井口健二のOn the Production
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2006年04月14日(金) タイドランド、ゴーヤーちゃんぷるー、初恋、アローン・イン・ザ・ダーク、迷い婚、恋は足手まとい、ゆれる、春の日のクマは好きですか?

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ローズ・イン・タイドランド』“Tideland”
ミッチ・カリンという作家の原作を、テリー・ギリアムが脚
色、監督した2005年作品。
映画化の経緯は、以前からギリアムの大ファンというカリン
が、この原作を書き上げたときにギリアムに推薦文を頼もう
と本を送ったところ、ギリアムが気に入ったのだそうだ。だ
から最初からギリアム向けに書かれたお話と言うこともでき
そうだが、確かにギリアムワールドそのものといった感じの
不思議な雰囲気の物語だ。
主人公は、『不思議の国のアリス』が大好きな少女。両親共
に麻薬中毒という家庭に育った彼女は、「短い休暇に行く」
と称する父親の麻薬の世話に追われ、バービー人形の頭部を
もいだ指人形の他には話し相手もいない孤独な日々を送って
いた。
ところがある日、母親が麻薬のショックで死亡、慌てた父親
は彼女を連れて金色の草原の中に建つ一軒家の実家へ帰る。
しかしそこは住む人もいない廃屋。しかも帰り着くや否や、
父親は「短い休暇」に行ったまま動かなくなってしまう。
こうして廃屋に一人残された少女は、屋根裏に住む栗鼠や、
色々と怪しげな行動の見て取れるお隣さんの姉弟らと共に、
何故かタイドランド(干潟)と呼ばれる不思議の国を彷徨う
ことになるが…
正直に言ってかなりグロテスクな作品で、奇妙と言うより異
常な世界が展開する。今までのギリアム作品の中でも、ある
種の過激さでは群を抜いていると言えそうだ。
実際にこの作品を見ると、ハリウッドや大手資本で撮られた
作品では、ギリアムが如何に自分を殺していたかが判る感じ
もする。因に本作は、大手に縛られないイギリス+カナダ資
本で製作され、ギリアム本人が「自分自身の映画への情熱を
再燃させたかった」と語っているくらいのものだ。
とは言うものの、本作の物語は実に巧みに作られていて、独
り善がりや辻褄の合わないようなところもなく、納得して見
終えられた。そして、主人公が最後まで希望を失わない展開
には見事に填められた感じもした。
ギリアムが、全く一筋縄では行かない監督ということを再確
認できる作品とも言えそうだ。
主演は、撮影中に10歳の誕生日を迎えたというジョデル・フ
ェルランド。今までは主にカナダのテレビに出ていたようだ
が、この異常な物語の中で実に生き生きとした演技を見せて
くれる。また、父親役を、ギリアム作品は『フィッシャー・
キング』以来となるジェフ・ブリッジス。母親役を、『チャ
ッキーの花嫁』などのジェニファー・ティリー。隣家の姉弟
役をジャネット・マクティアとブレンダン・フレッチャーな
ど、受賞やノミネート歴の並ぶ俳優が揃っている。
観客を選ぶ作品かも知れないが、ギリアムの真価は存分に発
揮されていると思える。それにフェルランドの演技が素晴ら
しくて、僕には最高に面白く見られた作品だった。

『ゴーヤーちゃんぷるー』
くもん出版刊行の『まぶらいの島』という原作の映画化。学
校でいじめに遭い不登校となった少女が、メールを切っ掛け
に沖縄の島に渡り、人生について考える物語。
元々くもん出版の本だし、映画の企画・製作協力が森田健作
事務所ということで、相当に臭い作品を覚悟したが、予想外
に爽やかな作品に仕上がっていた。
主人公は、幼い頃に母親が家を出て祖父母に育てられたが、
最近海洋写真家の父親が事故で亡くなり、自分の道を見失っ
ている。しかも学校ではいじめに遭い、クラス全員から無視
されているが、一緒に暮らす元校長の祖父はしっかりしろと
言うだけで、親身にはなってくれない。
こうして、引き篭りになった彼女の外部とのつながりは電子
メールだけだったが、ある日、彼女はメル友が西表島にいる
ことを知る。そこは、家を出た母親が住んでいる島だった。
そして西表島に到着した彼女を、沖縄の気候と風土は何も聞
かず暖かく迎え入れてくれる。
さらに島では、ホスピスに暮らす末期患者や転地療養の子供
たちの生活に触れる内、彼女は自分自身を見つめ直して行く
ことになる。
主演は多部未華子。昨年『HINOKIO』で注目したが、
その演技では各賞の新人賞なども獲得したようだ。そして今
回も見事に存在感のある演技を見せてくれている。共演は、
風吹ジュン、武田航平、美木良介、下条アトム。
以前にも書いたことがあると思うが、人間が全力で走ってい
る姿というのは、演出不要の映像だと思う。この映画では多
部が走るシーンが2度ほどあり、それを見せられると、他が
多少臭くても、それだけで雰囲気が出来てしまうものだ。
まあ、そんなテクニックに僕が填められているのかも知れな
いが、僕自身は見ていて悪い感じもしなかったし、爽やかな
気分で見終えることが出来た作品だった。

