井口健二のOn the Production
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2007年07月01日(日) 第138回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 『スクール・オブ・ロック』で大ブレイクしたジャック・
ブラックが、再び教師役を演じる計画が発表されている。
 作品はワーナー製作で、題名は“Man-Witch”。お話は、
ブラック演じる先生が、ある日突然、自分に備わる魔法能力
を発見。魔女集会に参加して魔女学校への入学を説得される
のだが、そこでは彼以外のクラスメートは全員少女だった…
というもの。ジョッシュ・ストールバーグとボブ・フローズ
ハイムのオリジナルアイデアから、ブロードウェイでも活躍
するジェイ・ライスが現在脚色中で、2004年“Starsky and
Hutch”などを手掛けたトッド・フィリップスが監督。製作
は、“I Am Legend”なども手掛けるニール・モリッツが担
当している。
 パロディの要素がどのくらいあるか判らないが、『ハリー
・ポッター』シリーズも製作しているワーナーで魔法学校も
のとは、ちょっと大胆な計画だ。
 なお、ブラックの近作では、キャメロン・ディアス共演の
“The Holiday”が昨年公開されているが、今年後半には、
ノア・バウムバック監督の“Margot at the Wedding”と、
ミシェル・ゴンドリー監督の“Be Kind Rewind”が相次いで
公開され、声の主演を務めるドリームワークスアニメーショ
ン作品“Kung Fu Panda”が製作中。また、次回作にはコロ
ムビア製作のハロルド・ライミス監督作品“Year One”への
出演が発表されたところで、今回紹介の作品はその後になる
ようだ。
 因に、コロムビアで進められている“Year One”は、ステ
ィーヴ・カレルがブレイクしたことでも知られる人気テレビ
シリーズ“The Office”に主演している俳優監督のジャド・
アパトゥが製作を担当しているもので、『ゴーストバスター
ズ』シリーズなどの俳優監督のライミスが、“The Office”
の脚本家たちと共同で自らのアイデアに基づく脚本を執筆し
ている。またライミスは“The Office”のエピソード監督も
務めているそうだ。
 従ってブラックとしては、“The Office”のチームに単身
飛び込んで行くことになるもので、そういう条件でのブラッ
クの活躍も注目されるところだ。
        *         *
 パラマウント傘下のドリームワークスと、ユニヴァーサル
の共同製作で、“Cowboys & Aliens”というグラフィックノ
ヴェルの実写映画化の計画が発表された。
 この原作は、『メン・イン・ブラック』などのマリブ・コ
ミックスから発表されていたもので、最初の映画化の計画は
2002年以前にドリームワークスで立上げられた。しかしその
計画は実現せず、その後、2004年頃にはプラティナム・スタ
ジオとエスケープ・アーチスツの共同製作によりソニー傘下
で進められていたこともあったものだ。実はその頃に、この
ホームページでも紹介したつもりだったが、何故か落として
しまっていたらしい。
 物語は、19世紀初頭のアリゾナを舞台に、対峙していたカ
ウボーイとアパッチ族の間にエイリアンの宇宙船が不時着。
エイリアンの司令官は地球を占領しようとするが、カウボー
イとアパッチたちが一致協力してそれに立ち向かうというも
の。元々はコミックスで発表されていたが、昨年同じコンセ
プトでグラフィックノヴェルが刊行され、今回の計画はそれ
に基づいて再度映画化権が設定されたようだ。
 その権利をドリームワークス+ユニヴァーサル両社が獲得
したものだが、両社の共同製作では、『グラディエーター』
『ビューティフル・マインド』などの成功例があり、実現が
期待される。なお脚色には、『トゥモロー・ワールド』でオ
スカー候補になったマーク・ファーガスとホーク・オスビー
の契約も発表された。
 内容的には、比較的お手軽に製作できそうな気もするが、
各社が逡巡してきた事情がよく判らない。基本的に西部劇で
あることが危惧されているのかも知れないが、その突破口と
なるためにも、早く監督と出演者の発表を聞きたいものだ。
        *         *
 お次は、直接の映画製作の話ではないが、映画の中の喫煙
シーンについて、アメリカで規制の動きが強まっている。
 これは映画における喫煙シーンが青少年の喫煙を助長して
いるとの意見に基づくもので、それに呼応してアメリカ映画
のレーティングを行うMPAAに対し、新たなレーティング
の制定が求められている。それによると、喫煙シーンのある
映画に対しては一律に子供の鑑賞を制限するRレートとする
案の他、別個に喫煙シーンの有無の表示を行うことも提案さ
