井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2006年02月15日(水) 第105回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、前回予告した通り、アカデミー賞候補について最
初にまとめようと思ったのだが、まあなんと言うか、今年は
SF/ファンタシー映画のファンにはあまり面白味のないも
のになってしまった。下馬評でも、SF/ファンタシー系の
作品はおろか、ハリウッドの大手映画会社の作品もほとんど
題名が挙がらなかったから、これは仕方がないところだが、
それにしても、5本の作品賞候補の中に大手映画会社の作品
が1本だけというのは1996年度以来のことだそうだ。
 とまあぼやいてばかりでも仕方がないので、数少ないSF
/ファンタシー系の作品を見て行くことにすると、まずは、
例年確実な視覚効果賞部門の候補には、“The Chronicles
of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe”と、
“King Kong”“War of the Worlds”の3本が挙げられた。
 ここで前々回に紹介したVES Awardsの候補と比較する
と、VESの作品賞候補4本の中には“War of the World”
は入っていなかった。代りにVESでは“Harry Potter and
the Goblet of Fire”“Star Wars: Episode III Revenge
of the Sith”が入っていた訳だが、この違いはちょっと微
妙なところだ。因に、2月15日はVES Awardsの受賞式が
行われる日だが、その結果は次回紹介しよう。
 話をアカデミー賞に戻して“Narnia”は他にメイクアップ
と音響ミキシング、“King Kong”は美術と音響ミキシング
と音響編集、“War of the Worlds”は音響ミキシングと音
響編集の各賞の候補にもなっている。
 この他の候補は一つずつで、“Batman Begins”が撮影、
“Charlie and the Chocolate Factory”が衣裳デザイン、
“Harry Potter”が美術、“Star Wars: Episode III”がメ
イクアップの候補になっている。ここで“Star Wars”は、
シリーズの最終作が1部門の候補にしか選ばれなかった訳だ
が、一昨年の“Lord of the Rings”の最終作が史上最多の
受賞を果たしたのに比べると、28年掛けたシリーズが有終の
美を飾れなかったのは寂しいところだ。
 一方、長編アニメーションは、“Howl's Moving Castle”
と“Tim Burton's Corpse Bride”“Wallace & Gromit: The
Curse of the Were-Rabbit”の3本が候補になった。この
内、“Corpse Bride”と“Wallace & Gromit”は予想した通
りだったが、3本目に“Howl”が来るとは思ってもみなかっ
た。確かにこの作品は事前のアニー賞などでも評価が高かっ
たようだが、それにしてもこの3本は、何れも流行りのCG
アニメーションではないもので、まあ無理矢理CGを外した
結果がこうなったという感じだ。
 なお、短編アニメーション部門には、2005年8月1日付第
92回で紹介した“9”も5本の候補の中に入っており、僕と
してはこの辺の結果が一番楽しみになりそうだ。
 受賞式は3月5日(日本時間6日)に行われる。
        *         *
 以下は、いつものように製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、『シン・シティ』の撮影には特別監督という肩書
きで参加したクェンティン・タランティーノ監督と、ロベル
ト・ロドリゲス監督が、今度は2人で2本立ての映画を監督
する計画を発表している。
 この計画は、全体が“Grind”若しくは“Grindhouse”と
いうタイトルで進められるもので、それぞれロドリゲス監督
は“Planet Terror”というゾンビホラー、タランティーノ
監督は“Death Proof”というスプラッターホラーを撮ると
いうもの。そしてこれらの作品は1時間ずつの上映時間で、
その間にはインターミッションが設けられ、タランティーノ
監督による“Cowgirls in Sweden”というピンク映画か、カ
ンフーアクション映画の偽予告編と、偽のコマーシャルフィ
ルムも併せて製作して挿入されるというものだ。
 計画の全体は、両監督が映画を見て育った1970年代の雰囲
気を再現したものにしたいとのこと。因に、grindhouseとい
うのは、アメリカの俗語で下町に建てられた2本立てや3本
立て専門の映画館のことだそうだ。
 キャスティング等は未発表だが、撮影は近日中にテキサス
州オースティンのトラブルメーカー・スタジオで開始され、
