井口健二のOn the Production
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2007年03月31日(土) ドリーム・クルーズ、ABonG、不完全なふたり、プレステージ、ストリングス、ハリウッドランド、Academy

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ドリーム・クルーズ』“Dream Cruise”
2005年に、ロジャー・コーマン、ジョージ・A・ロメロ、ト
ビー・フーパーらが顔を揃え、日本からは三池崇史監督が参
加して製作されたホラーアンソロジーMasters of Horrorの
第2弾シリーズの1篇。
今回、海外の監督の顔ぶれがどのようになっているかは知ら
ないが、日本編は『リング0』や『案山子』などの鶴田法男
が担当した。なお、本作はアメリカでは1時間枠のテレビで
放送されるが、その他の国向けに約90分の劇場版が作られて
いるものだ。
原作は、鈴木光司の『仄暗い水の底から』に収載された「夢
の島クルーズ」。謎の海域に漂う小型船の中での男女の葛藤
と、そこに現れる怨念の化身を巡る物語が展開する。
主人公は、東京の法律事務所に勤務するアメリカ人弁護士。
彼はロングアイランドの出身だが、子供の頃の海に纏わるト
ラウマがあり、今でも時々その幻影に襲われている。
そんな彼の日本人のクライアントがトラブルに巻き込まれ、
その善後策を講じるための話し合いを求めるが、クライアン
トの男は彼をマリナーへと招く。そこにはクライアントの妻
も呼び出されていた。実は、弁護士とクライアントの妻とは
不倫関係にあったのだ。
そのことを知ってか知らずか、クライアントの男は2人を夜
のクルージングへ誘い出す。そしてクルーザーがとある海域
に来たとき、突然スクリューが停止する。
作品の成立上、出来るだけ英語の台詞で物語が進むことが求
められたということだが、その点でこの展開は、クライアン
トの男もその妻も弁護士との会話はほとんど英語を使うこと
になるので、うまく処理されている感じがしたものだ。
その日本人の夫婦役を、子供時代をニューヨークで過ごした
という木村佳乃と、アメリカ映画に出演経験のある石橋凌が
演じ、またアメリカ人弁護士役には『スパイダーマン2』に
メリー・ジェーンの婚約者役で出演したダニエル・ギリスが
扮している。木村佳乃には、ようやくこういう仕事が回って
きたということでは喜ばしいことだ。
それにしても、1時間枠のテレビということでは、正味は50
分以下だと思われるが、本編88分の一体どこがカットされる
のか、それにも興味が湧くところだ。

『ABonG』
20世紀初頭にフィリピンに渡った日本人の子孫たちの物語。
この日本人たちは、当時道路建設工事のために2500人ほどが
労働者として渡ったもので、過酷な工事中に500〜700人ほど
が病気や事故で亡くなったともいわれるが、工事の終了後に
は多くの人々が現地に残り、現地の女性と結婚して家庭を築
いたということだ。
そして第2次大戦前にはバギオ市周辺に日本人町も作られた
ようだが、戦時中は、進駐した日本軍にもアメリカ軍にもス
パイと疑われ、苦労をしたとされる。しかも、現在はその存
在はほとんど忘れられ、子孫には何の保障や援助もないとい
うものだ。
そんな日系人にスポットを当てた作品。監督の今泉光司は、
日本大学芸術学部卒、卒業後はCM製作や、小栗康平監督の
助監督なども務めた後、1992年にバギオを訪れ、1996年には
生活基盤もバギオ移し、そこを本拠としてこの作品を作り上
げたという。
因に、バギオは、標高1500mの高地にあり、年間平均気温が
20度前後という暮らしやすい場所で、本作の舞台となるのは
さらにそこから奥地に入ったところのようだが、村の周囲の
ジャングルには食べられる植物が自生し、その採集だけでほ
とんど生活できるそうだ。
そんな地上の楽園みたいな場所が舞台の物語だが、主人公は
そこを脱出して都会で暮らそうとし、そのため妻は日本に出
稼ぎに行こうとするが、パスポートの偽造で日本の土を踏め
ないまま送還されてしまう。そして斡旋業者からの借金が残
ってしまうという展開だ。
さらに、そこに自生している食用植物の知識を広めようとす
るヴォランティアの男女や、ソーラーパネルを売りつけよう
とする業者や、いろいろな要素が入ってくるが、実際のとこ
ろはそれぞれの関連は希薄で、ちょっと観ていて混乱してし
まったところだ。
内容が内容なだけに、あまり批判する人はいないというか、
観た人の大半は誉めていることと思うが、正直なところは、
映画として日系人問題を描きたいのなら、もっと物語をそこ
に集中させて、明確に語って欲しかったとも言いたい。
ただし、サブストーリーの部分では、論争や解説的な台詞な
どもいろいろあって、監督の言いたかったところはそちら側
にあるようにも観えるが、それ自体は別段目新しいものでも
なく、たどたどしい英語の台詞せいもあって少し青臭くも感
じられた。
それより、日本人としては日系人の問題をもっと詳しく知り
たかったもので、今回は俳優を起用したドラマ作品だが、出
来ることならドキュメンタリーでちゃんと紹介して欲しいと
も思えるところだった。

