井口健二のOn the Production
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2006年09月20日(水) ヘンダーソン夫人の贈り物、ハヴァナイスデー、家門の危機、出口のない海、武士の一分、敬愛なるベートーヴェン、ダンジョン&ドラゴン2

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ヘンダーソン夫人の贈り物』“Mrs.Henderson Presents”
第2次大戦中のナチスドイツによる空襲の下でも、興行を止
めなかったというロンドン・ウエストエンドに在ったウィン
ドミル劇場の実話に基づく物語。
70歳で資産家の夫に先立たれたヘンダーソン夫人は、その遺
産の使い道としてロンドン・ソーホー街の劇場を買い取る。
そして、その出し物を取り仕切らせるためにオランダ出身の
ヴィヴィアン・ヴァンダムという支配人を雇い入れる。
その劇場では、最初はミュージカルやボードヴィルを織りま
ぜたショウをノンストップで上演するという興行を行って評
判を呼ぶが、それはやがて別の劇場にも真似され収入が落ち
込んでくる。そこでヘンダースン夫人が思いついたのは…
戦前のイギリスでは実演のヌードショウは禁止されていたよ
うだ。しかし、そこは政界にも顔の利く夫人が手を回して、
女性が動かないことを条件にショウの上演を認めさせてしま
う。こうして劇場はさらに評判を呼ぶことになるが…
女性が動かないヌードショウは、額縁ショウという名で戦後
の日本でも一時期興行されたことがあるものだが、ルーツは
戦前のベルリンに在ったようだ。従ってこのショウ自体は特
別なものではないが、これがロンドン空襲のさなかも興行を
止めなかったということが物語のポイントになる。
実際、劇場は地下にあったもので、空襲にもびくともしなか
ったということだが、出演者やスタッフはその劇場に泊まり
込みで興行を続けたというものだ。
映画では、このヌードショウも含めて、当時の歌や踊りのシ
ョウの様子も再現されるし、その興行に至るバックステージ
も紹介されて、その辺の興味も満足させてくれる。
特に、ゲイをカミングアウトしているイギリスの人気歌手ウ
ィル・ヤングが、映画初出演で歌い踊る「グディ・グディ」
などの懐メロに乗せたショウの再現は、それだけでも存分に
楽しめるものだった。
物語は、甘いものばかりでなく、夫人が後悔の念に苛まれる
ようなエピソードも起きてくるが、それでも前に進んで行く
人々の姿を欧い上げたものだ。主演は、ジュディ・ディンチ
とボブ・ホスキンズ。2人の丁々発止のやりとりは、ユダヤ
人ネタのジョークも含め見事だった。ホスキンズは本映画の
製作総指揮も務めている。
なお原題にあるPresentsというのは、昔は「提供」と訳して
いたものだが、今で言う製作総指揮のような感じの肩書で、
映画の中では、‘Mrs.Henderson Presents and Vivian Van
Damm Produce’のように使われていた。
因に、映画の中でも「ヘンダーソン夫人の贈り物」というせ
りふは出てくるが、そこでの原語はgiftが使われていたもの
だ。従って、せりふにも出てくるから邦題はそれでも良いの
だが、原題の意味も知っておいて欲しい言葉だ。

『ハヴァ、ナイスデー』
『夜のピクニック』の長澤雅彦ら、総勢18人の監督が作り上
げた短編オムニバス。公開は9本ずつ2プログラムに分けて
レイトショウ公開されるようだが、試写会はその内の8本が
セレクトされて上映された。
今回の作品は「短編.jp」というインターネットのサイトか
ら生まれたということで、もしかしたら素人の原作を映画化
したということかも知れない。ただし、映画化に当っては、
24時間以内の物語という縛りがあったようで、その中で監督
の腕が発揮されている。
短編といっても、今回の作品はそれぞれが10分前後で、ここ
までくると短編というより掌編、ショートショートという感
じだ。その短い時間の中で、起承転結、あっと驚く結末が付
けられれば最高だが。それはなかなか難しい。
毎年秋の終りごろに映画学校の生徒さんの作品を見せてもら
っている。それも大体10分前後の作品な訳で、それと比較し
て今回はさすがにプロの作品と言いたかったところだが…さ
すがにこの短さでは、俳優の演技などには差があるものの、
ピシリと決まる作品にはなかなかならなかったようだ。
特に今回の8本では、どれも結末がうまく決まっていない。
どの作品も余韻が残るような感じの終わらせ方で、それはそ
れでも良いのだが、どれもこれも同じような終り方では、全
体の印象が弱くなってしまう。
セレクトの基準がどこにあったかは判らないが、これはセレ
クトの仕方にも問題がありそうだ。
なお、見せてもらった8本の中では、長澤監督の『birthday
girl』、矢崎仁司監督『大安吉日』、富永まい監督『風見
鶏と煙突男』、安里麻里監督『夕凪』、中野裕之監督『全速
力海岸』などは気に入ったが、それぞれ結末にはもう一工夫
欲しかった感じはしたものだ。

