井口健二のOn the Production
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2006年10月15日(日) 第121回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初はちょっとショッキングなこの話題から。
 “Star Wars Saga”を完結させたジョージ・ルーカスが、
「もはや大作映画を作る意志はない」とする爆弾発言をした
ことが報じられた。
 この発言は、ルーカスが母校のUSC映画学校に総額1億
7500万ドルの寄付を行ったセレモニー(旧USC Film School
をSchool of Cinematic Arts at USCに変更することも発表
された)後のインタビューで飛び出したもので、「仮に2億
ドルの資金があったら、60本の2時間ドラマを作る。そして
それを有料テレビやダウンロードで売る。大作映画は製作費
が掛かり過ぎて、リスクが大きい」と答えたとのことだ。
 またルーカスは、「ブランドを創ろうとするなら、サイト
を持って、そこに訪れる人々を満足させる作品で満たさなけ
ればならない。それには量が重要だ。もしそんなに創れない
と言うなら、あなたが本当に幸運で、やるべきことが本当に
判っていればそれでも可能かも知れない。しかしそれには、
多大な失敗も有り得るということだ」とも語ったようだ。
 確かにここ数年、ハリウッドの大作路線は、作品のぶつけ
合いで全作品が成功する訳には行かなくなってきているが、
それにしても『SW』の大成功で富と名声を得た人の発言と
しては寂しい限りだ。
 ただし、“Indiana Jones 4”については、「15年も関わ
ってきたから、これは完成させる。スティーヴン(スピルバ
ーグ)と僕はずっと一緒に作業を続けきて、皆がハッピーに
なれる何かを作り上げたいと思っている。それは多分近い内
に何かの形で発表できると思う」とのことだ。
 またルーカスフィルムでは、第2次大戦中の黒人航空兵の
姿を描いた“Red Tails”という計画も進めているそうで、
この2作と現在テレビ向けに進められている“Star Wars”
の実写シリーズについては、ルーカスの製作総指揮で作り上
げるとしている。さらに、現在はテレビ向けの製作を行って
いるルーカス・アニメーションでは、長編を製作する計画も
あるようだ。
 しかし、ルーカスフィルムが製作する2作品と、テレビ版
の“Star Wars”シリーズが完了したら本人は半ば引退した
いとしており、引退後には、「自然界の神秘を描いた小さい
映画」を監督したいという計画も語っていたそうだ。
 因に、上記のセレモニーには、スピルバーグとロバート・
ゼメキスも出席して、祝砲の発射やUSCマーチングバンド
によるファンファーレの演奏など、同校の歴史の中でも最大
の感謝の意思表示が行われたとのことだ。
        *         *
 お次は、前回もMGMの動向を紹介したが、そのMGMと
は1973年以来行動を共にしてきたユナイテッド・アーチスツ
(UA)の名前を復活させる動きが出てきた。
 UAは、元々は1919年にメアリー・ピックフォード、ダグ
ラス・フェアバンクス、D・W・グリフィス、それにチャー
リー・チャップリンの4人が当時のハリウッド体制に対抗し
て、芸術家の権利を守るために設立した映画会社だった。こ
のため多くの映画作家たちが、UAの名の許に映画配給を行
うなど、商業主義に走らない経営はアメリカ映画の良心のよ
うにも見られていたものだ。
 ところが1973年、当時同社の経営権を持っていた親会社の
トランスアメリカから、ハリウッドの老舗MGMが製作した
作品の配給を手掛けることが発表されたのを機に、当時のU
Aの経営陣だったアーサー・クリムとロバート・ベンジャミ
ンが独立してオライオンを設立。これにより求心力を失った
UAは、さらに1980年の『天国の門』の失敗による損失を回
復できず、1981年に当時のMGMのオーナーだったカーク・
カーコリアンによって、逆にMGMに買収される形で併合さ
れ、今日に至ったものだ。なお、当初はMGM/UAという
ロゴマークも使われていたが、それも何時の間にかMGMの
みになってしまっていた。
 そのUAの名称に対して、MGM株を売却してソニーによ
る買収に協力したカーコリアンや、元パラマウント経営者の
フランク・マンクーソらが買い取りを申し出ているもので、
その価格は4−5億ドルが提示されているとのことだ。因に
この金額は、カーコリアンがソニーに売却したMGM株の額
に比べると少額だが、実は現在ソニー本社で問題になってい
るパソコン用充電池のリコール費用に匹敵するもので、その
辺が微妙なところだ。
 なおUAの名称に関しては、過去にはフランシス・コッポ
ラやハーヴェイ・ワインスタインらも買い取りの交渉を行っ
た経緯があり、それだけ期待される名前ではあるが、果たし
て『黄金狂時代』『真昼の決闘』『ウェスト・サイド物語』
『アニー・ホール』『レインマン』などの名門復活となるか
どうか。しかも今回の交渉は名称だけで、再映画化権等は対
