井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2007年03月01日(木) 第130回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、最初に記者会見の報告から。
 アメリカでは2月16日に封切られ、プレジデンツ・デイ週
末の4日間興行で5150万ドルという、同期間では新記録とな
る大ヒットの余韻も覚めない2月21日に、『ゴースト・ライ
ダー』の主演ニコラス・ケイジと監督マーク・スティーヴン
・ジョンスンの来日記者会見が行われた。
 会見ではいろいろな話題が出されたが、中で僕が注目した
のは、コミックスコレクターとして知られるケイジが初めて
スーパーヒーローに挑戦した経緯についての質問。
 これに対してケイジは、「以前にティム・バートンと組ん
でSupermanをやろうとした。その時は、ヒーロー像を根底か
らひっくり返してやろうと考えたのだが、いろいろな事情で
実現できなかった。でもお陰で、今こうしてGhost Riderを
やれたのだから、あの時やらなくて良かったと考えている。
1度コミックスヒーローを演じたら、もう2度とコミックス
ヒーローを演じることはない」という回答だった。
 ケイジがバートン監督でSupermanを演じるという計画は、
1998年頃のことだったと思うが、当時1億4000万ドルの製作
費が計上され、製作費の高騰も計画断念の一因とされていた
ものだ。でも今回の発言では、内容的にも問題があったよう
で、その辺は納得できた。
 またケイジは、Ghost Riderについては、スピリチュアル
な面に魅かれると語っていて、この辺は第124回で紹介した
ヴァージン・コミックスとの計画にも通じる感じがした。た
だし、「2度とコミックスヒーローを演じることはない」と
いう発言では、ヴァージンとの計画はどうするのだろうとい
う感じだが、まあ、その辺はまたその時がきたら聞いてみる
ことにしよう。
 一方、本作の大ヒットでは当然続編の噂も挙がってきてい
るものだが、それは別のコミックスヒーローを演じるわけで
はないから問題はなさそうだ。因にケイジは、別の会見では
「奴との冒険には、まだたくさん残された部分がある」とも
語っていて、これは続編の用意があると解釈されているよう
だ。因にこの別の会見では、ヒロイン役のエヴァ・メンデス
も続編に乗り気だったと伝えられている。
 それから来日会見では日本のコミックスについて聞かれ、
「子供の頃に『鉄腕アトム』が好きだった。アトムを作った
博士の役をやりたかった」とも語っていた。この発言は、実
写版の製作を進めている人たちにも聞かせたいところだ。
 なお映画では、ライダーへの変身シーンに注目して欲しい
とのこと。このシーンは『狼男』の変身を参考にして、痛み
とエクスタシーを織りまぜた表現を目指したそうだ。また、
映画に登場するバイクは専門家のアドヴァイスを受けながら
自作したもので、全長12フィート、実際に時速90マイルで走
行できたが、コーナリング性能が悪く、交差点は曲がれない
ものだそうだ。
        *         *
 続いては、アカデミー賞の報告で、結果はすでにご承知の
ことと思うが、前々回取り上げた中で、視覚効果賞は予想し
た通り“Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest”
となったが、他の部門の全滅はちょっと意外な感じだった。
一方、メイクアップ賞はアメリカでの下馬評が断然強かった
“Pan's Labyrinth”が受賞。この作品に関しては、他にも
美術賞と撮影賞にも輝いて、6候補中3個の受賞は予想以上
の結果を残したと言えそうだ。それから長編アニメーション
賞はワーナー配給の“Happy Feet”で、初めてディズニー、
ドリームワークス以外からの受賞となった。それも、ディズ
ニー/ピクサーの“Cars”が対抗馬にいての受賞は見事と言
える。
 その他、全体的には非常にオーソドックスな受賞作が並ん
だ感じで、意外性の少ない結果のように思える。特に“The
Departed”の作品、監督、脚色、編集の4冠は、個人的には
いろいろ思うところもあるが、それがアカデミー会員の判断
であれば仕方のないところだ。これで前回紹介した続編2本
の可能性はますます高くなったと言えそうだ。
        *         *
 以下はいつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、最初にも紹介したにコラス・ケイジのさらなる情
報で、『ゴーストライダー』では伝説のコミックスヒーロー
に扮したケイジが、今度はゲーテの原作に挑むことが、今秋
『ナショナル・トレジャー2』の公開を控えるディズニーか
ら発表された。
 この作品は、ゲーテの詩“The Sorcerer's Apprentice”
