井口健二のOn the Production
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2007年02月01日(木) 第128回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、恒例のアカデミー賞候補の報告から。
 すでに報道されているが、今年の作品賞には、“Bable”
“The Departed”“Letters from Iwo Jima”“Little Miss
Sunshine”“The Queen”の5本が候補となっている。『硫
黄島からの手紙』の選出には正直嬉しい驚きを感じたが、す
でに試写等で観せてもらった中では、個人的な好みとしては
『バベル』が一番感動もしたし、ゴールデングローブに続い
ての受賞を期待したいものだ。
 この他は、SF/ファンタシー系の作品を中心に見て行く
と、オリジナル脚本賞にギレルモ・デル=トロ監督のダーク
ファンタシー“Pan's Labyrinth”(同作は他に、美術、外
国語映画、撮影、作曲、メイクアップ部門の候補にもなって
いる)。脚色賞にアルフォンソ・キュアロン監督による終末
物の“Children of Men”(他に、撮影、編集賞)がそれそ
れ選ばれている。
 また、候補作3本で定席の視覚効果賞は“Pirates of the
Caribbean: Dead Man's Chest”(他に、美術、音響、音響
編集賞)と、“Poseidon”“Superman Returns”。同じくメ
イクアップ賞は“Pan's Labyrinth”の他、“Apocalypto”
(他に、音響、音響編集賞)“Click”となっている。
 これらの中では、“Pan's Labyrinth”が頑張っている感
じだが、日本では『トゥモローワールド』の題名で先行公開
された“Children of Men”が、予想以上の健闘をしている
ことにも驚かされた。また、“Apocalypto”はメル・ギブス
ン監督の舌禍にもめげずという感じだが、最終的な判断はど
うなるだろうか。
 因に、メイクアップ賞は、前回予備候補の紹介で疑問を呈
した2作品は落選したものだが、“Click”(邦題:もしも
昨日が選べたら)の選出には納得というところだ。それから
『POTC:DMC』の視覚効果賞はかなり固そうだが、他
の部門は、昨年度ナンバー1ヒットの名に掛けて全て蹴散ら
せるかどうか、それぞれの対決が面白そうだ。
 一方、長編アニメーション部門は“Cars”(他に、主題歌
賞候補にもなっている)“Happy Feet”“Monster House”
の3本となった。前回の紹介では5本選ばれると書いたが、
実はその後でリュック・ベッソン監督の“Arthur and the
Invisibles”が、映画アカデミーの規定するアニメーション
シーンが75%以上という条件に合わないことが判明、それが
除かれた結果、公開本数が15本となり、2002年以来の5本候
補は今年も叶わなかったものだ。
 受賞式は現地時間の2月25日。今年はどんな結果が待って
いるのだろうか。
        *         *
 以下は製作ニュースをお届けしよう。
 まずは待望のニュースで、ディズニーがエドガー・ライス
・バローズ原作のSFファンタシーシリーズ“John Carter
of Mars”のシリーズ映画化を目指して、映画化権の交渉を
バローズの遺族と行っていることが明らかにされた。
 この原作の映画化に関しては、2002年第14回以来、パラマ
ウントで進められていた計画を度々報告してきたものだが、
2005年の第97回で紹介したジョン・ファヴロウ監督の起用が
発表されて以後の情報が跡絶えていた。そしてついにパラマ
ウントが保持していた映画化権が期限切れになったようで、
その権利の獲得にディズニーが動いているというものだ。
 この原作シリーズとディズニーの関係については第14回に
も書いているように長い歴史があったものだが、パラマウン
トが権利を保持していた5年間は、ディズニーにとっては何
だったのだろうか…。それはともかく、権利が確定したら、
第126回にも書いたように、2012年の原作発表100周年を目指
して、ぜひとも早急な製作を進めてもらいたいものだ。
 因に、パラマウントでは、ロベルト・ロドリゲス、ケリー
・コンラッド、ジョン・ファヴロウらの監督が計画にタッチ
していたものだが、それ以前のディズニーの計画では、ジョ
ン・マクティアナン監督の名前もあったとされている。これ
らの名前では、基本的に実写での映画化が目指されていたと
考えられるが、実は今回の映画化権の交渉には、ピクサーが
加わっているという情報もあるようだ。
 そうなるとCGIアニメーションでの映画化の可能性も高
くなるが、交渉に当っているバローズの遺族は、実写での映
画化を強く希望しているとも伝えられる。いずれにしても、
