井口健二のOn the Production
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2007年06月01日(金) 第136回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に前回積み残したこの話題から。
 前回は、ピーター・ジャクスン監督の次回作“The Lovely
Bones”について、その製作などの権利をドリームワークス
が獲得したことを報告したが、その報道から間なしに、今度
はジャクスンとスティーヴン・スピルバーグがシリーズ作品
の監督を共同で行うことを発表した。
 発表されたのは、ベルギーの漫画家ジョルジェス・レミが
ヘルゲの筆名で発表した世界的な人気コミックス“Tintin”
の映像化で、これをパフォーマンス・キャプチャーを使った
フルデジタル3Dアニメーションでシリーズ製作するという
ものだ。
 原作は、1929年に最初の作品が発表され、以来1976年まで
に全23巻が発表されたコミカル・アドベンチャーで、全世界
の累計発行部数は2億部以上、現在も毎年200万人の新規な
読者が誕生していると言われる大ベストセラーコミックス。
 スピルバーグは、このシリーズの映画化を25年以上も前か
ら希望していたもので、実は、昨年ドリームワークスがその
権利の獲得に成功、以来ジャクスンと共に密かに映画化の準
備を進めていたそうだ。また今年は、原作者の生誕100周年
ということで、その誕生日(5月22日)の直前に映画化の発
表が行われたものだ。
 そして発表された計画では、ジャクスンとスピルバーグ、
それにキャスリーン・ケネディが製作を担当し、全23巻の原
作の中から、彼らが3話をセレクトして、それぞれが1話ず
つを監督。3作目をどうするかは未定となっている。
 一方、ジャクスンが主宰するVFX工房ウェタでは、すで
に20分のテストフィルムを完成させており、それを鑑賞した
スピルバーグからは、「原作のキャラクターが、生物として
2度目の誕生を迎えた。従来のCGIを超えて、感情と魂が
感じられた」との賛辞が贈られている。また、ジャクスンの
発言では、「映像はフォトリアルなものになる」そうだ。
 原作のキャラクターは、ネットで検索すれば直ぐ出てくる
と思うが、それなりにデフォルメされた主人公が描かれてい
る。それをフォトリアルと言われてもピンと来ないところが
あるものだが、ジャクスンの発言によると「それは着衣から
髪の毛まで正にリアルで、しかもヘルゲのリアルさなんだ」
とのことだ。
 さらにスピルバーグは、「我々は最初この物語を実写で描
きたいと考えていた。しかしピーターも僕も、ヘルゲのキャ
ラクターを変えることは出来ないことに気がついた」とのこ
とで、それでこの手法が選ばれたようだが…。後の論評は、
作品を観るまで待つことにしよう。
 なお、スピルバーグは“Indiana Jones 4”の撮影を6月
に開始。一方、ジャクスンも“The Lovely Bones”の撮影を
今年の夏に行う予定だが、いずれも年内には完了の予定のも
ので、年末には2人揃って“Tintin”の映画化に取り掛かる
ことになりそうだ。
 製作はドリームワークス・アニメーションで行い、配給は
パラマウントが担当する。それにしても、結局のところは、
“The Lovely Bones”の契約は出来レースだったようで、参
加していたソニー、ワーナー、ユニヴァーサルにはちょっと
ショックな結末になったものだ。
        *         *
 『シュレック』シリーズでは声優としても大活躍している
マイク・マイヤーズが、第35回、第68回、それに第91回でも
紹介した1947年公開のダニー・ケイ主演の名作“The Secret
Life of Walter Mitty”(虹を掴む男)のリメイク計画に
参加することが発表された。
 このリメイクは、オリジナルの製作者の息子で『ミニミニ
大作戦』のリメイクなども手掛けたサミュエル・ゴールドウ
ィンJr.が権利を保有して何度も試みているものだが、最初
はジム・キャリーが主演を希望し、当時はニューラインの製
作でスティーヴン・スピルバーグやロン・ハワードらの監督
名も挙がったものの、結局実現はしなかった。その後はパラ
マウントで、『ミーン・ガールズ』などのマーク・ウォータ
ーズ監督が、オーウェン・ウィルスンの主演で計画を進めた
こともあったが、それも立ち消えになっている。
 その計画が今回は、ゴールドウィンJr.がパラマウントか
らフォックスに移籍したのを契機に再び動き出したもので、
脚本には『シンプソンズ』などのジェイ・クーガンが起用さ
れて準備が進められているものだ。因に今回の計画では、今
まで各主演者用に作られた脚本は全て廃棄され、マイヤーズ
用の脚本が新たに作られるとのことだ。
