井口健二のOn the Production
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2006年11月01日(水) 第122回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは10月29日に閉幕した東京国際映画祭の報告から。
 今年の映画祭で鑑賞できたのは、コンペティション部門は
事前試写の6本を含めて15本の全作品と、「アジアの風」部
門は12本。他に、特別招待作品を1本とニッポン・シネマ・
クラシックを2本見た。10月31日付で紹介した特別招待作品
以外の個々の作品の紹介は、後日纏めて行うことにするが、
その前に、自分なりに選んだ各賞を記しておくと、
グランプリ:ロケット
審査員特別賞:グラフィティー
監督賞:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス
            (リトル・ミス・サンシャイン)
女優賞:風吹ジュン(魂萌え!)
男優賞:ロイ・デュビュイ(ロケット)
芸術貢献賞:2:37
観客賞:リトル・ミス・サンシャイン
アジア映画賞:多細胞少女
とした。
 この内、グランプリは、自分なりにスポーツチームの応援
などもしていると、アイスホッケーを描いたこの作品には感
情移入もしやすかったもので、その辺を割り引かなくてはと
も思ったが、映画祭の日報に掲載されたジャーナリストの星
取表でも3人が満点を付けており、意を強くして選んだ。
 審査員特別賞と観客賞を勝手に決めるというのも変なもの
だが、それぞれ自分がその立場にいたらこれを選ぶという意
味合いで、特に『グラフィティー』に関しては、今年のコン
ペ作品では現代世界の状況を反映したものが少なかった中、
この作品がそれを描いていた点を評価したものだ。
 監督、女優、男優賞は、それぞれ順当な線だと思う。芸術
貢献賞は、内容的には好き嫌いの分かれる作品だと思うが、
時間を前後にずらして重ねて行く手法はちょっと面白く感じ
られた。アジア映画賞は、全作を見てはいないので何とも言
えないが、僕が見た中では一番面白かった作品を選んだ。
 これに対して、実際に選ばれた各賞は、
グランプリ:OSS117カイロ、スパイの巣窟
審査員特別賞:十三の桐
監督賞:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス
            (リトル・ミス・サンシャイン)
女優賞:アビゲイル・ブレスリン
            (リトル・ミス・サンシャイン)
男優賞:ロイ・デュビュイ(ロケット)
芸術貢献賞:父子
観客賞:リトル・ミス・サンシャイン
アジア映画賞:父子
となっている。
 我ながらよく外すものだと思ってしまうが、今年も3つし
か一致しなかった。もっとも、アジア映画賞に関しては受賞
作自体を見ていないので何とも言えないのだが…それにして
もグランプリはちょっと意外な結果だった。この辺のことに
関しては、作品紹介の時に改めて書くことにしたい。
 なお、作品紹介は、11月5日頃に掲載の予定です。
        *         *
 お次は、映画祭で行われた記者会見の報告で、『ロディと
リタの大冒険』については昨日付の作品紹介の中で報告した
が、もう1本、作品は10月10日付で紹介した『ブラザーズ・
オブ・ザ・ヘッド』の記者会見に出席し、登壇した2人の監
督に映画に登場しているブライアン・オールディスについて
聞いてみた。
 それによると、映画に登場しているのは原作者本人ではな
く、俳優が演じているとのこと。その理由は、「彼が演技を
できなかったから」ということだが、映画との関りについて
は、監督たちは一緒に酒を飲みながら話し合ったそうだ。そ
してその際にオールディスは、本は全部自分の想像で書いた
もので、実話ではないと繰り返し述べていたということだ。
しかし、イギリスにもそういうバンドがあったと言い出す人
たちがいて、困惑しているようだったとも話していた。
 日本でも、実話かフィクションかを曖昧にして宣伝を行う
ことになるようだが、観客はその辺を心して見てもらいたい
ものだ。なお、会見場で配られた資料によると、原作本が、
1月に河出書房から柳下毅一郎訳で出版されることになった
ようで、これは嬉しいことだ。
        *         *
 東京国際映画祭の話はここまでにして、以下はいつものよ
うに製作ニュースを報告しよう。
 まずは、お騒がせ男トム・クルーズの再始動の情報が報告
されている。
 8月に発表されたパラマウントからの突然の契約解除の際
には、宗教を巡る問題や、最近の常軌を逸した言動が問題と