バローズが創造した火星の生物やキャラクターの映像化には
CGIは欠かせないもので、実写と合成でやるにしても、ピ
クサーの参加は心強いものだ。
 後は、脚本と監督に誰が選ばれるか、注目して見ていきた
い。
        *         *
 お次は、前回の記事の続報ということにもなるが、ジョニ
ー・デップがワーナーで進めている“Shantaram”の映画化
に、インド出身の女性監督ミラ・ネアの起用が発表された。
 この作品については、2004年の第73回から紹介しているも
のだが、昨年の第113回で紹介したように一時監督に予定さ
れていたピーター・ウェアが創造上の意見の相違を理由に降
板を表明し、計画が頓挫していた。しかし前回報告したよう
に製作者たちは今年10月の撮影開始を目指して準備を進めて
いたもので、この計画に待望の後任監督が決定したものだ。
 監督のミラ・ネアは、日本では2002年に公開された『モン
スーン・ウェディング』の監督として知られるが、ニューデ
リーの出身。ただしハーヴァード大学で映像学を学んだとい
う才媛で、インド代表に選ばれた同作品は、2001年のヴェネ
チア映画祭で金熊賞にも輝いている。そして2004年には、リ
ーズ・ウィザースプーン主演で製作された“Vanity Fair”
という作品でアメリカに進出。さらに“The Namesake”とい
う作品が、今年3月9日全米公開の予定になっている。
 その監督が、インドも舞台となるこの作品で里帰りするこ
とになるもので、“Salaam Bombay!”という作品をデビュー
作とする彼女が発揮する「欧米監督とは異なる視点」には、
製作を担当するグラハム・キングも大いに期待を寄せている
ようだ。
 オーストラリアの麻薬中毒患者が、世界一厳重と言われた
監獄を脱獄し、あるときはインドのムンバイで医師となり、
さらにアフガニスタンの反政府ゲリラに身を投じるという、
グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツの原作は、『ミュンヘ
ン』などのエリック・ロスが脚色を担当、今年の秋からの撮
影が予定されている。
        *         *
 続いてはシリーズ物の情報をいくつか紹介しよう。
 まずは、今年5月に第3作が公開される“Spider-Man”に
ついて、3部作で終了するか否か不明だったシリーズ第4作
の脚本を、第1作を手掛けたデイヴィッド・コープに交渉し
ていることが報告された。
 これは、先に行われた第3作の初号試写を見たコロムビア
の首脳が、その直後に動いたというもので、この情報が事実
とすれば、シリーズの継続は決定したと考えていいものだ。
因にコープは、前回も紹介したように“Indiana Jones”の
第4作の計画にも参加しているが、今年の夏に撮影が計画さ
れているその脚本は、当然すでに完成していなければいけな
いもので、当面“Spider-Man”への参加の支障になるもので
はない。
 ただし、主演のトビー・マクガイア、キルスティン・ダン
スト、ジェームズ・フランコの3人は、いずれも3作までの
契約を結んでいたもので、その契約を延長することは、特に
3人がその後にブレイクしたことを考慮すると契約金だけで
膨大な額になる。
 一方、監督のサム・ライミも、本人が続けて手掛けたいと
する希望は常々公表していたものだが、仮に本人が希望して
も契約金は釣り上がるのが決まりだそうで、これも監督とし
ては破格の金額になる可能性があるようだ。しかも監督は、
主演の3人とのリレーションシップを一番大事と考えている
ようで、監督の希望が叶うためにはそれこそ天文学的な契約
金が積まれることになりそうだ。
 これに対して、第1作と第2作の合計で、すでに10億ドル
を突破している全世界興行収入の額がどう判断されるかとい
うことになる。
 なお、シリーズの第2作と第3作の脚本は、アルヴィン・
サージェントが手掛けていたものだが、そこにコープが再登
板するということは、単なる延長戦が求められているもので
はなく、コープが自ら第1作で敷いた路線を大幅に転換する
ことも予想される。またそれをさせるためにコープの再登板
がある訳で、それがマクガイアらの期待に沿えることも重要
なポイントになりそうだ。
 コロムビア側は第4作の公開を、2009年か2010年に希望し
ているということだ。
        *         *
 お次は、日本では『ハムナプトラ』シリーズとして公開さ
れる“The Mummy”の第3弾について、ロブ・コーエン監督
が交渉されていることが報告された。
 この計画については、第119回でも紹介したが、その時に
報道されていたジョー・ジョンストン監督はキャンセルされ
た模様で、替ってコーエンの名前が出てきたものだ。しかし
コーエン監督と言えば、『ワイルドスピード』や『XXX』
での評価が高いものだが、いずれもその続編は進めたものの
途中降板しており、今回第3作に名前が出てくるというのは
