井口健二のOn the Production
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2007年03月15日(木) 第131回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回も記者会見の報告から。
 4月28日に日本公開される『バベル』のアレハンドロ・ゴ
ンサレス・イニャリトゥ監督の来日と、日本人キャスト3人
による記者会見が行われた。一般的な会見の内容は他でも報
道されると思うので、ここでは気になった話題を一つ。
 会見の中で東京での撮影について質問が出て、監督からは
「首都高速のシーンでは日曜日の早朝にスタッフの車で渋滞
を作り撮影をしたが、20分後には警察車両が来て、『撮影を
止めなさい』という注意を聞きながらの撮影だった」とか、
「渋谷街頭のシーンでは、マスクをつけて顔を隠し、学生運
動のゲリラのような格好で撮影した」などの苦労が紹介され
た。それに併せて「東京もFilm Commissionを作って、撮影
に協力して欲しい」という要望も出された。
 実際、東京での撮影には、警察などの許可がほとんど下り
ず、かなり苦労したことが試写会でのプレス資料にも報告さ
れていたものだが、実は、都庁には2004年に発足した「東京
ロケーションボックス」という部署があって、そこがそうい
う要望に応えるようになっているはずのものだ。しかし今回
は、そういう機関が利用されなかったのか、それとも利用し
ても機能しなかったということなのだろうか。
 自らの製作総指揮で映画を作るような都知事のいる日本の
首都で、海外の映画人からこういうことを言われるのは、本
当に情けない。またこれでは、去年12月に紹介した『パリ、
ジュテーム』のような作品を東京で作ることなど、夢のまた
夢なのかな、とも思ってしまう。結局、日本の文化面の施策
レヴェルの低さが露呈されたということのようだが、それが
日本の現実なのだろう。
        *         *
 さて、以下は製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、『ディパーテッド』で待望のオスカーを受賞した
マーティン・スコセッシの次なる監督向けとして、ワーナー
が“The Invention of Hugo Cabret”という子供向けベスト
セラー小説の映画化権を獲得したことを発表した。
 この原作は、ブライアン・セルズニックという作家が執筆
したもので、物語の舞台は1930年代のパリ。鉄道駅で暮らす
12歳の孤児の少年が不思議な事件に巻き込まれるというお話
だが、そこには亡くなった父親や、ロボットも登場するとい
うことだ。そしてこの脚色を、2004年の『アビエイター』を
手掛けたジョン・ローガンが担当して、執筆は直ちに始める
としている。
 ローガンは、撮影中の“Sweeney Todd”の脚本も担当して
いるが、『グラディエーター』や『ラスト・サムライ』など
現実的な物語の中にファンタスティックな要素を感じさせて
くれるのがうまいと思える脚本家だ。しかし、『ネメシス』
や『タイムマシン』のようなもろにSFだと、却って力が入
り過ぎてしまうようで、今回のような作品ではそれがどう出
るか、期待も大きくなるところだ。
 それにしても、スコセッシ監督で子供向けベストセラー小
説の映画化というのも不思議な感じだが、ロマン・ポランス
キーも『オリバー・ツイスト』を撮ったし、それに1976年の
『タクシー・ドライバー』では、撮影時13歳のジョディ・フ
ォスターにオスカー助演賞候補をもたらしているのだから、
その面でも期待が高まる。
 ただし、スコセッシは先日パラマウントとの優先契約を結
んで、それによると彼が監督、若しくは製作する全作品の権
利の半分をパラマウントが所有することなっているようだ。
それに対して今回のワーナーの企画がどのような位置付けか
は不明だが、因に、ワーナーで以前から発表されている遠藤
周作原作による『沈黙』の計画に関しては、その契約からは
除外ということだった。
 一方、スコセッシは、パラマウントでミック・ジャガーの
製作によりロック音楽の歴史を描く計画を、『ディパーテッ
ド』のウィリアム・モナハンの脚本で進めることも発表して
おり、さらに『ディパーテッド』の続編や、エリック・ジャ
ガー原作の歴史物で“Last Duel: A True Story of Crime,
Scandal and Trial by Combat in Medieval France”という
計画もあって、どれが次回作かは未定のようだ。
        *         *
 昨年第115回でロン・ハワード監督の計画として報告した
“The Changeling”という作品が、イマジン=ユニヴァーサ
ルの製作はそのままだが、監督をクリント・イーストウッド
が担当、主演にアンジェリーナ・ジョリーが話し合われてい
ることが公表された。
 この計画では、ハワードに関しては前回報告の当時から他