撮影監督は両作品ともロドリゲスが担当する。ザ・ワインス
タイン Co.の配給で、アメリカでは今年後半の公開が予定さ
れている。
        *         *
 お次は、2002年に『マイ・ビッグ・ファット・ウェディン
グ』を自らの脚本と主演で成功させた女優のニア・ヴァルダ
ロスが、ユニヴァーサルで進められているトム・ハンクスの
主演作“Talk of the Town”の脚本を執筆することが発表さ
れた。
 ヴァルダロスは、『マイ・ビッグ…』の実現に当ってはハ
ンクスの製作という協力を得ているが、基本的には自分以外
の俳優のために脚本を書くことには抵抗があったそうだ。し
かし今回は、ハンクス自身がもたらしたアイデアに彼女が共
鳴し、「自らの意志に反して人生を変えなければならなくな
った男の物語」をハンクスのために執筆することにしたもの
だ。なおこの作品に、彼女自身の出演の予定はないとされて
いる。
 一方ヴァルダロスは、現在はリヴォルーションで彼女の主
演による“I Hate Valentine's Day”という作品の脚本を執
筆中だが、実はこの作品は、彼女が契約を結んだ際に題名だ
けが会社側から提案されたもので、この題名が気に入ったヴ
ァルダロスが、現在はその題名に合ったエピソードを取材中
とのこと。しかしその脚本が完成するまでは、会社側は静観
というところのようだ。
 また、彼女はヒット作の続編が大いに期待されていること
も判っているそうで、「だって、自分の家族からもしょっち
ゅう聞かされるし、町でスターバックスに入っても、皆から
そう言われるの」ということだ。
        *         *
 2005年6月16日付第89回で紹介した“Pan's Labyrinth”
のアメリカ配給がニューラインとHBOの共同会社ピクチャ
ーハウスと契約されたメキシコ出身のギレルモ・デル=トロ
監督が、次回作をニューラインで撮ることが発表された。
 この作品は、トラヴィス・ビーチャムという新人脚本家の
“Killing on Carnival Row”と題されたファンタシー・ス
リラーを映画化するもので、脚本は昨年の秋に争奪戦の末、
ニューラインが獲得したというもの。物語は、人間と妖精と
エルフ達が一緒に住む都市を舞台に、そこで起きた連続殺人
事件の謎を追うというものだ。最近この手の作品の話題はよ
く登場するが、なかなか実現には至らないもので、今回は監
督まで決まったことでは期待が持てる。
 因に、アルフォンソ・キュアロンとチームを組んで、スペ
インで撮影された“Pan's Labyrinth”も、スペイン内戦後
の同国の社会状況を背景にしたダークファンタシーと紹介さ
れていたもので、これも早く見てみたいものだ。それにして
もデル=トロは、リヴォルーションで“Hellboy II”の計画
もあったはずだが、そちらはどうなっているのだろうか。
        *         *
 ドイツの製作会社コンスタンティンから、ソニーが配給し
た恐怖シリーズ『バイオハザード』の第3弾を、“Resident
Evil: Extiction”の題名で、ミラ・ジョヴォヴィッチの主
演、ラッセル・マルケイ監督により2006年中に製作開始する
ことが発表された。
 因に、このシリーズの前2作はポール・WS・アンダース
ンの脚本監督で製作されたものだが、実はアンダースン監督
からは“Resident Evil: Afterlife”の題名で第3弾を作る
ことも公表されていた。しかし今回は監督も変わり、題名も
変更になっているもので、その辺の経緯がどのようになって
いるのかも気になるところだ。
 また、アンダースン監督が発表していた計画では、シリー
ズの第1作はゲームを始める前、第2作はゲームそのものを
映画化したもので、第3作ではゲームを終えた後の世界を描
くとしていた。そこで題名も“Afterlife”と付けられてい
たものだが、今回の題名に付けられた“Extiction”には、
「火事の鎮火」あるいは「絶滅」という意味もあるようで、
アンダースンの思惑とはちょっと違っているような気もする
ところだ。
 さらにこのシリーズに関しては、2005年7月1日付第90回
で“Resident Evil 4”の計画も報告しているが、それとの
関係も明確ではないもので、報告通りなら東京での撮影とい
う話も出てくるはずだが、その辺の情報もなかったようだ。
なお、最近届いたSPE(Japan)のlineupでは、『バイオ
ハザード3』のアメリカ公開は2007年10月とされていた。
 一方、1986年の『ハイランダー』シリーズ第1作などでお
馴染みのマルケイ監督の情報では、これもアンダースン監督
が1995年に第1作を手掛けた『モータル・コンバット』シリ
ーズの第3弾として“Mortal Kombat Domination”という作
品を手掛ける計画も発表されており、ニューラインで進めら
れているその計画では、『ハイランダー』の主演で、『モー
タル・コンバット』の第1作にも主演したクリストファー・