されていたものだが、そのどちらも彼の演技者としての資質
が問題にされたものではない。そこで、すでに彼が出演する
3つの企画が進行しているようだ。
 その1本はワーナー製作で、湾岸戦争を背景にした“The
Ha-Ha”という作品。戦場で負傷し、その影響で失語症にな
った帰還兵が、同じ戦場で行方不明となった女性兵士の9歳
の息子の面倒を見ることになるというもの。クルーズで帰還
兵というと、彼自身がオスカー候補にもなった『7月4日に
生まれて』が引き合いに出されるが、設定が失語症というの
は、舌禍騒動に見舞われている俳優には皮肉な作品とも言え
そうだ。デイヴ・キングの原作小説をチャック・リヴィット
が脚色している。
 2本目はフォックス製作で、“Selling Time”と題された
作品。人生の最悪の時を修復する時間セールスマンを描く物
語ということで、ちょっとSF的な作品のようだが、ダン・
マクダーモットの脚本から、スパイク・リーが監督する。ク
ルーズと監督はすでに何度か話し合いを行っており、現在は
リーが脚本のリライト中とのことだ。
 そして3本目は、“Lions for Lambs”と題されたロバー
ト・レッドフォード監督主演、メリル・ストリープ共演によ
る作品で、マシュー・カーナハン脚本によるアフガニスタン
戦争の兵士を巡る政治劇ということだ。この作品でクルーズ
は政府関係者を演じ、ストリープが問題を追求するジャーナ
リストの役とされている。情報は3本目が一番詳細なようだ
が、この作品は配給が決まっていない。
 一応この3本が、クルーズの次回作として公表されている
ものだが、現状で契約などは結ばれていないものの、クルー
ズの支援者には、野球チームのオーナーやアミューズメント
パークのCEOなど財界人も動いているようで、計画が動き
出したらクルーズ自身も製作者に加わって、映画製作は支障
なく行える体制のようだ。
 ただしクルーズは、今年2月の段階でも同様に3本の計画
に関っていたそうで、その3本とは、現在ラッセル・クロウ
の主演で進行中の“3:10 to Yuma”と、マシュー・マコノヒ
ーで進められている“Fool's Gold”、それに“Two Minutes
to Midnight”。この内、3本目は代役が決まっていないも
のの、いずれもクルーズは計画から降板してしまっている。
従って今回の報告も…というものではあるようだ。
 一方、契約を解除したパラマウントでは、『M:I4』の
主演を、史上最高4000万ドルでブラッド・ピットにオファー
しているという情報もあるが、『M:I3』に続けて“Star
Trek”の新作を進めているJ・J・エイブラムス監督が、
同作にクルーズの出演を要望しているという話も伝わってお
り、どちらもすんなりとは決まらない状況のようだ。
        *         *
 お次は、ワーナーとパラマウントの共同配給で、来年11月
の公開が予定されているロバート・ゼメキス監督の歴史ファ
ンタシー“Beowulf”について、全米で1000館を超える映画
館での3D上映が実現することになった。
 この作品の撮影は2Dで行われたものだが、先にIMaxでの
3D化上映が成功した『ポーラー・エクスプレス』と同じく
パフォーマンス・キャプチャー方式で撮影されており、同様
の3D化が可能なものだ。ただし今回の3D化には、『ナイ
トメア・ビフォア・クリスマス』の3D化を手掛けたリアル
Dのシステムが採用されており、基本的には通常サイズとな
るが、ワーナーはIMaxでの上映も希望しているようだ。
 因に、2004年に公開された3D版の『ポーラー・エクスプ
レス』は、アメリカでは昨年のクリスマスシーズンに再上映
が行われるなど定番の人気作品になっているということで、
3D映画の普及には多いに貢献したと言われている。
 しかし、IMax中心だった3D上映では、全米200館以上で
の上映はなかったものだが、昨年の『チキンリトル』で採用
された一般館で対応可能なリアルDシステムは急速に普及し
ており、このシステムの設置が来年11月までに全米で1000館
を超える計画とのことだ。
 なお、今後の3D作品では、すでにゼメキス製作のソニー
作品“Monster House”の全米公開が始まっている他、当初
から3D製作されたディズニーアニメーションの“Meet the
Robinsons”、ニューライン製作で『地底探検』をリメイク
する“Journey 3-D”がすでに決まっており、ジェームズ・
キャメロン製作の新作も3Dでの撮影が発表されている。こ
のように作品の供給体制が整ってくれば、全米映画館の3D
化は一気に進んで行くことになりそうだ。日本はどうなる?