の計画が目白押しで難しいかも知れないとされていたものだ
が、そこにイーストウッド監督とは意外な展開だった。
 内容は、以前に紹介したように1920年代のサンフランシス
コで起きた実際の事件に基づくもので、若い母親が子供を誘
拐され、一心に神に祈った結果子供は見つかるが、それは彼
女の子供ではなかった…というもの。この母親役をジョリー
が演じることになるようだ。
 因に、オリジナル脚本を手掛けたマイクル・ストラチンス
キーは、第114回で紹介したブラッド・ピット製作のゾンビ
企画“World War Z”の脚色も手掛けており、ジョリーの参
加がその辺から来た可能性はありそうだ。なお、ジョリーは
“The Mighty Heart”と“Beowolf”の2作の撮影は終了し
ており、次には第111回で紹介した“Atlas Shragged”の計
画も進んでいるものだが、本作“The Changeling”の撮影は
今年後半に予定されていて、スケジュール的には問題はなさ
そうだ。
        *         *
 3回連続の登場で、『ソウ2』『3』のダレン・リン・ボ
ウスマン監督が、1981年公開のデイヴィド・クローネンバー
グ監督作品“Scanners”のリメイクに挑戦することが、ワイ
ンスタイン兄弟が主宰するTWC傘下のジャンルブランド=
ディメンションから発表された。
 超能力者たちの壮絶な闘いを描いたオリジナルは、革新的
なホラー作品と評価され、その後に派生作品も何本か作られ
ているが、今回の計画はクローネンバーグが直接タッチした
第1作をリメイクするものだ。
 そしてこの計画自体は、2002年の第21回でも一度紹介して
いるが、当時は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』などの
アーチザンがリメイク権を設定して進めていた。しかし実現
しないままその権利が最近失効し、今回は当時のアーチザン
のトップだったリチャード・サパースタインと、ワインスタ
イン兄弟が、権利を再設定して進めるというものだ。つまり
このリメイクは、サパースタインがどうしてもやりたくて、
いろいろな手段を講じてきたもので、それがようやく実現の
目処が付いたということのようだ。
 さらに今回の計画では、脚本を、『ブレイド』シリーズや
『バットマン・ビギンズ』のデヴィッド・ゴイヤーが担当す
ることも発表されている。因にボウスマンは、前回報告した
“Saw 4”と“Repo!”の後にこのリメイクを行う予定だが、
ゴイヤーもそれに合わせて脚本を完成させるとのことだ。
 なお、今回の製作者には、“Saw”シリーズと“Repo!”も
手掛けるツイステッドピクチャーズのトップの名前も並んで
おり、ボウスマンの仕事をサポートするようだ。また、ボウ
スマンとワインスタインは2作品の契約を結んでおり、今回
はその1本目となるものだ。
        *         *
 第128回でちょっと心配な情報として紹介したM・ナイト
・シャマラン監督の新作“The Green Effect”(現在“The
Happening”と改題されている)について、この映画化をフ
ォックスで進めることが発表された。
 この作品については、以前に紹介したように、自然災害と
人類との壮大な闘いを描くという内容のもので、総製作費は
5400万ドル程度で問題なかったが、内容面で各社が難色を示
していた。その中で、フォックスが大幅な書き直しを要求し
たという情報があったものが、実際には同社CEOのトム・
ロスマンから書き直しの示唆があったということで、その示
唆に従って書き直しを行ったところ、今度は各社からの申し
入れが殺到したのだそうだ。
 しかしロスマンへの義理立てと、内容的に『インディペン
デンス・デイ』や『デイ・アフター・トゥモロー』などにも
つながる終末もので、その種の作品の宣伝ノウハウを知る同
社が最適と考えられたようだ。なお、具体的な書き直しは、
恐怖心を煽るような描写の強化だったようで、このため本作
はシャマラン初のRレイト作品になるだろうとのことだ。
 また、今回の計画では、『シックス・センス』『アンブレ
イカブル』を共に作り上げた製作者バリー・メンデルが再度
製作に加わることになり、彼の意見も有効だったようだ。
 因にシャマランは、「他人の意見に聞く耳を持たなかった
つもりはないが、一つの場所に安住して他人の意見を聞く状
況にもなかった。しかし今回は、脚本を持っていろいろなス
タジオを回り、いろいろな意見交換をして、それが認めても
らえることになった。」と、今回の経験を前向きに評価して
いるようだ。
 一方、シャマランは、第127回で紹介した“Avatar: The
Last Airbender”の計画もパラマウントで進めているものだ
が、その脚本はまだ執筆中で、その作業は8月にフィラデル
フィアで開始される“The Happening”の製作に並行して続
けるとのことだ。なお“The Happening”の公開は、2008年
6月に予定されている。
