井口健二のOn the Production
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2007年04月15日(日) 第133回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は記者会見の報告から。
 『ブラッド・ダイヤモンド』の日本公開に合せて、出演の
ジェニファー・コネリー、ジャイモン・フンスー、監督のエ
ドワード・ズウィックの記者会見が行われた。なお、主演の
レオナルド・ディカプリオは、『ディパーテッド』で来たば
かりだからというのではなく、彼自身が製作している異常気
象をテーマにしたドキュメンタリー撮影のためスケジュール
が取れなかったのだそうだ。
 その会見で、主催者側から「何でもいいから質問してくだ
さい」との要請もあったので質問を試みた。そこで僕が聞い
たのは、「なぜアフリカでの撮影に拘わったのか」というこ
とだ。反政府組織の実態なども描くこの作品では、現地での
撮影は危険が伴うのではないかということを聞いてみた。
 それに対するズウィック監督の答えは、「撮影を行ったモ
ザンビークは、すでに政情も安定していて撮影中に危険なこ
とは一度もなかった。しかし、この国は現在アフリカでも最
も貧しいと言っていいところだ。そこに撮影隊が行くと、計
算上で5000万ドルの経済効果があるという見込みがあった。
この国にその経済効果は極めて大きい」というものだっだ。
 実は上記の質問では、言葉にはしなかったが「前作『ラス
ト・サムライ』は、日本ではなくニュージーランドで撮影し
たのに…」という気持ちもあった。従って監督には、それを
見事に見透かされたような回答をされてしまったというとこ
ろだ。正直に言って前作の海外ロケには、見るからに日本で
はない地形や植生などに不満もあったのだが、経済効果まで
言われると、納得せざるを得ない。別段、ニュージーランド
が貧しい国ということではないが…
 さらに今回の作品に関して、「映画の公開前と後とでは、
ダイヤモンド販売会社のキャンペーンなどに明らかな変化が
見られる」と胸を張って話す監督には、これからも注目せざ
るを得ないようだ。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、『リトル・ミス・サンシャイン』でアカデミー賞
助演女優賞にノミネートされたアビゲイル・ブレスリンが、
主演女優賞を2度受賞のジョディ・フォスターと共演する計
画が進められている。
 この計画は、ウェンディ・オーとケリー・ミラードの原作
によるファンタジー小説“Nim's Island”を映画化するもの
で、物語は、科学者の父親に同行して南太平洋の孤島を訪れ
た少女を主人公にしている。ところがある日、父親が海で行
方不明になってしまう。そして一人残された少女は、読んで
いた本の登場人物と無線で連絡を取るようになるが…という
お話。ブレスリンがその少女を演じることになるものだ。一
方、フォスターは本の登場人物ということになりそうだが、
これがちょっと捻った設定のようだ。
 ジョセフ・クウォンとポーラ・メイザの脚色で、ジェニフ
ァー・フラケットとマーク・レヴィンの共同監督。製作は、
『ナルニア』シリーズなどのウォルデン・メディア。今年の
夏に撮影予定とのことだ。
 因に、フォスターが『タクシー・ドライバー』で助演女優
賞候補になったのは14歳の時だが、11歳で候補になったブレ
スリンとの共演はどんな気持ちだろうか。それにしても、ブ
レスリンは、あの体形で絶海の孤島でのサヴァイヴァルとい
うのは、ちょっとイメージが湧かないのだが…
 なおブレスリンには、その前に“American Girl”という
作品への主演も発表されている。この作品は、すでに展開さ
れている人形を中心にした玩具のシリーズからインスパイア
されたもので、お話は1930年頃の大恐慌時代を背景に、不況
に苦しむ家族を救うために活躍するキット・キッターリッジ
という少女を主人公にしたもの。こちらの作品は、内容的に
『リトル・ミス…』と共通するところがありそうだ。
 “American…”は、ピクチャーハウスとHBOの共同製作
で、脚本は、『ナルニア国物語第1章・ライオンと魔女』の
アン・ピーコック。監督は未発表だが、6月4日に撮影開始
となっている。
        *         *
 『チキンリトル』のディズニー、『モンスターハウス』の
ソニーに続いて、ドリームワークス・アニメーション(DW
A)も作品の3D化に乗り出すことを表明した。しかも発表
では、2009年以降に同社が公開する全ての作品を3D化する
という計画が報告されたものだ。
 また、同社CEOのジェフリー・カツェンバーグの説明に
よると、作品は上記の2作品のように後処理で3D化するの
ではなく、当初から3Dのコンセプトで製作を行うもので、
