井口健二のOn the Production
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2007年01月15日(月) 第127回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、キネ旬の連載が決算号でお休みなので、製作ニュ
ースは後回しにして、最初に昨年も紹介した前年度のアメリ
カ興行成績の結果から。
 まず、2006年度のベスト10は、
1.Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest
                  (4億2332万ドル)
2.Cars(2億4408万ドル)
3.X-Men: The Last Stand(2億3436万ドル)
4.The Da Vinci Code(2億1754万ドル)
5.Superman Returns(2億0001万ドル)
6.Ice Age: the Meltdown(1億9533万ドル)
7.Happy Feet(1億8141万ドル)
8.Casino Royale(1億5684万ドル)
9.Over the Hedge(1億5502万ドル)
10.Talladega Nights(1億4821万ドル)
となった。
 1位の4億ドル突破は2004年の“Shrek 2”(4億3672万
ドル)以来のこと。また、ディズニー作品による1−2フィ
ニッシュは2003年以来となるが、そのときは1位“Finding
Nemo”で、2位が“Pirates of the Caribeann: The Curse
of the Black Pear”だったから、正に“Pirates…”の躍進
ぶりが目立つというところだ。この勢いを駆って、今年5月
の“Spider-Man 3”“Shrek 3”との第3作対決がますます
面白くなってきた。
 因に、2004年度の第2位は3億7338万ドルの“Spider-Man
2”、また2002年公開の“Spider-Man”は4億ドル突破の年
間1位、一方2001年公開の“Shrek”は“Harry Potter”の
後塵を拝する2位だったもので、いずれも連続1位だったわ
けではない。その中で2度目の1位を獲得するのはどの作品
か。これは本当に3者とも負けられない1戦という感じだ。
 この他に、ベスト10で目立つことと言えば、2、6、7、
9位とアニメージョンが4作も占めたことだろう。前回も紹
介したように昨年度のアメリカでのアニメーション公開本数
は全16本で、その1/4が上位に食い込んだものだ。以下に
は“Open Season”(22位)、“Monster House”(29位)、
“Flushed Away”(44位)などが続く。
 一方、SF/ファンタシー系の作品も1、3、5位に食い
込んでいる他、11位“Night at the Museum”(1億4001万
ドル)、12位“Click”(1億3736万ドル)と続く。この内
“Night…”は昨年末の公開で、興行はまだ継続中。10位を
逆転するのは時間の問題だ。
 さらに、SF/ファンタシー系の作品では、“The Santa
Clause 3”(23位)“Saw 3”(26位)“V For Vendetta”
(33位)“Underworld: Evolution”(41位)“Eragon”
(42位)“Deja Vu”(43位)“The Shaggy Dog”(45位)
“Poseidon”(46位)“Charlotte's Web”(47位)などが
ベスト50位までに名を連ねた。
 また、48位には“The Chronicles of Narnia”が5978万ド
ルで入っているが、これは前年度分が除かれているためで、
トータルでは2億9171万ドルとなっている。同様のケースで
は、“Harry Potter and the Goblet of Fire”(2億9001
万ドル)、“King Kong”(2億1814万ドル)になっている
ものだ。
 なお上記の他、“Mission: Impossible 3”“The Pursuit
of Happyness”などを含めて、2006年単年度での1億ドル
突破は18本。これは本数としては前年と同じだが、3億ドル
台の作品が無いことや、それ以前が毎年20本を越えていたこ
とを考えると、全体的には多少低調に感じられるところだ。
 今年は、どうなることか。
        *         *
 お次も、昨年も紹介したVESAwardsのノミネーションの
報告で、まずVFX主導の映画におけるVFX賞の候補は、
“Charlotte's Web”、“Pirates of the Caribbean: Dead
Man's Chest”、“The Fountain”の3本。またVFX主導
でない映画におけるVFX賞の候補は、“Blood Diamond”
“Children of Men”“Flags of Our Fathers”“The Da
Vinci Code”の4本と発表されている。
 単独のVFX賞候補には、“Children of Men”の赤ちゃ
ん誕生のシーンと、後は対象の特定なしで、“Pirates…”
“Poseidon”“X-Men: The Last Stand”が選ばれた。
