井口健二のOn the Production
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2006年07月14日(金) イルマーレ、ディア・ピョンヤン、パイレーツ・オブ・カリビアン2、マスター・オブ・サンダー、天軍、スーパーマン・リターンズ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『イルマーレ』“The Lake House”
2000年に製作・公開された韓国製ファンタシー映画のリメイ
ク。サンドラ・ブロックとキアヌ・リーヴス=『スピード』
コンビの12年ぶりの共演で、湖畔の家の郵便ポストに入れら
れた手紙が2年間の時を超え、男女を結びつける物語。
一方の主人公は女医。シカゴの総合病院に勤務の決まった彼
女は、勤務状況を考慮して湖畔の家を引き払って市中のアパ
ートに引っ越すことにする。そして、ポストに転居先への郵
便物の転送を依頼するメモを入れる。
他方の主人公は建築士。彼は廃屋と化していた湖畔の家を修
理し、新たに住もうとしていた。そして、郵便ポストに、あ
たかも今その家を出ていこうとするかのような、意味不明の
転居のメモを見つける。しかもその日付は、2年後のものだ
った。
この種の話は、どうやってもネタバレになる。以下はネタバ
レです。
この物語の上手さは、時間移動しているのが手紙だけという
ことだ。よく似た話では、同じ2000年に“Frequency”(オ
ーロラの彼方)という作品がアメリカでも作られているが、
アメリカ作品では、かなりの重大問題が最初に掲げられるの
に対し、本作ではそれが隠され、男女の問題に集約されてい
るのも、上手さと言えるかも知れない。
それに2年という時間差も、微妙な味わいと言えそうだ。本
作では、主人公の2人は均等に描かれるが、通常の時間もの
では未来にいる方が主導権を持つものだ。しかし本作では、
過去にいる方が有利というか、主導権を持つところも、他の
作品にないアイデアでもある。
ただし、SFファンにとって時間ものの注目点は、やはりタ
イム・パラドックスの処理になるが、それが上手くできてい
るかというと、正直に言ってかなり難しい。特に結末はこれ
では成立しないし、本当はもっとえげつないことをしなけれ
ばいけないのだが、そこはラヴロマンスが主体の作品だから
仕方がないと言うところだろう。
実は、韓国版のオリジナルは事前には見なかった。チャンス
はあったのだが、ハリウッド版を真っ新で見たかったので、
敢えて見ないようにしたものだ。従って物語は主人公たちと
同じ立場で見たが、この結末はSFファンならもっと早くに
気が付くはずのものだ。
映画の中で、主人公はジェーン・オースティンやドストエフ
スキーを愛読していたようだが、もう少しSFも読んでいれ
ば良かったのに、と言いたくなるのは、SFファンの特権と
言えそうだ。

因に、韓国版の“Il Mare”というのはイタリア語で「海」
の意味だが、アメリカ版は湖畔の家の話で原題も“The Lake
House”となっている。しかし、上記の邦題がちゃんと成立
するのは、アメリカ版製作者の配慮という感じもした。

『ディア・ピョンヤン』
朝鮮総聯の創設以来の幹部という父親と、その娘の確執を描
いたドキュメンタリー作品。
作品の全体は、父親を主体にした家族の記録だが、そこにピ
ョンヤンを訪問したり、離散した家族との再会など、普通の
家族とは違うものが描き出される。
また、監督である娘は父親の政治思想に批判的だが、それで
も相互に理解しようとする気持ちは、日本人の家族ではなか
なか考えられない。それは重くもあるが、互いの真剣さが爽
やかでもあった。
恐らくそれは、親に対する尊敬の念のようなもので裏打ちさ
れているというところもありそうだ。被写体の父親は、普段
は実に快活であり、面白い親父であるが、一旦政治を口にす
るとガラリと態度が変わる。
と言っても、娘に対する態度は穏やかではあるのだが、最終
ポイントは絶対に譲らない。そんな父親の真剣さが娘にも伝
わっているのだろう。そしてそれが、時にユーモラスにも描
かれている。父親のキャラクターのお陰もあるが、その辺は
良くできた作品だ。
南北朝鮮問題というのは、国際的な側面はいろいろ報道もさ
れるが、日本国内の在日の人たちの話というのは、日本人の
僕達には伺い知れないものだったし、今まで気にもしていな
かったというのが本音だった。
しかし、つい先日もAVの製作に絡めた在日の俳優のドキュ
メンタリーを見たし、そういったことで徐々に認識を新たに
して、少しは考えるようになってきたところだ。
それにしても、在日の人にとっての南北問題の複雑さは、こ
の作品を見ると予想以上に考えさせられた。特に、本作では
朝鮮総聯の幹部という父親の立場が、話を一層複雑にしてい
るが、それがまた、最近の国際情勢の中で微妙に変化してい
る点も写し出されている。
なお実際は、北朝鮮で撮られた映像は北朝鮮政府の検閲済み
のものであるようだし、韓国での上映も考慮して表現も注意
していると、プロダクションノートには記載されている。そ
の辺で監督には多少不満が残っているようだが、作品は父親
と娘の関係を通して穏やかに語られることで、いろいろな問
題が理解しやすくなっているようにも感じられた。