『不完全なふたり』“Un Couple Parfait”
フランス映画祭上映作品。
昨年12月に紹介した『パリ、ジュテーム』の中では、一番気
に入っている内の1篇「ヴィクトワール広場」の演出を担当
した諏訪敦彦監督による2005年の作品。
2005年7月に紹介した『ふたりの5つの別れ路』などのヴァ
レリア・ブルーニ=テデスキと、『王妃マルゴ』などのブリ
ュノ・トデスキーニの共演で、友人の再婚の結婚式に出席す
るためパリを訪れた結婚15年の夫婦の姿を描く。
建築家と写真家の2人は、周囲からは理想的なカップルと思
われているようだが、実は…というお話が展開する。そして
その2人の姿を、固定カメラの長回しと、渡されたのはシノ
プシスだけという、ほとんどが即興劇で描き出して行く。
といっても、シノプシスは詳細なものだったようで、一つ一
つの場面設定は明確に定められていたようだ。その場面設定
の中で、俳優やスタッフのディスカッションによって物語が
作られたとされる。
簡単に言ってしまえば「痴話喧嘩」という感じの内容だが、
自分が結婚から30年近くを経た目で見ていると、思い当たる
ところも多々ある作品で、一部には似すぎていて苛々すると
ころもあるくらいに、見事に描かれていた。
まあ、夫婦も長くやっていると、こんなこともあるなあとい
う感じの作品。だから、物語はごく普通に進んで行くし、そ
こにあっと驚くような仕掛けがある訳でもない。ただ、何カ
所か示唆に富んだ台詞が登場したりするくらいのものだ。
したがって、それをどう受け取るかは観客の側の状況にも影
響されそうで、見方によっては何だこりゃにもなってしまう
かもしれない。でも、自分自身の体験として、夫婦はこんな
ものだという感じで納得したりもしてしまった。
それにしても、フランス語はほとんど判らないという監督が
通訳を介した作業で、しかも撮影期間11日でこのような作品
を作れてしまうということにも驚かされる作品だった。

『プレステージ』“The Prestige”
『バットマン・ビギンズ』のクリストファー・ノーランの監
督で、19世紀末のロンドンを舞台にした2人のマジシャンの
対決を描いた作品。
2人のマジシャンを演じるのは、『X−メン』のヒュー・ジ
ャックマンと、『バットマン…』のクリスチャン・ベール。
共演は、スカーレット・ヨハンソン、マイクル・ケイン。さ
らにデヴィッド・ボウイ、アンディ・サーキスも登場する。
主人公となる2人は、若い頃から互いをライヴァルとして切
磋琢磨してきた。やがて、一方が老練なマジシャンの指導の
許、派手な演出で人気を掴むが、彼にはもう一人が演じる瞬
間移動の技の秘密が掴めないでいた。
やがて彼は相手の日記を盗みだし、暗号を解読して、遂にア
メリカ在住の発明家ニコラ・テスラへと辿り着く。そして、
テスラの発明による高周波高電圧発生器を手に入れ、さらに
派手な演出による瞬間移動の技を編み出すが…
その演技中に事故が起き、その場に居合わせたもう一人のマ
ジシャンは殺人者として告発され、厳重な監視の下、収監さ
れることになる。
何しろマジシャン同士の話だから最初から最後までトリック
の連続で、何が真実かは最後の最後まで判らない。しかも、
展開はかなり過激で、そんな物語を『メメント』のノーラン
監督が実に楽しげに描いている。
それにしても…凄いと言えるSF作品だ。