象とされていない。従って、007等の本来UAが持ってい
たシリーズも、その権利はMGMに残され、あくまで名称だ
けを復活して、ここから新しい歴史を刻むことになる。旧経
営陣が設立したオライオンも、1991年の『羊たちの沈黙』を
最後にすでになく、新UAにどのような経営方針が建てられ
るかにも興味が湧くところだ。
        *         *
 続いては続報で、2004年3月1日付の第58回で紹介した元
エル誌の編集者ジャン=ドミニーク・ボウビイが、全身麻痺
の状態で、片目の瞬きだけで綴った自伝“The Diving Bell
and the Butterfly”の映画化について、9月にフランスで
撮影が開始された。
 この映画化では、前の紹介の時にはユニヴァーサルがジョ
ニー・デップ主演で計画を進めていることを報告した。しか
し、デップ本人も出演を希望して、製作者としては願っても
ない状況ではあったものの、そのスケジュールは各社の大作
に押されて来年以降まで一杯という状況。ついにその製作時
期を待てなくなった製作者が、今年の春に彼の出演を断念す
ることを発表し、デップもこれを了承していた。
 これにより、ユニヴァーサルも手を引くことになったが、
製作者は独自にフランス・パテ社の傘下で製作を進めること
とし、パテが所有するプロダクションとフランス3シネマと
いうプロダクションの共同製作、それにカナル・プラスの協
力で撮影開始に漕ぎ着けたものだ。
 なお、デップに代わる主演は『ミュンヘン』などに出てい
るマチュー・アマルリーク。共演には、『フランティック』
のエマニュエル・セニア、『あるいは裏切りという名の犬』
のアンヌ・コンシニ、さらにマックス・フォン=シドーらを
迎えての撮影開始となっている。
 監督は、前回の報告から変わらず『バスキア』のジュリア
ン・シュナベル。脚本も代ってはいないと思うが、台詞はフ
ランス語になるようだ。
        *         *
 次も良く似た状況で、今年3月1日付の第106回で紹介し
たラッセル・クロウ主演、ジェームズ・マンゴールド監督の
“3:10 to Yuma”(決断の3時10分)のリメイクについて、
10月23日からニュー・メキシコでの撮影が発表されている。
 そしてこの計画も、前回は1957年のオリジナルを製作した
コロムビアでの計画として紹介したものだが、こちらは製作
費が掛かり過ぎるとの理由で6月にキャンセルされて、その
後をライオンズゲイトが引き継ぎ、製作費5000万ドルで実現
となったものだ。
 なおコロムビアの判断では、クロウの主演で西部劇は成功
が確信できない。そのクロウの出演料が製作費のかなり部分
を占めているのが問題としていた。しかし、そのクロウは製
作者にも名を連ねているもので、監督としては彼を外す訳に
は行かなかったようだ。因にマンゴールドは、コロムビアと
は優先契約を結んでいて、最初に同社に企画を持って行かな
ければならないという状況にあるが、実は『君につづく道』
の時も、当初はコロムビアで進めていたものの、キャンセル
されてフォックスに移した経緯がある。
 しかしマンゴールドは、「製作を進めるか否かは会社の判
断だから、それについて自分がとやかく言うことはない。そ
れで映画が作れなくなるものではないし、今後もコロムビア
との契約は維持する」とのことだ。実際、今回の作品も、映
画化権の問題ではコロムビアでなければ立上げられなかった
もので、同社がキャンセルすることで他社での製作が可能に
なる。従ってマンゴールドとしては、その辺の状況をうまく
利用したとも言えるようだ。
 オリジナルは、グレン・フォードとヴァン・ヘフリンの共
演で、護送を待つ悪党とその監視を頼まれた農夫の、列車の
到着を待つ間の虚々実々の駆け引きを描いた異色西部劇。今
回の脚本は、『ワイルド・スピード2』のデレク・ハースと
『コレテラル』のスチュアート・ビーティが手掛けている。
 また作品には、クリスチャン・ベイル、ピーター・フォン
ダ、グレッチェン・モル、ダラス・ロバーツ、ベン・フォス
ターらの共演も発表されている。
        *         *
 お次は、7月15日付の第115回で紹介した“I Am Legend”
の3度目の映画化について、ウィル・スミスの相手役に、ブ
ラジル人女優のアリス・ブラーガの出演が発表されている。
 なお、ブラーガは2002年の“City of God”に出演してい
たということで、その後アメリカに進出して、最近ではトラ
イベカ映画祭で上映されたブレンダン・フレイザー、モス・
デフ共演の“A Journey to the End of the Night”などに
も出演している。また、ブラジル映画の“Lower City”や、
ディエゴ・ルナと共演した“Solo Dios sade”という作品の
公開が控えているようだ。
 なお、前回この作品については物語の改変を心配したが、
今回の発表に添えられた記事によるとアキヴァ・ゴールズマ
ンがリライトした脚本では、それぞれ孤立して生き残った3
人の人間が登場するということで、ブラーガもその3人の内
の1人とされている。従って、前回報告したジョニー・デッ