『パイレーツ・オブ・カリビアン
              /デッドマンズ・チェスト』
    “Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest”
ディズニーランドのアトラクションに基づいて2003年に製作
・公開され、大ヒットを記録した海賊映画の続編。
イギリスが海洋支配を進める時代を背景に、前作ではアズテ
カの金貨の呪いによって死ぬことのできなくなった海賊たち
との戦いが描かれたが、今回は、海底に引き摺り込まれて半
分海洋生物と化した異形の海賊たちとの戦いが描かれる。
物語は、前作でスパロー船長の逃亡を助けたエリザベスとタ
ーナーに逃亡幇助の嫌疑が掛けられるところから始まる。
ところが、そこに東インド貿易会社の権力者と名乗る男が現
われ、彼は船長からコンパスを奪ってくればエリザベス共々
無罪放免にすると申し出る。その言葉を信じたターナーは、
エリザベスを牢獄に残し、単身スパロー船長の後を追うが…
一方、スパロー船長は海賊稼業を続けているが、その意気は
上がらない。それはとある男との約束の期限が迫っていたた
めだった。そして、ついにその男からの使者が現れ、絶体絶
命の最後通牒が突きつけられる。そこで船長は、我身を救う
ため一計を案じるが…
上映時間は2時間30分。前作は2時間23分だったから7分ほ
ど長くなっているが、前作と同様、時間はあっという間に過
ぎてしまった。実際、エンディングのクレジットが上がって
きたときには、もうそんなに時間が経ってしまったのかと驚
いたくらいだ。
何しろ映画はアクションに継ぐアクションの連続で、しかも
その連携が実に上手い。ちょうどそれはディズニーランドの
アトラクションを見ているのと同じ感覚で、その意味では見
事にアトラクションの映画化になっているものだ。
その上、映画には、アトラクションの一部のようなシーンも
次々に登場し、中には本当に「カリブの海賊」の中で再現し
て欲しいと思ってしまうものもあった。因に、アナハイムの
アトラクションにはスパロー船長が登場したそうだが、まだ
この作品の再現ではない。
なお、映画はこの後、第3作へと続く。その日本公開は来年
5月26日に決定している。
映画の興行において続編というのは、昔は正編の8割行けば
良い方と言われたものだ。最近はそういうこともなくなった
が、本作の場合は、さらに続きの公開が1年後で、いわゆる
バック−トゥ−バックというのが興行的には唯一の弱点と言
えないことはない。
端から見ると、そんなことは杞憂のようにも思えるが、しか
し、この映画の製作者はそこにも周到に手を打っているよう
に思える。
実際この作品では、先にも書いたようにアトラクションを見
事に再現している。つまりこの作品は、スクリーンで上映さ
れる新しいアトラクションの雰囲気なのだ。そして、新しい
アトラクションにはリピーターが付き物ということだ。
この作品の狙い目は、これをアトラクションと見る観客だと
言える。そのアトラクションでは観客は傍観者となるものだ
が、それを後押しするかのように、映画の中でも他の俳優の
アクションを傍観しているというシチュエーションが随所に
作られているものだ。
そんなアクションを傍観する2時間30分の超豪華なアトラク
ションと言える作品。従って今回は、人間ドラマは極めて希
薄だが、第3作は逆に人間ドラマが中心に描かれるという噂
もあるようだ。そこまで周到に計画された作品ということな
のだろう。
なお、前作同様、今回もクレジットの後に追加映像があるの
で最後まで見逃せない。