に基づくもので、魔法使いの弟子が、師匠の留守中に未熟な
魔法をホウキに掛けて雑用をさせようとし、大失敗をしてし
まうというお話。つまりディズニーが、『ファンタジア』で
ポール・デュカスのクラシック音楽に乗せてミッキーマウス
を主人公に描いたアニメーションを、原典に戻って実写で映
画化しようというものだ。
 ただし、アニメーションは中編だったが、1本の映画とな
るとそれなりの物語も必要になる。そこでその脚本には、昨
年『エラゴン』の脚色を手掛けたマーク・ローゼンタールと
ローレンス・コナーが起用されて、その物語はすでに完成し
ているようだ。監督は未発表だが、ケイジの主演作とされて
いる。ケイジはミッキーマウスが演じた弟子の役をやるのだ
ろうか。
 なお、ケイジの主演作では、ソニー配給の『ゴースト…』
に続けて、パラマウント配給でフィリップ・K・ディック原
作の“Next”が今春全米公開の予定になっており、秋の『ナ
ショナル…2』と併せて今年は3作品の公開となるようだ。
        *         *
 お次は、日本では『隠された記憶』の邦題で昨年公開され
たミヒャエル・ハネケ監督のミステリー作品“Cache”を、
ロン・ハワード監督でアメリカ版リメイクする計画が報告さ
れている。
 オリジナルは、ハネケが2005年のカンヌ映画祭で監督賞を
受賞した作品だが、ある日、自宅を監視するビデオテープが
届けられ、そこから生じる疑心暗鬼と家庭の秘密が浮き彫り
されて行くというもの。延々と続く監視映像などかなり大胆
な演出で描かれていた作品だ。因に、オリジナルはアメリカ
では“Hidden”の題名で、ソニー・クラシックスが公開し、
360万ドルの興行収入があったとされている。
 その作品を、今回はユニヴァーサルの製作でリメイクする
もので、同社では舞台をアメリカに移して、さらにサスペン
スに満ちた映画化を希望しているようだが、脚色などは未定
のものだ。
 一方、ハワード監督には、“Frost/Nixon”という舞台劇
からの映画化や、娘のブライスと初の親子共作となる“The
Look of Real”、それに『ダ・ヴィンチ・コード』の前日譚
の“Angels & Demons”など計画が目白押しで、本作がいつ
の製作になるかは不明のようだ。
 とは言え、ダニエル・オートゥイユ、ジュリエット・ビノ
シェ、アニー・ジラルドが共演したフランス映画が、どのよ
うにアメリカ化されるかには興味が湧くところだ。
        *         *
 続いては『ソウ』シリーズの第4作の計画が発表され、監
督を『2』『3』も手掛けたダレン・リン・ボウスマンが担
当することになった。
 この第4作に関しては、前回紹介したように昨年第3作公
開時の来日記者会見で、ボウスマン自身が「後は別の監督に
任せたい」と言っていたものだが、どうやら適当な人材が見
つからなかったようだ。その第4作は4月16日の撮影開始、
10月26日に世界一斉公開される。
 ところでボウスマン監督には、前回紹介した“Repo! The
Genetic Opera”というホラーオペラの計画を、同じくライ
オンズゲートの配給とツイステッド・ピクチャーズの製作で
進めることになっていたが、その計画については“Saw 4”
の後になると報告されていた。
 因にこのオペラについて、もう少し情報が入ってきたが、
物語は、そう遠くない未来を背景に、移植用臓器の効率的な
販売を目論むバイオテック企業の活動を描くということだ。
また、オリジナルはテレンス・ゼドゥニックとダレン・スミ
スの作曲・脚本による舞台劇で、実はボウスマンが以前にそ
の舞台演出を手掛けていたとのことだ。そして数年前からそ
の映画化を計画していたものだが、今回は12分のプロモーシ
ョンを自作して、映画会社に働きかけたとのことで、これは
『ソウ』の第1作の時にジェームズ・ワンとリー・ワネルが
採った手法を踏襲したと言われているようだ。
        *         *
 スティーヴン・ソダーバーグ監督がベニチオ・デル=トロ
主演で計画している2本のチェ・ゲバラ伝記映画について、
台詞をスペイン語で撮影することが発表された。
 この作品は、共産革命家ゲバラのキューバ革命時代を描く
“The Argentine”と、その後の姿を描く“Guerrilla”とい
うもので、共にデル=トロがゲバラを演じる。ソダーバーグ
は、「登場人物が、それぞれの母国語で話さないと信憑性が
損われる」としているが、その背景には『バベル』の成功も
意を強くしているようだ。
 なお製作は、フランスに本拠を置くワイルド・バンチが担
当するもので、製作会社は言語の問題には全く拘わっていな
いそうだ。また、配役には、ドイツ人のフランカ・ポテンテ
と、スペイン人のジャヴィア・バーデンも予定され、この内
バーデンはカストロを演じるとされている。撮影は5月に開
始される。
        *         *
 ロバート・デ=ニーロ主演、バリー・レヴィンスン監督に
