井口健二のOn the Production
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2007年01月01日(月) 第126回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い
します。と言うところで、新年最初はこの話題から。
 今年5月に第3弾の“The Pirates of the Caribbean: At
Worlds End”の公開を控えるジョニー・デップ主宰の製作
プロダクション=インフィニタム・ニヒルが、ワーナー傘下
の製作者グラハム・キングが主宰するイニシャル・エンター
テインメントと共同で、新たに3作品の映画化権を獲得した
ことを発表した。
 その1本目は、ジョゼフ・ガンジェミという作家の原作で
“Inamorata”。1920年代のハーヴァード大学を舞台に、心
霊現象を起こすとされる女性と、その現象に疑いを持ちなが
らも、その美しさに魅かれて行く研究者を主人公にした物語
ということだ。なおこの計画に関しては、すでに、1994年に
映画化された“Romeo Is Bleeding”(蜘蛛女=ゲイリー・
オールドマン、レナ・オリン共演)などを手掛けたピーター
・メダックに監督が要請されているということで、監督の作
品から考えると、かなり強烈な物語が展開されそうだ。
 2本目は、“Affected Provincial's Companion”と題さ
れているもので、ブロウラヴ・スウェルズ・ウィムズィ卿と
いう人が、不透明な現代における紳士の価値について、エッ
セイや詩や図表を交えて表わした論文とのこと。この原作本
がどのような意図のものかは不明だが、アメリカ人は結構こ
の手のものをパロディで描くことが多いから、楽しい作品に
なることを期待したい。
 そして3本目は、ジェームズ・ミークの原作による“The
People's Act of Love”で、これについては昨年第103回で
一度紹介しているが、ロシア革命後の1919年を背景に、シベ
リア流刑地を脱出したキリスト教神父と現地の人々との関係
を描いた物語というもの。因にこの作品については、以前の
紹介では映画化権を交渉中とのことだったが、その交渉が成
立したようだ。
 なお、これらの3作品は、全部がデップの主演作とされて
いるものではないが、いずれも彼の主演が期待されていると
いうことだ。つまり、デップのスケジュール次第ということ
なのだろう。
 一方、第103回でタイトルだけ紹介しているニック・ホー
ンビー原作の“A Long Way Down”については、同じくホー
ンビーの原作で、2000年公開の『ハイ・フィディリティ』を
担当したD・V・デヴィンセンティスが脚色を契約したこと
も発表されている。
 この作品は、大晦日の夜、それぞれが絶望の淵に追い込ま
れていた4人の男女が巡り合い、紛い物ではあるものの家族
という形態を作り上げて行くまでを描くという内容で、デヴ
ィンセンティスは、「ニックの作品を脚色するのは、彼が描
いたいろいろなものを克明に感じられるので、いつも楽しい
ものだ」と抱負を語っている。
 因に、インフィニタムとイニシャルは、映画製作に関して
3年間の契約を結んでいるものだが、すでにフセイン政権下
のイラクから2003年に脱出した原爆科学者マハディ・オベイ
ディ博士の自伝に基づく“Bomb in My Garden”と、第113回
などで紹介した“Shantaram”の計画も進めており、全部が
実現するのには、かなりの時間が掛かりそうだ。
        *         *
 次もワーナーの話題で、同社と製作者のジェリー・ウェイ
ントローブが、“Tarzan”の新たな映画化を計画し、その監
督として、“Pan's Labyrinth”が12月29日に全米公開され
たばかりのギレルモ・デル=トロの起用が発表された。
 エドガー・ライス・バローズが1912年に第1巻を発表した
原作小説は、1918年にエルモ・リンカーン主演による映画化
(無声)が行われて以来、実写映画だけでなく、長編アニメ
ーションやラジオ、テレビなどでも数多くの作品が生み出さ
れてきた。しかしその多くは、1930年代にMGMが製作した
映画化のイメージに囚われており、原作からは多少ずれたも
のになっていた。
 一方、1950年に死去した原作者の著作権はすでに消滅して
いるものだが、今回は、敢えてその原作に戻った映画化を目
指すとしている。と言ってもワーナーでは、1984年に『炎の
ランナー』のヒュー・ハドスン監督、クリストファー・ラン
バート主演による同旨の映画化“Greystoke: The Legend of
Tarzan”(グレイストーク)を行っており、今回はそれに
再度挑戦することになるものだ。
 なお、デル=トロは子供の頃にスペイン語版の原作小説を
愛読していたということで、そのイメージに従った映画化を
目指すとしている。ただし、今回の映画化の脚色には、すで
