井口健二のOn the Production
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2007年06月20日(水) ジャンゴ(特)、オーシャンズ13、厨房で逢いましょう、クレージーストーン、傷だらけの男たち、Perfect Stranger、不死鳥の騎士団

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『スキヤキウェスタン・ジャンゴ』(特別映像)
三池崇史監督が全編を英語台詞で撮り上げた和製西部劇のク
ランクアップ記者会見が行われ、一部の映像が披露された。
特別映像と言っても正味8分足らずで、そこから全貌が見え
てくるようなものではなかったが、雰囲気的には、ハリウッ
ド西部劇と言うよりは、グループが対峙するシーンなどには
黒澤明演出を巧妙に再現しているような感じもあり、『七人
の侍』→『荒野の七人』、『用心棒』→『荒野の用心棒』と
いった流れを意識している感じが見えた。
配布された資料によると、物語は、壇之浦から数100年後、
とある寒村に隠されたお宝を巡って義経率いる源氏(白軍)
ギャングと、清盛率いる平家(赤軍)ギャングが対立し、そ
こに流れ者のガンマンや二重人格の保安官らが絡むというも
のになるようだ。
この物語について、上映後の会見で三池監督は「源平の物語
は、日本の芝居その他のルーツであるし、昔からやりたかっ
た」としていたが、確かに極めて明確に対立の構図を示すに
は判りやすい手段だと言える。
ただしそれは、日本人にとってはある種パロディに近いもの
にも採られやすいし、一方、海外ではそのようなルーツが判
らない中で、如何にシンプルな物語として理解され得るもの
か、これは本当に蓋を開けてみないと判らないギャンブルの
ような気もした。
いずれにしても、完成品を見ないことには何とも言えないこ
とは確かだが、このような大博打を出来るのも、それ自体が
楽しいことのようにも感じられたものだ。
出演は、伊藤英明、佐藤浩市、伊勢谷友介、安藤政信、石橋
貴明、木村佳乃、香川照之、堺雅人、小栗旬、桃井かおり、
そしてクエンティン・タランティーノ。普段の三池作品とは
ちょっと違った顔ぶれだが、この内の伊勢谷と木村はバイリ
ンガル、石橋、桃井はハリウッド作品に出演歴がある訳で、
全編英語台詞を意識したキャスティングのようだ。
中でも、会見でタランティーノと並んで座った桃井は、終始
2人で言葉を交わすなど、本人のキャラクターも含めて本作
には適当な配役に思えた。
その桃井は会見で、「『SAYURI』だけには負けたくな
いの」と発言して会場を湧かせた。桃井曰く、「彼女たちが
悪いんじゃないけど、なんで日本の話に中国人の子たちが主
演してるよ!」と言うことで、その思いをぶつけた作品にな
っているようだ。
会見は、正に撮影が午前3時に終ったその日に行われたもの
で、監督からは「(看板の)クランクアップ会見が嘘になる
ところだった」という発言もあったが、その最後の撮影に出
演したタランティーノも、「イーストウッドやジェンマのよ
うな役で光栄だった」と御満悦の様子で、後は期待半分、心
配半分の気持ちで完成を待ちたいところだ。

『オーシャンズ13』“Ocean's Thirteen”
ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット共演による『オー
シャンズ』シリーズ第3弾。
1960年にシナトラ一家が共演した往年の作品が,2001年にリ
メイクされ、そこからスタートしたシリーズが3作目となっ
た。前作はヨーロッパ各地を舞台に観光旅行気分の作品だっ
たが、今回は舞台をラスヴェガスに戻して再び大作戦が展開
される。
物語は、オーシャンズのメムバーでエリオット・グールド扮
するルーベンが危篤、との知らせに、目前にしたお宝の山も
放り出して仲間たちが馳せ参じるところから始まる。実はル
ーベンは、独自に進めていたホテル事業で共同経営者に裏切
られ、そのショックで心筋梗塞になったのだ。
裏切ったのはアル・パチーノ扮するバンクという男。バンク
はルーベンから資産を巻き上げた上に、グランドオープン目
前のホテルから彼を追い出したのだ。そこでまずオーシャン
は、バンクに会ってルーベンの資産を返すよう話すが、バン
クは聞く耳を持たない。
この事態にオーシャンズの面々は、バンクから根こそぎ彼の
資産を奪うことを決めるが…
何せ今回は、人工知能搭載のセキュリティも完備した、正に
難攻不落のホテルカジノが相手ということ.しかも同時に、
そのホテルのシンボルでもあるダイヤも盗み出せという難題
が山積み、それを賭博のイカサマから物理的な強奪まで絡め
て描くのだから、これはオールスターキャストも顔負けの大
盤振舞という感じの作品だ。
正直なところは、『ミッション・インポッシブル』の大作戦
を、さらに一歩も二歩も進めたような感じのものだが、映画
版の『M:I』が個人プレイに特化してオリジナルのチーム
プレイの魅力を失ってしまったのに対して、本作は見事にチ
ームプレイの面白さ描いている。
しかも、政府が後ろ楯の『M:I』に対して、本作は個人事
業だからお金を奪わなければ話が完結しない訳で、その辺の
設定もしっかりと描かれている点にも感心したところだ。
ただし、今回の作戦にはかなり荒唐無稽な面もあって、多少
やり過ぎかなと感じる部分もあった。今回は納得できたが、
すでに“Ocean's Fourteen”も決定したという噂の中で、次
回はその辺のバランス感覚も問われることにはなりそうだ。
出演者では、紅一点にエレン・バーキン。彼女は『12』に
もカメオ出演していたが、上映版ではカットされたのだそう
で、今回の出演は再挑戦だそうだ。なお、登場しない前作ま
での女優陣に関しては、映画の前半などで何度も言い訳があ
るのも面白かった。