「そのクォリティは、後からの3D化とは比べものにならな
い」としている。さらにその第1弾として、昨年第123回で
紹介した“Monsters vs. Aliens”を、今年の春から製作に
取り掛かるとのことだ。
 そしてこの製作に当っては、『モンスター…』で製作総指
揮を担当したジェイソン・クラークと、『チキン…』と3月
に公開された新作“Meet the Robinsons”でも3D化の技術
を担当したフィル・マクナリーの2人がすでにDWAに移籍
して、製作の全般を指導することになっており、準備は万端
整っているようだ。
 因に、アメリカの映画館の3D化の状況は、3月公開のデ
ィズニー作品“Meet…”では全米600スクリーンでの上映が
行われており、2009年までには1000スクリーンを超えること
は確実と見られている。さらに今年秋にはパラマウント配給
の“Beowulf”が公開。来年はニューライン配給でリアルD
では初の実写作品となる“Journey 3-D”、そして2009年に
は、ジェームズ・キャメロン監督の“Avatar”の公開も予定
されているもので、3Dは潮流としてしっかりと定着するも
のになりそうだ。
 ただし、今回の発表でも、リアルD以外のスクリーン用や
DVD、テレビ用に2D版も並行して2ヴァージョンの製作
を行うとしており、3D化の進まない国では2Dでの上映が
行われることになる。日本も現状では、関東地区以外はその
状況にあるものだ。
 一方、DWAでは、第123回で紹介したように、今年5月
公開の『シュレック3』の後は、“Bee Movie”が11月2日
の全米公開。また来年は5月23日に“Kung Fu Panda”と、
11月7日に“Madagascar”の続編となっており、ここまでは
2Dということになる。
 そして、2009年5月22日公開の“Monsters…”の後には、
“How to Train Your Dragon”が11月22日の公開予定。さら
に2010年の夏に“Puss'n Boots”となりそうだが、これらが
全て3Dで製作されることになる。この他、同社では“Punk
Farm”と“Shrek 4”も2009年以降に予定されており、特に
シリーズ最終作の“Shrek 4”には期待が増すところだ。
        *         *
 ところで、第123回の記事ではもう1本、アードマン製作
による“Crook Awakening”という作品が予定されていたも
のだが、実は、アードマンとDWAの契約は今年1月に失効
し、配給契約も解除されていた。そのアードマンに対して、
今度はソニー・ピクチャーズとの間で3年間の優先契約を結
んだたことが発表され、今後は同社からの配給が行われるこ
とになっている。
 因に、アードマンとDWAの関係では、最初の『チキン・
ラン』は配給のみで、その後に契約が結ばれて『ウォレスと
グルミット』『マウスタウン』が製作されたものだが、この
内の『ウォレス…』は、製作費5000万ドルで2億ドル近い興
行成績を上げたのに対して、初のオールCGI作品となった
『マウスタウン』では、製作費が1億3000万ドルに対して興
行収入は1億7800万ドルに留まったということで、満足が得
られなかったということだ。
 一方、アードマン側からしてみると、年間2本ずつを公開
するDWAのスケジュールで、指定された期日に合せること
が難しかったという問題もあったようだ。これに対しソニー
では、年間20本を公開する同社のスケジュールの中で、適当
な時期に合せればいいもので、期日管理に制約がほとんどな
いことになる。これがイギリス流の製作にはマッチしている
とのことだ。
 従って、今回の契約でソニーから配給されるアードマン作
品の具体的なスケジュールなどは発表されていないが、アー
ドマンでは現在4つの脚本が製作の準備段階にあるというこ
とで、その内の1本は“Crook Awakening”と思われるが、
その他にニック・パーク監督による“Wallace and Gromit”
の新作長編の計画も進められているようだ。
 なお、上の記事で紹介したように、DWAでは全作品の3
D化を計画しているものだが、CGIと違ってアードマンの
クレイアニメーションの3D化には、撮影機材そのものから
変更を要求される。その辺の問題も今回の契約問題に絡んで
いたのかも知れない。
 元々、立体アニメーションとも呼ばれていたクレイや人形
アニメーションは、本来なら3D映像には最適なものだが、
実際は、カメラの3D化などが容易ではない。これを3D化
するには、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』で行われ
た後処理での3D化の方が簡単にも思えるものだ。
 それに絡めて、短い情報なので一緒に報告しておくと、テ
ィム・バートン監督がディズニーで製作した最初の人形アニ
メーション作品“Vincent”の3D化が実施され、アメリカ