不思議な感じもするところだ。
 またコーエン監督は、近作の『スティルス』でもメカフェ
チぶりを発揮していたが、ちょっとレトロな時代背景を持つ
このシリーズでどんな展開を見せるかにも興味が湧く。でも
まあ、本人がやると言えばそれはそれで楽しみなことで、こ
れは大いに完成が期待されるものだ。
 一方、マイルズ・ミラーと共に脚本を執筆したアル・ゴー
フの発言によると、「物語は、リックとエヴィの子供アレッ
クスが重要なキーとなるもので、極めてファミリーなストー
リーが展開される。ミイラ男も新規なものが登場する」との
こと。この展開でのコーエン監督の手腕にも期待したい。
 因に、主演のブレンダン・フレーザーとレイチェル・ワイ
ズは、まだ契約はしていないものの出演に向けての話し合い
は行われているとのことで、再演は間違いないようだ。撮影
は今年の夏、公開は2008年夏に予定されている。
        *         *
 第4作、第3作と来て、次は第2作と言えるのかどうかち
ょっと判らないが、ワーナーから正式のゴーサインが出され
た“Spuperman Returns”の続編について、第1作も手掛け
た脚本家のマイクル・ドハーティの発言が紹介された。
 それによると、第2作はアクション中心の物語になるとい
うことだ。これは監督のブライアン・シンガーも考えていた
ことだそうで、「“X-Men”の続編の“X2”がそうであった
ように、あるいは“Star Trek−The Motion Picture”に対
する続編の“Wrath of Khan”のように、第1作では設定の
基礎を作るために苦心をするが、第2作からはその束縛を逃
れて自由にアクションを繰り広げられる」とのことだ。
 実際ドハーティは、シンガーと共に“X-Men”から“X2”
への流れも作り上げてきたということだが、「この作業は実
に簡単なことだ」とも語っている。また、シンガーの頭の中
には、「“Wrath of Khan”のような展開がある」というこ
とのようで、確かロンドンのプレミアでは、クリプトン星の
3悪人の1人ゾッド将軍の再登場を予告するTシャツを着た
スタッフがいたとの情報もあったが、その可能性はかなり高
くなったようだ。
 ケヴィン・スペイシーのレックス・ルーサーと、ケイト・
ボスワースのロイス・レーンの去就も気になるところだが、
とりあえず第2作はアクション満載の作品となりそうだ。
        *         *
 以下は新しいニュースを紹介する。
 まずは2005年にディズニーと合併したピクサーが、新体制
になってからの初めての計画として、“WALL-E”という作品
を2008年6月27日に全米公開することを発表した。
 この作品は、『トイ・ストーリー2』でジョン・ラセター
との共同監督を務め、2003年の『ファインディング・ニモ』
でオスカーを受賞したアンドリュー・スタントンが監督する
もので、詳しい内容は極秘とされているが、最近株主に配ら
れた資料によると、主人公は若いロボットということだ。そ
してこのロボットが、宇宙の彼方にある家族の住む家を探す
物語との情報もあり、また配られた資料の画像では背景が火
星のようだという意見もあった。
 因にピクサーからは、今年6月に“Ratatouille”という
作品が全米公開されるが、この作品がディズニーとの旧契約
の最後の作品だったようで、来年の“WALL-E”からが新体制
での作品となるものだ。そして2009年には“Toy Story 3”
の計画も発表されている。
 なお、この第3作に関しては、一時はディズニーが独自に
製作するという発表もあったものだが、合併後にラセターが
ディズニー・アニメーションのトップの座に就いたことで、
ディズニーの計画はキャンセルされ、新たにピクサーで進め
られることが発表されている。
 これに加えて、上述した“John Carter of Mars”となる
訳だが、こうなると早ければ2010年にも火星(バルスーム)
での冒険が見られることになりそうだ。
        *         *
 お次はゲームの映画化ではないが、ゲームファンには気に
なる計画で、ヴィデオゲームの『ドンキー・コング』を巡る
2人のゲーマーの対決を描いたドキュメンタリー“The King
of Kong”の配給権をニューラインの姉妹会社のピクチャー
ハウスが獲得し、併せてドキュメンタリーをドラマ化するリ
メイク権をニューラインが契約したことが報告された。
 この作品は、1999年に『パックマン』で史上初めての完全
スコアを記録したことでも知られるプロゲーマーのビリー・
ミッチェルと、ミドルスクールの理科教師スティーヴ・ウィ
ーブの対決を描いたもので、事の起こりはウィーブが、20年
近くも前にミッチェルが打ち立てた『ドンキー・コング』の
最高得点87万4300点を、94万7200点という驚異的なスコアで
打ち破ったことから始まったようだ。
 そしてこの2人のちょっと常軌を逸した対決の模様が、ド