プと併せて3人が出揃う訳だが、実は今回の記事ではデップ
の名前は全く出ておらず、一部にはすでにキャンセルされた
との情報もあるようで、その辺は全く定かでないところだ。
 ただし、フラシス・ローレンス監督による撮影は、今秋ニ
ューヨークで開始となっており、デップが出ないとすると、
その代りの男優も発表されていなければいけない時期のはず
で、その情報がないのも解せないところだ。
        *         *
 題名が出たついでに報告しておくと、2004年8月1日付の
第68回で紹介した“City of God”の続編と言われる“City
of Men”のアメリカ公開が、前作も手掛けたミラマックスの
配給で2007年に行われることが発表された。
 ただしこの作品は、今まで続編として紹介されていたもの
の、登場人物などのオリジナルとのつながりはあまりなく、
以前の記事にも触れられていたテレビシリーズの登場人物を
中心にしたものになっているようだ。また監督もテレビシリ
ーズのエピソードを担当したパウロ・モレリとなっており、
脚本はエレナ・ソワレス、前作の監督のフェルナンド・メイ
レレスは製作者とされている。
 因に、以前の紹介では、オリジナルの登場人物から2人は
同じ俳優が登場するとされていたものだが、当時に計画され
ていた作品とのつながりも不明だ。しかし、内容的には前作
と同じく、過酷な生活環境の中で描かれる、誠実さと政治力
と生き残りの物語ということで、その点でのつながりは多く
あるとされている。従って、この作品を続編として公開する
かどうかは微妙なようだ。
 なお、前作をミラマックスで配給したのは、当時のトップ
で昨年独立したワインスタイン兄弟の契約によるものだった
が、今回は現トップのダニエル・バツェックが前職のブエナ
・ヴィスタインターナショナル時代に同社の置かれたイギリ
スでの配給権を確保していたもので、そのつながりからミラ
マックスでのアメリカ配給が決まったようだ。そしてこの配
給権は、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、南
アフリカにも及ぶということだが、残念ながら日本は含まれ
ていないものだ。
 従って、この作品の日本公開についても、どこかの配給会
社が買ってくれることを期待しているものだが、さらにテレ
ビシリーズは、アメリカではサンダンスチャンネルで放送さ
れているもので、以前の情報ではCGIアニメーションを使
ったエピソードもあるとのこと、そのテレビ版もいつか見て
みたいものだ。
        *         *
 マット・デイモンとベン・アフレックの提唱で開始された
新人発掘のためのProject Greenlight(PG)については、
すでに何度か紹介しているが、2004年8月1日付第68回で報
告した第3回脚本部門の優勝者パトリック・メルトン、マー
カス・ダンスタンの受賞作“Feast”についても、ワインス
タイン兄弟の独立騒ぎなどで1年近く遅れたものの、ディメ
ンション配給で9月末に全米公開されたようだ。
 これにより、過去3回の受賞作はいずれも一般公開された
ことになるものだが、さらに今回の優勝者2人に対しては、
彼らが新たに執筆した2本の脚本についても、ディメンショ
ンの資金提供と配給で製作することが発表されている。
 その1本目は、“Midnight Man”と題されたもので、内容
は企業家誘拐の顛末を描いた作品とのこと。またこの作品で
は、コンビの片割れのダンストンが監督デビューすることも
発表されている。さらに2本目は、“The Neighbor”という
題名のスリラーだということだ。
 しかし、2000年から隔年で行われてきたはずのPGだが、
第4回の年に当る今年は、今のところ公式サイトにも情報は
なく、どうなっているのか気になるものだ。一昨年の第3回
については、ファイナリストの3本が、いずれも製作に向か
っていることを、第74回と第84回の記事で紹介しおり、これ
らについてのその後の情報はないものの、PGが注目のプロ
ジェクトであることに変わりはない。順調に継続されている
ことを祈りたいものだが。
        *         *
 ジュリア・ロバーツの主演作として、パラマウントがブラ
ッド・ピット主宰のプランB向けに映画化権を獲得したエリ
ザベス・ギルバートの回想録“Eat, Pray, Love”の計画が
発表されている。
 この作品は、夫と大きな自宅のある生活を手に入れ、子供
を産むことが夢だった女性が、ある日、それが自分の本当に
欲しかった生活ではなかったことに気付き、辛い離婚の末、
自分自身を発見するための世界を巡る旅に出るというもの。
ベストセラーにもなったこの原作には、出版以来多数の女優
から主演希望の手が上がっていたようだが、今回は原作者が
「ロバーツの主演でなら」として映画化権の設定を許可した
ということだ。
 脚色と監督は、昨年プランBの製作により“Running With
Scissors”という作品で監督デビューしたライアン・マー
フィ。因にマーフィは、“Nip/Tuck”などのテレビ番組のク
リエーターとしても知られるが、現在はプランBで“4oz.”
