井口健二のOn the Production
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2006年04月30日(日) ドラゴン・プロジェクト、ポセイドン、君に捧げる初恋、13歳の夏に僕は生まれた、ロシアン・ドールズ、ジャスミンの花開く、デストランス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ドラゴン・プロジェクト』“精武家庭”
『ジェネックス・コップ』などのスティーヴン・フォンが監
督主演したカンフーアクション作品。製作総指揮ジャッキー
・チェン、武術指導ユエン・ウーピン。
主人公の父親は男やもめの平凡な整骨医、本人は元特務機関
員を自称して色々な手柄話を周囲に聞かせるが、誰もそれを
信じてはいない。しかし父親は、主人公とその妹には幼い頃
から武術の手解きを繰り返していた。
そんなある日、父親の整骨院が襲われ、父親が連れ去られて
しまう。そして兄妹の許にも暴漢が現れ…
元スパイの親が連れ去られ、その子供が活躍するというお話
は、『スパイキッズ』などにもあったが、それを香港映画で
やると、こんな風になりますという見本のような作品だ。
物語は他愛ないし、基本的にはアクションを見せるための作
品だが、次々繰り出される見事なアクションには、本当に溜
め息を吐きたくなる。日本映画でも同じようなアクション作
品は見せられるが、その違いがどこにあるのだろうと思って
しまうところだ。
それは多分、長年培われた本物の歴史の厚みにも拠るのだろ
うが、その見せ方のうまさというか、何より演者の身体の動
かし方の一つ一つが違うという感じだ。
フォン以外の出演は、『頭文字D』のアンソニー・ウォン、
アイドルユニットTwinsのジリアン・チョンとシャーリーン
・チョイ、『香港国際警察』のダニエル・ウー、そして大ベ
テランのウー・マ。全員ちゃんと身体が動いている。
特に、妹役のジリアンが演じる見事なアクションは気分をす
かっとさせてくれるものだ。元はティーンモデル出身という
ことだが、カンフーの基礎は身に付けているということなの
だろうか。ワイアーも使用されてはいるが、華麗な身のこな
しは見事だった。
CGIやVFXを使ったアクションも違和感なく織り込まれ
ているし、それでいて肝心のところでは間違いなく生身の闘
いが繰り広げられる。そのバランスも良い感じだった。

『ポセイドン』(特別映像)
1972年公開で、パニック映画の先駆けとも呼ばれたポール・
ギャリコ原作『ポセイドン・アドベンチャー』を、1981年の
『Uボート』、2000年の『パーフェクト・ストーム』などで
海洋ものには定評のあるウォルフガング・ペーターゼン監督
がリメイク。
作品は5月12日全米公開で、現在は製作の最終段階にあると
いうことだが、ペーターゼン監督が緊急来日しての記者会見
と、特別映像の上映が行われた。
記者会見で監督は、「『Uボート』も『パーフェクト・スト
ーム』も登場人物は、兵士であったり漁師であったり、ある
意味覚悟を決めたプロたちの行動を描いた。しかし最近は、
津波やカテリーナ、9/11など一般人が災害に巻き込まれ
る出来事が多く発生し、そういうときの普通の人々の行動を
描くべきだと考えた」と製作意図を語っていた。
製作時期から言うと、カテリーナに関しては後追いになって
しまうが、確かに9/11以降の、我々自身がいつ何時災害
に巻き込まれるかも知れないという時代の中で、今この物語
をリメイクすることには意義があるのかも知れない。
で、上映された特別映像は、ワーナーのロゴに始まる巻頭の
19分30秒(映画館で上映時の1巻目のフィルムに相当)がそ
のまま流されたものだ。
その本編の最初では、海中から写された航行するポセイドン
号の船底の映像から、カメラが海上に出て、途中で登場人物
の一人が甲板をジョギングする姿を織り込みながら、船の廻
りをぐるり1周して、彼が夕日を眺めるまでの約2分半が一
気に映し出される。
このシーン、実は本物の船を借りて撮影した方が安上がりな
のだが、その後で転覆する船の撮影にはどこも貸してくれる
ところが無かったのだそうで、登場する俳優ジョッシュ・ル
ーカスの姿を除く全てをCGIで作り上げたもの。このシー
ンの仕上げには、ILMのコンピューターを18昼夜連続で稼
動して処理が行われたということだ。
実はカメラが海上に出た途端の夕日に映える船影が奇麗すぎ
て、多少リアルさを減じている感じもしたが、そこから船の
周囲を廻るシーンには思わずニヤリとさせられ、この後に続
くはずの物語のリアルさに対してちょっと夢見心地の感じも
心地よかったものだ。
1997年の『タイタニック』の中でも、船上をカメラがなめる
CGIのシーンはあったが、その規模、リアルさでは、技術
はここまで来ているのだということが感じられもした。
そして物語は、登場人物たちの紹介のドラマを挟んで、ボウ
ルルームでのカウントダウンパーティ。それと同時に進む巨
大波の来襲と、船の転覆へと進んで行く。
実は、船の転覆までがちょうど19分30秒で、最初の1巻でそ
こまで見ることができた。来襲する巨大波の映像は、『パー
フェクト・ストーム』でも充分に迫力を感じたが、今回はそ
れを数倍する規模のもので、記者会見場に置かれたスクリー
ンよりもっと大画面で見たいと思わされたものだ。
特に、甲板のプールの水と、船体を乗り越えてくる波の対比
などが見事に描かれていた。またそれによって巻き起こる船
内の描写も、1972年の映画化ではここまで克明には描けなか
ったアクションが存分に映像化され、その迫力は充分に味わ
えた感じがした。
というところで、実はこの作品の本当の物語は、この後に繰
り広げられるサヴァイバルが重要なのであって、ここまでは
前哨戦。考えてみたら2本立ての1本目が終ったところとも
言えるものだが、ここから始まる2本目が早く見たいという
期待感が否応無く高まる感じがした。