『厨房で逢いましょう』“Eden”
最近ブームになっている感じもする料理を題材にした作品。
実は、映画を見るまでフランス映画かと思っていたら、何と
ドイツ映画だった。ドイツで料理とは…と思っていたら、ち
ゃんとハンバーグステーキやソーセージも出てきたのには、
なるほどドイツだと思わせてくれて嬉しくもなった。
物語の主人公は、半年先まで予約で一杯というレストランの
シェフ。フランスで修業を積み、同じレストランにいた給仕
長と共に店を開いているが、彼の料理にはエロティック・キ
ュイジーンという異名がある。
そんなシェフが足繁く通うのは、とあるカフェ。そこで彼は
1人の女性を見初めているのだが、彼女はそのカフェの若き
主人の妻だった。しかし、幼い彼女の娘が取り持つ縁で、2
人は急速に接近し、彼が料理を研究する厨房で関係が育まれ
て行く。そしてそれが事件を引き起こす。
実は、物語は少々殺伐としたところもあって、ジャン・レノ
とジュリエット・ビノシェが共演した『シェフと素顔と、お
いしい時間』のようなロマンティックムード一杯の作品とは
行かないが、でも何となく心温まる結末には、ちょっとほっ
としたものだ。
脚本・監督のミヒャエル・ホーフマンは本作が3作目のよう
だが、本作ではロッテルダムとペサロの映画祭で観客賞を受
賞している。特にロッテルダムでは、5点満点で4.73点とい
う高い支持を受けたそうだ。
出演者は、シェフ役に監督の作品には常連のヨーゼフ・オス
テンドルフ。本人が美食家で「楽しむことに重きをおく」と
いう巨漢が、見事に役柄にマッチしている。一方、ヒロイン
役にはドイツで音楽番組などの人気司会者というシャルロッ
ト・ロッシェ。演技は全くの素人だそうだが、初々しさがこ
ちらも物語にマッチしていた。
なお監督は、「この映画は料理を見せるのが目的ではない」
としているが、複数のレストランガイドで「若くワイルドな
料理人」と賞賛され、2005年からは5星ホテルの料理長も務
めるフランク・エーラーが監修して、見事な創作料理が登場
する。
ただし、映画には「チョコ・コーラ・ソース」なるものが登
場してかなり気になったのだが、実はこれは監督の創作で、
エーラーからはふざけた代物だと怒られたそうだ。でも、映
画にはちゃんと登場していたようが。

『クレージーストーン〜翡翠狂奏曲〜』“瘋狂的石頭”
今年の2月20日付で紹介した『モンゴリアン・ピンポン』の
ニイ・ハオ監督による2006年の作品で、中国本土と香港では
歴史的な大ヒットを記録したということだ。
舞台は四川省重慶市。破産寸前の工場でトイレの解体工事中
に高価な翡翠のペンダントが発見される。そのペンダントは
破産寸前の工場を救えるか…?
そのペンダントを展示して一稼ぎを企む工場長と、再開発の
ためにその土地を買収しようとしている業者の確執や、その
警備に雇われた元刑事、業者の依頼でペンダントを狙うプロ
の盗賊、噂を聞きつけた地元のこそ泥グループなどが入り乱
れて騒動が勃発する。
家が立て込んで人口も多そうな重慶市。『モンゴリアン…』
の素朴な風景からは一転して都会的な、と言ってもアメリカ
や日本とはまた違った風景の中での物語、話は実に中国らし
いし、異国情緒とは違うが何か異世界を見るような、そんな
感じで楽しめた。
『モンゴリアン…』の紹介の時にも触れたように、アンディ
・ラウが進めているアジアの若手監督を抜擢するファースト
・カットシリーズの1本として製作された作品で、最初から
世界視野で製作されているものと思われるが、判りやすい物
語と適度のアクションは、ハリウッド的な作品とも言えそう
だ。
ハリウッド映画のパロディのようなシーンも登場して、それ
がまたことごとくドジを踏んで行くという展開は、かなり自
嘲的な面も感じられるが、これからハリウッドへも雄飛しよ
うとしている監督には、一種の挑戦状という意味も込められ
ているかも知れない。
なお、コカコーラの缶が未だにプルトップでステイオンでな
いのが意外というか、最近の日本映画でも登場したプルトッ
プ缶が、こういうところで調達できると判ったことは面白か
った。それにしても、プルトップに印刷された懸賞は一体な
んだったのだろう?
なお本作は、7月21日から東京新宿のK's cimemaで開催され
る「中国映画の全貌2007」で上映される。

