井口健二のOn the Production
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2007年01月20日(土) 龍が如く、許されざるもの、ブラッド・ダイヤモンド、ケータイ刑事2、あかね空、今宵フィッツジェラルド劇場で

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『龍が如く〜劇場版』
2005年に発売された同名のPS2用ゲームソフトにインスパ
イアされたアクション映画。
ミレニアムタワーという名の高層ビルがど真中に聳え立つ、
新宿歌舞伎町を思わせる神室町。その不夜城を舞台に、10年
の刑期を終えて出所したヤクザと母親を探す少女。銀行立て
籠り事件に、その銀行から消えたヤクザ資金。謎の韓国人に
コンビニ強盗を続ける若いカップル、ヤクザの抗争、永田町
の黒幕などが絡み合う熱帯夜のワンナイトストーリー。
監督の三池崇史は、ヴァイオレンスアクションからスプラッ
ターホラーまで、娯楽映画なら何でもこなす職人と言って良
いと思うが、何しろ多作。多分脚本があればちゃかちゃかと
撮ってしまうのだろうが、正直に言って当たり外れは大きい
と感じる。
でも、当ったときは本当に凄いものが出てくる訳で、そして
本作は、多分当りの方だ。
脚本は、『交渉人・真下正義』の十川誠志。今回はこの脚本
がしっかり出来ていたこともあるのかもしれないが、かなり
強烈な格闘技アクションから、CGIを使ったヘリコプター
アクションまで、盛り沢山に見事な展開を見せてくれる。
でもまあ、それを的確に映像化するのも監督の腕の見せ所な
訳で、現在の日本の監督でそれが確実に出来るのも、三池監
督が第1人者であることは間違いないところだ。
出演は、北村一輝、岸谷五朗、塩谷瞬、サエコ、夏緒。それ
に加藤晴彦、高岡早紀、哀川翔、コン・ユ。さらに松重豊、
田口トモロウ、遠藤憲一、荒川良々、真木蔵人、塩見三省。
何と言うか、個性派という程でもないけれど、最近見ている
日本映画では変に印象の強いメムバーが揃っているのも面白
かった。
また、歌舞伎町を思わせる繁華街を、金属バットなどを持っ
た強面の男の集団が走り回るシーンには、よく撮らせたとい
う感じもしたし、久し振りのヤクザ映画の雰囲気で、日本映
画の伝統的な一面を見ているような懐かしさも感じられた。
程よく戯画化されたヴァイオレンスも、白けることもなく楽
しめたし、結末も悪い感じはしないものだった。なおチラシ
には、「SEGA発、映像プロジェクト始動」とあったが、
これは今後も続くのだろうか?

『許されざるもの』(韓国映画)
2005年の釜山国際映画祭で、同映画祭の最高賞であるPSB
観客賞を始め、4冠に輝いたとされる韓国映画。26カ月の兵
役義務のある韓国で、古参兵による新兵苛めの果てに起きる
事件を描く。
幸い日本には兵役がない訳だが、古参兵による新兵苛めとい
うのは、昔あった兵隊ものの映画にはよく描かれていたもの
だ。僕は辛うじてそういう映画を見知っている世代だが、兵
役に現実味のない現代の日本映画では、全く廃れてしまった
ジャンルと言える。
一方、韓国では現実にこのようなことは起きている訳だが、
プレス資料に添えられた監督の言葉によると、このような苛
めは体験しても、それを早く忘れてしまおうとするのが風潮
なのだそうだ。つまり、他人に伝えてはいけないタブーとい
うことなのだろう。
それを敢えて映画にし、しかも映画祭で賛辞を持って迎えら
れたというのは、正しくこの映画が真実を描いていると評価
されたからに他ならない。
物語は、大学にいたために比較的年齢が行ってから兵役に就
いた男スンヨンと、彼の幼馴染みの古参兵テジョンとが中心
となる。学歴のあるスンヨンは、当然古参兵に反抗的だが、
それをテジョンが守る構図が出来る。
そしてスンヨンは、自分が古参になったら改革すると言い続
けるのだが。テジョンが除隊し、スンヨンに新兵の部下が出
来たとき…
監督は、自ら執筆した脚本を基に、映画振興委員会からの助
成金と、短編映画を映画祭に出品して得た賞金、さらに自己
資金も調達して、映画学校の4年生の時に卒業製作としてこ
の映画を完成させたというものだ。しかもそれが高く評価さ
れた訳だ。
ただし、映画は、時間の流れを入れ替える最近流行りの手法
で構成されているが、実はこれがあまり成功しているとは思
えなかった。結局この手法では、判った瞬間に観客になるほ
どと思わせるのが醍醐味だが、それほどの鮮烈さが感じられ
なかったものだ。
もっとも、これが新人監督の第1作だと考えると、それは見
事ではあるが…なお監督は、主要な登場人物の一人として出
演もしているもので、その意外な配役にも驚かされた。
それにしても、戦時の極限状態ならまだしも、平時の義務兵
役で幼稚とも言える苛めが、しかも伝統的に行われていると
いうのは、簡単に言ってしまえば軍隊という組織の愚かさを
示している。日本も兵役が復活すれば、すぐにもこうなるだ
ろうという現実だ。

