井口健二のOn the Production
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2006年02月14日(火) ナルニア国物語・第1章ライオンと魔女、ニュー・ワールド、ウォーターズ、イーオン・フラックス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ナルニア国物語・第1章ライオンと魔女』
“The Chronicles of Narnia:
        The Lion, the Witch and the Wardrobe”
1950年に発表されたC・S・ルイス原作ファンタシーシリー
ズの第1巻の映画化。『指輪物語』と並び称せられる原作だ
が、同じ原作からは1989年にBBCでミニシリーズ化された
ことがあるのみで、本格的な映画化は今回が初めてだったよ
うだ。
第2次世界大戦の頃の物語。主人公は、ナチスの空襲を避け
て田舎の屋敷に疎開してきた4人の兄弟姉妹。
ある日、末っ子のルーシーは、隠れんぼで隠れたタンスの奥
が広大な雪国ナルニアに続いていることを発見する。しかし
次に行こうとしたときにはナルニアに続く道は開かれず、兄
姉に直には信じてもらえない。
しかしある日、再び偶然が重なって4人は揃ってナルニアを
訪れることになる。そしてそこは、魔力によって100年の冬
に閉ざされ、その禍いを解く2人のアダムの息子と2人のイ
ヴの娘の到来が待たれている場所だった。
僕にとってこの原作は、確か高校生の時に初めて原書で読み
切った本で、その意味でもこの映画化は待ち望んでいたもの
だ。実はこの後のシリーズはいろいろな事情で読まなかった
ものだが、これをきっかけにまた読む機会を与えられたよう
な感じもする。
物語は勧善懲悪。主人公たちが乞われて悪に立ち向かって行
く姿は、特に子供が主人公ということでも、子供の読者、観
客には最高の贈り物という作品だろう。そしてそれは大人に
なってからでも存分に楽しめるものだ。
ただ、原作からの印象で言うと、弟エドマンドはもっと陰湿
で、魔女に取り入ろうと画策する様子が描かれていたように
思ったが、映画化でそこをさらっと流しているのは、今の時
代にはそぐわないと判断されたのだろうか。もっとも僕はそ
の描写に耐えられずに何度も読書を止めようとした記憶があ
るから、無くてほっとしたところでもあるが。
映画の巻頭で、空襲の様子が丁寧に描かれるのは、観客に時
代背景を理解させる意図と思われるが、後半のナルニア国で
の戦いとの対比でも効果があったようにも感じられた。子供
向けの映画に戦争を描くことの是非はあるが、結局は『最後
のたたかい』まで続く物語だから、これは仕方がない。
シリーズの映画化は、続けて第2作『カスピアン王子のつの
ぶえ』の製作が発表されており、全7巻に続く物語は、これ
からしばらく楽しめそうだ。

『ニュー・ワールド』“The New World”
『シン・レッド・ライン』のテレンス・マリック監督による
イギリス人とアメリカ先住民の交流を描いた作品。1995年に
ディズニーがアニメーションで描いた『ポカホンタス』の物
語の実写による再映画化。
1607年。アメリカ大陸北部の海岸にイギリスから新大陸の開
拓を目指す船団が到着する。しかしそこには先住民たちが暮
らしていた。そんな状況の中、船で反乱罪に問われていたジ
ョン・スミスは、船長からその勇気を買われ先住民との交渉
役に任命される。
こうして先住民との交渉に向かったスミスだったが、辿り着
いた集落で先住民の王の前に引き出された彼は危うく殺害さ
れそうになる。ところがその時、王の娘ポカホンタスが彼の
命乞いをし、命を救われたスミスは先住民との交渉を始める
のだが…
実はディズニーのアニメーションは見ていないのだが、紹介
文によるとジョン・スミスとポカホンタスの恋は、民族間の
争いの中で成就されないとされている。しかし今回の映画化
された物語はそこでは終わらない。その後のポカホンタスの
生涯が描かれたものだ。
実は映画の最後にテロップが表示され、時間が短くて全部は
読めなかったが、物語は歴史的事実と記録に基づくと書かれ
ていたようだ。実際、後日ネットを検索してこの物語が真実
であるらしいことが判ったが、ちょっと意外な展開には心が
踊ったものだ。
事実は小説より奇なりとはよく言うが、この物語の真実は、
確かにディズニー・アニメーションで語るにはドラマティッ
クではなかったかも知れない。しかしこの映画に描かれたこ
とで、真実を知ることができたのは喜ばしい。
それにしても、スミスとポカホンタスのその後にこんなこと
があったとは…。ここに描かれた真実の愛の姿は、単なる悲
劇以上に感動的に思えたものだ。
出演は、ポカホンタス役に、ペルーに大家族を持つというイ
ンディオ出身の新星クオリアンカ・キルヒャー。スミス役に
コリン・ファレル。
他にはクリストファー・プラマーとクリスチャン・ベールが
イギリス人の役で登場。またウェス・ステューディ、オーガ
スト・シェレンバーグらのインディアンの俳優が脇を固めて
いるのも嬉しいところだ。