 さらに実写映画におけるアニメーションキャラクター賞の
候補は、“Charlotte's Web”のテンプルトン、同じくのウ
イルバー、それに“Pirates…”のデイヴィ・ジョーンズ。
これに対してアニメーション映画におけるキャラクター賞の
候補は、“Cars”のメーター、“Monster House”の家と、
“Happy Feet”のマンブル。
 背景賞候補は、“Mission: Impossible 3”“Pirates…”
“Poseidon”。ミニチュア賞候補は、“Pirates…”“The
Good Shepherd”“V For Vendetta”。合成賞候補には、
“Pirates…”“Poseidon”“The Da Vinci Code”。特殊効
果賞候補には、“Casino Royale”“Superman Returns”と
いうものだ。
 全体的には“Pirates…”と“Poseidon”の候補が目立つ
感じだが、前回紹介したアカデミー賞の予備候補との比較で
は、話題にした“Charlotte”と“Flags”がいずれも本賞と
もいえるVFX賞の候補になっているもので、これには何と
なくアカデミーに対する対抗意識も感じられるところだ。
 なお、受賞者の発表と受賞式は2月11日に行われる。
        *         *
 続いてアカデミー賞関係の情報で、前回16本が対象になっ
たと報告した長編アニメーション賞部門で、エントリーされ
た具体的な作品名のリストを紹介しておこう。
 その16本は、アメリカ題名のアルファベット順で、“The
Ant Bully”“Arthur and the Invisibles”“Barnyard”
“Cars”“Curious George”“Everyone's Hero”“Flushed
Away”“Happy Feet”“Ice Age: The Meltdown”“Monster
House”“Open Season”“Over the Hedge”“Paprika”
“Renaissance”“A Scanner Darkly”“The Wild”という
ことだ。
 この内、2本目の“Arthur…”は第106回で“Arthur and
the Minimoys”として紹介したリュック・ベッソン原作監督
による作品。また、13本目に『パプリカ』が入っているが、
この作品は字幕版のみということで、最終候補入りはかなり
難しそうだ。一方、日本では話題になった『ゲド戦記』は、
実はアメリカでの映像化が別にあり、その権利が切れるまで
はアメリカでの公開はできないのだそうだ。従って上映不能
の作品は対象から外されると報告されていた。
 ということで、上記の16本の中から最終候補の5本が選ば
れることになる。
 一方、メイクアップ賞部門には7本の予備候補が発表され
ている。
 選ばれたのは、こちらもアメリカ題名のアルファベット順
に、“Apocalypto”“Click”“Pan's Labyrinth”“Pirates
of the Caribbean: Dead Man's Chest”“The Prestige”
“The Santa Clause 3”“X-Men: The Last Stand”で、こ
の中から恐らく3本が最終候補となるはずだ。
 それにしても、“Pirates…”“X-Men…”のメイクアップ
は、多分にVFXも関わっているものだが、その辺の判断は
どのようになっているのだろうか。
 アカデミー賞のノミネーションは1月23日に発表、受賞者
の発表と受賞式は2月25日に行われる。
        *         *
 以下は製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、新年早々のビッグニュースで、ついに“Indiana
Jones 4”の製作が公式に報告された。報告によると、本作
の製作に関わるジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピル
バーグ、ハリスン・フォードのトリオは、1月1日、パラマ
ウントがデイヴィッド・コープの脚本に基づく撮影を6月に
開始するとした計画を承認したということだ。そして公開は
2008年5月を目指すとしている。
 因に、2008年5月というのは、前作“The Last Crusade”
が公開されてから19年目ということだが、ここで当然心配さ
れるのは64歳になったフォードのアクションということにな
る。しかしフォード自身は、「古い友人たちと一緒に仕事が
出来るのは素晴らしいことだ。昔のパンツが合うかどうかは
判らないが、帽子は合うと思うよ」とのことだ。
 一方スピルバーグは、「(コープの)脚本は、我々が待っ
た甲斐のあるものだった。これで、我々がインディアナ・ジ
ョーンズと共に作ってきた歴史の中から、ファンが期待する
全てのもの見せることが出来る。ジョージも、ハリスンも僕
も、皆興奮した」と、脚本への賛辞を贈っている。
 なおコープは、スピルバーグとは“Jurassic Park”“War
of the Worlds”に続くコラボレーションということになる
が、スピルバーグの娯楽映画の側面を支えると共に、最近で
は“Spider-Man”のメガヒットも生み出すなど、実力的には
申し分ない。とは言うものの、その脚本の内容については、
