井口健二のOn the Production
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2006年12月10日(日) ルワンダの涙、シルバー假面、妖怪奇談、素敵な夜ボクにください、僕は妹に恋をする、ルナハイツ2、パパにさよならできるまで

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ルワンダの涙』“Shooting Dogs”
1994年4月5日から8日までのルワンダの中心都市キガリの
公立技術学校(ETO)を舞台に、その場所で起きたフツ族
によるツチ族虐殺事件の顛末を描いた作品。
同じルワンダ内戦を描いた作品では、先に『ホテル・ルワン
ダ』が公開されているが、結果として多くの救いの手が差し
伸べられた外国資本のホテルと違い、英国人神父の個人によ
って運営されていた学校は、最初の内こそ国連軍の警備下に
置かれるが、やがて国連軍が去り、そこに集まっていたツチ
族の人々はなす術もなくフツ族の標的になって行く。
どちらも実話に基づく作品であり、その物語は比べるべきも
のではないが、ある意味ハリウッド的にドラマティックに描
かれた『ホテル…』に比べて、本作は余りに悲惨で、これこ
そが現実だったのだと思わざるを得ないものだ。
実際、映画には取り憑かれたようにツチ族を惨殺するフツ族
の姿が容赦なく描かれる。そこにはBBCのニュースクルー
などもいたのだが、彼らはそれを目の端で見てはいても、そ
れ以上には何もすることが出来なかった。それが現実だった
のだ。
本作の原作はそのBBCの記者が書いているが、フツ族はや
がて外国人にも銃口を向け始め、記者たちも退去を余儀なく
される。しかし、それはツチ族を見捨てたことであり、記者
の胸にはその痛みが今も残るという。そんな思いで描かれた
作品ということだ。
監督は『ロブ・ロイ』などのマイクル・ケイトン=ジョーン
ズ。
出演は、神父役に『エレファントマン』のジョン・ハートの
他、『キング・アーサー』のヒュー・ダンシー、『スターリ
ングラード』のドミニク・ホロウィッツ、『フォー・ウェデ
ィング』のニコラ・ウォーカー。そして重要な少女の役を、
『トゥモロー・ワールド』のクレア=ホープ・アシティが演
じている。
なお、撮影はほとんどのシーンがルワンダの現地で行われ、
撮影のスタッフやエキストラには、現地人で虐殺を辛くも免
れた人々が多く起用されている。その人たちのことはエンデ
ィングで紹介されるが、親兄弟を虐殺され、まさに九死に一
生という人もいたようだ。
『ホテル・ルワンダ』を見て何かを感じた人は、必ず見なけ
ればいけない作品と言える。

『シルバー假面』
1971年に第1話を、佐々木守脚本、実相寺昭雄監督でスター
トした特撮テレビシリーズの映画化。と言ってもオリジナル
の題名は『仮面』で、それが本作で『假面』なのは、本作の
時代背景が大正となっているためだ。
時は大正9年、シベリア出兵やスペイン風邪、米騒動、相次
ぐ労働争議などで世情騒然とする帝都東京で、奇怪な連続殺
人事件が起こる。それは美女ばかりが血液を抜かれた遺体で
発見されるというもの。エリート軍人の本郷義昭大尉は事件
の調査を命じられるが…
これに、探偵作家志望の平井太郎(後の江戸川乱歩)や、森
鴎外とドイツ人女性エリスとの間に生まれらという女性ザビ
ーネが加わり、敵には蜘蛛型宇宙人やカリガリ博士、鋼鉄の
女ロボット・マリアなどが登場して、事件は帝都を揺るがす
大事件に発展する。
本作の企画原案は佐々木と実相寺。ところが佐々木氏が今年
2月に急逝したため、その後を2人の若手脚本家が引き継い
で、実相寺の監修のもと脚本を執筆。さらに、実相寺と2人
の監督による3部構成で映画化されている。しかも、試写の
当日に実相寺監督の訃報が伝えれるという巡り合わせになっ
てしまった。
実相寺監督は『帝都物語』も監督しているが、こんなレトロ
な雰囲気が好きだったのかも知れない。浅草の芝居小屋や、
巨大飛行船など、そんな雰囲気が楽しめれば良い、というと
ころだろう。
シルバー假面はニーベルンゲンの指輪の化身とされ、さらに
ルンペルシティルツヒェンやアドルフ・ヒトラーまで登場す
る、まさにごった煮の世界。それが実相寺演出で蘇る。
ただ僕としては、登場するキャラクターが余りに付け焼き刃
な感じで、それぞれの背景が掘り下げられていないのが残念
だったし、国産レヴェルのCGIで表現されるVFXにも、
ミニチュアとは違ったちゃちさが感じられて、なかなか物語
に入れなかった。でもまあ、そんなチープさが、ある意味こ
の作品の狙いなのかも知れない。
主演は、ニーナ、渡辺大、水橋研二。他の出演者には、石橋
蓮司(カリガリ博士)や嶋田久作、寺田農、ひし美ゆり子ら
の名前が並ぶ。
なお、本作は元々はDVDで販売する企画で進められた作品
だが、その販売に先立って劇場公開が行われるものだ。