        *         *
 次はユニヴァーサルが、“Three Men Seeking Monsters:
Six Weeks in Pursuit of Werewolves,Lake Monsters,Giant
Cats,Ghostly Devil Dogs and Ape-Men”という本の映画化
権を獲得、“Napoleon Dynamite”などのジョン・ヘダーの
主演で映画化することを発表した。
 この原作は、ニック・レドファンというイギリス人が執筆
して、アメリカでは2004年に出版されたものだが、実はこの
レドファンは、cryptozoologist(未知動物学者)と呼ばれ
ている人だそうで、UFOやミステリーサークルなどの研究
でも知られている人物のようだ。
 しかもこの原作では、これらの未知動物が次元の異なる世
界の生物だと結論付けているとのことで、これはかなりやば
そうな雰囲気のものだ。因にアメリカの報道でこの原作は、
3人の男が主人公の小説となっていたが、イギリスの読者は
そうとは取っていないようで、その辺も微妙なところだ。
 なお、アメリカの報道に掲載された概要では、今まで別々
にモンスターやUFOを追っていた3人の男が、一致協力し
てイギリス各地のモンスターやUFOの出現スポットを調査
するというもの。そしてイギリス側の紹介では、3人の内の
1人がレドファンで、地元住民へのインタヴューなどの調査
の様子が記録されたものということだ。
 この原作をどのように映画化するかは明らかではないが、
少なくともヘダーはコメディ映画中心で活躍している人で、
今回の映画化にはジョンの他に、ダグ&ダンのヘダー兄弟も
企画に参加しているということだから、多分、誰もが想像す
るところは間違いないと思われるものだ。
 一方、関連の情報では、ずばり“The Cryptozoologist”
と題された計画がニューラインで進められていて、こちらは
デイヴィッド・ジルクレストという脚本家のオリジナル作品
の映画化。上記のようなモンスター・クリーチャーが、突然
サンフランシスコに出現するというお話だそうだ。
 この2作品、物語的には全く異なるものだが、この手のモ
ンスター・クリーチャー物がブームになる可能性もありそう
で、これはちょっと楽しみなことだ。
        *         *
 第128回で紹介した2008年公開のピクサー作品“Wall-E”
について、少し詳しい内容が報告された。
 それによると、物語の設定として、登場する地球は汚染が
進み、人類は地上に住むことをあきらめ、全ての生物は軌道
上に漂う巨大宇宙船の中で暮らしている。そして、地球が再
び住めるようになる日を待っているということだ。
 一方、その地球の汚染を取り除くため、膨大な数のロボッ
トが地球に降ろされたが、Waste Allocation Load Lifter--
Earth Classと名付けられたそのロボットたちは、時間と共
に徐々に機能を停止し、物語の開始時点では唯1台のロボッ
トが機能しているだけという状況になっている。
 そして、最後のロボットWall-Eは、今日もスポットと名付
けたペットのゴキブリと共に、プログラムされた任務を遂行
しようとしているが…となるようだ。
 このロボットの知能がどのくらいあるのかは判らないが、
プログラムされた任務を遂行するためだけに、毎日を繰り返
しているというのは、ちょっとサラリーマンの生活を思わせ
て、切なくもなるところだ。
 また、以前の紹介で背景が火星というのは実は地球だった
ようだが、宇宙の彼方にある家族の住む家が軌道上の宇宙船
というのは案外近くていろいろな関わりも生じそうだ。しか
もここからの展開は、人類の関り方次第でどうにでも発展す
るわけで、ドラマティックな物語が楽しめそうな設定だ。
 CGIアニメーションによるロボット物ではすでに公開さ
れた作品もあるが、さすがにピクサーはちょっと違った作品
を見せてくれることになりそうだ。
 なお、ピクサーの公開予定では、今年“Ratatouille”、
来年に“WALL-E”、そして2009年には“Toy Story 3”と発
表されていたが、この内の“Toy Story 3”が2010年に延期
されるという発表が行われたようだ。それはまあ製作の都合
で仕方がないが、それで2009年のスケジュールが空くのは問
題で、そこに何が公開されるか発表が待たれている。
 因に、2008年公開の“WALL-E”も発表は今年になってから
だったから、それほど急ぐようことのようには見えないが、
実はピクサーがロボット物をやるという情報はかなり前から
流されており、それなりの準備はあったということで、現在
そのような情報があるのかどうか、気になるところだ。
        *         *
 続いては、ヨーロッパ発の情報を短く2本紹介する。
 まずはマドリッドに本拠を置くイリオン・アニメーション
という会社が、製作費5000万ドルを投じて“Planet One”と
いうCGI作品の製作を発表した。