よるコメディ作品“What Just Happened?”に、ショーン・
ペン、ブルース・ウィリス、スタンリー・トゥッチ、ジョン
・タートゥロ、クリステン・スチュアートの共演が発表され
3月22日に撮影が開始される。
 この作品は、ヴェテラン・プロデューサーのアート・リン
スンが、自らの思い出を基に執筆した脚本を映画化するもの
で、物語は、2度目の結婚が破綻してハリウッド的陰謀の中
で威厳が損われそうになった映画プロデューサーが、その威
厳を取り戻そうとする姿を描いているということだ。そして
そのプロデューサー役をデ=ニーロが演じるもので、他の配
役が何をするかはお楽しみのようだ。
 製作は、デ=ニーロ主宰トライベカのジェーン・ローゼン
タールとリンスン。独立系の2929プロが配給する。
        *         *
 『ナイト・ミュージアム』のベン・スティラーとショーン
・レヴィ監督が、次回作にトム・クルーズを共演者に迎える
計画を公表した。
 その作品は、“The Hardy Men”という題名で、テレビ化
もされた少年ミステリーシリーズ『ハーディ・ボーイズ』の
その後を描くというもの。設定では、彼らはその後は別々の
人生を歩んできたが、ある日、残された最後の事件を解決す
るために再び集うことになる…だそうだ。
 因に、クルーズとスティラーは、2000年のテレビ番組で、
スティラーがスタントマンに扮して『M:I2』の撮影風景
のパロディ化を行った際に、クルーズが本人役で特別出演し
てくれたときからの友人ということで、今回の共演はその友
情の成果とされている。
 なお製作には、原作シリーズの権利者も参加しており、コ
メディではあるが正式の続編作品となるようだ。
        *         *
 今回は一般作品の話題が多かったので、ここからあとは、
SF/ファンタシー系の作品の情報を中心に紹介しよう。
 まずは、すでに1本紹介したディズニーの情報で、今年は
5月に“Pirates of the Caribbean: At Worlds End”と、
秋には“Ntional Treasure 2”が公開予定の同社から、今後
のシリーズ作品についての考えが報告された。
 それによると、実はまだ“Ntional Treasure 2”(副題が
“Book of Secrets”に決まったらしい)の撮影は始まって
いないものだが、このシリーズでは“Ntional Treasure 3”
“4”を続けて作って行く方針だということだ。
 一方、3部作が完結する“Pirates of the Caribbean”に
ついては、第2の3部作という方向が考えられていて、その
第1作を2010年に公開したいという意向のようだ。これにつ
いては、実は脚本家のテリー・ロッソの方の発言もあって、
それによると「“Indiana Jones 4”のように、それを生み
出す力が作用したら実現するかも知れない。その時にはまた
脚本を書くことになるだろう」とのことだ。因にロッソは、
第2の3部作ではなく第4作としていたが、それはその時の
アイデア次第になりそうだ。
 さらに、“The Chronicles of Narnia”については、前回
も書いたように第2作の“Prince Caspian”の準備が進んで
いるが、そのタイトルロールを演じるベン・バーンズには、
3本の出演契約が結ばれているということだ。従って、この
後3作の『ナルニア』シリーズは製作されることになるわけ
だが、“Prince Caspian”が2008年5月の公開予定の後は、
“The Voyage of the Dawn Treader”が2009年のクリスマス
シーズンに公開の予定とされている。
 また、最近何度か紹介している“John Carter of Mars”
については、まだ原作者の遺族との話し合いはまとまってい
ないようだが、実現すれば全11巻の大スケールのシリーズと
なるものだ。
 もう1本、昨年第107回で紹介したジェリー・ブラッカイ
マーの製作で進められている“Prince of Persia”も、原作
となるヴィデオゲームはシリーズ化されているのだから、映
画化も当然シリーズ化で考えられているようだ。
 この他、前回紹介した“Toy Story 3”も、第3作で打ち
止めということはなさそうで、シリーズものへの期待の大き
いハリウッドでは、ディズニーもその一員であることは間違
いなさそうだ。
        *         *
 お次はヨーロッパ発の情報で、ロシアでアルカジー&ボリ
ス・ストルガツキー兄弟原作の『収容所惑星』(英語題名:
The Inhabited Island)を映画化することが発表された。
 この計画と言うか、撮影は既に開始されているようだが、
監督は、2年前に英語題名“9th Company”というアフガン
戦争を描いた作品で、ロシア国内のナンバー1ヒットを記録