『初恋』
1968年に起きた「府中三億円強奪事件」が、実は18歳の少女
の犯行だったとする2002年に発表された小説の映画化。その
主人公を、原作に惚れ込み、10代最後の作品として主演を切
望したという『NANA』の宮崎あおいが演じる。
主人公のみすずは、父親が死に、母親が兄だけを連れて家を
出て行った後、叔父夫妻に引き取られて成長した。しかし居
心地の良い家ではない。そして16歳の時、訪ねてきた兄に渡
されたブックマッチを頼りに新宿に行き、ジャズ喫茶に集う
仲間達と出会う。
時は1967年。70年安保で日本中が揺れ動く時代を背景に、彼
女と三億円事件との関わりが描かれる。
巻頭、新宿の大ガードを通過するタンク列車が写し出され、
米軍の航空機燃料を運んでいたタンク列車が新宿駅構内で爆
発炎上したことを思い出す。主人公は1969年に大学に入学す
るから、僕より1歳下という勘定になるが、正に自分の時代
が描かれた作品と言える。
見るまでは、テーマもあざといしタイトルもこんななので、
ちょっと不安に感じていたものだ。しかし作品は、実に丁寧
に当時の雰囲気を再現しているし、1965年生まれの監督がこ
こまで出来たことには驚きを感じたくらいだ。
僕自身は、1969年からSFファンの会合に参加し出したが、
この主人公たちのグループは演劇を志しているようだ。しか
し、やっていることは違うとはいえ、この主人公たちの姿に
は当時の自分が写し出されているような感じも持った。
大学紛争や街頭闘争が繰り広げられている中での、当時の自
分の中で交錯した思いが蘇ってきた感じもした。実際、この
映画では三億円事件が下敷きにされるが、描かれる物語はフ
ィクションとはいえ、当時の自分の思いにも合致する感じが
した。
監督は恋愛映画として撮ったと言い、宣伝もそれでされるは
ずだ。それは別に構わない。実際に監督が当時のことを知っ
ているはずもないことだ。
でも、ここに描かれているのは、1960年代末の学生=若者が
本当に元気だった頃の物語。そんな時代は2度と訪れないか
も知れない時代へのノスタルジー。そんな気持ちが自分の中
に鋭く刻み込まれる感じがした。

『アローン・イン・ザ・ダーク』“Alone in the Dark”
2月に『ブラッドレイン』という作品を紹介しているウーヴ
ェ・ボル製作監督によるPCゲーム原作の映画化。
先史時代にアメリカ大陸に文明を築いたとされる民族の遺物
を巡って、その民族の滅亡の謎を探ろうとする博士が行った
禁断の実験。そして、その民族が封じた謎を追って、ARC
AM(Anti Rabidity-Creature Attack Members)713部
隊の元隊員だった主人公が活躍するアクション映画。
巻頭では、ゲームのマニュアルにでも載っていそうな設定が
延々とテロップで流される。そして物語は22年前、主人公を
含む被験者だった子供たちが、保護されていた教会から行方
不明になるという場面から始まる。
ということで、現代に蘇りつつある民族滅亡の災厄を、71
3部隊が防御しているという設定で、エイリアンもどきの怪
物が登場してそれとの死闘が繰り広げられるのだが…
まず最初に、災厄を復活させようという禁断の実験を行った
博士の意図がよく判らない。しかも、封じられている存在と
の関係も不明で、結局のところ物語の全体が意味不明のもの
になってしまっている。
多分ゲームは、エイリアンもどきを倒し続けるアクションゲ
ームなのだろうから、設定などはどうでもいいのだろうが、
映画はそうは行かない。辻褄の合う物語が必要なのだが…僕
には、その辻褄を合わせる物語が思い浮かばなかった。
出演は、クリスチャン・スレーター、タラ・リード、スティ
ーヴン・ドーフ。そこそこ知られた名前が並ぶし、明らかに
ミスキャストのリードは、ラジー賞の候補にもなったという
ことだ。つまりそれなりに注目作だったもので、それでこの
体たらくは、アメリカでの酷評も判る気がするものだ。
とは言うものの、ボルはゲーム原作映画化の大量生産の体制
を整えているようで、暫くはそれにつきあうことになりそう
だ。まあ、以前に紹介した『ブラッドレイン』はそこそこに
仕上がっていたし、それなりの期待は持ちたい。
本作も、設定のいい加減さを無視(!)すれば、713部隊
の突入のシーンなどはそれなりの迫力で演出されていたし、
アクションだけを見るならそこそこだろう。特に、相手構わ
ず撃ちまくるというゲーム感覚は、映画でも充分に描かれて
いたと思える。
ただし、映画の内容と題名とには違和感があり、ゲームの設
定は多少違うのかも知れないという疑問も湧く。それと、結
末がちゃんと描かれていないのは、何かタブーでもあるのだ
ろうか。