『家門の危機』(韓国映画)
本国では昨年公開され、同時期公開の『四月の雪』、『デュ
エリスト』を押さえて堂々の第1位、年間でも2位の興行記
録を残し、韓国ラヴコメでは歴代1位と言われる大ヒットコ
メディ作品。
女頭目に率いられた白虎組は、全羅南道を拠点にしたヤクザ
組織だが、昔ながらの任侠道に根差した組で、中央の検察が
注目するような問題も起していないようだ。しかしソウル進
出を目指して指定暴力団の斧組との軋轢も生じている。
主人公は、そのヤクザ組織の跡取り。組は今は亡き父親が興
し、現在の頭目は母親というものだ。その母親は長男が結婚
しないことを心配し、次男と三男に自分の還暦の誕生日まで
に、長男に嫁を見つけることを命令する。
一方、長男は高校時代に女番長だった亡き同級生の思い出に
囚われており、次男や三男の勧める女たちにもなかなか目が
行かない。そんな長男が、ある日、一人の女性に目を奪われ
る。それは昔の同級生の面影を持つ女性だったが…
実は、彼女はソウル地方検察庁で広域暴力団摘発を担当する
敏腕検事だった。そして2人は、ひょんな事からお互いの身
分を隠したまま付き合いを始めてしまう。
何と言ってもヤクザはヤクザだし、任侠道に根差すと言われ
ても、映画の中では平気で暴力を揮うシーンも登場する。で
もまあこの作品の物語では、ヤクザの跡取りと検察官という
図式でしか成り立ちそうもないし、お話はお話として楽しむ
ところだ。その意味では、この映画はお話の展開には無理は
ないし、なかなか面白く出来上がっている。
主演は、『銀杏の木のベッド』『アウトライブ−飛天舞−』
で見事なアクションを見せてくれたシン・ヒョンジュンと、
韓国テレビのヴァラエティ番組での人気者と言うキム・ウォ
ニ。特に、シンのアクションは迫力十分で楽しめる。
監督は、『アウトライブ』で助監督を務め、『人形霊』でデ
ビューしたチョン・ヨンギの第2作。
本国では、続編も今年6月に公開されたそうで、それも早く
見てみたいものだ。

『出口のない海』
横山秀夫原作、佐々部清監督で、第2次世界大戦の末期に投
入された人間魚雷「回天」を巡る物語。
戦争映画は好きではない。非戦の考えを持っていることもあ
るが、それがこの作品のように反戦思想に基づくものであっ
ても、戦争を描いた作品には二の足を踏んでしまう。
なおこの作品は、甲子園で活躍し、明治大学野球部でエース
ピッチャーだった主人公が、「回天」に乗るようになるまで
の軌跡を描いている。
元々の原作者の執筆の動機は、「回天」という非人間的な兵
器があったことを、歴史の中に記録したいということだった
ようだが、確かに神風特攻隊などに比べると「回天」の存在
はあまり知られていないものだ。
僕も、「回天」という自殺型兵器のあったことは知っていた
が、この映画を見て、その性能が如何に凄まじいものであっ
たかを改めて教えられた。特に、酸素混入燃料を使うことで
航跡を出さない技術。また、1.55tもの炸薬を搭載していた
というのも驚きだった。
それにしても、これだけのものを作り上げる技術力を、なぜ
もっと他の事に使えなかったのかというところだ。
物語は、全体として戦争の愚かさを伝えようとしているもの
だが、それにしても余りに愚かしい話で、ここまで来ると、
僕としてはちょっと退いてしまう感じもあった。もっともそ
のようなシーンで周りはハンカチが忙しかったようだが…
まあ、これで涙に暮れてくれれば、反戦の意味も伝わると思
うが、それ以前に国威発揚的な言動が繰り返されるシーンが
あったりすると、僕としては疑問も感じてしまうところだ。
ましてや予告編ではそこが強調されてしまう訳で…。結局、
反戦映画というのは難しいものだ。
CGを使った艦船の姿や、戦災の東京の風景などは概ね良く
できていたと思う。ただし、太平洋上のはずの米国艦船との
対峙シーンで、手前の海面に定置網のブイと思われるものが
見えるのはいかがなものか。何となく波も内海のもののよう
に思えてしまった。

