井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2006年10月31日(火) ソウ3、DEATH NOTE(後編)、マウス・タウン、悪夢探偵

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ソウ3』“Saw III”
ソリッド・シチュエーション・スリラーという新たなジャン
ルを作り出したとまで言われた『ソウ』シリーズの第3弾。
第1作、第2作を手掛けたリン・ワネルの脚本を、第2作の
原案監督を務めたダーレン・リン・バウズマンの演出で映画
化した。
第1作では、大きなバスルームという限定された空間に閉じ
込められた2人の男のサヴァイバル劇が演じられ、第2作で
は、1軒の家に閉じ込められた8人の男女のサヴァイバル劇
が演じられた。
その第1作では、ジグソウと名告る仮面の男が犯人とされた
が、第2作ではそこに協力者のいることも明らかにされた。
そして第3作では、その協力者と共に新たな殺人ゲームが展
開されるものだが…そのターゲットは2人で、その点では原
点に戻った感じのものだ。
実際、第2作は、第1作には関っていないバウズマンのオリ
ジナル脚本を、ワネルが続編として書き直したもので、その
意味では傍系作品。それを今回はワネルの脚本で原点に戻し
た訳で、流れとしてはこれが正しいものということになる。
そして今回のターゲットは、不倫に走って家を顧みなくなっ
ている優秀な女性外科医と、3年前に息子を交通事故で失っ
たが、その加害者が微罪とされたことから復讐の念に凝り固
まった男性。その2人にジグソウは、あることを教えようと
するのだが…
第1作も第2作も、ターゲットとされた人々は、それぞれ心
に闇を持っているという設定で、その心の闇が事件に巻き込
まれる理由とされた。しかし、前2作ではその部分はあまり
明確にされなかった。今回は、その部分のドラマから周到に
描かれて行く。
正直に言って、第1作は学生出身のクリエーターたちによる
粗削りな作品という感じだったが、第2作では他人の脚本を
見事に続編に焼き直した手腕に驚き、今回第3作でその見事
な脚本には、脚本家ワネルが本物だったという想いがした。
それに監督のバウズマンも、第2作で新人だったとは思えな
いほどの見事な演出を繰り広げる。試写後の会見でバウズマ
ンは、現場は映画学校のようだったと発言していたが、撮影
監督などにはベテランを起用したスタッフ体制が、功奏した
というところのようだ。
それにしても、見事に進化している。たった3作目、しかも
3年間で新たな映画作家の誕生を目の当りにした感じだ。そ
の意味でも楽しめるシリーズだった。
ただし、繰り返される惨劇の映像は、これも前2作以上に過
激に進化しているので、体調不良の人にはお勧めできない。
実際にアメリカではレーティングでかなり揉めたようだが、
日本でも4回の映倫試写の末、ようやく4カ所の画面を少し
暗くして、血糊の赤色を弱くすることで、当初のR−18指定
からR−15に変更してもらえたそうだ。
従って、日本での上映はノーカットで行われる。会見の席で
バウズマンは、日本の検閲がこの程度に納めてくれたことに
感謝したいと語っていた。
なお、会見での発言によると、シリーズは今後も続くことに
なるようだ。