に『マスター・アンド・コマンダー』や『ハッピー・フィー
ト』のジョン・コリーが起用されている。これについてデル
=トロは、「コリーは大自然を背景にした冒険を描かせたら
最高の脚本家だ」として、脚本家とのコラボレーションを待
望しているとのことだ。
 従って、今回の脚本はコリーが単独で執筆し、デル=トロ
は脚色には参加しないことになるが、その間にデル=トロ自
身は、“Hellboy 2”の準備と、自分のオリジナルの企画の
執筆を進めるとも発言していた。
 原作の発表からは、もうすぐ100年になるものだが、実は
『グレイストーク』の映画化では、元は1875年生まれの原作
者の生誕100年を目指して計画されたものの、完成まで10年
近く掛かってしまったという経緯もあり、今回の企画がそれ
ほど遅れないことを期待したい。また、原作発表100年とい
うことでは、同年に発表された“A Princess of Mars”の映
画化を期待したいものだが…その後のパラマウントの動きは
ないようだ。
        *         *
 『チキン・リトル』と『ナイトメア・ビフォア・クリスマ
ス』のディズニー2作品に続いて、ソニー作品の『モンスタ
ー・ハウス』も上映されるドルビー社の3D上映システム=
リアルDに、記録ドキュメンタリー映画の老舗ナショナル・
ジオグラフィックの参加が発表された。
 ナショナル・ジオグラフィックの3D作品は、撮影段階か
ら一貫して70ミリフィルムを2駒ずつ使用するImaxシステム
で行われ、従来は科学博物館や美術館などに設置されたImax
劇場での上映が行われて来た。しかし、記録映像に大型スク
リーンの解像度は重要とするものの、上映場所が限定される
大型スクリーンでは観客動員が限られていた。
 そこで今後は、Imaxシステムで撮影された一部の作品につ
いて、通常フィルムに変換した上で全米数100館に展開する
リアルDでの上映も並行して行われることになったものだ。
これにより、近隣の学校からのグループ鑑賞などの動員が図
られるとされている。
 なお、発表されたプログラムは、2007年春に“Lions 3D:
Roar of the Kalahari”と、続いて10月に“Sea Monsters:
A Prehistoric Adventure”という2作品のリアルDでの上
映が予定されている。ナショナル・ジオグラフィックの3D
作品では、過去にもいろいろ話題作があったはずだが、今回
一部と断わり書きがある理由も判らないところで、できれば
順次それらの作品もリアルDでの公開を望みたいものだ。
 また、3D推進派のジェームズ・キャメロン監督も、以前
はImaxで作品を発表していたものだが、今回のナショナル・
ジオグラフィックの動きを見れば、リアルDへの乗り換えに
も支障はなくなりそうだ。他にも、ディズニーの“Meet the
Robinsons”や、パラマウント製作の“Beowulf”など、リ
アルD採用の新作も続々予定されており、基本的には、通常
映画の上映にも支障のないとされるこのシステムは、今後ま
すますの発展が期待できそうだ。
        *         *
 “Sin City 2”の情報は2回連続で紹介してきたが、今回
は同作の製作元でもあるディメンション・フィルムスから、
同じくロベルト・ロドリゲス製作による新たなコミックスの
映画化の計画が発表されている。
 映画化が計画されているのは、マイクル・オーレッド原作
の“Madman”という作品で、内容は、『フランケンシュタイ
ン』の現代版とも言えるもの。交通事故で死亡した男性が、
エキセントリックな医者の手で甦り、フランク・アインシュ
タインと名付けられたスーパーヒーローとして活躍するとい
う物語だそうだ。
 しかし主人公の顔には、その医者にも消せない傷跡が残っ
ているという設定で、その傷跡を隠すためにコスチュームが
着用される。さらに主人公には、再生手術の際にいろいろな
知覚能力や運動能力も強化されているというお話のようだ。
因にこの原作は、現在は“Madman Atomimic Comics”という
シリーズ名でイメージコミックスというところから発表され
ている。
 そして計画は、この原作をロドリゲスの盟友ジョージ・ホ
アンの監督で実写映画化するというもので、脚本はオーレッ
ドとホアンが共同で執筆し、撮影はテキサスのトラブルメー
カースタジオで、『シン・シティ』と同じシステムを使って
行われるということだ。
 なお、1994年に“Swimming With Sharks”(ザ・プロデュ
ーサー)という作品を手掛けているホアン監督は、『エル・
マリアッチ』の当時からのロドリゲスの友人ということで、
『スパイキッズ3D』ではクリエイティヴ・コンサルタント
でクレジットされている。また原作者のオーレッドは、4月
6日の全米公開予定で製作中のロドリゲス+クェンティン・
タランティーノ監督による2本立て映画“Grindhouse”で、