『武士の一分』
最近邦画を紹介することが多くなっているが、それらは基本
的に洋画配給会社が日本映画を製作したり、独立系の作品だ
ったりするもので、特別な場合を除いて、いわゆる邦画大手
の試写会を見る機会はなかったものだ。ところが、この夏頃
から松竹映画が試写状を送ってきてくれるようになった。
ということで、この作品は、松竹製作の山田洋次監督による
時代劇三部作の完結編と呼ばれているものだが、上記の経緯
のため、僕は前の2作を見ていない。といっても別段つなが
りのある話ではないようだから問題はないものだが。
前の2作では、それぞれ父と娘の絆と身分の違う男女の愛を
描いたそうだ。そして今回は夫婦の愛が描かれる。毎回テー
マが違うのは大したものだが、その中で完結編が夫婦愛とい
うのは、昨今の家族関係が希薄になりつつある日本では一石
を投じる感じだ。
物語の背景は、天下泰平の江戸時代。主人公はとある小国で
禄高三十石の下級武士。両親はすでになく、若い妻と父の代
から仕える中間と共に、穏やかに暮らしてはいるが、実は剣
術は免許皆伝、藩校でも秀才とうたわれた男だった。
しかし、城でのお役目は毒味役、それは台所の隅で他の武士
たちと共に椀のものを一口食べるだけのこと。そんなお役に
は不満もあるが、それは仕方のないこと、彼には早目に引退
して子供たちに剣術を教えたいという夢もあった。
ところがその生活が暗転する。毒見で食べた貝毒に当り、一
時は意識不明、妻の必至の看病でそれは脱するが、失明して
しまう。これでは城のお役は御免必至で、そうなれば家名を
保つこともできず、住む家も返さなければならなくなる。
この事態に妻は、以前から好意を寄せてくれていた上級武士
に援助を求めに行くのだったが…そして後半は、全くの絶望
の縁に立たされた主人公が、それでもただ一つの信ずるもの
のために生きて行く姿が描かれる。
出演は、主人公に木村拓哉、その妻に元宝塚娘役トップの檀
れい。他に笹野高史、桃井かおり、坂東三津五郎。
木村は、幼い頃から剣道を習っていたということだが、その
剣捌きは、特に木刀での練習シーンに迫力があった。まあ、
決闘のシーンは演出も入るからそれなりになってしまうが、
それまでの本気で振っているシーンは見事だったと思う。
しかも、盲目という設定では、目を見開いたままうつろとい
う演技を見事に行っていて、それも迫力のあるものだった。
実は山田洋次監督には、ずっと以前に某アメリカSF映画の
ムック本を編集した際に、コメントを取りに行ってもらった
編集員から、「一言『関係ないですね』という返答だった」
と聞かされて以来、自分の映画観とは関係ない人だと感じて
いた。だからそれ以降は作品も見ていなかった。
それを今回、数10年振りに山田監督作品を見たものだが、も
ちろんこれだけで認識が変ったという訳ではない。しかし、
壺を心得た物語の展開のさせ方にはさすがと思えたものだ。
作品的には、これでひとまず時代劇三部作は終えたというこ
となので、次回作には少し注目してみようかとも思ってしま
った。