というシリーズを進めており、それに併せて昨年9月1日付
第94回で紹介したメリル・ストリープ主演でウォーターゲー
ト事件当時のホワイトハウスの内幕を描く“Dirty Trick”
を準備中。そしてそれが済み次第、今回の作品に取り掛かる
計画ということだ。
 従って、製作時期などは未定だが、撮影は、少なくとも世
界の4カ国を回るかなり大掛かりな作品になるようだ。
        *         *
 アカデミー賞作品賞を受賞した『クラッシュ』の監督で、
『父親たちの星条旗』の脚色にも参加しているポール・ハギ
スの次期監督作品として、トミー・リー・ジョーンズ、シャ
ーリズ・セロン共演による“The Garden of Elah”という計
画が進められている。
 この作品は、Playboy誌のアメリカ版に掲載された“Death
and Dishonor”と題するマーク・ボアルの署名記事を映画
化するもので、記事は真実に基づくとされている。そしてこ
の記事の映画化権は、昨年ワーナーがハギスの要請を受けて
獲得していたということだ。
 内容は、イラク戦争の最前線から帰国した直後に、無断外
出のまま行方不明になったとされる息子の失踪の謎を追う退
役軍人の父親を描くもの。実話では、レニー・デイヴィスと
いう退役陸軍々人の父親がその真実を解き明かすものだが、
その真実は、帰国後もバグダッドの危険地帯にいるという幻
覚から離れられない同僚兵士によって息子が殺されたという
結末になるものだ。
 そしてこの物語をハギスの脚色、監督により映画化するも
ので、配役は、ジョーンズの父親役、セロンは彼を助ける地
方警察の女性刑事役となっている。なお、ハギスはテキサス
に赴いてロケ地のスカウティングも行っており、年内に撮影
開始の予定ということだ。アメリカ公開は、ワーナー傘下の
インディペンデンスが行う。
 なおハギスの計画では、4月1日付第108回で紹介したリ
チャード・クラーク原作による9/11もので、“Against
All Enemies”という作品がコロムビアで先に予定されてい
たが、その前にこの作品を手掛けることになったものだ。
        *         *
 最後にSF/ファンタシー系の話題を2つ紹介する。
 まずは、前回紹介した“War Games 2”の続報で、この続
編の脚本を、1984年に公開されたサーフィン映画のパロディ
作品“Surf II”(因に“Surf I”という作品はない)など
のランダル・ベイダットが担当し、監督にはテレビシリーズ
“Charmed”などのスチュアート・ギラードの起用が報告さ
れた。監督などの格から言って、テレビ放送かDVD直販の
可能性は高そうだが、お話は、10代のハッカーがオンライン
ゲームで遊んでいる内、テロ対策の戦略構築のために設置さ
れた政府のコンピューターに侵入してしまうというもので、
それなりにオリジナルの流れを踏襲して現代化した作品にな
りそうだ。撮影は11月半ばに開始の予定だが、出演者などの
情報はまだないようだ。
 もう一つは、これはまさかという感じだが、ディズニーの
インサイダー情報として、“Pirates of the Caribbean”の
第4作の計画が進んでおり、しかもこの第4作では、オーラ
ンド・ブルーム扮するウィル・ターナーが死んでしまうとい
うことだ。なお情報によると、「第4作の物語は現在検討中
のものだが、すでに投資家は集まっている。また第4作では
ターナー以外の比較的重要でないキャラクターもかなり整理
されることになる」というものだ。この報道に対してネット
の書き込みでは、「第2作ではジャックも死んでいるし、す
ぐ生き返るのではないか」という意見もあったようだが、そ
れだと第5作も作られることになる。元々の情報では第3作
の後は前日譚をやるという話もあったものだが、その辺との
つながりがどうなるかも気になるところだ。


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井口健二