れているようだ。また、喫煙シーンのあるDVDに対しては
販売のパッケージに反喫煙の表示を義務化することや、喫煙
シーンの削除も求めるとしている。
 問題シーンの削除では、『ET』の再上映の際に、スピル
バーグ監督が、劇中のライフルを構えるシーンの銃器をトラ
ンシーバーに挿げ替えて話題になったことがあるが、タバコ
はどんなものに化けるのだろうか…それからパッケージには
「警告:喫煙は健康被害を発生する」と表示されることにな
るのかな。
 以前からハリウッド映画の中の喫煙率は、一般社会の喫煙
率より高いとの統計も発表され、その裏にはタバコ会社の活
発な営業活動なども噂されていたものだが、特にここ数年は
Variety紙などにも意見広告をよく見るようになってきた。
今回の動きはそれらにも後押しされたもので、アメリカでの
反喫煙の包囲網はかなり厳しく狭まってきたようだ。
        *         *
 ワーナー製作による『300』の映画化を成功させたグラ
フィックノヴェル原作者フランク・ミラーに対して、今度は
ハードボイルドミステリーの脚色の契約が発表された。
 その作品は、クライヴ・オーエンがユニヴァーサルで主演
を予定しているレイモンド・チャンドラー原作“Trouble Is
My Business”の映画化で、ミラー脚本監督による『シン・
シティ』に出演したオーエンが、「自分が知る中で、最もこ
の原作の世界感に精通した人物」として脚本への参加を熱望
したということだ。
 物語は1940年代のロサンゼルスを舞台に、酔っ払いの私立
探偵フィリップ・マーロウの活躍を描くもので、殴り合いや
悪女とのロマンスなど、ミラーの描く男臭さが期待される。
また作品にはシリーズ化も期待されているようだ。
 映画化はオーエンが製作総指揮を務めているもので、実質
製作は、ユニヴァーサル傘下でオーエン主演の『トゥモロー
・ワールド』を手掛けたストライク・エンターテインメント
が担当。計画は今年1月に立上げられ、今回は脚本家の選定
が発表されたものだ。
 なおオーエンは、今後にはケイト・ブランシェット共演の
“The Golden Age”と、ニューライン製作のアクション映画
“Shoot-'Em-Up”の公開が予定されており、またコロムビア
でトム・タイクアー監督による“The International”とい
う作品が準備中とされている。
 一方、ミラーは、前回報告したように“Sin City”の続編
が滞っているものだが、第135回で紹介した“Ronin”は原作
提供だけとしているものの、他にウィル・アイスナー原作の
グラフィックノヴェル“The Spirit”に関しては、ミラーの
脚色監督も発表されており、かなり多忙になってきている。
この状況で、今回の計画はいつ実現するのだろう。
 因に、製作担当のストライクでは、“The Creature From
the Black Lagoon”(大アマゾンの半魚人)のリメイクが準
備中となっているものだ。
        *         *
 2004年2月の第56回で一度紹介しているリチャード・マシ
スン原作の短編小説“Button Button”の映画化“The Box”
が実現に向い始め、主人公の若妻役にキャメロン・ディアス
が発表された。
 この物語は、1985年に放送された『新ミステリーゾーン』
のエピソードとしても映像化されたようだが、若い夫婦の家
に不思議な箱が届けられ、その箱のボタンを押すと、世界の
どこかで同じボタンを押したもう1人との間で、一方が死亡
し、他方にその財産が転がり込む。つまり二者択一の究極の
ゲームが行われるというお話だ。
 そしてこの原作を、前回の報告では、2001年にドリュー・
バリモアの製作総指揮でも話題を呼んだジェイク・ギレンホ
ール主演の超常現象映画『ドニー・ダーコ』を発表したリチ
ャード・ケリーが脚色、当時の計画では“Cavin Fever”の
エリー・ロス監督で映画化するとされていた。
 しかしその計画は頓挫したようで、その後はケリーが自ら
の監督で計画を進めてきた。その映画化にディアスが出演す
るもので、これにより製作費は3000万ドルに跳ね上がるとの
ことだ。しかし最近の傾向として、スター登場のホラー作品
は着実に興行成績が上がっているのだそうで、この作品にも
その期待が持たれている。
 なお、物語的には『ザ・リング』と同じ傾向と評されてい
るようだが、ディアスの参加で『ローズマリーの赤ちゃん』
や『アザーズ』のような方向も目指せるとされており、論理
的な展開よりは超常的な色彩の濃い物語になりそうだ。
 製作は、『バベル』を手掛けたメディア・ライツ・キャピ
タル。配給は撮影が開始されてから決定される。因に同社が
先に製作したサッシャ・バロン・コーエン主演“Bruno”の
配給権は、『ボラット』人気の高まりにより、4250万ドルで
ユニヴァーサルと契約されたそうだ。
 “The Box”の撮影は今秋開始される。