ロドリゲス監督パートの“Planet Terror”に小道具のクリ
エーターとして参加しているそうだ。
 因に“Grindhouse”は、ロドリゲス監督のパートは撮影完
了で、現在はタランティーノ監督パートの“Death Proof”
が1月中の完了を目指して撮影中とされていた。
        *         *
 注目されている割りに、ブラジル以外は情報の少ない南米
からの話題で、アルゼンチン初のスーパーヒーロー映画と紹
介されている“Zenitram, un argentino que vuela”(英語
訳は、Zenitram, an Argentine Who Fliesとなるようだ)と
いう作品が、ルイス・バローネ監督により製作費460万ドル
で実現されることになった。
 この作品は、近未来の崩壊しかけた首都ブエノスアイレス
を舞台に、貧しい男が、新たなスーパーパワーを身に付ける
ため奮闘するというもので、ブラックコメディとも紹介され
ていた。原作は、元プロサッカー選手から作家に転身したと
いうジョアン・サスチュリアンの短編小説で、原作者自らが
監督と共に脚色している。
 出演は、主人公のZenitramをジョアン・ミヌジンが演じる
他、『アラモ』や『バッド・ボーイズ2』に出演のジョーデ
ィ・モラ、『トラフィック』に出演のスティーヴン・バウア
らが共演。製作にはスペインやブラジルの会社が参画し、上
記の製作費は、通常の同国の映画の3倍だそうだ。
 なお、ヨーロッパの配給権は、ディズニー関連のブエナ・
ヴィスタ・インターナショナルが契約していて、2008年の公
開が予定されている。日本も配給して欲しいものだ。
        *         *
 お次はフランスの話題で、同国で一昨年に35万部を売り切
ったとされるベストセラーで、英語題名を“Possibility of
an Island”という小説が、原作者のミシェル・ウーレベー
クの監督デビュー作として、4月撮影開始で映画化されるこ
とになった。
 この作品は、未来もので、男と彼のクローン巡るお話とし
か紹介記事にはなかったが、これだけの情報では、題名のよ
く似た一昨年夏の作品を思い出してしまうところだ。ただし
原作は文学賞も受賞しているということで、内容的には違っ
ているものなのだろう。
 製作は、フランス、ベルギー、スペイン、ドイツの共同で
行われ、製作費は600万ユーロ(800万ドル)。撮影は、ベル
ギーとスペインのヴァレンシア、それにカナリア諸島などで
8週間に渡って行われる。主演にはベノイト・マジメルの起
用が発表されている。
 なお、本作の中心製作会社となっているフランスのマンダ
リンでは、この他にジュリエット・ビノシェ主演のコメディ
で“Jet Set”、同じくビノシェ主演のスリラーで“Another
Kind of Silence”や、エリック・ベスナルドの脚本による
“The New Protocol”“Babylon AD”などの作品も手掛けて
おり、マシュー・カソヴィッツ監督による“Babylon AD”は
製作中とのことだ。
        *         *
 もう一つフランスからの情報で、クリストフ・ガンズ監督
が『サイレント・ヒル』の続編に意欲を見せている。
 これは監督自身が雑誌のインタヴューで述べたもので、そ
れによると監督は、「2006年度ホラー映画の興行でトップラ
ンクの1本となったことに幸せを感じている」とのことだ。
そして彼自身は、「もし続編を任せてもらえたら、第1作で
してしまったいくつかのミスを修正したい」としている。し
かし、「製作者たちは、第1作のヴィジュアルイメージを踏
襲したものにしたがっている」そうで、彼が考える「町の景
観から変えたい」という主張が入れられないのだそうだ。
 監督は、ハリウッド映画よりヨーロッパ的な作品を目指し
たい意向のようで、そのためには次に予定されている『鬼武
者』の映画化から変えていきたい気持ちのようだが、なかな
か製作者との折り合いが着かないようだ。ただし彼自身は、
“Silent Hill 2”に関しては離れるつもりはないとのこと
で、製作者に近い位置に留まったまま、いろいろな方向性を
探っていくことになるようだ。
 これだけの意欲を見せる監督の気持ちを、何とか叶えて欲
しいものだが…
        *         *
 続いては韓国(日本?)の話題で、『猟奇的な彼女』など
のクァク・ジェヨン監督が、日本のソフト配給会社アミュー
ズの資本で、日本の漫画を原作とする“Cyborg Girl”とい
う作品を日本語で撮ることが発表された。
 ところが、この原作についてはネット検索しても全く調べ
がつかなかったもので、生憎く年末の休みに入ってしまって
アミューズにも問い合わせができない状況だが、年明けには
多分ニュースも流れ始めると思われるので、最初の情報だけ
紹介しておくものだ。
 撮影は2カ月以内に開始されて、2007年後半の公開予定と
されている。
 韓国では、昨年にはポン・ジュノ監督の『グエムル』や、