『マスター・オブ・サンダー』
倉田保昭と千葉真一。日本を代表して海外でも活躍してきた
アクション俳優2人が映画では初共演した作品。といっても
実際には、倉田が製作統括を務める作品に千葉が客演した形
のものだ。それに2人は主役ではなく、主人公は7人の若手
が務めている。
ということで、若手俳優によるアクション作品なのだが、そ
の若手というのが、日曜朝の「戦隊」シリーズや「仮面ライ
ダー」などからそれぞれ主役級やヒロインを演じた顔ぶれを
揃えており、その手の番組のファンの観客動員が狙いという
感じの作品だ。
従って、アクションや演技もそのレヴェルだし、物語もその
域を出るものではない。でもまあ、狙っている観客層もそれ
を期待しているのだろうし、これはこれで良いというところ
だろう。僕も別段それが嫌いという訳ではない。
ということで需要と供給のバランスは取れているのだが、で
も折角の千葉、倉田が揃ってこのアクションでは、やはり物
足りなさは否めない。映画には2人の直接対決も用意されて
いて、それはそれで良いのだが、他の連中がそれにほとんど
絡めないのは残念だ。
多分レヴェルが違い過ぎて、編集でもそれがカバーできなか
ったというところかも知れないが、やはりそれなりのもっと
がっちりした絡みのシーンが欲しかった。お陰で2人の対決
シーンは、見事に映画の流れから浮いてしまっている感じも
するものだ。
それに、ワンカットで撮られた巻頭の1:150人の対決シーン
も、よく撮ったとは思えるが、これも物語の中にちゃんと納
まっていないと、唯の自己満足にしか見えない。このシーン
をクライマックスか、その前ぐらいに持ってくる構成が欲し
かった感じだ。
「戦隊」シリーズや「仮面ライダー」などの俳優とそのファ
ン層があって、それを狙って映画を作る需要があるのなら、
もう少しそれなりのアクションを見せる工夫が欲しい。もち
ろん俳優たちのアクションのレヴェルが上がれば問題はない
が、そうでなくてももっとやれることはあるはずだ。
本作でもいろいろ細かい細工はしているようだし、それぞれ
は頑張っているようだが、それが物語の全体に活きてこない
のが残念なところだ。
確かに格闘技系のアクションには演技者の力量は必要だが、
『チャーリーズ・エンジェル』や『バイオハザード』の彼女
達にそんな力量があったとは思えない。それは見せ方の工夫
によるところが大きいはずだ。次にはそんなアクションを期
待したいものだ。

『天軍』(韓国映画)
2000年6月に行われた金大中訪朝の際の秘密協定に基づき、
南北朝鮮が国際社会に隠して行っていた共同研究を背景に、
南北3人ずつの兵士と密かに作られた核弾頭、それに研究員
の女性物理学者が、433年前の李王朝時代にタイムスリップ
してしまう物語。
そこでは、王朝から見放された辺境の村人たちが、略奪と殺
戮を繰り返す蛮族の脅威に晒されていた。そしてタイムスリ
ップした兵士たちが目にしたのは、後に豊臣秀吉の朝鮮侵略
を阻止する朝鮮半島で最も有名な英雄・李舜臣の若き日の姿
だったが…
近代兵器を持った兵士たちが過去の戦乱の時代にタイムスリ
ップすると言えば、日本では半村良原作の『戦国自衛隊』が
昨年公開されたばかりだが、本作は2000年頃から企画が進め
られてきたということだ。
もちろん、『戦国…』には1979年の映画化もあるから、そこ
からインスパイアされた可能性も否定はできないが、この作
品では南北朝鮮の問題を踏まえ、さらに李舜臣という人物を
配することで、見事にオリジナルな物語を作り上げている。
それどころかこの作品には、半村原作の真髄とも言える歴史
的事実との関りが、ちゃんと描かれているものだ。
前にも書いたと思うが、半村の『戦国…』の原作では、最後
に主人公が自分たちのタイムスリップをした理由に気付くと
いう見事にSFマインドを発揮するエピソードがある。しか
し過去2度の日本での映画化では、その点が完璧に無視され
ていた。
ところがこの作品は、ある意味でそれを描いているとも言え
るものなのだ。映画はその他のいろいろな要素も複合してい
るので、その点が明確に描かれているものではないが、少な
くとも日本での映画化よりは正しくSFマインドを持った作
品と言えるのだ。
しかもそれが、重大な歴史的事実につながっているという感
覚は、見事に半村の描いた物語に通底するものだ。もちろん
それは剽窃などと言うものではなく、逆にSFが判っていれ
ばこうなるはずのものなのだが、日本映画では何故かそうは
ならなかった。
韓国版『戦国…』などと呼ぶことが失礼であることは重々承
知の上で、僕は敢えてこの作品を『戦国…』の正統な後継者
と呼びたい。ジャンル名などとほざく輩の作品よりずっとま
ともな作品だし、間違いなくSF映画と呼べる作品だ。