        *         *
 10月1日付第120回で紹介した“The Hobbit”の映画化に
関して、MGMからニューライン(NL)との共同製作の交
渉に入っていることが報告された。
 この映画化については、1978年に公開されたアニメーショ
ン版の旧作との関係でMGMが配給権を持っており、一方、
映画の製作権はNLが保持しているようだが、ファンサイト
ではすでに50,000人を越す署名活動が進められ、そのバック
アップもあって共同での映画化が検討されているものだ。
 ただし、実はピーター・ジャクスン監督とNLとの間が、
『LOTR』での興行収入の配分を巡って裁判になっている
もので、監督はそれが決着するまでは取り掛かれないと発言
している。しかし、ファンの声は大事にする監督ということ
なので、MGMとしてはあまり気にせずに計画を推し進める
考えのようだ。
 それに加えてMGMからは、前日譚を2本製作するという
発表も出されて、その真意が測られている。因に、原作者の
JRR・トーキンが発表した作品では、“The Hobbit”の他
に、作者の没後に子息が編纂した“The Silmarillion”が、
“The Lord of the Rings”の世界が成立するまでを描いた
作品となっているが、今回の発表では2本の前日譚の全権利
を獲得したとしているもので、それが“The Hobbit”の映画
化についての全権利を含むものなのか、それとは別に2本作
られるのかも明らかではない。
 いずれにしてもMGMとしては、『LOTR』の勢いが消
えない内の公開を目指したいもので、そのためには来年中の
着手が必要と考えているようだ。
 なお、MGMでは、同じ報告の中で『T3』の続きについ
ても、題名は“Terminator…”として“4”にはしないこと
と、シュワルツェネッガーの出演に拘わらないことを発表し
たようだ。『スーパーマン』も『バットマン』も主役はどん
どん変えて存続させているという見解だが、シュワ=ターミ
ネーターはそれとはちょっと違うような感じもする。ただし
MGMには、その前に007があるものだが、今回それは事
例として挙げていなかったようだ。
        *         *
 マペットで有名なジム・ヘンソンCo.の製作で、1980年代
に日本でも放送されていたファンタシー・ミュージカルシリ
ーズ“Fraggle Rock”を、劇場用の長編映画として再製作す
る計画が発表された。
 物語は、マペットで演じられる番組の主人公(ゴーボー、
ウェムブリー、モーキー、ブーバー、レッド)たちが、彼ら
がouter spaceと呼ぶ人間世界で繰り広げる初めての冒険を
追うものになりそうで、番組では謎に満ちた彼らの棲む世界
の様子も魅力的だったが、今回はそれより分かり易い人間界
との関りの方を描くことになるようだ。
 そしてその映画化の物語を、昨年11月1日付第98回で紹介
した“The Monstrous Memoirs of a Mighty McFearless”の
原作者アーメット・ザッパが執筆することも発表された。
 因に、この起用に関しては、ヘンソンCo.の共同CEOで
もあるリサ・ヘンソンが、「ザッパと彼の本の映画化につい
て話し合っていた席で、彼が番組の大ファンであったことに
気付いて提案した」というもので、その際にザッパは、「椅
子から飛び上がって大喜びした」ということだ。
 なおこの計画自体は、数年前からネット上などで噂が絶え
なかったものだが、今回の情報は初めて公式に流されたもの
で、物語が執筆されると、映画化の実現は早そうだ。
        *         *
 ホラー作家のクライヴ・バーカーが、自らの監督で1987年
に映画化した“Hellraiser”のリメイクについて、ザ・ワイ
ンスタインCo.と契約したことが報告されている。
 オリジナルは、謎に満ちた悪夢のキューブ型パズルを巡っ
て、顔中にピンを打った怪人など、第1作でバーカーが繰り
広げたスタイリッシュな演出と鮮烈な造形美が評判を呼び、
映画作品は1996年製作の第4作までだが、その後もDVD直
販によるシリーズが展開されているものだ。
 そして今回は、その第1作がリメイクされるというものだ
が、このリメイク版についてバーカーは、監督はしないもの
の脚本と製作を手掛けるとしており、自らの創造した世界を
「大金を掛けて存分に再構築したい」とのことだ。その製作
費は未発表だが、「90万ドルで製作されたオリジナルよりは
多くなるだろう」としている。製作費だけでなく、CGIな
ど映像技術も進化したリメイクが期待される。
 なおこのリメイク権については、本来バーカーには権利が
残されていなかったようだが、今回の計画では、ボブ・ワイ
ンスタインから直々にバーカーに招請状が届いたということ
で、バーカーも気合いが入っているようだ。
        *         *
 続けて、ザ・ワインスタインCo.によるリメイク情報で、
『マッハ』や『トム・ヤム・クン』などを手掛けるタイの製