『妖怪奇談』
『心中エレジー』『楽園−流されて−』などの亀井亨監督作
品。実は、亀井監督の前2作はホームページでは取り上げな
かった。第1作は、『樹の海』を見た直後に同じ自殺がテー
マでは余りに出来が違いすぎたし、第2作は、『流されて』
の題名が引っ掛かったものだ。
その監督の第3作となるものだが、今回はろくろっ首、カマ
イタチ、のっぺら坊という妖怪を描いて、前2作とはちょっ
と毛色の違った作品になっている。その3人は全て現代に生
きる女性で、それぞれが自分の運命に翻弄されるという展開
だが…
この3人の物語が、微妙に交錯して行く展開は、それなりに
工夫しているなという感じのものだ。ただ、この3人がそれ
ぞれそういう運命に陥る原因というか、切っ掛けが提示され
ないから、感情移入というものがほとんど出来ない。
前2作も一様に同じ感覚なのだが、監督は主人公たちを完全
に突き放して描いているようで、それが海外でも評価されて
いるようだから、それはそれでも良いのかも知れないが、僕
の感覚ではちょっと引っ掛かってしまうものだ。
実はそれぞれには、父親だけには良い子に見てもらいたいと
か、いろいろ世間に受け入れてもらえない事情があって、そ
れが怪現象引き起こす切っ掛けにもなっているようだ。その
辺を、もう1、2歩掘り下げると、結構良い作品になるよう
な気もするのだが…
出演は、伴杏里、宮光真理子、市川春樹。それぞれは人気も
あるようだから、それなりの観客は集めるかも知れないし、
そのファンたちには楽しめる作品にはなっている。また、ろ
くろっ首などのCGIには、こういうものがお手軽になった
なあという感じだ。
ただし、ヴィデオで撮影された画面の暗いのと色使いの変な
のが何とも困り物で、実は前2作もそうなのだが、一般的に
ヴィデオはもっと明るく撮れるものだし、色もいくらでも補
正が利くはずだが、それを敢えてしないのが監督の考え方の
ようだ。でも、これでは観客の目が疲れるばかりで、それ以
上の効果はあまりないように思えるのだが…

