井口健二のOn the Production
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2006年01月15日(日) 第103回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 新年の2回目といっても、新春になってからは初めて書い
ている原稿になるので、最初は昨年のまとめの意味も含めて
アメリカの興行成績から見て行くことにしよう。
 まず、昨年度の全米興行ベスト10は、
1.Star Wars: Episode III-- Revenge of the Sith(3億
8027万ドル)
2.Harry Potter and the Goblet of Fire(2億7866万ド
ル)
3.War of the Worlds(2億3428万ドル)
4.The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and
the Wardrobe(2億3213万ドル)
5.Wedding Crashers(2億922万ドル)
6.Charlie and the Chocolate Factory(2億646万ドル)
7.Batman Begins(2億534万ドル)
8.Madagascar(1億9320万ドル)
9.Mr. and Mrs. Smith(1億8634万ドル)
10.King Kong(1億8006万ドル)
となっている。なお、5位はオーウェン・ウィルスン主演の
コメディ、8位はアニメーション、9位はブラッド・ピット
主演のアクションコメディだが、他はSF/ファンタシー系
の作品で、今年も上位を独占したことになる。因に、この中
で2位と4位、10位は続映中だが、2位が1位を逆転する可
能性は薄い。しかし4位の興行は年明けもハイアヴェレージ
で推移しており、すでに1月の第1週で3位を逆転、さらに
2位を抜く可能性もありそうだ。
 以下は、SF/ファンタシー系の作品で目に付いたところ
をチェックすると、13位“Fantastic Four”(1億5470万ド
ル)、22位“Saw II”(8704万ドル)、27位“The Ring 2”
(7594万ドル)、28位“Constantine”(7553万ドル)と、
29位に“The Exorcism of Emily Rose”(7507万ドル)など
が続いている。中には本当はもっと稼いで欲しかった作品も
あるが、まあこの辺までがスマッシュヒットと呼べるところ
だろう。特に29位は期待以上のヒットと言えそうだ。
 さらに別ページの映画紹介で取り上げた作品では、“Sin
City”が31位(7410万ドル)、“Herbie: Fully Loaded”は
38位(6602万ドル)、“Bewitched”42位(6233万ドル)、
“The Hitchhiker's Guide to the Garaxy”54位(5109万ド
ル)、“The Adventures of Sharkboy and Lavagirl”70位
(3918万ドル)。また“The Island”74位(3582万ドル)、
“House of Wax”85位(3206万ドル)、“Stealth”が87位
(3172万ドル)、“Zathura”は95位(2805万ドル)、“The
Jacket”167位(630万ドル)、“A Sound of Thunder”215
位(190万ドル)などとなっている。
 アメリカの映画興行の全体は、前年比で10%近い下落とい
うことで、SF/ファンタシー系の作品もその影響を受けた
という感じもする。しかしこれらの作品の中では、個々には
いろいろ問題を抱えているもののSFとしては認めたい作品
も多く、特に科学的な捻りの利いた作品が、アメリカで成績
が上がらなかったという理由だけで、日本でも無視されてし
まうのはどうかと思ってしまうところだ。
 今年はそのような作品を応援したいとも思っている。
        *         *
 お次は、昨年も紹介したVESAwardsのノミネーションを
紹介しよう。今年で第4回となるこの賞では、映画だけでな
くテレビやコマーシャル、ゲームソフトなどの部門賞も制定
されているが、ここでは映画関係だけを紹介しておく。
 まず、VFX主導の映画におけるVFX賞候補は、“The
Chronicles of Narnia: The Lion,the Witch and the Ward-
robe”“Harry Potter and the Goblet of Fire”“King