『傷だらけの男たち』“傷城”
『インファナル・アフェア』を手掛けた監督アンドリュー・
ラウとアラン・マック、脚本A・マックとフェリクス・チョ
ンのトリオが、『インファナル…』のトニー・レオン、『L
OVERS』の金城武の共演で描く警官たちの物語。
金城扮するボンは、ある事件の犯人を検挙した日、長年の恋
人に自殺を遂げられる。その傷心で刑事を辞めたボンは、私
立探偵をしながら酒浸りの生活を続けていた。
そんなある日、警察時代の上司だったレオン扮するヘイの婚
約者の屋敷で、彼女の父親と執仕が惨殺される。その事件は
ほどなく屋敷から金品を盗み出した男たちが互いに殺しあっ
て発見され、事件は解決したかに見られたが…
『インファナル…』に続いて、すでにハリウッドで、レオナ
ルド・ディカプリオ主演によるリメイクも決定しているとい
う作品。物語は、事件の真犯人も早い内に明かされるが、何
故、彼がそのような犯罪を犯したのかという点で、謎が謎を
呼ぶ展開となって行く。その複雑かつ巧みな構成は、『イン
ファナル…』と同様に観客の心を鷲掴みにするものだ。
特に本作では、主人公2人を取り巻く男女の関係が見事な緊
張感を持って描かれており、正しく「傷だらけの男たち」の
哀しみが見事に描かれていた。
共演は、『トランスポーター』などで国際的にも活躍してい
るスー・チーと、昨年1月に紹介した『ウォ・アイ・ニー』
に主演していたシュー・ジンレイ。シューは、現代中国4大
女優の一人とも呼ばれているそうだが、1997年の『スパイシ
ー・ラブスープ』での初々しい演技も忘れられない。他に、
『頭文字D』などのチャップマン・トウ。
ラウ監督は、5月にハリウッド進出作『消えた天使』を紹介
したばかりだが、『風雲・ストームライダーズ』や『頭文字
D』なども含めて見事にジャンルの違う作品を描き挙げる。
基本的には男性を描くのが得意と思われるが、本作でもその
資質は見事に発揮されているものだ。

『パーフェクト・ストレンジャー』“Perfect Stranger”
ハリー・べリーとブルース・ウィリス共演のサスペンス。
べリーが演じるのは敏腕な女性事件記者ロウィーナ。今日も
政治家のスキャンダルをものにするが、その記事は上層部の
圧力によって握り潰され、その仕打ちに怒った彼女は職を辞
すことになる。
そんなとき、幼馴染みの女性が彼女にスクープを持ち込んで
くる。それはウィリス扮する大手宣伝会社社長ハリソン・ヒ
ルの不倫に関するものだった。そしてその幼馴染みが惨殺死
体で発見されたことから、物語は新たな局面を展開すること
になる。
匿名のチャットルームでの電子メール会話やセキュリティな
どITが絡む展開は、ニューヨークを舞台にして現代を象徴
するような物語を創り出す。一方、殺人にベラドンナが使わ
れたり、ロウィーナが身分を隠してヒルの会社に潜入、ヒル
に近づいて行くなど、古典的な展開も活用される。
しかもその展開では、主人公の恋人や協力者までもが、実は
裏切っているのではないかという疑念も生じさせて行く。人
は皆、隠したい秘密を持っており、その全てが明るみに出た
とき、事件は意外な真実を暴露する。
オリジナルの脚本はニューオリンズを舞台に描かれたものだ
ったようだが、ハリケーン災害の影響で舞台がニューヨーク
に移されたということだ。しかしこの舞台の変更は、現代人
の闇を描き出すには好適だったとも言える。
人々が自己を消して仮面で働き続ける大都会は、この物語に
最適な舞台だ。この舞台で、登場人物たちが何を隠し、隠そ
うとしているのか、その謎が一気に解かれる展開は、正に圧
倒される迫力で演出されていた。
監督は『摩天楼を夢見て』などのジェームズ・フォーリー、
脚本は『泥棒成金』のリメイクなども手掛けるトッド・コマ
ーニキ。
共演者では、ジョヴァンニ・リビシ、ゲーリー・ドーダン、
ダニエラ・ヴァン・グラス、ポーラ・ミランダ、ニッキー・
エイコックスらが一癖も二癖もあるキャラクターたちを演じ
ている。
なお、ヒルのオフィスのシーンは、グラウンドゼロに新築さ
れたビルで行われたもので、その景観は見事に映画にも写し
出されている。その他、最先端のレストランや、由緒あるグ
リニッジヴィレッジのバーなど、多彩なニューヨークの風景
も楽しめる。