 ただし、マイヤーズの次回作には、“The Love Guru”と
いう作品が9月の撮影開始で決まっており、その後には、ロ
ジャー・ダルトリー製作で、The Whoのドラマー役を演じる
“See Me,Feel Me: Keith Moon Naked for Your Pleasure”
や、第110回で紹介の“How to Survive a Robot Uprising”
などの計画が目白押しになっている。さらに、前回報告した
“Austin Powers 4”の計画も、ジェイ・ローチ監督と初期
の話し合いが持たれたということで、この中から選ばれるの
は大変になりそうだ。
        *         *
 “Transformers”の実写映画化は、ドリームワークス製作
でこの夏公開されるが、同じく1980年代を席巻した玩具を映
画化する計画がワーナーから発表された。
 映画化されるのはマテル社から発売されていたアクション
・フィギアの“The Masters of the Universe”。実はこの
映画化については第74回でも1度紹介しているが、物語の設
定は、地球の中世にも似た魔法世界エターニアを舞台にした
もの。その国の王子が訓練の末に超能力を得て“He-Man”と
呼ばれるヒーローとなり、スケルターと名告る悪漢が率いる
悪の軍団との戦いを繰り広げるというものだ。
 そしてこの玩具シリーズからは、1980年代以降に4本の異
なるテレビアニメシリーズが製作された他、1987年にはドル
フ・ラングレンのHe-Man、フランク・ランジェラのスケルタ
ー役で、ジャンル映画のメッカだったキャノン・フィルムス
による映画化も行われた。
 さらに同じ題材から、以前の紹介ではジョン・ウー監督に
よる計画が発表されていたものだが、2004年に立上げられた
この計画は、映画製作者とマテル社との間で意見が合わずに
頓挫。その権利関係の契約が失効するのを待っての、今回の
発表となったようだ。
 なお、今回の計画では、第133回で紹介した“Super Max”
(“Green Arrow”の映画化と呼ぶ方が通りが良いようだ)
も手掛けるジャスティン・マーカスが脚本を担当。物語の原
案は、マーカスとニール・エリスという製作者が提案したも
ので、これにアンディ&ラリー・ウォシャウスキー監督によ
る“Speed Racer”を製作中のジョエル・シルヴァが反応し
て、実現となったものだ。
 また、シルヴァからは、『300』にも採用されたVFX
テクノロジーを使って、古典的な正義と悪の戦いを描くとい
う提案がマテル社に出され、さらにシリーズ化も視野に入れ
た物語を構築するとして了承を得たとされている。
 一方、この計画に関しては、かなり早い時期からインター
ネット上で噂が盛り上がったということで、それだけ関心の
高さが伺われるようだ。因に、玩具シリーズの発売は1980年
代末に中断されたものだが、マテル社では映画化に合せて再
発売する計画も進めているそうだ。
        *         *
 続いてもシルヴァ=ワーナーの情報で、『フロム・ヘル』
などのアレン&アルバート・ヒューズ兄弟による、2001年の
同作以来となる監督計画が発表された。
 作品の題名は、“Book of Eli”。ゲイリー・ウィッタと
いう人のオリジナル脚本に基づくもので、最終戦争後の世界
を舞台に、人類を救済する1冊の神聖な本を守ってアメリカ
各地を旅する孤独なヒーローの姿を描くということだ。テー
マは多少アナクロな感じもしないでもないが、アメリカ人は
いつまでたってもこの手の作品が好みのようだ。
 なおヒューズ兄弟は、最近では“The Ice Man”や、往年
のテレビシリーズを映画化する“Kung Fu”の監督にも名前
が挙げられたが、いずれもまだ実現に至っていない。しかし
本作に関しては、シルヴァはすでにキャスティングの準備を
進めており、監督が主演俳優を決定すれば、今年末にも製作
に掛かれるとのことだ。
 前作『フロム・ヘル』では、アラン・モーア、エディ・キ
ャンベル原作のグラフィックノヴェルを基に、19世紀末のロ
ンドンを構築して魅せた兄弟が、今度はどんな終末世界を描
くか楽しみだ。
        *         *
 最初の記事でも触れたが、いよいよ撮影開始が目前となっ
た“Indiana Jones 4”について、少しずつ情報が流れてき
ている。
 それによると、まず物語は第2次大戦後の1950年代を背景
にしているようだ。そして、インディの息子役として新たに
キャスティングされたシーア・レイビオフは10代でバイクを
乗り回す暴走族という設定。また物語にはエリア51とソ連
のスパイも絡むということだ。
 さらに脚本はデイヴィッド・コープが執筆したものだが、
その内容には先にフランク・ダラボンが提案した内容も加味
されているとのこと。そして題名は、“Indiana Jones and