Kong”“Star Wars: Episode III-- Revenge of the Sith”
の4本となっている。
 VFX主導でない映画のVFX賞候補は、“Jarhead”
“Kingdom of Heaven”“Memoirs of A Geisha”の3本。こ
の内、湾岸戦争を描いた“Jarhead”では、爆撃シーンや燃
え盛る油井などは総てCGIで再現されていたそうだ。
 単独のVFX賞候補には、“Charlie and the Chocolate
Factory”のナッツルーム、“Episode III”の開幕の戦闘シ
ーン、“War of the Worlds”の近隣の人々が逃げ惑うシー
ンが選ばれている。
 また、実写映画におけるアニメーションキャラクター賞候
補は、“The Chronicles of Narnia”のアスラン、“Harry
Potter”のドラゴン、“King Kong”のコング。アニメーシ
ョン映画におけるキャラクター賞候補は、“Madagascar”の
キング・ジュリアン、“Robots”のフェンダ、“Wallace &
Gromit: The Curse of the Were-Rabbit”のグルミット。
 さらに背景賞候補には、“Batman Begins”のモノレール
と“Harry Potter”のブラックレイク湖底、“King Kong”
のニューヨークの攻撃シーン、それに“Episode III”。ミ
ニチュア賞候補には、“Harry Potter”のホグワーツ校と、
“Episode III”“War of the Worlds”。合成賞候補には、
“Harry Potter”のヴォルデモートの鼻、“King Kong”の
Tレックスの闘いと、“War of the Worlds”が選ばれた。
 なお、後半の3賞で対象が表記されていないのは、元の発
表にも書かれていないものだが、映画の全体で評価するとい
うことなのだろうか。ただし、表記されていない“Episode
III”と“War of the Worlds”が共にILM単独の作品とい
うのは引っ掛かるところだ。
 VESAwardsは上記を含めた全20部門で争われ、受賞式は
2月15日に催されることになっている。
        *         *
 もう1件、賞絡みの情報で、アカデミー賞のメイクアップ
部門の予備候補が発表されている。
 予備候補は、“The Chronicles of Narnia”“Cinderella
Man”“A History of Violence”“The Libertine”“Mrs.
Henderson Presents”“The New World”“Episode III”の
7本で、この内“The Libertine”については、以前の映画
紹介では「メイクが良くない」と書いてしまったものだが、
専門家の評価は違ったようだ。
 最終候補はこの中から3本が1月31日に発表される。
        *         *
 以下は製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、上でも書いたように、12月の公開にもかかわらず
年間興行成績第4位にランクインし、さらに数字を伸ばして
いる“The Chronicles of Narnia”について、続編の情報が
報道されている。
 この続編に関しては、2004年12月1日付の第76回でも報告
しているが、当初の計画では『ライオンと魔女』を製作した
後は、残りの6冊を2〜3本にまとめて映画化するとされて
いた。ところが最近の報道では多少ニュアンスが変化してい
るようで、製作実務を行っているウォルデン・メディア代表
のケイリー・グラナッドは、「続編は“Prince Caspian”の
脚色を進めており、近日中に監督を決定する」と発言してい
るということだ。
 ここで“The Chronicles of Narnia”に関しては、映画化
された『ライオンと魔女』は最初に発表された物語ではある
が、年代記としては2番目になるもので、その前には“The
Magician's Nephew”(魔術師のおい)という物語が存在す
る。一方、続篇として紹介された“Prince Caspian”(カス
ピアン王子のつのぶえ)は年代記では4番目となるもので、
3番目には“The Horse and His Boy”(馬と少年)という
物語があるのだ。
 では、何故続篇が“Prince Caspian”なのかと言うと、そ
れは発表順で2番目だからということに他ならない。つまり
映画化は原作の発表順に行われることを示しているものだ。