東京国際映画祭で上映されたイ・ジェヨン監督の『多細胞少
女』など、実績のある監督によるSF/ファンタシー系の作
品が相次いで登場したが、今度もそういう流れでは嬉しいと
ころだ。
 因に、ジェヨン監督の新作で、シン・ミナ主演の『武林女
子大生』(My Mighty Princess)は、今回の情報では撮影完
了してポストプロダクションに入っているようだ。
        *         *
 製作ニュースはひとまず置いて、次はアカデミー賞関係の
話題で、1月23日のノミネーション発表に向けて、まずはV
FX部門の予備候補が報告された。
 それによると、候補の資格を得たのは、MGMの“Casino
Royale”、フォックスからは“Eragon”“A Night at the
Museum”“X-Mem The Last Stand”、それにディズニーから
“Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest”と、ワー
ナーの“Poseidon”“Superman Returns”ということだ。
 VFXの製作会社別では、ILMが単独で“Pirates”と
共同で“Poseidon”“Eragon”の3本を担当。ムーヴィング
・ピクチャー・カンパニーも共同で“X-Mem”“Poseidon”
と協力で“Casino”の3本。フレイムストアーCFCも共同
で“Museum”“Superman”“X-Mem”。さらにリズム&ヒュ
ーズが共同で“Museum”と協力で“Superman”、ウェタが共
同で“Eragon”“X-Mem”、またソニーイメージワークスが
“Superman”の中心会社となっている。
 老舗あり新興ありの会社別だが、実はこの予備候補の中に
“Charlotte's Web”と“Flags of Our Fathers”が入って
いないことが話題になっている。
 この2本はどちらもアメリカはパラマウントの配給だが、
“Charlotte”はティペットスタジオと、“Flags”はディジ
タル・ドメイン がVFXを担当したもので、特に“Flags”
の全てCGIによる米軍上陸のシーンは見事なものだった。
予備候補に入らなかった理由はよく判らないが、今回の発表
の中ではサプライズとされていたものだ。
 それから長編アニメーション部門では、今回も予備候補は
出ていないが、今年度は16本のエントリーがあったというこ
とで、最終候補は5本になるようだ。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 ロブ・ゾンビ監督で進められている“Halloween”のリメ
イクで、オリジナルではドナルド・プレザンスが演じていた
ドクター・ルーミス役を、マルコム・マクダウェルが演じる
ことが発表された。『if...もしも』や『時計じかけのオレ
ンジ』の怪演で知られるマクダウェルは、ゾンビ監督の最も
好きな俳優ということで、「彼のおかげでこの作品は新たな
古典となる」と期待を語っている。アメリカ公開はディメン
ションの配給で、8月31日に予定されている。
 ティム・バートン監督、ジム・キャリー主演で、製作費の
高騰のため頓挫していた“Ripley's Believe It or Not!”
について、新たに脚本家のスティーヴ・オーディカークが、
製作費圧縮のリライトを行うため契約したと、パラマウント
から発表された。オーディカークは、キャリー主演の『エー
ス・ベンチュラ』の続編で脚本・監督を手掛けた他、最近の
『ブルース・オールマイティ』とその続編の脚本も手掛ける
など、キャリーの長年の盟友として知られる人物だが、最高
1億5000万ドルにまで膨れ上がった製作費をどこまで削減で
きるか、手腕が注目されるところだ。撮影は2008年の冬期に
中国で開始し、2009年の公開が期待されている。
 最後に、長年の懸案となっていた“Indiana Jones 4”に
ついて、ジョージ・ルーカスが「2007年中の撮影と、2008年
の公開を目指す」と語ったことがAP通信で伝えられたよう
だ。そのインタヴューでは、すでに脚本は完成して、スティ
ーヴン・スピルバーグとハリスン・フォードもOKしたとい
うこと。内容的には「アクション主体の映画ではなく、もっ
と人物を描くものになっている」ということだが、「非常に
ファンタスティックなテーマの物語だ」とのことだ。元々こ
の計画では、スピルバーグとフォードは了承しても、ルーカ
スがなかなかOKしなかったもので、今回のルーカスの発言
は、本気で進めることになったものと期待できる。ようやく
インディ最後の冒険が見られることになりそうだ。
 では、今年もよろしくお願いします。なお1月10日の映画
紹介は、試写がまだ始まらないため掲載できません。他に何
か載せられると良いと思っていますが。


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