 この作品は、『シュレック』シリーズを手掛ける脚本家の
ジョー・スティルマンが執筆した脚本を映画化するもので、
内容は、2本の触覚と8本の指を持った住人の暮らすプラネ
ット・ワンという惑星に対する異星人の侵略を描いている。
その惑星は、ちょうど1950年代のアメリカの郊外のような世
界で、ドライヴイン劇場があったり、根強い異星人の侵略に
対する恐怖心があったりもするが…というものだ。
 そして監督には、スペインのパイロ・スタジオというとこ
ろから発表されている“Commandos”というヴィデオゲーム
シリーズで、制作のチーフを務めるジョージ・ブランコとい
う人が起用されることになった。因にイリオンは、パイロ・
スタジオの映画製作部門ということだ。
 『シュレック』の脚本家ということでは、相当にパロディ
色の強い作品になりそうだが、1950年代の侵略SFもいろい
ろあるから、これは面白い作品になりそうだ。なお、パイロ
・スタジオでは“Planet One”のゲーム化も並行して進めて
いるそうだ。
 ヨーロッパ発もう1本は、イギリスのダニー・ボイル監督
の計画で、アフリカ大陸1高い建物といわれる南アフリカ・
ヨハネスブルグに立つ54階建てのポンテ・タワーを舞台にし
たスリラー作品、その名も“Ponte Tower”という作品が進
められている。
 このポンテ・タワーは、1975年の建設当時は、アパルトヘ
イト下での裕福な白人社会のシンボルとも呼ばれ、「地上の
天国」との異名まで冠されたというものだが、その後は荒廃
してギャング団の巣窟にもなっていたということだ。そして
物語は、アパルトヘイトの末期にソエトからこのポンテ・タ
ワーにやってきた少女が、混乱の中を生き抜いて行く姿を描
くとされている。
 なおこの物語は、ドイツ人の作家ノーマン・オーラーの原
作に緩やかに基づくとされているが、その脚本を、1989年の
『スキャンダル』などで物議を醸したマイクル・トーマスが
担当しているものだ。
 製作は、イギリスと南アフリカの共同で行われる予定で、
撮影も現地で行うとされている。珍しい土地での映画には興
味が湧くところだ。
        *         *
 最後に、キャスティングの情報をまとめて紹介する。
 まずは、“Harry Potter”シリーズ主演のダニエル・ラド
クリフが、シリーズ最後の2作への出演契約を結んだことが
発表された。これはラドクリフ自身のウェブサイトで公表さ
れたもので、それによると、今年9月に撮影開始の“Harry
Potter and the Half-Blood Prince”と、その後に撮影され
る最終作“Harry Potter and the Deathly Hallows”につい
ても出演契約を結んだということだ。これで、当初は第3作
までと言われたラドクリフが、全作品でハリー・ポッターを
演じることが決定したものだ。なお、映画化第5作『不死鳥
の騎士団』は7月13日の全米公開が予定されている。
 いよいよ撮影が開始された“Get Smart”の劇場版映画化
に、オスカー助演賞を受賞したばかりのアラン・アーキンの
出演が発表された。役柄は、オリジナルではエドワード・プ
ラットが演じたCONTROLのチーフということで、これ
で、主演のスティーヴ・カレル、アン・ハサウェイ、さらに
第128回で紹介したドウェイン・ジョンスン、テレンス・ス
タンプと併せ、主要な役柄はすべて揃ったことになる。アー
キンへの出演交渉は受賞式前から行われていたのだろうが、
良いタイミングの発表で強力な助っ人という感じだ。
 『バットマン・ビギンズ』の続編“The Dark Knight”の
配役で、前作ではケイティ・ホームズが演じたレイチェル・
ドーズ役に、『主人公は僕だった』などのマギー・ギレンホ
ールが話し合われているということだ。ギレンホールは、何
となくインディペンデンス系という感じの女優だが、最近は
ハリウッドの大作にも顔を出すようになって、遂にテントポ
ール作品のヒロインということになりそうだ。因にホームズ
は、先に“Mad Money”という作品に出演が決まっており、
その発表の時点で続編への出演はないとされていた。“The
Dark Knight”の撮影は、今年の春後半か夏の初めに開始さ
れ、公開は2008年夏の予定になっている。
 もう1本は、残念な情報で、何度か紹介している“Bunny
Lake Is Missing”のリメイクについて、リーズ・ウィザー
スプーンの降板が発表された。この計画は当初からウィザー
スプーンが自らのプロダクション=タイプAで進めていたも
のだが、ようやく決まった監督のジョー・カーナハンとの意
見が対立し、結局彼女が降りることになったものだ。ただし
撮影は、監督のスケジュールの都合で4月開始を動かすこと
が困難になっており、製作会社のスパイグラスは早急に後任
のスター女優を探さなくてはならないようだ。


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井口健二