『素敵な夜、ボクにください』
東京国際映画祭のコンペティションに出品されたホン・サン
ス監督『浜辺の女』にも主演していたキム・スンウの出演作
で、題名の感じからもてっきり韓国映画かと思っていたら、
吹石一恵主演の日本映画だった。
しかも、青森が舞台のカーリングをテーマにした作品という
ことで、トリノオリンピックに出場したチーム青森の活躍を
描いたら、それは『シムソンズ』と同じになるのでは…と心
配したら、そこはチャンと別の物語になっていた。
キム・スンウが演じるのはカーリング韓国代表のスキップ、
4人で闘うチームの中では、本来はまとめ役のはずだが、多
少自己中心的な彼は仲間の意見も聞かずに大勝負に出て失敗
してしまう。そのため、遂に監督からはチームを出て行くよ
う言われてしまう。
そんな彼がふらふらやってきたのは日本。実は日本では彼に
そっくりな韓流スターが大人気だったのだが、そんなことは
知らず彼は街で駆け出し女優に声を掛け、彼女はスターと思
い込んでベッドを共にしてしまう。
その翌日、彼は早く部屋を出てしまい、そこには彼の忘れ物
の「日本女性を口説く方法」という韓国語の本と、青森行き
のJR切符が残されていた。そして彼女は、それが青森の実
家に帰れという啓示とばかり、帰省することにする。
実家に戻った彼女は、スターと寝たことを吹聴するが、その
夜、街でばったり彼とであってしまう。実は彼は友人を訪ね
て青森に来ていたのだった。
こうして彼がスターとは別人であることがばれるが、彼がカ
ーリングの名選手であることを知った彼女は、彼をコーチに
してカーリングチームを結成。オリンピックを目指す女優と
して売り出そうと考える。
まあ、かなり無理矢理な話だが、基本的にラヴ・コメディと
いうのはこんなものだろう。その中でそれなりに筋が通って
いれば良い訳で、その点ではあまり気に掛かるところはなか
った。
それに現状ではまだカーリングのルール説明から始めなくて
はならないものだが、その点も主人公の女優が全くルールを
知らないというところから始めて、競技の基本動作なども丁
寧に説明され、『シムソンズ』より1段階進んでいる感じで
それも良かったところだ。
日韓の交流を描くということではせりふも問題になるが、そ
れぞれに通訳の出来る人物を配して、それがまた微妙な通訳
をするのがギャグになっていたりもする。また、言葉の通じ
ない2人の会話で、「約束」などの共通の言葉が意味を持つ
のも良い感じだった。
出演は、他に占部房子、関めぐみ、枝元萌、飛坂光輝、八戸
亮、木野花。基本的にラヴ・コメディではあるが、それなり
に楽しめる作品だった。それから、キム・スンウが若い吹石
相手に良い味を出していた。

『僕は妹に恋をする』
通称『僕妹(ボクイモ)』と言うらしい。小学館発行の雑誌
・少女コミックスの連載で、単行本は600万部売れていると
いう青木琴美原作のコミックスの映画化。
主人公は、双子の兄を持つ高校3年の少女。幼い頃から仲良
く育ってきた兄妹だったが、最近、兄は妹を避けるようにな
ってきている。そして妹には、兄の同級生の男子が恋心を打
ち明けているが…
実は、自分にも2歳下の妹がいたから、物語の発端の兄の心
情には結構理解できるところがあった。しかし、この兄妹が
高校3年にもなって2段ベッドの上下に寝ているという辺り
から、年齢の近い異性の兄弟姉妹を持つ者としては、かなり
落ち着かない感じになってくる。
しかも、その後が危惧した通りの展開になってしまったのに
は、ちょっと見ていること自体にもためらいを感じてしまっ
たものだ。
物語はこの後、宣伝担当者から「NGです」と言われた四文
字熟語になってしまうものだが、この究極とも言える禁断の
物語が、600万部のヒット作になっているという現実は、ち
ゃんと受けとめなければいけないところだろう。
全10巻ということだから、単純計算で60万人の読者がいるは
ずだが、その全員がこの状況の意味するところを理解できな
いとは思えない。それでも売れているというものなのだ。
もっとも、独りっ子が多いという時代では、単純に自分には
いない兄妹への憧れで読まれていることは考えられる。そん
な感情がこの作品を支えているのかも知れない。つまり、全
く非現実の物語として読まれているのだろう。
僕としては、そんなことを考えながら見ざるを得なかった作
品だった。しかし、実は先に公開された『地下鉄に乗って』
もそうだし、東京国際映画祭のコンペティション作品でも1
本、このテーマが出てくる作品があった。
つまり僕は、この秋以降に3本もこのテーマを含む作品を見
ていることになる。その3本の中で本作は、もっとも真摯に
テーマを追求した作品であることは確かだろう。その点では
評価しなくてはいけないものだ。
映画は時代の要求で作られるから、このテーマが時代の要求
ということなのだろう。その要求というのは、やはり独りっ
子が多いという辺りから来るのだろうか。