『迷い婚』“Rumor Has It...”
1967年の名作『卒業』をモティーフに、実際の噂(?)を基
に作られた物語。
主人公は、ニューヨークで新聞の死亡記事を執筆している女
性ライター。弁護士の婚約者がいるが、結婚や新家庭に夢を
抱けない。そんな彼女が、もう一つ違和感のあるパサデナの
家族の許に、妹の結婚式のため婚約者と共に帰省する。
その町は、1963年に発表された小説『卒業』の舞台となった
場所。そしてそこには、あの小説にはモデルとなった家族が
あるという根強い噂があった。そんな町に久しぶりに帰って
きた主人公は、既に亡くなった母親が、自身の結婚式の直前
に失踪したことがあるという事実を知る。
ひょっとして自分の家族は、その小説のモデルなのか?
そして家族とは性格の全く違う自分の本当の父親は…?
自らの結婚への自信と、納得できる家庭を築くために、彼女
はその謎を解かなければならなくなる。
主演はジェニファー・アニストン。他にロビンソン夫人かも
知れない祖母にシャーリー・マクレーン、ベンかも知れない
男にケヴィン・コスナー。さらに父親をリチャード・ジェン
キンス、妹をミーナ・スヴァーリ、婚約者をマーク・ラファ
ロ。
映画では、ダスティン・ホフマンとアン・バンクロフトの有
名なシーンも挿入されるし、サイモンとガーファンクルの楽
曲も流される。他にもトリヴィア的な話題も登場するし、オ
リジナルを知っている者にはいろいろと楽しめる作品だ。
特に、意外な「ベン」の実像も笑わせるし、それを巡るマク
レーンとコスナーの対決シーンも良い。また本作は、年齢の
設定上、時代背景を1997年にしているが、それも絶妙という
感じがした。
しかし本作の宣伝では、『卒業』のことは表立ってアピール
されていない。日本の映画ファン相手では、なかなか過去の
名作のことは宣伝に使えないようだ。過去の名作を見られる
機会の少ない日本の現状では仕方のないところでもあるが、
これで『卒業』を判っている年代に見過ごされてしまうのは
残念なことだ。
『卒業』を見た人には、本当に面白い作品だということを声
を大にして言っておきたい。

『恋は足手まとい』“Un fil à la patte”
エマニュエル・ベアール主演の艶笑コメディという言い方が
ピッタリのフランス映画。
舞台は19世紀末のパリ。べアール扮する裕福な歌姫リュセッ
トは、何故か一文無しのプレイボーイのエドワールに恋して
いた。ところがエドワールは金持ちの娘との婚約を決め、そ
の日は婚約式の前に別れ話を伝えに来たのだが、なかなか言
い出せない。
一方、リュセットの家にはギャンブル狂の元夫が子供の養育
費をせびりに来たり、信奉者の新聞記者が自分の書いたル・
フィガロの記事を見せに来たり、自称作家の男が自作の歌を
捧げに来たり、大金持ちの若い男性が花を届けさせたり、千
客万来。
そして、結局、別れ話を出来なかったエドワールはそのまま
婚約式に向かうのだが、その式にリュセットが招かれている
ことを知って…
どたばた喜劇ではないけれど、観客だけが知っているお互い
の秘密を隠し通すためのすったもんだが繰り広げられる。
風刺がある訳でもないし、社会問題を反映している訳でもな
い。作品にどんな意義があるのかと言われると答えはあまり
見つからないが、取り合えず見ている間だけは楽しめる、そ
んな感じの作品だ。上映時間は1時間20分。R−15指定。
19世紀末〜20世紀初頭の作家ジョルジュ・フェドーによる同
名の戯曲の映画化だが、何故か古道具屋で買ったと称する携
帯電話が登場したり、ちょっと奔放な脚色もされている。実
際、男女の関係は、特に女性の立場が原作よりもかなり強め
に描かれているようだ。
監督は、1968年カトリーヌ・ドヌーヴ主演『めざめ』などの
ミシェル・ドヴィル。最近はシリアスな作品の多かった監督
が、久々にコメディに立ち返った作品とされている。
また、べアールは本格的なコメディでの主演は初めてなのだ
そうだが、コケティッシュな彼女の風貌からは、もっとこう
いう作品にも出てもらいたいとも思ったものだ。