しかしそうすると、年代記として残りの6冊を2〜3本にま
とめるのは非常に難しくなる。そこでこれは飽く迄も希望的
観測だが、今回の発言は全7冊を1本ずつ映画化することも
予想させるものになっているのだ。また今回の大ヒットの様
子では、その資格も充分にあると思える。
 ただし、出版順でも年代記でも“Prince Caspian”に続く
“The Voyage of the Dawn Treader”(朝びらき丸、東の海
へ)と“The Silver Chair”(銀のいす)は同じ時代の物語
ということで、これらが一括して“Prince Caspian”の題名
で映画化される可能性はないわけではない。がしかし、そう
すると、残る“The Last Battle”(さいごの戦い)を含む
3作は、年代記では1、3、7の飛び飛びとなってしまうも
ので、これを1本にまとめることもかなり難しいものだ。
 元々今回の計画では、最初に『ライオンと魔女』を映画化
した時点から、年代記にまとめるのは難しいと思われたもの
で、できれば発表順に7本の映画にして、全てが完成した時
に改めて年代記として一挙上映してくれるのが一番と考えて
もいたが、今回の報道を読んでいると、そんな夢も叶いそう
な気もしてきた。そうなることを期待したい。
        *         *
 お次はファンにはビッグニュースで、パラマウントで計画
されているSFシリーズ“Star Trek”の第11作に、トム・
ハンクスの出演が噂されている。
 この計画は、現在は“Star Trek 11: The Begining”の原
題で進められているものだが、この脚本を、2001年にハンク
スが製作総指揮したテレビのミニシリーズ『バンド・オブ・
ブラザース』でハンクスと共に製作に関わり、さらにハンク
スが監督を担当した第5話の脚本も手掛けているエリック・
イェンドルセンが担当していることから、この噂が流れ始め
たようだ。
 なお2人は古くからの友人ということで、互いに話し合い
ぐらいはしているのだろうが、現時点で出演が確定した訳で
はない。しかし、パラマウントではシリーズの興行がじり貧
になっていることは認めており、その立直しのため前作『ネ
メシスSTX』には外部のジョン・ローガンを脚本に起用す
るなど、テレビシリーズの人気に頼らない新しい血の導入を
試みているもので、その一環として実現の可能性はあるよう
だ。後は出演料の交渉次第ということになるのだろう。
 因に報道では、アカデミー賞スターとSFシリーズとの意
外な組み合わせのように報じられていたが、1985年の『カラ
ーパープル』で主演賞候補になり、1990年の『ゴースト』で
助演女優賞を受賞したウーピー・ゴールドバーグは、1987年
に製作開始された『新スタートレック』シリーズでは1988年
から受賞後の1993年まで準レギュラーとして出演しており、
さらに前作『ネメシス』にも顔を出すなど、オスカー受賞者
の出演に前例がないものではない。またこのシリーズは、そ
のくらいの信頼を得ているものなのだ。
 もう一つ、『スタ・トレ』関連の補足情報では、昨年末に
発表されたイギリスのテレビ局の行った人気帳票で、ウィリ
アム・シャトナー、レナード・ニモイらの主演によるオリジ
ナルシリーズが、もう一度見たいテレビシリーズの第1位に
輝いたということだ。それでいて、何故にテレビシリーズも
映画シリーズもじり貧状態なのかが判らないところだが、今
年中に製作が予定されている第11作では、ぜひとも状況を打
破するクリーンヒットを期待したいものだ。
        *         *
 “Pirates of the Caribbean”の2本の続編に続いては、
オーストラリア人作家の原作による“Shantaram”への主演
が予定(第101回参照)されているジョニー・デップが、今
度はスコットランド人作家の小説の映画化に乗り出すことが
報じられている。
 その作品は、ジェイムズ・ミーク原作の“The People's
Act of Love”と題されたもので、昨年7月に発表されて以
来5ヶ月で20ヶ国語に翻訳され、まさに彗星のごとく現れた
作品と評されている。そしてこの原作の映画化権の獲得に、
デップが自ら気に入った企画を立上げるために設立した製作
プロダクション=インフィニタム・ニヒルが乗り出している
ということだ。
 内容は、ロシア革命後の内乱の続く1919年のシベリア奥地
の村を舞台として、外界から孤立したその村を支配するチェ
コスロヴァキア軍の大佐と、その村を開放しようとするロシ
ア赤軍の革命家との対決を描いたもので、ロシア版『地獄の
黙示録』とも評価されている作品のようだ。またそこには、