では今秋の『ナイトメア…3D』の再公開に併映されるそう
だ。
        *         *
 トム・クルーズとポーラ・ワグナーが昨年11月にユナイテ
ッドアーチスツ(UA)のトップとなってからの最初の作品
は、ロバート・レッドフォード監督の“Lions for Lambs”
がすでに始動しているが、それに続く第2弾として、ブライ
アン・シンガー監督による題名未定のオリジナルスリラーの
計画が発表された。
 この作品は、脚本を、シンガー監督の出世作『ユージアル
・サスペクツ』を手掛けたクリス・マクアリーが執筆したも
ので、内容は第2次大戦を背景にした集団劇とされている。
それ以上の内容は明らかにされていないが、シンガーは昨年
末にマクアリーからこのアイデアを聞かされ、クリスマス休
暇の間を掛けて2人で物語を練り上げたものだそうだ。
 そしてシンガーとマクアリーは、出来上がった企画を最初
にUAに持ち込み、直接クルーズ/ワグナーにプレゼンした
のだそうで、それに対しその場でゴーサインが出されたもの
だ。これについてワグナーは、「ブライアンもクリスも最高
の才能の持ち主。その2人の作品を第2弾に選べたことに、
トムも私も最高の興奮を覚えた」とコメントしている。
 一方、シンガーは、「作品の内容は、UAで映画化するの
に最適なものだと考えた。歴史上の物語はいつも自分を魅了
するが、その中から我々は、素晴らしい脚本となり得る最高
に興味を引かれる出来事を見つけ出した」とのことだ。撮影
は今年の夏に開始される。
 ただし、これが動くとワーナーが期待している“Superman
Returns”の続編に遅れが懸念されるが、元々シンガーは、
その前に小規模作品を撮りたいとしていたもので、以前には
ワーナーで“The Mayer of Castro Street”などの計画も発
表されており、その替りということなら問題はなさそうだ。
 なおUAは、投資会社のメリル・リンチから総額4億ドル
の資金提供を約束されており、年間4〜6本の映画製作を進
める計画ということで、この他にもスタンリー・アルパート
原作による“The Birthday Party”など、複数の計画が検討
されている。その中で、レッドフォード作品が第1弾として
今年11月9日の公開に向けて進められており、シンガー作品
がそれに続くものだ。公開は、ソニー傘下のMGMの配給で
行われる。
        *         *
 『もしも昨日が選べたら』などのアダム・サンドラーが、
ディズニーで進められているアダム・シャンクマン監督によ
るファミリーコメディに主演することが発表された。
 “Bedtime Stories”と題されたこの作品は、サンドラー
扮するしつこいことだけが取り得の不動産営業マンの主人公
が、甥と姪にいい加減なベッドタイムストーリーを語って聞
かせたところ、それが現実となって、彼の生活が真っ逆様に
なってしまうというもの。マット・ロペスのオリジナル脚本
を、今年の初めにディズニーとシャンクマンが契約し、その
計画にサンドラーが参加するものだ。
 なお、サンドラーは1998年『ウォーターボーイ』に主演し
ているが、この作品はタッチストーンの名義だったもので、
ディズニー本家の作品に出演するのは初のようだ。
 またシャンクマン監督は、現在は7月20日の公開に向けて
ニューライン製作のミュージカル作品“Hairspray”のポス
トプロダクションを行っている最中で、本作はそれが完了し
てから今年後半の撮影予定になっている。
 サンドラーもシャンクマンも、アメリカではヒット作を連
発するコメディの名手だが、その2人が組むとどうなるか、
アダム+アダムのコンビネーションにも期待したい。
        *         *
 またまたレオナルド・ディカプリオの主演作の計画が発表
された。
 今回の作品は“Body of Lies”という題名で、昨年3月に
ワシントンポスト紙コラムニストのデイヴィッド・イグナチ
ウスが公表し、当時は“Penetration”の題名で呼ばれてい
た原作をワーナーが契約。『ディパーテッド』のウィリアム
・モナハンの脚色、リドリー・スコット監督で進められると
いうものだ。
 物語は、中東のヨルダンを舞台に、元ジャーナリストから
CIAのエージェントに転職したという主人公が、地元の諜
報機関のチーフと共にアメリカ攻撃を狙うアル・カイダの幹
部を追うというもの。物語の背景が9/11の前か後かで、意
味合いがかなり違ってきそうだが、中東が舞台のスパイもの
では、2005年の『シリアナ』などもあって注目度も高く、そ
こにスコットの監督なら面白くなりそうだ。
 なおスコットとモナハンは、先に発表された『キングダム
・オブ・ヘブン』と、まだ映画化されていない“Tripoli”
という中東が舞台の作品も進めており、本作はその流れの中
の作品とのことだ。そしてスコット監督は、すでにモロッコ