the City of the Gods”になるとされている。
 基本的な設定は大体予想通りという感じだが、ここからの
展開がどうなっているかがお楽しみだ。なお“The Mummy”
と同様、こちらも主人公が代替わりしてのシリーズ継続の噂
もあるようだが、さてどうなりますか。
        *         *
 第133回で紹介したブライアン・シンガー製作監督による
第2次大戦秘話の映画化について、題名が“Valkyrie”と報
告され、トム・クルーズの主演に続いて、ケネス・ブラナー
の共演が発表された。
 ブラナーが演じるのはドイツ人将校の役で、クルーズが演
じる主人公の指導者となってヒトラー暗殺を計画する…とい
う物語になるようだ。因に、クリストファー・マクアリーと
ネイザン・アレクザンダーの共同で執筆された脚本は、実話
に基づくとされている。
 なお、ブラナーは、監督としてマイケル・ケイン、ジュー
ド・ロウ共演による“Sleuth”のリメイクを撮り終えたとこ
ろ。一方のクルーズは、ロバート・レッドフォード監督によ
る“Lions for Lambs”に続いて、UA作品に主演すること
になる。
 これでクルーズは、ポーラ・ワグナーがトップとなってか
ら計画が承認されたUAの2作品に、共に主演することにな
った。まあ監督の希望があるなら仕方がないが、そろそろ他
の人の情報も聞きたいところだ。
 撮影は7月19日にベルリンで開始される。『M:I 3』の時
は、予定されたベルリンロケがキャンセルされたが、今度は
大丈夫かな。
        *         *
 ソニー傘下スクリーン・ジェムズから、“Armageddagain:
The Day Before Tomorrow”と題するディザスター映画のパ
ロディの計画が発表された。
 この作品は、先に“Pearl Harbor II: Pearlmageddon”と
いう作品を発表したロバート・モンヨーとトラヴィス・オー
ティスの脚本に同社が契約を結んだもので、内容は…一朝一
夕に紹介できるものではないようだ。
 モンヨーの脚本、監督、編集による前作は、たった2日間
の撮影で作られたものだそうだが、それが注目されて今回の
契約に結びついたとすれば大したものだ。スクリーン・ジェ
ムズは、ソニーピクチャーズがジャンル向けに設立したブラ
ンドだが、契約を結んだとなればそれなりのバックアップも
するのだろうし、それなりの期待は持ちたいところだ。
        *         *
 続いてもディザスター映画の話題で、最近“Barbarella”
の話題を何度も紹介しているディノ&マーサ・デ=ライレン
ティスから、フランク・シャツィング原作でベストセラーを
記録した“The Swarm”という作品の映画化を、ドイツの製
作チームと進めることが発表された。
 この作品は、大洋底に密かに暮らしていた異星人が、人類
による汚染で環境システムが崩壊した後に、人類を抹消する
計画を進めていることが明らかになるというもの。そしてそ
れを回避するための科学者の奮闘が描かれるというお話で、
製作者たちは、『デイ・アフター・トゥモロー』のスケール
の映画化を目指すとしている。脚本は、『羊たちの沈黙』で
オスカー受賞のテッド・タリーが担当する。
 “The Swarm”という題名では、1978年にアーウィン・ア
レンの監督で、殺人蜂が登場するオールスターキャストによ
るディザスター映画(邦題:スウォーム)が製作されている
が、今回の計画とのつながりはなさそうだ。従って、今回の
計画で題名の使用がどうなるかは不明だが、今回は同じ題名
の原作がベストセラーということでは、多少問題になりそう
だ。もっともアレン作品の評価はかなり低いので、下手にこ
の題名を使わない方が良いような気もするが。
        *         *
 それから“Barbarella”の続報で、監督をロベルト・ロド
リゲスが担当して、2008年にユニヴァーサル配給で公開する
ことが発表された。以前の紹介では、別の監督で脚本とキャ
スティングが決まってから配給会社を選ぶとしていたが、ロ
ドリゲス監督の決定で、一気に配給会社まで決まってしまっ
たようだ。
 因にロドリゲスは、「僕はこのキャラクターが昔から好き
だった。このキャラクターと彼女の活躍する宇宙を、新しい
観客たちに紹介するチャンスを貰えたことに、本当に興奮し
ている」と抱負を述べている。
 ただし、デ=ラウレンティス側は、モロッコに買収した撮
影所でこの作品の準備を進めていたはずだが、ロドリゲスは
テキサス州オースティンに自前の撮影所を持っていて、最近
はそこで製作を続けているもので、その辺の調整がどうなる
か、今後がちょっと気になるところだ。
        *         *
 次もディザスター映画なのかな…パラマウントとニッケル
オディオンで、“2012”という計画が進められている。