『ウォーターズ』
小栗旬、松尾敏伸、須賀貴匡、桐島優介らイケメンと呼ばれ
る7人の若手男優が共演するホストドラマ。
最近は、テレビもマンガもホストの話で溢れているが、現実
にも歌舞伎町には年間1万人の若者がホスト志望で面接に訪
れるなど、国民総ホストブームなのだそうだ。
僕は、別段自分が硬派だとは思っていないが、それにしても
テレビから流れる客を取ったの取られたのなどといった話を
聞いていると、何とも軟弱な物語にいらいらするところはあ
る。無意味な殴り合いシーンの挿入で硬派ぶるのは、さらに
いらいらするところだ。
そんな訳で、この作品の試写会にも二の足を踏んだのだが、
小栗旬は昨年公開の『隣人13号』を多少気に入っていたりも
したので、見る気になった。
で作品は、ホストものの体裁は採っているが、内容は業界を
描いたものではなく、はっきり言って主人公はホスト素人と
いう面々の物語だし、目標に向かって突き進んで行く若者の
姿を清々しく描いていて、ホストとは関係なく楽しく見られ
た。
物語は、新開店するホストクラブに応募の一団がやってくる
ところから始まる。そこで彼らは面接を受けるが、ホストと
して勤めるには無断転職防止の保証金が必要だと言われてし
まう。しかしそれもなんとか工面した彼らは、開店の日に勇
んでやってくるが…
これに、その店のオーナーや、オーナーの娘で心臓疾患に苦
しむ少女、ヴェンチャー起業で成功を納めながらも違和感を
抱く女性実業家などが絡んで物語は進んで行く。
集まった若者たちには、それぞれ過去の経緯や未来への夢が
あり、彼らが過去の経験を活かしたり、またそれで挫折した
りという辺りが、配役ごとにそれなりにバランス良く描かれ
ている。
もちろん、全体的にはうまく行き過ぎる面はあるし、中でも
最後に主人公が女性実業家と賭けるものはそれではないだろ
う…というような脚本に対する疑問もあるが、そんなことは
どうでもいいだろうと言ってしまえそうな、甘酸っぱい青春
群像というところだ。
以下、ネタバレあります。
実は、映画には最後にどんでん返しがあって、それが必要か
どうかに議論があるようだ。
僕が試写を見たときに聞こえてきた女性の発言では、無い方
が良いという意見だったようだが、僕はこれが無くては、物
語の良さが際立たないと感じた。それに、これで主人公たち
が挫折してしまう訳でもないし、逆にこれくらいあるのが人
生と言うものだ。
その意味では脚本も良く書けていると思うが、やはり女性実
業家と賭ける一番大事なものは、それではないという感じは
残る。


『イーオン・フラックス』“Æon Flux”
オスカー女優になったシャーリズ・セロンが、オスカー受賞
の次に選んで主演した作品。原作は1995年に1年間だけ放送
されたアニメーションシリーズということで、内容は未来を
背景にしたSFアクションとなっている。
西暦2011年、人類は麦の品種改良によって生じたウィルスの
ために絶滅に瀕し、その瀬戸際で科学者グッドチャイルドに
よって救われる。さらに科学者は生き残った500万人の人々
を外界から隔離された都市に集め、科学者の管理による理想
の社会を作り上げた。
そして時が流れた西暦2415年。人々は理想郷の中で安全に暮
らしていたはずだったが…
世襲で引き継がれる科学者たちの政策はやがて圧制となり、
それに対抗する反乱組織が結成される。そして組織は状況を
打破するため、ついに支配者である第8代グッドチャイルド
の暗殺命令を、過去を持たない女暗殺者イーオン・フラック
スに発令した。
オリジナルのシリーズでは、グッドチャイルドは謎の黒幕だ
ったようだが、映画化はそのグッドチャイルドとの最後の対
決を描くものだ。従って、この作品はシリーズの完結編とい
う側面も持つようだ。
外界から隔離された世界というと、昨年は『アイランド』が
公開されたし、古いものでは1976年の『2300年未来への旅』
(Logan's Run)なんて作品も思い浮かぶが、まあ定番とい
う感じのものだ。
その中で今回の作品は、圧制者を狙う暗殺者という設定が目
新しく、またその暗殺のテクニックには、原作のアニメーシ
ョンではかなりアクロバティックなアクションも描かれたと
されていて、それなりの期待感も持った。
その点でいうと、セロンのアクションはかなり頑張っている
し、元バレリーナの身体能力はさすがと思わせる。しかし、
実は撮影中に負傷したという情報がどのように影響したのか
が気になるところで、実際、映画の上映時間93分はこの手の
作品では短いものだった。
また、そんな先入観を持って見ているせいもあるかも知れな
いが、映画の全体は何となく舌足らずで、実は科学者の圧制
の理由などはそれなりに面白いテーマなのだが、その辺りが
描き切れていないような感じもした。
とは言え、映画はセロンの容姿と美貌がアクションとファッ
ションで前面に押し出されたもので、観客はそれを楽しめれ
ばいいと言うものだろう。ただしそれを純粋に楽しむには、
僕にはオスカー女優の肩書きがちょっと邪魔なようにも感じ
られた。
同じような状況では、ハリー・べリーがオスカーの受賞後に
『X−メン2』に出ているが、ベリーの場合とセロンの場合
とでは、その受賞作の重みが違いすぎるようにも感じる。そ
れほどまでにセロンは『モンスター』になり切っていたし、
それが賞に値したものだ。
従ってその重みを吹っ切るには、この程度の作品では物足り
なく感じられてしまうのかも知れない。逆にもっと軽すぎる
くらいに軽い作品のほうが吹っ切れたのではないかという感
じもするが…意欲が感じられるだけに、ちょっと残念な感じ
もした。でも、ファンならこれを支援するくらいの気持ちは
持ちたいものだ。
製作は、元ジェームズ・キャメロン夫人のゲイル・アン・ハ
ード、監督カリン・クサマ、共演はフランシス・マクドーマ
ンドとソフィー・オコネド。2004年6月15日付第65回の製作
ニュースでは女だらけの作品と紹介したが、出来ればこのメ
ムバーで再度アクション映画に挑戦してもらいたいとも思っ
た。


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