ランバートが復帰して、アンダースンの路線に戻した映画化
を行うということで期待もされていたようだが、どうなった
のだろうか。この計画では“Mortal Kombat: Devastation”
という第4弾の情報もあったようだが。
        *         *
 2005年6月1日付の第88回で紹介した1982年公開の人形劇
ファンタシー『ダーク・クリスタル』の続編“Power of the
Dark Crystal”の計画に、“Samurai Jack”“Star Wars:
The Clone Wars”などのアニメーションシリーズを手掛けた
ジンディ・タータコフスキーの起用が発表された。
 オリジナルは、『セサミ・ストリート』や『マペットショ
ー』などでお馴染みのマペッツの創始者ジム・ヘンスンとフ
ランク・オズの共同監督で製作されたもので、異世界を闇の
力で支配するクリスタルを、異形の主人公たちが封じるまで
の冒険が描かれたもの。そして今回の続編では、再び力を持
ち始めたクリスタルを永久に葬るまでの冒険が描かれるとい
うことだ。
 脚本は、オリジナルと同じくデイヴィッド・オデルと、新
たにアネット・ダフィーという人が参加。また、今回新たな
登場もあるというキャラクターのデザインには、オリジナル
を担当したブライアン・フラウドが復帰することも発表され
ている。
 なお、オリジナルはマペッツで操演される人形劇をほぼ実
写で撮影したものだったが、今回はCGIも活用されるとい
うことで、そのCGIの製作はタータコフスキーが主宰する
オーファンエイジ・アニメーションが担当することになって
いる。具体的には、主にグリーンバックで撮影されるマペッ
ツの演技に、CGの背景を組み合わせることになるようだ。
 製作は故ジム・ヘンスンの跡を継ぐヘンスン Co.が行うも
ので、撮影は今年の夏後半に開始の予定だが、その前にベル
リン映画祭のマーケットで海外配給権がセールスされ、資金
調達が行われることになっている。またアメリカ国内の配給
権は既に確定しているようだが、会社名は製作が開始される
まで公表されないということだ。
        *         *
 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のデイヴィッド・ク
ローネンバーグ監督が、次回はハリウッドを舞台にした作品
を計画していることが発表された。
 この作品は“Maps to the Stars”という題名で、内容は
ダークコミックとされている。脚本は、1999年にクローネン
バーグが製作総指揮を担当した“I'm Losing You”という、
やはりハリウッドを描いた作品で監督デビューしている作家
/脚本家のブルース・ワグナーが執筆したもので、俳優やマ
ネージャー、エージェントなどが登場人物となる作品という
ことだ。監督の言によると「ハリウッド映画」だそうだが、
ロバート・アルトマン監督が1992年に発表した『ザ・プレイ
ヤー』のようにはならないとしている。
 またクローネンバーグは、脚本家のワグナーについては、
「彼は人物を描かせたら最高の脚本家だ。自分はそれにちょ
っとだけ年の功を加えるだけだ」とのことで、題名通りなら
スター街道を目指すいろいろな人間模様が描かれることにな
りそうだ。と言ってもクローネンバーグ監督なら、一筋縄の
作品とは思えないが。
 ということで、この新作はハリウッドを舞台にするものだ
が、実はクローネンバーグ監督は、今までの作品でもアメリ
カを舞台にした作品はあったが、『ヒストリー…』も含めて
これらの作品は全てカナダ国内で撮影を行っていた。しかし
今回はハリウッドが舞台ということで、さすがにそれをカナ
ダで代替することは出来なかったようだ。
 従って、撮影は一部をロサンゼルスで行うことになる訳だ
が、これはクローネンバーグ監督にとっては初の合衆国内で
の撮影になるもの。撮影クルーがどのように組まれるかは不
明だが、アメリカでも人気の高い監督の許での仕事には応募
者が殺到しそうな感じだ。ただしセット撮影は、カナダのト
ロントで行うとしている。
        *         *
 お次は、映画だけの話題ではないが、『シン・シティ』な
どに出演している女優のロザリオ・ドースンや、ジョニー・
デップ、それに監督のピトフらが原作を担当するコミックス
が発行され、さらにその映画化を彼らの手で行うことが計画
されている。
 この計画は、スピークイージーという出版社が進めている
もので、元々は同社の出版しているコミックスの映画化権を
ハリウッドに売り込んでいたが、なかなか良い結果が得られ
ないでいた。そこで発想を転換して、ハリウッド人種を直接
コミックスに関わらせることにしたというもので、その発想
に上記の面々が反応したということのようだ。
 そこで、まずドースンが手掛けるのは、“Occult Crimes
Taskforce”と呼ばれるミニシリーズで、ニューヨークを舞
台に彼女自身をイメージした女刑事ソフィア・オーチスが活