主演は、兄妹にジャニーズ事務所の松本潤とモデル出身の榮
倉奈々、他に、平岡祐太、小松彩夏、浅野ゆう子が共演して
いる。

『ルナハイツ2』
小学館発行ビックコミックスに連載された星里もちる原作の
コミックスの映画化。
結婚を決めて立派な新居まで立てたものの婚約者に逃げられ
た男性と、その新居が会社の女子寮として借り上げられたた
めに入居してきた3人女性と1家族。そんな男女が一つ屋根
の下に暮らして巻き起こる恋愛騒動を描いたお話。
3人の内の1人と男性が、最初はぎくしゃくした関係から、
遂に恋心の告白まで行くが、そこに婚約者が現れて…と言う
のが、実は昨年公開された第1作のお話だったようだ。その
前作を僕は見ていないのだが、プレス資料にはかなり詳細な
粗筋が載っていたものだ。
まあ、続編のプレス資料だから前作の粗筋が載るのは当然だ
が、それにしてもこれがかなり詳しい。これはつまり、ある
程度前作のお話を知っていないと本作が理解できない心配が
あるからなのだが、実際、本作は前作と併せて1本と言って
いいほどのものだ。
大体、上記の前作の物語がそのまま終わりでは、いくらなん
でも無責任というもので、プレス資料には、前作のスタッフ
キャストが全員再結集などと書いてあったが、その計画が当
初から無かったとはとうてい思えないものだ。
もちろん、前作がそれなりの成績を上げたから実現したので
はあるのだろうが…実現しなかったら、前作を見た人にはか
なりフラストレーションになりそうだから、まずは良かった
というところだ。
実は試写の後で、宣伝の人から「たまにはこんな軽い話も良
いでしょう」と声を掛けられた。全くその通りで、正直に言
って深刻に悩むようなことなどは全く無いお話。それも、作
り手の割り切り方が気持ち良くさえ感じられる、そんな作品
だった。
主演は、安田美沙子と柏原収史。これに元グラビアアイドル
やレースクィーン出身という脇役陣だが、それほどひどい演
技という感じではなかった。他に、村野武範、乱一世、飯尾
和樹、『百獣戦隊ガオレンジャー』の金子昇、『牙狼』の小
西大樹らが共演している。
映画史に残るという作品ではないけれど、こういう作品もあ
ってこそ映画というものだ。

『パパにさよならできるまで』
    “Δύσκολοι αποχαιρετισμοί: Ο μπαμπάς μου”
1969年、アポロ計画の月着陸で世界が沸き返る中で、突然父
親を失った1人の少年の物語。
少年の父親は、自家用車にいろいろな商品を積み込んで売り
歩く行商人。各回の行商の旅は長く、いつも家を空けている
父親に母親と兄は不満が溜まっているが、主人公の少年は、
父親が帰宅した朝のベッドにそっと置かれたチョコレートが
楽しみだ。
そして帰ってきた父親には思い切り甘える少年だったが、そ
の父親は、「アポロの着陸の日には必ず帰る」という置き手
紙を残して次の行商の旅に出てしまう。ところが深夜の電話
に兄が出ると、父親が交通事故で死んだという連絡が届く。
しかし、父親の置き手紙を信じる主人公には、その知らせが
信じられない。そして、それを理解させようとする兄や母親
との間に軋轢が生まれて行く。
プレス資料には、父の死が理解できないとあるが、主人公は
決して理解できていない訳ではないだろう。それは彼の行動
のそこそこに現れているものだ。それでも、ある意味、理解
できていないような振りをし続ける、そんなふうにも思える
物語だ。
幼い子供が、環境の変化に対応できずに行動して周囲を振り
回すという作品は、今までにもいろいろとあったが、どうし
てのあざとい作品になってしまうものだ。しかしこの作品で
は、そんな中でもお涙頂戴に陥ることもなく、子供の心情や
周囲の大人たちの姿を丁寧に捉えている。その点では見てい
て清々しく感じられもした。
アポロの月着陸に引っ掛けているせいもあるが、主人公がジ
ュール・ヴェルヌの『月世界旅行』の一節を朗読して、父親
の帰還を待ちわびるシーンなどもあり、そんな心情も僕とし
てはよく理解できるものだった。因に、エンディングには、
『博士の異常な愛情』にも使われた“We'll Meet Again”が
流れる。
家にテレビが届いて最初に見ているのが、“The Avengers”
というのも、面白く感じられた。それから、途中の主人公た
ちが墓を詣でるシーンで、ちょっとした仕込があったように
感じたが、その意味するところには興味深いものがある。
なお、月着陸の生中継のシーンは、ちょっと映像の順番が違
うようにも感じたが、それはご愛嬌だろう。


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井口健二