テスラに関しては9月に横浜で開催される世界SF大会で、
新戸雅章さん紹介による彼の業績に基づくパフォーマンスも
行われる予定だが、エジソンと対決した実在の科学者で発明
家。その役を、『地球に落ちてきた男』のボウイが演じてい
るというのもニヤリとするところだ。
因に、題名は「プレッジ」「ターン」「プレステージ」と続
くマジックの展開を示す用語で、その最終段階を指すもの。
元はフランス語の「奇術、魔法」の意味の言葉から、転じて
「偉業、名声、威光」といった意味になっているそうだ。

『ストリングス〜愛と絆の旅路〜』“Strings”
2004年、デンマーク製作のマリオネット映画。
マリオネットと言われると、『サンダーバード』を筆頭にす
るスーパーマリオネーションが代名詞のようになってしまっ
たが、自分の子供の頃の思い出としては、NHKで放送され
た『宇宙船シリカ』や、小松左京原作の『空中都市008』
が懐かしいところだ。
そんなマリオネットを現代に甦らせた作品。しかもこの物語
がかなり凝っている。
舞台は、中世の雰囲気漂うヘバロン王国。その国の住人は、
ペットの鳥も含めてすべてマリオネットという世界だ。彼ら
は天からの糸に繋がれ、頭の糸を切ると死んでしまう。しか
し、その糸は天で一つになり、お互いはその糸で繋がってい
るとも言われる。
その国では、数百年に亙って戦いが続いていた。ところが、
あるとき国王が自分の頭の糸を切って自害し、息子の王子に
和平の想いが託される。しかしそこに好戦的な王の弟が介在
し、王の自害は暗殺に偽装される。そして王子は、復讐の旅
に出ることになるが…
マリオネットの頭に繋がれた糸が、人形の基本の位置を定め
る重要な糸だということは聞いたことがある。それを生命線
に準える。そんなマリオネットの特徴が物語の中にいろいろ
と盛り込まれている。
その他にも、城への出入りを封じるという場面で、鴨居のよ
うな横木が城門に迫り上がってきたときには、昔のテレビ番
組でドアを開けるとその上の壁まで開いていたのを思い出し
て、思わず笑ってしまった。
一方、実写されるマリオネットの特性を活かして、撮影には
本物の水や火も使用され、CGIとは違った映像を作り出し
ている。何しろ屋根がないから、雨が降ると皆ずぶ濡れとい
うのは、間違いなくマリオネットの世界という感じだ。
因に、映画のキャッチコピーは、「一緒に見れば、大切な人
と結ばれる!あなたは誰とつながっていますか?」なのだそ
うで、自分の年齢ではさすがにちょっと恥ずかしいところも
あるが、お話はその通りのものだ。
なお、日本公開は吹き替え版のみで行われ、その声優には人
気アイドルらが起用されているものだが、英語版は、『ナル
ニア』でタムナスさんを演じたジェームズ・マカヴォイや、
『サウンド・オブ・サンダー』や、『ルネッサンス』でも声
優を務めたキャサリン・マコーマク。
さらに、『トロイ』に出演のジュリアン・グローヴァ、『ゴ
スフォード・パーク』のデレク・ジャコビー、『ネバーラン
ド』でサー・コナン・ドイル役のイアン・ハート、『ブリジ
ット・ジョーンズの日記』のクレア・スキナー。
また、『ブラッド・ダイアモンド』のデイヴィッド・ハーウ
ッド、ブロスナン版の007でマニーペニーを演じたサマン
サ・ボンドといった顔ぶれが共演しているようで、この英語
版も聞いてみたくなるところだ。