        *         *
 久しぶりに“Conan the Barbarian”の話題が登場した。
 ロバート・E・ハワード原作によるアダルトファンタシー
の映画化権に関しては、最近7年間はワーナーが権利を保有
していた。しかしその間、1982年版を脚色監督したジョン・
ミリウスや、アンディ&ラリー・ウォシャウスキー兄弟、ロ
ベルト・ロドリゲスらによる幾多の挑戦があったもののいず
れも実現に至らず。昨年7月の第114回で紹介したボアズ・
ヤーキンの計画も頓挫したようで、ついにワーナーは全面的
な権利放棄を発表することになった。
 これに対してハリウッド各社は一斉に動き出し、当初の条
件が、6桁($)の契約金で期間は18カ月(1回だけ延長が
認められる)というものだったことから、特にミレニアムや
ハリウッド・ギャングといった会社が熱心だったようだ。
 しかし、その条件は徐々に吊り上がり、最終的には契約金
100万ドルで期間は1年間、更新には毎年100万ドルを積むと
いう段になって、各社は特に1年間の制限を気にして脱落。
結局その権利は、ワーナーの兄弟会社でもあるニューライン
が獲得することになったようだ。
 権利者としては、映画化権を設定したもののいつまでも映
画化されないでは、最終的な権利の活用にはならない訳で、
その意味では今回の契約は画期的なものと言える。しかし、
それにしても映画の完成まで1年間というのは無理な話で、
ニューラインとしては、最低200万ドルは支払う覚悟での契
約となりそうだ。
 『300』の成功で、マッチョな男たちの映画は注目を浴
びているところでもあるし、いずれにしても映画化が実現す
れば、先に支払った契約金も問題なくなるものではあるが、
かなり厳しい条件であることに変りはない。ただ、観客とし
ても早く観られることは期待するもので、応札者がいるので
あればこの契約も悪いとは言えない。後はニューラインが、
早く映画化を実現してくれることを期待するだけだ。
 なお、第136回で報告したワーナー製作“The Masters of
the Universe”の計画は、“Conan”の権利放棄を前提とし
て打ち出されたものだったという説もあるようだ。ワーナー
とニューラインの関係では、互いに食い合うようなタイミン
グでの公開はないと思われるが、どちらも往年の映画化のリ
メイクとなる訳で、とにかく早く完成を観たいものだ。
        *         *
 『レミーのおいしいレストラン』が公開間近のピクサーの
今後の計画で、第131回で心配した2009年用に“Up”という
作品の計画が発表された。これで、2008年に公開が予定され
ている“Wall*E”、2010年公開予定の“Toy Story 3”の間
を繋ぐ作品が決定したものだ。
 お話は、70歳男性の主人公が、自然保護レンジャーとチー
ムを組んで怪物や悪人と戦うというものだそうで、監督には
『モンスターズ・インク』を手掛けたピート・ドクターの起
用も発表された。Variety紙の記事では、「ピクサーの主人
公がちょっと年を取る」などと書かれていたが、『モンスタ
ーズ…』の主人公は、年齢不肖で何100歳でもおかしくはな
かった訳だし、少し年を取った登場人物のアニメーションが
あっても良い感じのものだ。
 『レミー…』の上映には、短編の他に“Wall*E”の予告編
も併映されていて、毎年1本のペースは確実に守られること
になるようだが、ドリームワークスと同様、スケジュールを
守ることにはいろいろ苦労がありそうだ。
 なお、ピクサー以外のディズニー・アニメーションでは、
来年は“American Dog”、2009年には“Frog Princess”と
いう作品が予定されている。この内の“Frog…”は、ディズ
ニーでは2004年以来となる手書きアニメーションで製作され
ているようだ。
        *         *
 ピクサーに続いてはアードマンの情報で、第133回で報告
したようにドリームワークスとの契約を解消したアードマン
は、新たにソニーとの3年間の優先契約を結んだものだが、
その製作リストが報告された。
 実はアードマンでは、昨年の段階で、元BBCでコメディ
番組部門の製作総指揮を担当していたサラ・スミスという人
物を製作担当者として招き入れており、彼女の人脈を通じて
イギリス放送界を中心に様々な人材がアードマンに結集しつ
つあるようだ。
 そしてその第1陣として“Life on Mars”などを手掛ける
脚本家のマシュー・グラハムとアシュレイ・パーロウが契約
し、スティーヴ・ボックス監督と共に“The Cat Burglars”
という作品が準備されている。
 この作品は、ボックスとニック・パークが先に公表してい
た『ウォレスとグルミット』の新作長編となるもので、この
新作では、ミルクを盗もうとする猫グループとウォレスたち
の闘いが描かれることになる。そしてこの作品に関しては、