『君に捧げる初恋』“初恋死守決起大会”(韓国映画)
IQは高いが問題児の若者が繰り広げる恋人獲得大作戦。
主人公は釜山の高校生。彼には幼馴染みで思いを寄せている
初恋の女性がいた。彼女の母親は彼女の出産時に亡くなり、
彼の母親の乳を分け合った言わば乳兄弟なのだが、高校教師
の娘でもある彼女は、学業成績が全国で3000番以内の才媛。
一方の彼の順位は30万台でとても太刀打ちできる順位ではな
い。しかし彼は、実はIQ=148の頭脳の持ち主で、それを
知る彼女の父親は、遂に司法試験の1次に合格したら結婚を
認めると宣言する。そこから彼の猛勉強が始まるのだが…
映画の前半は、何しろベタなギャクのオンパレードで、正直
に言って、最後までこのままだったらどうしようと思ったく
らいだ。しかし、その予想を完璧に覆してくれるのが映画の
面白さで、これが最後は落涙の感動作になるのだから見事な
ものだ。
しかもそれが、わざとらしいお涙頂戴でではなく、人が人と
してお互いが気遣い合っての展開が無理無く作られている。
その脚本の巧みさにも感心した。
そこには、韓国的な倫理観など、日本とは違うところもいろ
いろあるが。それがまた、現代日本が失った物を見せてくれ
るようでもあって、良さを感じるところでもあった。
今さら日本映画でそれを見せられても困ってしまうところだ
が、韓国映画だから許される?そんな部分もあるようにも感
じた。これが、韓国映画ブームの根底にあるのかも知れない
とも思ったものだ。
出だしとはかなりギャップのある後半の展開だが、そこに至
る微妙な変化も、思い返すとそれなりに丁寧に描かれていた
ように思われる。それに、最後の希望を感じさせる終り方も
良い感じだった。

主演は、『猟奇的な彼女』のチャ・テヒョンと、『私の頭の
中の消しゴム』のソン・イェジン。脚本・監督は韓国テレビ
出身でこれが映画デビュー作のオ・ジョンノク、「マニュア
ルやテクニックではない恋愛を描く」というのが本作のコン
セプトだそうだ。