『DEATH NOTE The Last Name』
人気コミックス原作の映画化で、初夏に前編が公開されて話
題となった作品の後編。
名前を書くだけでその相手に思い通りの死をもたらす死神の
ノートを巡って、法で罰し切れない犯罪者に死を送り届ける
キラと名告る人物と、そのキラ捜索のために国際刑事警察機
構から送り込まれた天才犯罪分析官Lとの攻防を描く。
そして今回は、第2のノートの存在と、キラが拒否した死神
の目をも持つその新たな所有者を巡っての意外な展開も描か
れる。果たして、捜査チームに乗り込んだキラと、Lとの対
決の結末は…
前作は、正義感で始めたはずのキラが徐々に自分の力に酔っ
て、大量殺戮者になって行くドラマが描かれ、それは映画と
しても面白かった。
しかし後編では、そのようなドラマは希薄にされ、どちらか
というとコミックス的な活劇が主体に描かれる。それはそれ
で、コミックスの人気の理由もそこにあるのだから構わない
が、映画ファンにはちょっと物足りないかもしれない。
しかしこの作品のファンにとっては、そんなことはどうでも
良いことだし、特に今回は、原作では一番の人気キャラと言
われる弥海砂に対するちょっとSMチックな描写も、日本の
一般映画にしてはそれなりに描いているから、これにはファ
ンも満足することだろう。
ただし、僕は原作を読んではいないが、結末は原作とは違え
られているようだ。その結末は、冷静に考えればこうなるし
かないものだが、物語の展開の流れの中でこの結末が提示さ
れたことによる呆気なさは否めない。
結局、観客はその流れの中で見ているのだから、この結末で
カタルシスが得られるかどうかに疑問は残る。ハリウッドで
のリメイクも噂に上っているようだが、ハリウッド版での結
末がどうなるか、そこにも興味が引かれるところだ。

上映時間は2時間20分。かなりの長さだが、何しろ次から次
にいろいろな展開が生じていくから、それはスピーディーで
見ている間は飽きさせない。
それに、物語の主題はキラとLとの対決だが、それを彩るの
が、海砂であったり、高田清美であったりと、結構女性が多
いのも魅力的だ。その女性たちの描写に結構時間を割いてい
るのが上映時間の長さに反映しているもので、これは仕方が
ないとも言える。
まあ、デスノートのルールの整合性など、突っ込みどころは
多々ある作品だが、見ている間は楽しませてくれるし、見終
えてから話題にできる要素がいろいろあるのも、それなりに
良いことのように思える。
映画館を出てからも楽しめる作品と言えそうだ。

『マウス・タウン/ロディとリタの大冒険』
                   “Flushed Away”
ドリームワークス・アニメーションとアードマン共同製作に
よるCGIアニメーション。
ドリームワークスとアードマンは、2000年に公開された『チ
キンラン』以来の提携関係にあるが、2005年公開の『ウォレ
スとグルミット』までの2作品は、アードマン製作の作品を
ドリームワークスが配給しているものだった。それに対して
今回は、両社からそれぞれの所属監督が投入されての本格的
な共同作品となっている。
元々はアードマンで、『チキンラン』にも登場したネズミの
キャラクターを発展させたいという企画が進められ、それに
ドリームワークスで進んでいたネズミを主人公にした企画が
合体したということだが、舞台設定がどんどん大きくなって
従来のクレイアニメーションでは処理し切れなくなり、つい
にCGIで制作することになったそうだ。
物語は、大きなお屋敷に住むペットネズミのロディが、ある
家人のいない日に下水管からドブネズミに侵入される。そこ
で、そいつを騙してトイレに流してしまおうとするのだが、
逆に自分が流され(flushed away)てしまう。
こうしてロンドンの地下世界にやってきたペットネズミは、
大家族を支える勝ち気な雌ネズミのリタと出会い、彼女の協
力で何とか元の家に戻ろうとするのだが…その陰では、ガマ
ガエルによる卑劣な陰謀が進められていた。
これに、フランスから来たガマガエルの従兄弟や、ガマガエ
ルの手下となっているネズミの凸凹コンビなどが加わって、
下水道の交錯する地下世界での大冒険が始まる。
さらに物語には、『ファインディング・ニモ』から007ま
で、いろいろなパロディが満載されている。
そして各キャラクターの声優に、ロディ=ヒュー・ジャック
マン、リタ=ケイト・ウィンスレット、ガマガエル=イアン
・マッケラン、従兄弟=ジャン・レノ、手下=アンディ・サ
ーキス、ビル・ナイなどという錚々たる顔ぶれが揃っている
のも聞きものだ。
映像では、アードマン特有の口の大きなキャラクターがその
ままCGI化されている他、シークェンスの流れの中にちょ
っとした留めカットが入るなど、クレイアニメーションの雰
囲気を丁寧に再現している。
来日記者会見で監督は、「手法は気にせず楽しんで欲しい」
と言っていたが、もちろん見ている間は気になることではな
い。ただ、この作品がクレイアニメーションの歴史を背景に
誕生したことも確かな訳で…
その点について会見で僕がした質問に対して、アードマン所
属の監督からは、「もっとキャラクターに親密な作品には、
手造りのクレイの温もりは欠かせないので、その伝統は残し
て行く」との回答が出されていた。
なお、この作品は東京国際映画祭で特別招待作品として上映
されたものだが、実は事前に行われた内覧試写では、一部未
完成の部分があるという情報だった。しかし映画祭で上映さ
れたのは、エンディングなどの欠けていた部分も補充された
完成ヴァージョンということで、これが正真正銘のワールド
プレミアだったようだ。