題名も含めて一切秘密とされているものだ。
 ただし、この発表とは別に行われたルーカスの発言では、
「アクションというよりも人間ドラマが中心になる。しかし
非常にファンタスティックな内容を中心としたものだ」とい
うことで、連続活劇を再現したとも言われた第1作の頃とは
多少趣は変わるかも知れないが、ミステリアスファンタシー
の王道を行く作品は期待できそうだ。
 先に、ナタリー・ポートマンがインディの娘役をオファー
されたという情報もあったりしたが、6月の撮影開始に向け
て、しばらくは注意して見て行くことにしよう。
        *         *
 昨年アメリカのベストセラーリストを賑わせたオードリー
・ニフェネガー原作“The Time Traveler's Wife”の映画化
について、権利を保有するニューラインから、その脚本のリ
ライトを、1990年の“Ghost”でオスカーを受賞したブルー
ス・ジョエル・ルービンと契約したことが発表された。
 題名の通り、時間旅行の能力を持った男性と、彼が恋した
女性との関係を描いた原作は、2003年に未出版の状態で映画
化権がニューラインと契約され、その時から当時はニューラ
インの親会社のワーナーが本拠だったブラッド・ピット主宰
のプランBで計画が進められていた。そして出版された原作
がベストセラーになったことを機に、映画化の動きが本格化
してきたものだ。
 なお、監督にはロバート・シュウェンクが予定され、すで
にジェレミー・レヴィンによる脚本も執筆されていたが、計
画はその状態で頓挫していたもので、今回はルービンの参加
によって状況の打開が目指される。なお以前の計画では、ヒ
ロイン役には2004年の“The Notebook”(君に読む物語)に
主演したレイチェル・マクアダムスが予定されていたようだ
が、現在も契約が生きているかは不明。
 因に、ルービンは“Stuart Little 2”や“Deep Impact”
も手掛けており、ファンタスティックな内容には定評がある
ところだ。素晴らしい脚色を期待したい。また、ピットは現
在も製作者に名を連ねているものだ。
        *         *
 お次は、ちょっと話がややこしくなりそうな情報で、まず
はジェームズ・キャメロンが、懸案だった製作費2億ドルの
SF大作“Avatar”の製作を、2009年夏の公開を目指して開
始することを発表した。
 キャメロンのドラマ作品としては、1997年の“Titanic”
以来12年ぶりとなるこの計画は、遠く離れた星で繰り広げら
れる人類と、その星の住民との闘いを描くもの。物語の主人
公は、元海兵隊員だが、植民を進める人類のやり方に疑問を
持ち、最後は原住民を率いて人類に反旗を翻す、ということ
になる。そしてこの主人公役には、オーストラリア出身のサ
ム・ウォージントンという新人の起用が発表されている。
 また、主人公が恋する原住民の女性役には、“Pirates of
the Caribbean: The Curse of the Black Pearl”に出てい
たゾーイ・サルダナの出演も契約されており、実写の撮影は
4月にロサンゼルスで開始される。
 なお、キャメロンは11年前からこの物語を構想していたと
いうことだ。しかしその映像を実現する技術が当時はなく、
技術の進歩が待たれていた。そして、3Dドキュメンタリー
の“Ghost of the Abyss”や“Aliens of the Deep”の製作
を通じて、実写とCGIとを切れ目なく合成する技術に目途
を付け、ついに製作準備に着手、最近の1年半程はこの計画
が常に念頭にあったということだ。従って、一時は日本のマ
ンガを映画化する“Battle Angel”の計画も発表されたが、
2005年以降は“Avatar”に掛かり切りだったとしている。
 そしてその計画に、キャメロンが最優先契約を結んでいる
フォックスからようやくゴーサインが出たものだ。
 一方、キャメロンはこの計画のVFXの製作をピーター・
ジャクスンが主宰するニュージーランドのウェタ・ディジタ
ルで行うことも発表した。これには、ジャクスンや彼のパー
トナーのフラン・ウォルシュとの出会いもあったようで、そ
の出会いでキャメロンは、「多くのアイデアを彼らから注入
された。それは25年前にILMで感じたことを思い出させて
くれた」と、ウェタへの乗り換えの理由を語っていた。
 実写の撮影は3Dで行われ、それにウェタ製作のCGIが
合成される。従って公開も3D館に限定されるが、2009年の
公開時には、全米で1000〜2000の映画館がそれに対応してい
るだろうと予想を掲げているものだ。
        *         *
 上記がキャメロンの計画だが、これがややこしくなりそう
なのは、実はこの計画が発表された同じ日に、M・ナイト・
シャマランとパラマウントからも、“Avatar”という題名の
計画が発表されてしまったのだ。
 こちらの計画は、パラマウント傘下のニケロディオンが製
作しているTVアニメ番組“Avatar: The Last Airbender”
の実写劇場版を、シャマランの脚本、監督、製作で進めると
いうもの。オリジナルの物語は、4大要素のWater、Earth、
Fire、Airを司る4つの国のバランスで成立している世界を
舞台に、さらにそれらを統合するAvatarという存在が行方不