『スーパーマン・リターンズ』“Superman Returns”
1978年と81年に、故クリストファー・リーヴの主演で製作公
開された『スーパーマン』の復活編。なお、前のシリーズで
は1983年と87年にも作品が作られているが、今回の復活では
その2作は完全に無視されている。
物語は、『スーパーマン2』でクリプトン星の3悪人との戦
いに勝利したスーパーマンが、その後の5年間、故郷を訪ね
る宇宙の旅に出たという設定で始まる。そして再び隕石と共
にカンザスのケント農場に飛来するのだが…
その頃、宿敵レックス・ルーサーは、仮釈放の審査法廷に検
察側証人のスーパーマンが出席しなかっために仮釈放を認め
られ、老未亡人(往年のテレビシリーズでロイス・レーンを
演じたノエル・ニールが扮している)に取り入ってその資産
をせしめようとしていた。そしてスーパーマンの秘密基地を
訪れたルーサーは…
一方、デイリー・プラネット社に復帰したクラーク・ケント
は、そこでロイス・レーンがホワイト編集長の甥と婚約し、
彼女には5歳の息子がいることを知る。そして、再び現れた
スーパーマンにロイスは、もはや世界は英雄を必要としてい
ないと告げる。
この物語に、スペースシャトルの発射や、ジャンボジェット
の墜落に始まる世界中に拡がる危機を迎えて、スーパーマン
の獅子奮迅の活躍が描かれる。
スーパーマンの5年間の不在期間というのが、ちょうど前の
シリーズの後半2作の製作期間に重なる寸法だ。今回の復活
編は、そこまでして物語を原点に戻し、もう一度レックス・
ルーサーとの対決を描き直そうとしている。
そしてそのルーサー役は、オスカーを2度受賞のケヴィン・
スペイシーが演じ、コミカルな仕種の中にも心底から冷酷な
悪人像を存分に描き出している。
一方、スーパーマン役には、新人のブランドン・ラウスが扮
している。彼は以前にテレビ出演はあるようだが、映画では
真っ新の新人ということだ。
身長190cm、体重100kgの体型が起用の理由ということだが、
元々はテレビシリーズ化の時のオーディションの応募テープ
が残っていて、そこから見出されたさというのは良くできた
話だ。なお、本人がアメリカ中西部の出身だということも決
め手になったようだ。
この他、ロイス・レーン役には、スペイシー監督主演の『ビ
ヨンドtheシー』で共演したケイト・ボスワース、ホワイト
編集長役にはフランク・ランジェラ、その甥のリチャード役
に『X−メン』でサイクロプスのジェイムズ・マーズデン。
また、スーパーマンの父ジョー・エルの映像と音声は、第1
作の撮影時に収録された故マーロン・ブランドのものが使用
されている。さらに養母のマーサ・ケント役には、ブランド
のと共演もあるエヴァ・マリー・セイントが扮している。
さらに巻頭のテーマ音楽には、第1作のときのジョン・ウィ
リアムス作曲のものがそのまま使用され、それ続くタイトル
は…。ここまで第1作にオマージュを捧げるというのも大変
なことだと思うが、後はこの監督の思いが観客にどこまで伝
わるかというところだ。
その監督は、『X−メン3』を蹴ってこの作品に参加したブ
ライアン・シンガー。製作は、旧『バットマン』を手掛けた
ジョン・ピータース。また製作総指揮は、元ソニー・ピクチ
ャーズの製作部代表で、『スパイダーマン』の立上げも行っ
たクリス・リーが担当している。
アメリカでは独立記念日を含む公開5日間で1億ドル突破の
興行を達成したようだが、日本は一息置いて8月19日の公開
となる。さらに本作は、アイマックスでの上映も予定され、
それには20分間の3D化された映像も含まれるようだ。それ
にも期待したい。
因に、本作の撮影には、ソニーとパナビジョン社が共同開発
した最新型のディジタルカメラが全面使用されたそうだ。


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井口健二