『13歳の夏に僕は生まれた』
    “Quando sei nato non puoi più nasconderti”
昨年6月に『輝ける青春』を紹介しているマルコ・トゥルオ
・ジョルダーナ監督による最新作。
監督は、前作では6時間を超える上映時間で、1960年以降の
イタリア現代史を見せてくれたが、本作では13歳の少年の目
を通して現代イタリアが抱える社会問題の一つ、不法移民の
問題が提示される。
主人公の少年は、工場を営む両親の下で何不自由なく育ち、
短期のイギリス留学も経験するなど恵まれた環境に暮らして
いた。
しかし、13歳の夏の日、父親と共に父親の友人のヨットで出
発した船旅で夜の海に転落。そして力尽きようとしたとき、
通りかかった不法移民を載せた密航船に救助される。
その密航船には、アフリカから旧東欧、中近東からインドま
でさまざまな国籍の人々が足の踏み場もないほどに載せられ
ており、彼らはやたらと止まるおんぼろエンジンを頼りにイ
タリアを目指していた。
イタリア人の子供と判ると身代金の人質になる恐れもあるそ
の環境で、少年は機転を利かしたルーマニア人の兄妹に助け
られる。こうして何とかイタリアにたどり着いた少年だった
が、その船での経験は少年に今までとは違った社会への目を
開かせる。
イタリアでは、未成年の不法入国者は保護するが、18歳以上
は強制送還という法律があるようで、その狭間を巡ってドラ
マが展開する。その一つ一つの出来事が、少年に新たな社会
の仕組みを見せつける。
不法入国者は日本でも問題になっているが、暴力団などが絡
む日本と違って、イタリアではもっと普通に行われているこ
とのようだ。その事実は大人にとっては周知のことなのだろ
うが、子供の目には隠されているものなのかも知れない。
そんな大人が見て見ぬ振りをしている事実に、13歳の少年の
目を通すというやり方で改めて問題提起をしようとしている
作品のようにも感じられた。しかも、決してきれいごとだけ
でない部分も描いているところも、監督の真摯な気持ちの現
れと言えそうだ。
根の深い問題に見て見ぬ振りをしているのはどこの国も同じ
だが、それに少しでも陽を当てようとする動きも共通と採れ
る。もちろん法律などは違うが、考えなければいけないこと
は同じのようにも思われた。

『ロシアン・ドールズ』“Les Poupées russes”
2001年に公開された『スパニッシュ・アパートメント』の主
人公のその後を追った続編。と言っても、実は僕は前作を見
逃しているので、前作との繋がりはよく判らないのだが…
主人公は作家を夢見ながらも、食べるためにテレビのメロド
ラマの脚本なども執筆しているという状況。そんな中で昔の
仲間の一人がロシア人と結婚することになり、その結婚式に
招かれた彼は、この5年間の自分を振り返る。
この5年間で彼は、脚本や自叙伝の代筆などで実績を残し、
作家への足掛かりは掴んでいる。しかし恋愛の面では、5年
前の恋人とは別れても連絡は持ち続け、一方、仕事上で付き
合った女性や、行き摩りの女性とも関係を持つ。
本人は理想の女性を探しているつもりなのだが、30歳を迎え
た今、そんな生活を何時までも続けて良いものかどうか疑問
に感じ始めている部分もある。そんな人生の岐路を迎えた主
人公を、ユーモアたっぷりに描いた作品。
セドリック・クラピッシュ監督の作品では、その前の『猫が
行方不明』という作品が自分の中で消化し切れなかったとこ
ろがあり、納得できていなかった。本作も実は同じで、正直
に言って主人公の我儘さには退いてしまう感じもする。
でもまあ、最近の若者を見ていると、こんなものかなあと言
うのも判るような気がしてきたし、特に本作では、それでは
いけないという自覚も芽生えてくる部分もあって、それなり
に納得して見ることができた感じだ。
因に本作には、主人公のロマン・ディリス(真夜中のピアニ
スト)以下、オドレイ・トトゥ、セシル・ド・フランス(8
0デイズ)、ケリー・ライリー(リバティーン)ら、前作の
後ブレイクした配役がそのまま再出演している。
また、パリ、ロンドン、サンクトペテルブルグの3都市にロ
ケーションされた風景も美しく。さらに、パリ、ロンドン間
をユーロスターで往復しながら仕事をこなしている主人公行
動など、現代ヨーロッパ社会をよく描いた作品にも思えた。