明になったことから生じる混乱を描いたものだそうだ。
 オリジナルのTV番組は、2005年2月にスタートしたとい
うことだが、対象年齢6〜11歳の子供の間では常にアニメ番
組のトップ10に入るという人気とされている。そしてパラマ
ウントからは、この題名がMPAAに登録済であることも報
告されたものだ。
 これに対してフォックスからは、「我々は“Avatar”の題
名を保持している。他社が同じ題名を名告ることは有り得な
い」との見解が発表されたが、パラマウントのMPAA登録
が事実とすれば、フォックスにはこれに対抗する術はないは
ずで、キャメロンの計画は題名で出鼻を挫かれることにもな
りそうだ。
 因にシャマランは、2004年の“The Village”の製作で、
当初は“The Woods”の題名を発表したものの、すでに題名
の登録があったために断念したことがあり、今度は反対の立
場に立つことになる。昨年の“Lady in the Water”では多
少不本意な結果(71位)に終ってしまったシャマランだが、
これで意気が挙がってくれれば、それも嬉しいことだ。なお
劇場版の映画化には、シリーズ化も期待されているようだ。
        *         *
 次もシリーズ化の話題で、長編アニメーション賞のところ
で紹介したリュック・ベッソン原作監督による“Arthur and
the Invisibles”に関して、その続編の計画が発表されて
いる。
 この作品に関しては、本国のフランスではすでに500万人
の観客動員を記録。ベッソン作品では、『グランブルー』の
1000万人、『フィフス・エレメント』の800万人に次ぐ成績
となっている。そこで続編となったものだが、元々ベッソン
の原作は4部作で、その内の最初の2巻が今回映画化の原作
となっているそうだ。そこで残る第3巻と第4巻については
それぞれ映画化して、3部作とすることが発表された。
 そして発表によると、2009年に第3巻の“Arthur and the
Vengeance of Malthazar”、10年に第4巻の“Arthur and
the War of Two Worlds”を公開するということだが、実は
この発表は、ベッソン自身がフランスの雑誌で4ページの広
告にして行ったということだ。
 なおベッソンは、一時“Arthur and the Invisibles”を
最後の監督作品にするという発言もしていたようだが、今回
の動きでその発言は撤回されたと見る向きが多いようだ。
        *         *
 最後に、昨年末に日本のマスコミでも報道されて話題を呼
んだ元KGBエージェントの毒殺事件について、NYタイム
ズのロンドン支局長が執筆した“Sasha's Story: The Life
and Death of a Russian Spy”という本の映画化権を、ワー
ナーとジョニー・デップ、それに製作者のグラハム・キング
が獲得し、デップの主演作として進めることが報道された。
 ところがその翌日、今度はコロムビアとマイクル・マン監
督が、こちらは元エージェントの未亡人も執筆者に加わって
いるという“Death of a Dissident”なる本の映画化権を獲
得、マン監督作品として進めることが発表されて、競作とな
る可能性が出てきている。
 実は、後者の本に関しては、コロムビアだけでなく、ユニ
ヴァーサル、パラマウント、それにワーナーも加わって争奪
戦になっていたようだが、コロムビアが手付け金50万ドル、
最終的には150万ドルという契約金額を提示。恐らく合体し
て映画化を考えていたワーナーの思惑を挫たということだ。
しかも、ワーナーが獲得した本の出版予定は今年の後半とな
っているのに対して、コロムビアが獲得した本は5月の出版
予定ということで、このままでは、ワーナーが遅れを取るの
は必至というものだ。
 また、マン監督は以前、最終的にはマーティン・スコセッ
シが監督した“The Aviator”の計画を進めていた際には、
クリス・ノーラン監督、ジム・キャリー主演で予定されてい
た競合作を中止に追い込んだ経験があるということだが、実
はその時は、製作者のキングが協力者だったというもので、
今回はお互いになかなか手強い相手となりそうだ。
 ただし、内容的にワーナーが獲得した本のコンセプトは、
イギリスの対テロ機関が捜査を主導した冷戦後に起きた最も
ミステリアスで複雑な事件とされており、事件そのものが中
心になるようだ。一方、コロムビアが獲得した作品は、未亡
人が参加していることから、元エージェントの生涯が描かれ
ているようで、多少違いはあることになる。事件の実録もの
は、映画化が早いに越したことはないが、この状況ではワー
ナーは多少じっくり構えた方が良いようにも思える。
 なお、そろそろ“Sweeney Todd”の撮影が始まるデップの
スケジュールでは、10月から懸案の“The Shantaram”が撮
影開始との情報もあり、できることならKGB事件はマン監
督に任せて、デップにはこちらの計画に専念してもらいたい
と思うところだが…。実は“The Shantaram”も、降板した
ピーター・ウェア監督の後任がまだ決まっていないようで、
物事はなかなかすんなりとは運ばないものだ。


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井口健二