『ゆれる』
山間の吊橋で起きた事故(事件)を巡って、信頼し合ってい
たはずの兄弟の心のゆらぎを追った人間ドラマ。主演はオダ
ギリジョーと香川照之。西川美和監督のオリジナル脚本によ
る作品。
主人公は、東京でプロのカメラマンとして成功している。あ
る日、母親の一周忌で故郷に帰った彼は、父親と共に田舎町
で家業を継いでいる兄と再会する。父親に反発して故郷を離
れた彼は、頑固な父親の面倒を押しつけた兄に後ろめたさが
ある。
そんな主人公は、兄が経営するガソリンスタンドに勤める幼
馴染みの女性とも再会し、その夜を共にするが、その関係は
家族には知られていない秘密だった。そしてその翌日、兄弟
とその女性で渓谷に遊びに行ったとき、そこに架かる吊橋で
事故が起こる。
対岸に渡った主人公を追って吊橋を渡ろうとした女性に兄が
追いつき、主人公の見ている前で彼女が橋から転落死したの
だ。それは最初、整備不良の橋が原因の事故として処理され
るが、突然の自供で殺人事件として兄が告発される。

そして主人公は、裁判で兄の無実を証明するため奔走するこ
とになるが…
実際は、主人公は事件の一部始終を見ているのだが、その目
撃した内容は観客の目からも巧妙に隠され、それが徐々に明
かされて行く。その他にも、兄弟間のいろいろな確執が実に
見事に見え隠れして、それが明かされるごとにドラマが変化
して行く。
さらに物語では、主人公の心のゆらぎによって、見ていたは
ずのものがさまざまに変容し、それによって事件の状況も変
化していってしまう。しかもそれを、真実しか写さないカメ
ラが見事に描き出して行く。この巧みさには、久しぶりに映
画の醍醐味を感じた。
兄弟を演じた香川とオダギリは、共にその演技力には定評の
ある俳優だが、この作品に関しては、その演技以上に脚本と
演出のうまさが作品をリードしている。実際、日本映画でこ
れほど知的に構成された作品に出会えるとは思っていなかっ
た。脱帽。

『春の日のクマは好きですか?』(韓国映画)
昨年の3月に紹介した日本映画『リンダ・リンダ・リンダ』
にも出演していたペ・ドゥナが主演するラヴ・コメディ。
主人公は、ちょっと夢見がちな女性。作家の父親に育てられ
たせいか、言動や行動が多少エキセントリックで、好きにな
った男性には振られてばかりいる。
ところがある日、父親に頼まれて図書館から借りてきた美術
書に、女性に宛てた愛のメッセージの書き込みを見つける。
そして、そのメッセージに従って次の美術書を借りてきた彼
女は、そのメッセージが彼女の行動に符合していることに思
いつく。
実は彼女には、幼い頃からのボーイフレンドがいて、彼は彼
女のことを思い続けているのだが、彼女はそれに気付こうと
もせず、メッセージの主を追い求める。そして想像はどんど
ん膨らんで…
主人公の目線から見ると、大体上記のような物語だが、実は
裏で動いている物語はかなり複雑。それが結構面白いし、そ
れにある意味乗って振り回される主人公の行動も理解できる
し、楽しめるものだ。
図書館の本に書き込みをするなんてことは許されることでは
ないが、一言こう言っておけば後は許せるような物語。ロマ
ンティックさも程々だし、元々ペ・ドゥナが親しみやすい雰
囲気の女優だから、こんな話も了解できる。
美術書の絵の中に入り込んでしまうシーンなど、多少幻想的
な展開も織り込んで、全体的には物語がちゃんと納まってい
く筋立ても良い。特にサブストーリーが主人公と関係なく進
んで行くところも良くできていた。
なお、本作は2003年の製作、『リンダ…』より前の作品で、
ぺ・ドゥナの初々しさも良かった。また、彼女の次回作は、
ポン・ジュノ監督のVFX大作“The Host”になるようだ。


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井口健二