『ジャスミンの花開く』“茉莉花開”
本作は2004年の東京国際映画祭で上映され、同年11月にも紹
介しているが、日本公開が決まって改めて試写が行われた。
まず、当時の紹介文を再録しておくと、
チャン・ツィイーが、ジャスミンの中国名に準えて茉、莉、
花と名付けられた三代の母子を演じ分け、ジョアン・チェン
が、それぞれの母親または祖母(ツィイーの成長した姿)を
順番に演じて、第2次世界大戦前から現代にいたる中国を描
いたエピックドラマ。
戦前の映画スターを夢見る少女や、戦後を力強く生き抜く女
性などを、ツィイーが可憐にまた骨太に演じ分ける。特に、
映画の巻頭での夢見る少女の姿は、『初恋のきた道』の頃を
思い出させてファンには堪らないところだ。
その発端で、ツィイーは女手一つで切り盛りしている写真館
の一人娘。ある日映画のプロデューサーに誘われてスタジオ
を訪れ、スクリーンテストを受けて女優になるのだが…。こ
のスクリーンテストでの余りにも下手糞な演技も見ものだっ
た。
また、映画では主人公の暮らす写真館の名前が時代ごとに変
って行くのも、面白く時代の変化を表わしており、その辺の
端々にも良く気の使われた作品という感じがした。
監督は、チャン・イーモウ作品の撮影監督などを務めたホウ
・ヨンのデビュー作。カメラもしっかりしているし、それ以
上に戦前戦後の中国の風物が見事に再現されている。
物語も、ほぼ同じ話が3回繰り返されるにも関わらず、それ
ぞれの時代背景や社会情勢でまったく違う展開になる。その
辺の面白さも見事な作品だった。
以上が当時の紹介文だが、見直しても印象はあまり変わらな
かった。映画祭では1日何本も見るので、印象は散漫になり
がちだが、やはりしっかりした作品は印象もはっきりしてい
るというところだろう。
なお、主人公が暮らす写真館の名前は、途中の文化大革命の
時代は「紅旗写真館」というものでこれはなるほどと思わせ
たが、他の時代の名前の由来はよく判らなかった。
また今回見直していて、特に第二章での労働者階級と、主人
公の実家での生活振りの違いが丁寧によく描かれていること
も理解できた。この他、髪型や衣裳なども、時代背景に合わ
せてかなり丁寧に描かれているようだ。
何故か中国本土でも、製作から3年経ってこの春ようやく公
開されたようだが、その間に古びてしまうような作品ではな
いし、運命に弄ばれはするが、常に前向きに進んで行くヒロ
インの姿は今の時代にも共感を呼ぶものだ。

『デス・トランス』
2000年の『VERSUS』、昨年の『SHINOBI』など
のアクション監督・下村勇二の初監督作品。出演は、『VE
RSUS』の坂口拓、『ウォーターズ』の須賀貴匡、他に剣
太郎セガール、竹内ゆう紀、藤田陽子。
とある寺で数百年に亙って厳重に守られてきた棺が、一人の
男に強奪される。男はその棺を西の森へと引き摺って行く。
そこでその棺を開くと全ての望みが叶えられるという噂が流
れていたのだ。その道中ではいろいろな連中が男を襲うが、
男は滅法強い。
しかし寺の僧正は、その棺には世界を破滅させる災厄が封じ
込められているのだと言う。そこで寺では、棺の奪還のため
一人の修行僧を送り出す。彼には抜く者を選ぶという剣が託
され、その剣を抜く者を見付け出して、棺を取り戻させよう
というのだが…
元々アクションだけが売りの作品で、物語はどうでもいいと
いうか、まあアクションの繋ぎでしかない。多分、作者はそ
れで割り切っているのだろうが、観客の立場で見ると、何と
言うかアクションの羅列に滅り張りが利かず、見終って物足
りなさが残った。
アクションそれ自体も、一所懸命にやっていることは画面か
らも判るのだが、結局のところそれを繋ぐドラマが弱いと、
ただ殴り合っているだけにしか見えて来ない。VFXなども
そこそこ使ってはいるが、あまり有効という感じはしなかっ
た。
確かにアクションには、トリッキーな振り付けや、面白い動
きなどもあるのだが、それが印象として残らない。それは、
『VERSUS』の時にも同じような印象だった記憶のある
もので、やはり何か一味足りないような感じがしてならない
のだ。
ただし本作は、海外のファンタスティック映画祭などに招待
もされているようだから、それで良いのかも知れないが、や
はりもう一歩高みを狙ってもらいたい感じもする。上映時間
89分の作品だが、これを100分前後にする程度の何かがあれ
ば良いようにも感じたが…


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井口健二