『悪夢探偵』
ローマ映画祭とプサン映画祭でワールドプレミアされた塚本
晋也監督の新作。春に行われた撮影完了記者会見では、ヴェ
ネチアに出したいと言っていたが、それには間に合わず、ロ
ーマの直前にようやく完成したということだ。
同じ会見で監督は、「映画の編集には、作品を悪くしようと
する力が働くので、それに対抗するのは大変だ」と語ってい
たが、正に本作は焦らずじっくりと完成された作品というと
ころだろう。
物語は、他人の夢に侵入できる能力を持った男が主人公。し
かしそれは、恐怖に満ちた悪夢を共有することにもなるもの
で、主人公自身はそんな能力を持ってしまったことを呪って
いる。
そんなある日、若い女性の惨殺死体が発見される。それは状
況から自殺と見られたが、続けて中年の男性が自宅のベッド
で、自ら首を掻き切って死ぬ事件が発生。その様子は、悪夢
にうなされ、その命じるままに首を切ったとしか思えないも
のだった。
その事件を捜査する捜査班には、本庁からやってきた女性刑
事がいた。彼女はキャリア組での軋轢に疲弊して自ら転属を
願い出たものだったが、いきなりオカルト面からの捜査を命
じられて面食らう。しかし事件はますますオカルトチックな
様相を見せ始め…
こうして彼女は、悪夢探偵と遭遇する。そして彼女は、事件
解決のために自らがその悪夢を見て、彼女の見る悪夢に侵入
することを依頼するのだが…
出演は、悪夢探偵に松田龍平、女刑事に歌手のhitomi(予想
以上の出来)、他に、安藤政信、大杉漣、原田芳雄。そして
悪夢を操る謎の男に塚本監督本人が扮している。
物語はシリーズ化も予定されているものだ。その第1作とし
て本作では、設定も簡潔に説明されているし、またシリーズ
全体のコンセプトであろうスプラッターの部分も見事なもの
で、満足できる作品に仕上がっている。
作品は、『エルム街の悪夢』の流れを汲むものだが、『エル
ム…』では描き切れなかった悪夢が人を殺す様子なども納得
できるように描かれており、その点では一歩リードという感
じもするものだ。
ただ本作では、実際の悪夢との対決になってからがちょっと
あっけなく、ここでもう少し何か欲しかった感じだが、そこ
はシリーズの第1作ということで、設定の説明などにも時間
が割かれているから仕方がないところだろう。それもあって
今回は敵役を監督本人が演じているのかも知れない。

監督は、ほかの作品も作りつつ、節目々々にこのシリーズを
作っていきたい意向とのことだが、それなら次の節目を楽し
みに待ちたいものだ。でも、できたら第2作は、少し早めに
作った方が、効果はあるように思えるが。


(東京国際映画祭のコンペティション及びアジアの風部門で
上映された作品の紹介は、11月5日頃に掲載する予定です)


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二