『ブラッド・ダイヤモンド』“Blood Diamond”
『ラスト・サムライ』などのエド・ズウィック監督が、レオ
ナルド・ディカプリオを主演に迎えて、西アフリカの紛争地
帯に於けるダイヤモンドシンジケートの暗躍を描いた作品。
共演は、ジェニファー・コネリーと、『グラディエーター』
のジャイモン・フンスー。
舞台はシエラレオネ。政情不安なこの国では、総選挙を前に
反政府組織が、投票阻止と称して民間人の腕を切り落とすな
ど暴虐を続けている。そしてフンスー扮する黒人一家の父親
ソロモンは、組織の資金源であるダイヤ鉱山に徴用され、そ
こで巨大なピンクダイヤの原石を発見してしまう。
一方、ディカプリオが扮するダニーは旧ローデシア生まれの
白人。幼い頃から兵士として、時には傭兵として過酷な人生
を歩んできたが、現在はダイヤシンジケートの手先として、
武器の供給と引き換えに反政府組織のダイヤを闇で集める仕
事をしていた。
このため、後ろ楯のある彼の行動は、脱出用の小型機を戦地
に呼び寄せるなど、大胆なものだったが…ある日、仮に収監
された牢獄で、ソロモンが発見したという巨大なピンクダイ
ヤの情報を掴む。それは、彼をアフリカの地から脱出させる
鍵となるかも知れなかった。
早速、ソロモンとコンタクトしたダニーは、彼の家族が行方
不明であることを知り、家族の救出を取り引き材料として、
ダイヤの隠し場所に案内するように彼に要求する。
そしてコネリーが扮するのは、アメリカ人の女性ジャーナリ
スト。世界中の紛争地でスクープをものにしてきた彼女が、
今狙っているのは世界中の反政府組織の資金源とされるダイ
ヤモンドシンジケートの悪行を暴くこと。
こうして互いに思惑の絡み合った3人の冒険が始まる。
物語の背景は1990年代後半とされているが、現実には2002年
に国連主導による不正ダイヤ取り引きを規制するキンバリー
プロセスが発効している。しかしこのような不正取引は、今
も続いている言われているもののようだ。
このため本作のアメリカでの公開時には、ダイヤモンドシン
ジケートからの抗議も行われたということで、彼らは自らそ
の実体を曝け出したとも伝えられた。確かにここに描かれて
いるようなことは今も行われていることなのだろう。
とは言え、映画はそれを見事なアクションアドヴェンチャー
に仕立てたもので、フンスーと息子との関係や、ディカプリ
オとコネリーの仄かな恋愛関係など、ドラマティックな展開
が盛り沢山なものだ。特にディカプリオのキャラクター作り
には感心させられた。
そしてシエラレオネの現地やジンバブエ(旧ローデシア)、
南アフリカなどで撮影された映像も見事。今も続いていると
思われるアフリカの現実を知る意味でも素晴らしい作品と言
える。

『ケータイ刑事 The Movie 2』
2002年に宮崎あおいの主演でBS−iにて放送開始。以後、
堀北真希、黒川芽衣、夏帆、小出早織と演じられてきた女子
高生刑事シリーズの映画版。
実は、昨年映画版の第1作が公開され、今回がその第2作。
前作は堀北、黒川、夏帆の出演だったが、今回は夏帆と小出
が主演している。そして相手役には、前作の草刈正雄、山下
真司に代って、今回は国広富之と松崎しげるが登場する。
この相手役のコンビから想像できるように、物語はパロディ
の要素が強いものだ。実は、第1作の時はサイトにアップし
なかったが、前作ではこのパロディがどうにも納得できず、
映画としての評価が出来ないものだった。
しかし今回は、パロディの部分は一応納得できたし、それに
前作ではあまりに子供だましのトリックとその謎解きに辟易
したが、今回は冒険が主体ということでそのようなところも
なく、子供だましは変わりないがそれなりに見ることは出来
たというところだ。
物語は、港区赤坂にある広大な森(?)が舞台。そこに向か
った国広扮する岡野刑事が消息を絶つ。そしてその後を追っ
た小出扮する銭形雷も。そこで、夏帆扮する銭形零と松崎扮
する松山刑事がコンビとなって捜査に向かうが…。
そこは、銭形一族に対抗する石川五衛門の末裔による陰謀が
張り巡らされていた。
正直に言って、松崎が突然懐メロを歌い出すなんていう展開
は、まともな神経では耐えられないものだが、そんなもので
も、主演の女子2人の人気に支えられて成立してしまうのか
な…。そんな映画も点々と見られる最近の日本映画界で、そ
の象徴とも呼べる作品だ。
でもまあ、こちらの癇に障らなければ、取り敢えず理解して
上げたいとは思うところで、その観点ではOKだったという
ことにしておきたい。ただ、もう少し何かの工夫があれば、
もっとキャラクターを活かせたような気もして、もったいな
くも感じたものだが。
なお、警視庁副総監役で宍戸錠が出演していたが、大画面で
は両頬の手術跡がかなり明瞭に見えてしまうもので、痛々し
くてちょっとショックだった。