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
     “Harry Potter and the Order of the Phoenix”
人気シリーズの第5弾。いよいよ宿敵ヴォルデモートが正体
を現し、最後の戦いへの火蓋が切られる。
原作を読んだのはもう数年前になってしまう訳だが、前作の
『炎のゴブレット』の辺りから物語はどんどんダークになっ
ており、正直、本作の読んでいたときには、後半の対決の部
分が延々続いて、いい加減に主人公たちを開放してやろうよ
と思ったりもしたものだ。
そんな、読了にかなり苦労させられた原作の映画化だが、さ
すが映画ではそのような苦労は感じさせず、実にスピーディ
に物語が進んで行く。しかも見せ場はバランスよくたっぷり
と描かれており、見事な映画化と感じさせるものだった。
もちろん、あれだけ分厚い本だから、映画化ではかなり省略
されている部分も多いが、原作を読んでいる自分としてはそ
れなりに満足できたし、恐らく原作を読んでいなくても、物
語の流れは理解できるように作られていると思えた。
物語は、ハリーが夏休み中のロンドン郊外の町でデスイータ
ーに襲われ、止む負えず魔法で撃退するところから始まる。
しかしそれがマグルの目の前であったことから、未成年者の
魔法使用の罰により魔法省からはホグワーツ退校処分が出さ
れるのだが…魔法省で行われるその査問会は、一学生の処分
のためには大袈裟な、実に不可解な開催となる。
そして、その査問会を切っ掛けに魔法省は新たな教師をホグ
ワーツに派遣、ホグワーツは異常な体勢へと変貌して行く。
この事態に危機感を持ったハリーたちは密かにグループを結
成し、学校が禁止した魔法防御の術を独自に学習して行くこ
とにするのだが…
今までは、特にダンブルドア校長の庇護のもと、どちらかと
いうと大人の思惑で動かされていたハリーたちが、いよいよ
自らの決意で行動を始める。原作では魔法省の動きなどがい
ろいろあって不明確だった物語のテーマが、映画化ではより
明確になっている感じもした。
その点では、特に若年の観客には感情移入もしやすい描かれ
方になっているし、その点は大人の読者にも納得して観ても
らえると思えるものだ。
なお、登場人物は前作を踏襲しているが、本作から新登場の
ルナ・ラヴグッドには、全くの素人のイバナ・リンチが選ば
れている。
1991年生まれのリンチは、実は原作の大ファンで、特にこの
キャラクターに親近感を持って自らオーディションテープを
作って製作者に送り付けたりしていたが、当然それは無視さ
れていたようだ。
しかしこの役の公募が始まったとき、彼女は両親を説得して
父親と共に空路ダブリンからロンドンに向かって15,000人の
応募者の列に並んだ。その最終選考には26人が選ばれたが、
キャスティングディレクターはすでにその時に彼女を第1候
補と考えていたそうだ。
前作から登場のチョウ・チャンを演じるケイティ・リューン
グも公募選出だが、今回のリンチのような行動をしたもので
はなく、実際、彼女は父親の勧めで応募したされている。こ
れに対してリンチの行動は特筆に値するもので、つまりリン
チは、初めて読者の代表としてこの映画に出演したというこ
とになるものだ。
残念ながら映画のルナは、原作ほど明確には描かれていない
が、プレス用に配られた資料には、ラドクリフ、ワトスン、
グリント、ゲーリー・オールドマンと並んで1枚写真が添え
られており、映画会社も注目しているようだ。
今回は他に、ベラトリックス・レストレンジ役で、ヘレナ・
ボナム=カーターも新登場している。
騎士団の隠れ家の出現も良い感じに描写されていたし、ロン
ドンを疾駆するシーンも美しく描かれていた。


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