作チームが発表したサイコスリラー“13”の北米配給権と、
リメイク権を獲得したことが報告されている。
 この作品は、前2作を監督したプラチャウ・ピンカエウが
製作を担当したもので、ちょっと気弱な普通の男性が、観客
の見えない視聴者参加サヴァイヴァル番組に引き込まれ、恐
怖の体験に襲われるという内容。それに勝利するためには、
勇気を発揮することと、モラルを捨てることを求められると
いうのだが…
 因に、ザ・ワインスタインCo.では、先に『トム・ヤム・
クン』を“The Protector”の題名で北米公開しており、そ
の興行収入は1170万ドルを稼ぎ出しているそうだ。また今回
の“13”は、タイでは40万ドルで製作されたということで、
この作品もたっぷりお金を掛けてのリメイクが行われること
になるのだろうか。
        *         *
 次もアジア発の話題だが、ちょっと珍しいパキスタン製作
のホラー映画というもので、イスラムの教えに基づくと言わ
れる小人のゾンビが登場する“Zibahkhana”と題された作品
が話題になっている。
 この題名の英訳は“Hell's Ground”となるようだが、物
語は、ロックコンサートを開こうとした若者たちが、禁断の
地に足を踏み入れてしまい、その秘密を守ろうとする『テキ
サス・チェーンソウ』のような殺人一家に襲撃されるという
もの。お話はありがちな感じだが、映画には、1947年のデビ
ューで、1967年には“Zinda Iaash”(The Living Corpse)
というドラキュラ伝説を焼き直したパキスタン製のミュージ
カル映画に主演したことのあるヴェテラン俳優も出演してい
るということで、なかなか気合いの入った作品のようだ。
 監督は、本業はラホールに展開するアイスクリームチェー
ンのオーナーだが、その傍らパキスタン映画史の研究家でも
あり、この作品が監督デビューとなるオマー・カーン。また
撮影はHDのヴィデオで行われたようだが、その撮影監督に
はイギリスで学んだという人材が起用され、さらに編集には
イギリス人の編集者なども参加している。つまり製作資本は
パキスタンだが、製作体制は世界標準のものにしたいという
意図があるようだ。そして南アジアの映画にありがちなミュ
ージカルシーンと、コメディの要素は出てこないそうだ。
 なお撮影は、当初は昨年の10月に予定されていたが、7万
人以上が死亡する惨事となった大地震の発生で中止され、今
年6−7月に改めて行われたそうだ。しかし、今度は雨季に
掛かって大変だったという監督の談話も紹介されていた。
 元々西欧のホラー映画にはキリスト教の考え方が底流にあ
り、それに対して日本、韓国、香港などアジア発のホラー映
画は、基本的に仏経系の伝説に基づくことになるものだが、
イスラム系のホラーというのが一体どんなものか、ぜひとも
来年の映画祭などで見せてもらいたいものだ。
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 以下は続報を2つ紹介しておこう。
 1つ目はキャスティングの情報で、9月1日付第118回で
も紹介したイアン・ソフトリー監督“Inkheart”に、さらに
ヘレン・ミレン、アンディ・サーキス、シエナ・ギロリー、
ジム・ブロードベント、ラフィ・ガヴロンらの出演が発表さ
れている。この映画化では、すでにブレンダン・フレイザー
が主人公の父親役を演じることと、ポール・ベタニーの敵役
が紹介されていたが、今回発表された配役で、ミレンは物語
の鍵となるブックコレクター、またサーキスは敵役のカプリ
コーンとなっている。その他の役柄は紹介されていなかった
が、『バイオハザード2』のギロリーをまた見られるのはち
ょっと楽しみだ。撮影は11月にイタリアで開始され、その後
ロンドンで続けられるということだ。
 もう1つは、ファン待望の報告で、今年の夏に公開された
“Superman Returns”の続編の製作が正式に発表された。こ
の続編の製作に関しては、今年の2月頃にすでに決定という
情報も流されていたのだが、実は本作の製作費が2億ドルに
達したのに対して、全米での興行収入が2億ドルに留まった
ことから、ワーナーからは一旦保留の報告も出されていた。
しかし、全世界の興行収入が約4億ドルに達し、テレビやD
VD収入も高く見込まれることから、改めてゴーサインとな
ったものだ。ただし、続編の製作費は1億4000−7000万ドル
に抑えることが条件とされており、監督のブライアン・シン
ガーがそれを了承したということのようだ。
 これで、シンガー監督による続編が実現されることになり
そうだが、果たしてゾッド将軍以下のクリプトン星の3悪人
の再登場となるかどうか。それに7月15日付第115回で紹介
した“Superman vs. Batmann”に向けて、お楽しみは続くこ
とになりそうだ。


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井口健二