『敬愛なるベートーヴェン』“Copying Beethoven”
難聴となりながらも「交響曲第9番」を完成させたベートー
ヴェンの晩年を描いた作品。
「交響曲第9番」の初演を4日後に控えた日。作曲家はまだ
合唱の譜面を完成させていなかった。この事態に音楽出版社
は、作曲家の許で写譜を行わせるため音楽学校に最優秀の生
徒の派遣を依頼する。そしてやって来たのは、うら若き女性
アナ・ホルツだった。
気難しい作曲家の許に若い女性を送ることには危惧もあった
が、彼女はベートーヴェンの名前に目を輝かせる。こうして
ベートーヴェンの許で写譜の仕事を始めたホルツは、素晴ら
しい才能を発揮して作曲家を助けて行くことになる。
ベートーヴェンの生涯を描いた伝記映画は過去にも作られて
いると思うが、この作品は、作曲家の最晩年、「交響曲第9
番<合唱付き>」の完成から、最後の作品「大フーガ」の作
曲とその初演までを中心に描かれる。
物語の主人公でもある女性の存在が実話であるかどうかは知
らないが、映画のハイライトは、彼女との二人三脚で「交響
曲第9番」の初演の指揮をやり遂げる演奏会のシーンで、演
奏後の有名なエピソードも感動的に再現されているものだ。
資料によると、このシーンのサウンドトラックには1996年の
アムステルダムの楽団による録音が使われているが、映像は
作曲家に扮したエド・ハリスの指揮に従い、55人の管弦楽団
と60人の合唱団が実際に演奏を行い撮影したものだそうだ。
このためハリスは、撮影前に何ヶ月も掛けてピアノ、ヴァイ
オリン、そして指揮の勉強をし、実際の撮影でも見事に最後
までタクトを振り、演奏家たちもそれに合わせて演奏を続け
たと紹介されていた。
しかしそれでは、音源と映像が合うはずがないものだが、エ
ンドクレジットによると、ここにはCGIによるリップシン
クが行われたということで、VFXというのはこういうこと
にも使われるようになったのかと感心してしまった。
物語は、「交響曲第9番」の成功から「大フーガ」の失敗に
至る栄光と挫折を描いているが、その展開自体はあまり重く
せず、むしろ軽めに描いている。その分気軽に楽しめる作品
とも言えそうだ。それに「エリーゼのために」を含む数々の
楽曲が聞けるの楽しいものだ。
共演はダイアン・クルガー。彼女も、音楽や指揮の勉強を積
んで撮影に臨んだということだが、如何にもドイツ人女性と
いう雰囲気が良い感じだった。ただし、台詞はすべて英語の
作品となっている。

『ダンジョン&ドラゴン2』
      “Dungeons & Dragons: The Elemental Might”
1974年に発売された元祖RPGとも呼ばれる同名のゲームか
ら映画化された作品。2000年にアクション専門のジョール・
シルヴァ製作、ジェレミー・アイアンズ主演による第1作が
作られ、その第2作が5年ぶりに作られたものだ。
実は、その第1作は見逃してしまったのだが、ガイドブック
などであまり芳しい評価は受けていない。従って、今回はあ
まり期待しないで見に行ったのだが、確かに一級品と言う程
のものではないが、それなりに楽しませてくれる作品にはな
っていた。
ついでに言うと僕はオリジナルのゲームについても知らない
のだが、「ドラクエ」程度の知識で見ていてもニヤリとする
感じだし、プレス資料にはゲームの日本版翻訳者の人が寄稿
していたが、ゲームを知っているとさらに楽しめる仕掛けも
いろいろあるようだ。
結局のところ、この手のゲームは設定がかなり完成されてい
るから、映画化ではそれをうまく利用すればいいものだが、
映画製作者はなかなかそれをしてくれない。第1作の失敗は
そこらにあったようだが、今回はその轍は踏まなかったとい
うことのようだ。
物語は、魔法が機能している中世の時代。前作で破れた前宰
相ダモダールがとあるオーブを手に入れ、復讐に燃えて復活
するところから始まる。しかしそれは、3000年前に山に封じ
られたドラゴンをも呼び覚ますことになる。
そのドラゴンの復活を察知した現宰相ベレクは、それぞれ特
殊な能力を持つ4人の勇者を呼び集め、ドラゴンが完全復活
を遂げる次の新月の夜までに、魔術師である妻の力も借りて
ダモダールの手からオーブを奪い取り、ドラゴンの復活を阻
止しようとするのだが…
その妻は、ダモダールの呪いによって徐々に命を奪われよう
としていた。
最近のこの種の作品は、正にCGI無しには考えられない。
実際、この作品でも、ドラゴンや翼手竜のような異形の人間
の造形や動きは見事なものだし、中世の町並やそこで行われ
る魔法を交えた戦闘もCGIの威力がまざまざという感じの
ものだ。
それでも以前は、多少稚拙な映像という感じがすることもあ
ったが、最近はそれすらも感じられなくなった。因にこの作
品には、リトアニアのスタッフが参加しているようだが、そ
の辺りでも充分なものが作れるということだ。
上にも書いたように一級品という作品ではない。それに物語
的にもあまり変な捻りもないし、まあ気楽に楽しめばいいと
いう感じのものだ。後はオリジナルのゲームを知っている人
がどのような評価を下すか、その辺の意見は聞いてみたいと
思うところだ。
なお原題は、フィルム上も上記のものだと思ったが、ウェブ
のデータベースでは、副題が“Wrath of the Dragon God”
になっていることもあるようだ。


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