キュメンタリー監督セス・ゴードンの手で映像化され、1月
に開催されたスラムダンス映画祭に出品されたもので、この
情報がニューラインのリチャード・ブレナーに報告され、そ
の面白さに20回も見たというブレナーからトップのトビー・
エメリッヒに進言されて、直ちに契約が進められたというこ
とだ。
 なお、ドキュメンタリーは今年の夏に全米公開の予定で、
さらにドラマ化は、ゴードンの監督で直ちに進めるとされて
いる。因に、ウィーブの記録樹立は、それ自体がゲーム界で
はビッグニュースだったということで、今回の映画化も公開
されれば、注目を浴びることは間違いなしのものだそうだ。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 5月公開の“Spider-Man 3”では悪役ヴェノムを演じてい
る俳優のトッファー・グレイスが、自らの製作総指揮と出演
で、“Source Code”と題されたタイムトラヴェル物のSF
作品をユニヴァーサルで計画している。実はこれ以上の内容
に関する情報は公表されていないものだが、脚本を執筆した
ベン・リプリーは、すでに“In Vitro”というホラー作品が
フォックスと契約され、“Red Cell”というスリラー作品を
ニューラインと契約しているということで、それなりの実力
はありそうだ。期待したい。
 続報で、スティーヴ・カレルとアン・ハサウェイの主演で
進められている“Get Smart”の映画化に、ドウェイン“ザ
・ロック”ジョンスンと、テレンス・スタンプの出演が発表
された。ザ・ロックの役柄は23号と呼ばれる新キャラクター
で、“Superman Returns”の続編ではゾッド将軍の再演も期
待されるスタンプは悪のリーダー役だそうだ。なお、製作は
2月3日に開始され、ロサンゼルス、ワシントンDC、それ
にモスクワでの撮影が予定されている。
 次も続報で、マーヴルが進めている自主製作映画の第1弾
“Iron Man”に、ロバート・ダウニーJr.とテレンス・ハワ
ードに続いてオスカー女優のグウィネス・パルトロウの出演
が発表された。役柄はヴァージニア・ポットという名前で、
主人公が着用する戦闘スーツを開発した企業家の個人アシス
タントというもの。『恋に落ちたシェークスピア』で1998年
の主演賞を受賞した女優にコミックスの映画化は、ちょっと
不似合いな感じもするが、派手目のアクション作品であって
も、キャラクターにはしっかりした背景を付けたいという製
作者の考えからパルトロウの起用が決まったそうだ。撮影は
3月に開始される。
 もう1本、マーヴル・コミックスの話題で、新たに“Luke
Cage”という作品の映画化が計画され、その主演に、『ワ
イルド・スピード2』や『フライト・オブ・フェニックス』
のタイリーズ・ギブスンが予定されていることを、本人が公
表している。この作品は、ヒーロー的にはPawer Manという
名前で活躍するようだが、主人公はニューヨーク・ハーレム
の出身。友達と行ったちょっとした犯罪で彼だけが捕まり、
刑務所で科学的実験が施される。一方、その場を逃れた友人
は、やがてギャングのボスとなる。そして、2人が共に愛し
た女性を巡って対決の時がやってくる…というもの。シリー
ズ名は“Luke Cage, Hero for Hire”というそうだ。なお、
この作品では、『ワイルド・スピード2』のジョン・シング
ルトンが監督を手掛けることも発表されている。
        *         *
 最後にちょっと気になる情報で、『レディ・イン・ザ・ウ
ォーター』のM・ナイト・シャマラン監督が新たに執筆した
脚本に対して、メイジャー各社が拒否反応を示し、映画化が
暗礁に乗り上げているということだ。
 この作品は、タイトルが“The Green Effect”、あるいは
“Green Planet”というもので、人類が自然を征服しようと
して引き起こす、環境破壊による大災害を描いているという
ことだ。しかしこの脚本に対して、すでにユニヴァーサル、
パラマウント、ワーナー、ソニーが契約しないことを表明、
フォックスだけが話し合いには応じているものの、脚本の大
幅な書き直しを要求しているということだ。
 『シックス・センス』以来、常に引く手あまただったシャ
マラン監督だが、昨年の『レディ…』の躓きでは一気に信用
を無くしてしまったようで、差し当たっては、前回紹介した
“Avatar: The Last Airbender”がパラマウントで進められ
てはいるが、これも直ぐというものではなく、その前にやり
たかった企画ということのようだが、ちょっと実現は難しく
なりそうだ。
 なおシャマランは、『レディ…』では、ラズベリー賞の作
品、監督、脚本と助演男優賞の4部門に、個人でノミネート
されているものだ。


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井口健二