『あかね空』
山本一力原作、直木賞受賞時代小説の映画化。
三軒長屋が並ぶ江戸下町・深川蛤町を舞台に、京都からやっ
てきた豆腐職人の男と、町娘の出会いからを描く人情物語。
男は南禅寺門前で修業を積み、京豆腐の味を江戸にもたらす
が、最初は珍しがられても江戸っ子の食感に合わないなど、
成功や挫折を味あわされる。それでも信念を曲げず、作り続
けた豆腐屋は、やがて大きな店を構えるほどに発展するが…
今度は跡を継ぐべき息子の不始末など家庭内の問題や、同業
者との確執などの世間との問題が襲いかかる。それでも健気
に生きて行く一家の姿が描かれる。
プロローグで永代橋の雑踏が登場する。約260メートルあっ
たと言われる橋の姿は文献や浮世絵などに基づいて再現され
たそうだが、想像以上に堂々としたもので、この映像だけで
これから始まる物語のスケールの大きさを見事に表わしてい
る感じがした。
この橋の風景はCGIで再現されているが、CGIは町並み
俯瞰など随所に登場して物語に彩りを加えて行く。CGIで
古い町並を再現して話題となった作品はすでにあるし、本作
はそれを売り物にしようというものでもないが、こんな風に
CGIが使われると、日本映画も少しずつ進歩していると感
じさせてくれるものだった。
出演は、主人公の夫婦に内野聖陽と中谷美紀。途中に18年の
時間経過を伴う物語は、ほとんど2役に等しいが、さらに内
海には別の役柄も用意されるなど、この2人の俳優には役者
冥利という感じの作品だ。
他には、中村梅雀、勝村政信、泉谷しげる、角替和枝、石橋
蓮司、岩下志麻らが共演。
2003年に監督業から引退を宣言した篠田正浩が企画となって
いるが、実は引退宣言の直後に原作と巡り合ったということ
で、篠田は助監督だった浜本正機と共に共同で脚本を執筆、
浜本に監督を任せている。
因に、原作の物語は、映画の後もまだ続くもののようだが、
試写後の舞台挨拶に登壇した浜本は、「長い原作を映画の長
さにする際、全体を掻い摘んで全部を映画化する方法もあっ
たが、自分は起用ではないので、一部分をきっちり描く方法
を採った」と語っていた。
それは謙虚な言い方だったが、同時に続編を作る可能性も残
した訳で、これはぜひとも成功させて、続編も見てみたいと
感じさせてくれたものだ。

『今宵、フィッツジェラルド劇場で』
             “A Prairie Home Companion”
昨年11月20日に亡くなったロバート・アルトマン監督の遺作
となった作品。
現在もなお日本(米軍放送)を含む全世界で放送されている
原題と同じ名称のラジオ番組を題材に、その番組が終了する
という架空の設定で、その最後の生放送の舞台裏をほぼ実時
間で追ったアンサンブルドラマ。
出演は、実在の番組の司会者で、本作の脚本家でもあるギャ
リソン・キーラーを中心に、実在の歌手の名前で登場して歌
声も披露するメリル・ストリープとリリー・トムリン。スト
リープの娘役で本人が共演を希望したというリンジー・ロー
ハン。
また、オリジナル番組の創作キャラクターから現実の人物と
して登場する探偵役にケヴィン・クライン、中年カウボーイ
のデュオ役でウディ・ハレルソンとジョン・C・ライリー。
さらに、L・Q・ジョーンズ、トミー・リー・ジョーンズ、
ヴァージニア・マドセン、マヤ・ルドルフ、メアリー・ルイ
ーズ・バークら、錚々たるメムバーが登場する。
何しろ、これらの登場人物のパフォーマンスを見ているだけ
でも、時間がどんどん過ぎてしまう。その中には愉快な歌声
や、ある事件が起きて舞台裏が混乱して行く様子や、それで
も番組を続けなければならない使命感などが見事に描き出さ
れる。
それが、ストリープを始めとする登場人物たちの歌で彩られ
ながら進められて行くのだ。特に、後半の番組が混乱し始め
てからのハレルソンとライリーの下ネタオンパレードの掛け
合いなどは、それだけでも見る価値を感じた。
番組の終焉という設定は、監督が死期を覚悟していたように
も取れ(本人は直前まで次作の準備をしていたようだが)、
それはそれで映画ファンとして感じるところもあるが、それ
を明るく華やかに演出してくれたことには嬉しくも感じてし
まうところだ。
アルトマンの作品では、初期の『BIRD★SHT』と『ギ
ャンブラー』が取り分け好きだったが、最近では本作の撮影
にも使われたHDカメラを積極的に使用するなど新しい技術
にも挑戦して、これからもまだまだ映画を引っ張って行って
欲しかった。ご冥福をお祈りしたい。


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井口健二