『ハリウッドランド』“Hollywoodland”
製作ニュースの第72回と第82回で“Truth, Justice and the
American Way”の題名で紹介した作品が改題されて公開され
る。なお改題は邦題だけでなく、上映されたフィルム上でも
これになっていたものだ。
1959年6月16日、『スーパーマン』のテレビシリーズに主演
したジョージ・リーヴスの死に纏わる謎を追った作品。
僕は、リーヴスが死んだときの報道に関しては、多少憶えて
いる程度だ。テレビシリーズは見ていたし、その内容もかな
り正確に記憶しているが、死の報道自体は冷静に受けとめた
と思うし、この映画の中の子供たちのようなショックを受け
た記憶はない。
それは多分、日本での放送が、他の西部劇や探偵ものと同じ
ように吹き替えで、子供なりに物語がフィクションであるこ
とを理解していたのかも知れない。それがアメリカでは、こ
の映画の通りとすれば、僕の想像をはるかに越える社会問題
だったようだ。
しかもその死は、当初から自殺という結論で、日本での以後
の報道はほとんどなかったと思う。だがその死にはいくつも
の謎が残されていた。その謎を、リーヴスの母親に依頼され
た私立探偵が調査するという形式で紐解いて行く。
そこには、リーヴスが当時のMGM社長夫人の愛人だったと
するスキャンダラスな展開も登場する。そして、偉大なヒー
ローを演じたがために、その陰から逃れられなくなった男の
悲劇が描き出される。しかも、それをMGMなどの実名を出
しながら描くものだ。
ただし、番組終了後に『ここより永遠に』に出演したものの
上映版からはカットされたという下りでは、これはフレッド
・ジネマン監督が、「スーパーマンだったせいではない」と
明確に否定しているにも関わらず、その説明になっていたり
もする。
その辺が、フィクションである探偵の登場と共に、かなり微
妙なところだ。また、事件に対する様々な再現も登場し、そ
の判断は観客に委ねられるが、今まで字面の情報としてのみ
知っていたことが映像として提示されると、それもまた興味
深いものがあった。
出演は、リーヴス役にベン・アフレック、MGM社長夫人役
にダイアン・レイン、社長役にボブ・ホスキンス、そして探
偵役にエイドリアン・ブロディ。因に、アフレックはこの役
でヴェネチア映画祭の主演男優賞を受賞している。
それにしても、レインが「10歳も年上なのよ」と言いながら
アフレックを誘惑する下りには、確かに本人たちの年回りも
その通りなのだが、彼女を子役の頃から見ている自分にはち
ょっとショックだった。

『Academy』
オーストラリア人の新人監督による日本=オーストラリア合
作映画ということだが、実際は日本人のプロデューサーの企
画による作品。製作費も日本側が拠出したようで、キネマ旬
報のリストでは日本映画の扱いになっている。
メルボルンに実在する「ヴィクトリア・カレッジ・オブ・ア
ーツ(VCA)」という芸術学校をモティーフに、入学も難
しいし、しかも1年間で成果が現れないと強制退学という厳
しい条件のもとで切磋琢磨する若者たちを描く。
物語は、日本からやってきた男女の留学生を中心に、そこに
才能豊かなバレリーナや、母親の期待を背負うヴァイオリニ
スト、映画監督を目指す男子学生などが絡むという展開。
ただし、役柄がどれもステレオタイプの域を出ていない。
しかもそこにホモだのレズだという問題を持ち込むことは、
今の時代では何の新鮮味もないし、「ああ、またか」という
お話になってしまった。監督が新人ということであえて苦言
を呈することにするが、何となく学校の卒業製作を見せられ
た感じだった。
結局のところ監督(脚本も )は、プロデューサーの企画に乗
せられた訳だから、そこに無理矢理お話を作ることの難しさ
は理解するが、それにしても、特に後半の復讐戦に出る辺り
からは、もう少し捻った展開を見せて欲しかった。

とは言うものの、学校はモティーフにしただけとは言いなが
ら、その学校の評価を落としかねないような内容の物語を、
その学校の協力で撮影するというのも大胆な話で、学校側の
度量には感心した。
まあ卒業製作なら、それもありかなというところだが。

出演は、日本人留学生を、モデル出身の高橋マリ子と、『ウ
ルトラマンコスモス』の杉浦太陽。他は、オーストラリアの
新進の俳優たちが共演している。また、作品中に登場する芸
術作品にはいろいろ面白いものもあった。
脚本・監督のギャヴィン・ヤングスは、次回作にはカンヴォ
ジアの知的障害者の若者を主人公にした作品を準備中とのこ
とで、今度は自分の企画なのかな。完成したら見せてもらい
たいものだ。


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井口健二