躍する物語。彼女は父親が謎の死を遂げたことから大都市を
襲う邪悪な存在のことを知り、それに立ち向かって行くとい
うもの。このコミックスにドースンは、共同で原作の執筆か
らコミックスを描く画家の選定にまで関っているそうだ。
 また、デップが関わっているのは“Caliber”というコミ
ックスで、これはデップのアイデアに基づくもの。題名から
予想されるようにアーサー王伝説を下敷きにしたものだが、
舞台はアメリカの西部で、アーサー王が町の保安官、ランス
ロットは拳銃使い、そしてグウィネヴィアは酒場の女将にな
るということだ。まあ、後は捻り方次第ということになりそ
うだが、映画化されたらデップは保安官と拳銃使いのどちら
をやるのだろう。なお、この映画化の監督はジョン・ウーが
担当することになるそうだ。
 因にこの2作は、今年の5月に刊行が始まるようだ。
 さらに6月には、『インディペンデンス・デイ』や『アイ
・ロボット』などの特撮マンのパトリック・タトポウロスの
企画で“Caeadas”というシリーズも予定されている。この
作品は、考古学者が古代ローマの戦士養成所の遺跡を発掘、
そこから不死身の古代戦士を甦らせてしまうというもの。地
下で繰り広がられる『エイリアン』のような物語ということ
だ。そしてこの映画化では、タトポウロスが監督デビューも
計画しているようだ。
 そしてもう1本、ピトフの計画は、題名は不明だが未来の
ボニーとクライドの物語ということで、この作品もピトフが
映画化も視野に入れて進めているものだそうだ。
 皮算用はいろいろありそうだが、いずれにしてもコミック
スは発行されることになりそうで、とりあえずは5月が楽し
みというところだ。
        *         *
 もう1つ、ジョニー・デップ関連の情報で、2003年2月に
紹介したドキュメンタリー『ロスト・イン・ラ・マンチャ』
の元となったテリー・ギリアム監督の“The Man Who Killed
Don Quixote”の映画化で、ドン・キホーテ役にクリストフ
ァー・リーが出演を希望しているそうだ。
 これはリー自身がインタヴューに答えたもののようだが、
現在83歳のリーは、「70歳から90歳の間ぐらいのドン・キホ
ーテ役にはちょうど良い」と思っているそうだ。ギリアムも
ことあるごとに再開を希望していることを表明しているし、
デップも再開されれば出演を確約しているようで、リーの発
言で障害が取り除かれることを期待したい。ただし、この役
には、2000年当時出演していたジャン・ロシュフォールも、
昨年12月13日付で紹介した『美しき運命の傷痕』のプレス資
料によるとまだ意欲を持っているようで、このまま行くと、
2人ドン・キホーテということにもなってしまいそうだ。
        *         *
 後は続報をまとめて紹介しよう。
 まずは、2005年10月15日付の第97回で紹介したローランド
・エメリッヒ監督の次回作“10,000 B.C.”について、当初
予定されていたソニーが配給を降り、替ってワーナーが配給
権を獲得したことが発表された。
 これは監督サイドが2007年夏の公開を希望したのに対し、
その時期には“Spider-Man 3”を予定しているソニー側が難
色を示したもので、ソニーとしては2008年夏にして欲しかっ
たようだが、結局は物別れになってしまったようだ。因に、
ワーナーがエメリッヒ作品を配給するのは初めてになるが、
実は前作の『デイ・アフター・トゥモロー』は、当初ワーナ
ーで進められていたが最後はフォックスになったということ
で、今回はようやく思いが叶うことになるようだ。
 一方、“Spider-Man 3”には追加の配役で、ブライス・ダ
ラス・ハワードが演じているグウェン・ステイシーの父親役
に、ジェームズ・クロムウェルの出演が発表されている。こ
の役は前回紹介したようにスパイダーマンとドク・オクの闘
いに巻き込まれて英雄的な死を遂げるというものだが、今回
その役柄の登場があるということは、別の闘いに巻き込まれ
ることになるのか、それとも前回の闘いが再現されるのか、
いずれにしてもクロムウェルほどの俳優の登場なら、相当の
シーンが用意されるとは思われるが。
 最後に、2月15日に行われた『ナルニア国物語』の来日記
者会見の報告だが、この会見に出席のプロデューサーから、
第2作の製作は「希望はしているが、まだ未定である」こと
が発言された。この第2作については、前回監督が決定した
と報告したが、この情報については当初ウェブ情報だったも
のが、その後にVariety紙などでも報じられ、確度は高いと
思われた。
 しかし今回の発言では、まだその状況には至っていないと
いうことで、大ヒットの様子から見ると、続編は間違いない
とは思うが、とりあえず前回の報告は誤報ということにしな
ければならないようだ。なおこの件に関しては、また動きが
ありしだい報告することにしたい。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二