 この作品は、マヤの古代の暦では2012年12月21日以降の記
載がないという「事実」に基づいて考えられたもので、アメ
リカでは、実際この日で世界が終わるとして終末論を唱える
人たちもいるということだ。そして物語は、2012年の12月に
ヴァケーションに出掛けた一家が、世界の終わりを思わせる
数々の出来事に遭遇するというもの。『ノストラダモスの大
予言』のようなことになるようだ。
 映画化は、『シャンハイ・ヌーン』などのトム・デイ監督
が、先に発表した“Failure to Launch”の脚本家コンビ=
トム・アステル、マット・エムバーと再び組んで進めている
もので、デイ監督としては別の作品の企画が出てくる前にこ
の作品に取り掛かりたいとしている。
 因に、アステルとエムバーのコンビは、ワーナーで製作中
の“Get Smart”の脚本も手掛けており、さらにワーナーで
プレプロダクションが進んでいるDVD用のスピンオフ企画
“Get Smarter: Bruce and Lloyd Out of Control”の脚本
も担当しているそうだ。
        *         *
 次は、若年向けのファンタシーの情報で、ワーナーから、
“Skulduggery Pleasant”という新しいシリーズの映画化権
を契約したことが発表された。
 この作品は、デレク・ランディという、以前はホラー映画
の脚本家だったされるアイルランド人の新人作家のデビュー
作で、この後には全9巻のシリーズ化が計画されているとい
うことだ。
 お話は、現代のダブリンを舞台に、頭蓋骨の研究家とその
若い女性のアシスタントが、その研究で判明したFaceless
Onesと呼ばれる悪魔の復活を阻止しようとするもの。この設
定には、ハリー・ポッターと「名前を呼んではいけない人」
との関係を思わせるところもあるが、この映画化権は、数社
との争いの末にワーナーがロンドンに新たに設立した製作拠
点が獲得したということだ。
 内容的には、かなりダークなウィットに富んだものという
ことだが、ランディの以前の脚本には“Boy Eats Girl”や
“Dead Bodies”という題名が並んでいるそうで、ダークな
ウィットに富んだ作品ではあるようだ。ランディは今回の映
画化の脚本も手掛けるようだが、ハリウッド大作になるよう
に頑張ってもらいたい。
 なお、原作本は英語圏では4月に発売され、現在25ヶ国へ
の翻訳が契約されているそうだ。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 ブレット・ラトナー監督と、ミュージシャンのクインシー
・ジョーンズが、リオのカーニヴァルを3Dで撮影する計画
を発表した。この計画は、“Carnaval 3D: The Magic & the
Music”と題されているもので、最新の3D技術を使って、
カーニヴァルの全貌を描くものになりそうだ。撮影は今秋に
開始され、公開は2008年後半が予定されている。また撮影は
ニューオリンズでも行われるそうだ。
 以前のこの手の3Dの撮影はIMaxで行われることが多く、
かなり大掛かりな撮影になってしまっていたが、最近のリア
ルDシステムなら、機材も簡単になっているようで、これか
らこの種の3D映画の公開は増えそうだ。
 一方、IMaxではクリストファー・ノーラン監督が、“The
Dark Knight”の撮影の一部をラージフォーマットで行うこ
とを発表している。これは、『バットマン・リターンズ』の
続編の中で、ジョーカーの登場を含む4つのアクションシー
ンをIMaxで撮影するというものだ。もちろんIMaxで撮影され
ても、一般の映画館では通常フィルムになってしまうものだ
が、IMax館では精細な画面が楽しめることになる。3Dかど
うかは不明だが、長編の劇映画でIMaxカメラが使用されるの
は初めてになるようで、その試みは注目を集めそうだ。
 第134回で、ニール・パーヴィスとロバート・ウェイドが
執筆を終えたと報告した“Bond 22”の脚本で、『カジノ・
ロワイヤル』と同様、ポール・ハギスのリライトが入ること
になった。前作もそれで成功したのだから、今回も同じ方法
を採るのは当然だが、一体ハギスの筆はどのくらい入ってい
るのか、興味の湧くところだ。
 最後に“Shrek”について、シリーズはこの後、2010年に
第4作が作られ、さらに第5作が作られて、多分それが最後
になると、製作者のジェフリー・カツェンバーグが発言して
いる。元々このシリーズでは、第1作の来日記者会見の際に
カツェンバーグが、全体は4部作になると発言していたもの
だが、いつのまにか1作増えることになっている。その辺の
事情がよく判らないが、とにかくシリーズは5話まで続くよ
うだ。


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井口健二