で撮影地のスカウウティングを進めているとのことで、それ
が進むと実現はかなり早くなりそうだ。撮影は、ヨーロッパ
やワシントンDCでも予定されている。
 一方、前回紹介したサム・メンデス監督作品は、撮影が早
まって4月開始になることが発表されており、そのスケジュ
ールなら、ディカプリオが秋以降にスコット作品に入ること
は、問題なさそうだ。ディカプリオも次々問題作に出演する
注目の俳優になってきたものだ。
        *         *
 第109回で紹介したスティーヴン・キングの息子ジョー・
ヒルが発表した長編小説“Heart-Shaped Box”の映画化を、
『クライング・ゲーム』のニール・ジョーダンの脚色と監督
で進めることが発表された。
 この原作は、以前に紹介したように、歌手の主人公がeBay
で幽霊を購入してしまい、彼自身の過去にまつわる幽霊と悪
魔の攻撃に晒されるというお話。実は以前の紹介の当時は、
短い概要と最初の山場の文章だけが公開され、それに製作者
のアキヴァ・ゴールズマンとワーナートップのケヴィン・マ
コーミックが注目して映画化権が契約されたものだ。また、
その後に完成された小説は今年2月に出版されたようだ。
 一方、ジョーダン監督は、1996年『マイケル・コリンズ』
などIRAを描いた社会的な作品が代表作に挙げられるが、
元はと言えば『狼の血族』など幻想的な作品も得意としてい
たもので、その点では今回の様な内容の作品も問題はなさそ
うだ。どのような映画になるか楽しみにしたい。
 なお、ジョーダン監督の最新作は、ジョディ・フォスター
主演の“The Brave One”という作品が9月14日にワーナー
から全米公開の予定になっている。
        *         *
 今回はワーナーの情報が多くなっているが、次はコミック
ブックの映画化で、ジェームズ・ターナーという作家が、ス
レイヴ・レイバー・グラフィックスという出版社から発表し
ている“Rex Libris”という作品の映画化権を獲得し、この
作品の脚色に、『マダガスカル』や『チキンラン』のマーク
・バートンと契約したことが発表された。
 原作の物語は、貸し出し期限を過ぎたり、盗まれたりした
書籍を追跡する図書館員のグループが、暗黒界の勢力と闘い
を繰り広げるというもの。題名になっているのは、そのリー
ダーの名前で、彼は世界の知識を守り、危険な秘密が悪の手
に落ちるのを防いでいるということだ。これに、いろいろな
図書館の機能や秘密兵器なども飛び出してくるようだが、何
となくバートンが脚色に選ばれたのが判るお話のようだ。
 映画化が実写かアニメーションかも明確ではないが、製作
はモザイク・メディアで進められる。なお、アメリカの紹介
記事では、コメディック・アクション・アドヴェンチャーと
いうジャンル分けになっていた。
        *         *
 もう1本ワーナーで、『バットマン』の復活にも関った脚
本家のデイヴィッド・ゴイヤーが、“Super Max”と題され
たコミックスヒーロー物の製作を行うことになった。
 この作品は、かつてグリーン・アロー(1940年代に誕生し
たゴールデンエイジのヒーローの1人)と呼ばれたが、現在
は特別な牢獄に幽閉され、能力も奪われているスーパーヒー
ローの物語。ジャスティン・マークスという脚本家のオリジ
ナルアイデアに基づくもので、マークスが脚本を書くことも
決まっているようだ。
 そして物語は、最初は普通のコミックスの映画化のように
始まり、その後、徐々にグリーン・アローの本来のアイデン
ティティに迫って行くということで、その展開の中には、過
去にグリーン・アローが捕えて牢獄に送り込んだ悪人との再
会などもあるとのことだ。
 因にゴイヤーは、フォックスで進められているダグ・リー
マン監督の“Jumper”の脚本を担当している他、ディメンシ
ョンでダレン・リー・ボウスマンが監督する“Scanners”の
リメイクの脚色も契約している。さらに、スパイグラスから
4月27日に公開される“The Invisible”では、『ブレイド
3』以来の監督にも再挑戦しているようだ。
 一方、脚本家のマークスは、“Voltron”という脚本の執
筆の他、第123回で紹介した“Street Fighter”の映画化の
脚色も手掛けているものだ。
        *         *
 最後に、『ダ・ヴィンチ・コード』の前日譚“Angels &
Demons”の主人公ロバート・ラングドン博士役にトム・ハン
クスが再登場の契約をしたことが報告された。これで、第2
作の製作がかなり実現性を帯びてきた訳だが、因にこの映画
化が実現すると、ハンクスはハリウッドの出演料で新記録を
樹立することになるという情報もあるようだ。


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井口健二