めたりする。 その物語の背景には、上記のペットボトルによる環境破壊な どの問題意識はあるが、それも本筋とは着かず離れずで、全 体的にはファンタスティックなラヴストーリーが展開される ものだ。 まあ、監督に言いたいことも判るし、映画の全体の雰囲気は 悪いものではない。観れば観たなりにいろいろ感じることの できる作品だろう。その辺が好きな人には、堪らなく好きに なりそうな作品でもある。 なお今回の映画祭では、2007年1月9日に紹介した『ヌーヒ ン』も上映される。今回の試写は観なかったが、1年以上も 前の印象がまだしっかりと残っている作品で楽しめた記憶も 確かなものだ。ただ以前に紹介したとき主演を子役と書いた のは、今回の情報によるとそこそこの年齢の女優さんだった ようで、その点は訂正しておく。 この他にタイ式シネマ・パラダイスでは、『アルティメット ・エージェント』というコミカルアクション作品も上映され て長編は全部で8本。さらに回顧上映やCM集の上映、また アーティストによるライヴパフォーマンスやトークショウ、 ティーチインなども行われることになっている。
『ダイブ‼』 オリンピック種目でもある飛び込み競技を描いた直木賞作家 ・森絵都原作の青春小説の映画化。角川文庫創刊60周年記念 作品。 主人公は子供の頃に偶然飛び込み台を見て、その姿に憧れて 企業がスポンサードするクラブに所属している。そのクラブ には父親が競技者だったサラブレッドの選手もいるが、実は クラブの経営は赤字で閉鎖寸前の状態にある。 そんなクラブに、アメリカで学んできたという女性コーチが やってくる。彼女は、オリンピック代表選手を出すことを条 件に、そのクラブの存続を企業に約束させたのだという。そ して彼女は、主人公を名指しで特訓を開始する。 さらにそのクラブには、彼女が青森からスカウトしてきた野 性児のような選手もやってくる。こうして、サラブレッドの 選手を含めた3人の切磋琢磨が開始される。 基本的に天賦の才能を持った選手たちの物語で、変な根性ド ラマなどは介在しない。そういう中でのかなり素直な子供た ちが頑張るお話。これは観ていて気持ちの良いものだ。しか も、それなりにいろいろなドラマがあるのには感心するとこ ろだった。 それと、飛び込みという競技に関して今まで知らなかったこ とが勉強できたのも面白かった。特に、特異な採点システム などが丁寧に説明されているのは、オリンピックイヤーの公 開にはちょうど良い感じのものだ。 出演は、『ちーちゃんは悠久の向こう』の林遣都、『ラスト サムライ』の池松壮亮、ジュノン・スーパーボーイ・コンテ ストでグランプリ受賞の溝端淳平。他に、瀬戸朝香、蓮佛美 沙子、光石研らが共演している。 なお主演の3人は、猛特訓の末に実際に高さ10mからの飛び 込みも実演しているとのことだが、さらに本作では、その姿 が最新の技術で見事に撮影されている。 この撮影は、『スパイダーマン』の撮影にも使用されたワイ アー操作の空中撮影システムSpidercamで行われたもので、 高さ10mの飛び込み台に立つ彼らの周囲を旋回する映像は、 特に屋外プールのシーンでは大きく広がる風景の中で最高の 効果を上げていた。
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