『オーシャンズ11』のようなクールなスタイルで、「ご家庭
向きのタランティーノ」を目指すという発表もされている。
 また、アードマンの共同創設者ピーター・ロードからは、
2000年の『チキン・ラン』以来の監督に復帰する計画も発表
された。こちらはギデオン・デフォー原作の“Pirates”と
いうシリーズを映画化するもので、この脚色には、原作者の
デフォーと共に、“Hyperdrive”というコメディシリーズや
アニメシリーズの“Slacker Cats”を手掛けるアンディ・ラ
イリーとケヴィン・セシルの脚本家コンビの参加も発表され
ている。
 さらに、『ボラット』の脚本家の1人のピーター・バイン
ハムによる“Operation Rudolph”という計画も進められて
いる。この作品は、北極の基地からクリスマスの1夜にして
世界中にプレゼントを届けるためのサンタクロース率いる超
ハイテク部隊の作戦行動を描くというもので、大アクション
作品になるということだ。
 その他、ニック・パーク監督の『ウォレス…』以外の作品
の計画も発表されており、ドリームワークスとの契約解消を
バネに、アードマンは新たな領域に踏み出そうとしているよ
うだ。後は、ソニーがこれをどこまで支援できるか…という
ことになりそうだが。
        *         *
 『ソウ』シリーズを手掛けるツイステッド・ピクチャーズ
が、往年のRKO映画の中から4本のジャンル映画のリメイ
ク権を獲得したことを発表した。
 RKO映画のリメイクでは、すでに『猿人ジョーヤング』
など大作の製作が実現しているが、今回発表されたのはもっ
とコアな、正にジャンル映画と呼びたくなる作品だ。
 発表されたのは、製作年度順に1943年の“I Walked With
a Zombie”(ヴードゥー系ゾンビ物では最高作)、1945年の
“The Body Snatcher”(ロバート・ワイズ監督、ベラ・ル
ゴシ、ボリス・カーロフ共演)、1946年の“Bedlam”(カー
ロフ主演)で、後1本は選考中ということだ。因に発表され
た3本は、いずれもガイドブックでは星3つ以上を獲得する
秀作となっている。
 『ソウ』シリーズのヒットは、毎回ほぼ保障されている感
じのツイステッドだが、それ以外の作品はなかなか思うよう
に行かないのが実情のようで、今回の発表はその中での新し
い試みとしては評価したい。ただしこの計画では、最初に企
画ありきということになる訳で、後は、このリメイクを実現
する人材をどのように確保するがポイントになる。続報を待
ちたいところだ。
        *         *
 最後は続報をまとめておこう。
 まずは、2005年12月の第101回で紹介したレッド・ワゴン
(ソニー)製作によるエリザベス・コストヴァ原作の吸血鬼
物“The Historian”の脚色に、ブラッド・ケイレブ・ケイ
ンという脚本家が発表された。このケインという人物、実は
以前は1997年の『スターシップ・トゥルーパーズ』などにも
出ていた子役ということで、現在は脚本家に転じて“These
City Walls”という作品や、リチャード・プライヤーの伝記
映画“Live”の脚本なども手掛けているそうだ。
 当初の計画では『ネバーランド』のデイヴィッド・マギー
が担当していたものだが、製作者の言によると、「説得力の
ある脚本家が必要になった」とのことで、伝記映画を手掛け
るような脚本家なら任せられるということなのかな。前の脚
本家も伝記映画でオスカー候補になっていたものだが。
 次は、『ナルニア国物語』の第3章“The Voyage of the
Dawn Treader”の監督に、1999年『007/ワールド・イズ
・ノット・イナフ』を手掛けたマイクル・アプテッドの起用
が発表された。また、第2章の“Prince Caspian”まで監督
するアンドリュー・アダムスンは、第3章では製作に転じる
ことになっている。なお第2章は2008年に公開予定で、第3
章は2008年1月に撮影開始、2009年5月1日の公開となって
おり、スケジュール的に2作連続の監督は不可能になったも
のと思われる。
 一方、2008年11月7日公開が決定されている“Bond 22”
の監督には、『ネバーランド』『主人公は僕だった』などの
マーク・フォースターの起用が発表された。アクション映画
にこの監督名はちょっと意外な感じもするが、監督本人は、
「常に別の種類の物語を描きたいと思っている。ボンドはず
っとファンだったし、このチャレンジには興奮している」と
意欲満々なようだ。ネール・パーヴィス、ロバート・ウェイ
ドの脚本から、フォースターとポール・ハギスによるリライ
トは直ちに始められる予定で、ダニエル・クレイグが2度目
のボンドを演じる撮影は、12月パインウッドで開始される。


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井口健二