したフィヨドール・ボンダルチェク。この人は、1965年から
67年に製作公開されたソ連版『戦争と平和』のセルゲイ・ボ
ンダルチェクの息子ということだ。
 そして今回の映画化では、2部作が計画されていて、その
撮影経費に1800万ドル、宣伝費に1000万ドルが計上され、総
製作費2800万ドルは最近のロシア映画では最高額と言われて
いる。ただし、『戦争と平和』も2部作だったが、このとき
はソ連正規軍を実地訓練名目で動員した戦場シーンの撮影経
費は見積り不可能と言われ、当時の金額で1億ドルは軽く突
破しただろうと言われたものだ。でも、これはソ連映画だか
ら、今回の比較対象にはなっていないようだ。
 原作は、惑星に不時着した主人公が、異文化との交流に苦
悩する姿を描いたものということで、この異文化が当時のソ
連の状況の風刺したものだったとも言われている。因に原作
は、この後に『蟻塚の中のかぶと虫』『波が風を消す』と続
く3部作の第1作だ。
 ストルガツキー兄弟の原作からは、アンドレイ・タルコフ
スキーが監督した『ストーカー』(原作題名:路傍のピクニ
ック)が有名だが、反体制の作家と監督の顔合せだった同作
に対して、今回の監督は、前作ではロシアの現政権からも評
価されているということで、どんな作品になるか楽しみだ。
 なお2部作の第1部は、2008年10月に本国での公開予定と
されている。
        *         *
 続いては、これはどこまで本気か判らないが、ワーナーで
“Justice League of America”の映画化が検討され、物語
の執筆に、『Mr.&Mrs.スミス』のリライトなどを手掛けた
カーナン&マイクル・マルローニのコンビが契約したという
ことだ。
 JLAは、1960年にスタートしたDCコミックスのビッグ
プロジェクトで、1930年代後半から40年代の、アメリカンコ
ミックスのゴールデンエイジと呼ばれた時代のスーパーヒー
ローを、一気に勢揃いさせようというもの。そしてここに、
DCコミックス(当時はナショナル出版)が所有していたス
ーパーマン、バットマン、ワンダーウーマン、アクアマン、
フラッシュらが集い、一方、こちらもチームを組んだスーパ
ーヴァリアンたちと戦いを繰り広げるというものだ。
 因に、“Fantastic Four”は、このJLAに対抗してマー
ヴルコミックスが始めた企画とされているもので、従って映
画化ではマーヴルの“Fantastic Four”の方が先に登場して
いたことになるが、何と言ってもキャラクターの知名度では
JLAに叶うものはないと言える。
 そのJLAを映画化しようということだが、果たしてこの
企画に“Batman Begins”のクリスチャン・ベール、あるい
は“Superman Returns”のブランドン・ルースが、「ハイそ
うですか」と参加するかどうか。さらに“Wonder Woman”の
計画も、2005年頃にはかなり検討されていたもので、ここで
JLAが進められると、その計画との関連も問題になるとい
うことのようだ。
 なおワーナーでは、第19回や第115回で紹介した“Batman
vs.Superman”の企画が一時進められたが、この計画はすで
に断念されたということで、それに代って登場してきたもの
のようだが、このままではいろいろ影響が大きそうだ。
 一方、本来のシリーズの計画では、“Batman Begins”の
続編“The Dark Knight”が2008年、“Superman"の次回作は
2009年の公開が予定されているものだ。
        *         *
 最後に短い情報を2つ。
 まずは、ファン待望の“Star Trek XI”を2008年クリスマ
ス公開に向けて製作することが、パラマウントから公式に発
表された。監督は、『M:I3』を手掛けたJ・J・エイブ
ラムスで、脚本も同作のアレックス・カーツマン、ロベルト
・オーチが執筆。内容はカーク、スポックのアカデミー時代
を描くもので、撮影は秋に開始される。なお配役には、マッ
ト・デイモン、エイドリアン・ブロディ、ゲイリー・シニー
ズが、本気でオファーされているという情報もあるようだ。
 もう一つ。3月1日に行われた記者会見で、“Spider-Man
3”のワールドプレミアが、4月16日に日本で行われること
が発表された。また、公開も5月1日に繰り上げられること
になり、日本が世界最初の公開国になるということだ。ゴー
ルデンウィークまっただ中。しかも毎月1日は映画の入場料
が1000円となる日だが、この日に一気に動員記録を塗り替え
ようというつもりのようだ。因に、シリーズの興行成績は、
日本がアメリカに次いで世界第2位を記録しているのだそう
で、その感謝の意味でこの計画が決まったとのこと。なお、
記者会見で上映された特別映像については、3月10日の映画
紹介で報告する。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二