キリスト教の一会派によるちょっと過激な宗教活動も背景に
描かれているそうだ。
 そしてこの革命家の役にデップと、大佐役にラッセル・ク
ロウの共演が期待されているとも伝えられている。といって
もこの配役は、イギリス人の映画ジャーナリストが期待して
いるもののようで、この2人が“Shantaram”の映画化権を
争ったことを知る者としてはちょっと痛いところだ。
 ただしこの映画化には、ハリウッドの大作というよりも、
ヨーロッパ映画の風格が求められるということで、その意味
でもヨーロッパ文化への理解に優れるデップの映画化権獲得
は、ベストな人材として歓迎されているようだ。また、原作
者のミークは「自作が小説以外の芸術形態に写されることに
興味はない」としながらも、「一つの芸術形態からのインス
ピレイションで、他の芸術形態において作品が生み出される
ことは素晴らしいことだ」としており、直接映画製作に関わ
る気持ちはないものの、映画化への期待も感じさせた。
 因に現状では、数千ポンドの手付け金が交わされただけの
ようだが、インフィニタム・ニヒルでは、先にニック・ホー
ンビー原作による“A Long Way Down”の映画化権の獲得に
際しては200万ポンドを支払ったとも報じられており、今回
もその規模の契約になりそうだ。
        *         *
 『オーシャンズ11』、『オーシャンズ12』に続くシリーズ
第3弾“Ocean's Thirteen”を、スティーヴン・ソダーバー
グ監督と、ジョージ・クルーニーの主演で2006年後半に撮影
することが、ワーナー傘下のプロデューサー=ジェリー・ワ
イントルーブから報告されている。
 この計画は、まだ初期の段階とされているものの、すでに
ブライアン・コッペルマンとデイヴィッド・レヴィーンによ
る脚本は完成しているようだ。そしてこの計画には、前ワー
ナー社トップのロブ・グラルニックも参加して万全の製作体
制が採られるということだ。
 なお、ソダーバーグ+クルーニーのセクション8とワーナ
ーの間では、昨年末の『シリアナ』の公開を巡って多少ギク
シャクしたところがあったようだが、これで関係修復となれ
ば万々歳と言うところだろう。ただし、すでに本拠をパラマ
ウントに移しているブラッド・ピットの去就は未発表だ。
 因に、ワイントルーブのプロダクション(JWP)では、
日本ではNHKが放送したテレビシリーズにもなったことの
ある少女冒険小説“Nancy Drew”の映画化を、1月31日の撮
影開始予定で計画している他、今年の賞レースで注目を集め
る“Brokeback Mountain”の脚本家チームのラリー・マクマ
トリーとダイアナ・オサナがそれ以前に完成させ、小説とし
ても発表している“Pretty Boy Floyd”というアウトローも
のの脚本の映画化権も獲得している。
 さらに、ワイントルーブ自身の回想に基づいて、彼とエル
ヴィス・プレスリーのマネージャーのトム・パーカー大佐と
の関係を描く“The Colonel and Me”という作品も計画され
ており、グラルニックの参加を得て、ますますワーナー傘下
のプロダクションの中核をなすことになりそうだ。
        *         *
 ニューヨークを舞台に数々の名作を発表してきたウディ・
アレンがヨーロッパに渡って、イギリスで撮影した“Match
Point”も好評に迎えられているようだが、さらにスペイン
での映画製作も計画していると伝えられた。
 因にアレンとスペインとの関係は、以前からたびたび同国
を訪れては休暇を楽しんだりジャズの演奏旅行を行ったりも
していたようだが、2004年には“Melinda and Melinda”の
ワールドプレミアを同国のサン・セバスチャン映画祭で行う
など思い入れも高いようだ。また、2002年にはスペイン王室
から芸術賞を授与された他、北部のオヴィエドという町には
等身大の彫像も建てられているそうだ。
 そして現在公開中の“Match Point”は、8週連続で同国
興行トップ10にランクインしており、最終的には全米興行で
11位にランクされたウィル・スミス主演の『最後の恋のはじ
め方』に匹敵するヒットになりそうだと言われている。
 そのスペインで計画されている作品は、脚本も執筆されて
おらず、題名も未定、内容も未発表というものだが、出演者
には国際的な俳優と現地の俳優も起用され、言語は英語で撮
影されるということだ。また、製作費はスペインのメディア
プロというプロダクションとアレンのプロダクションが折半
で負担することになっている。
 なおアレンは、イギリスでの第2作となるスカーレット・
ヨハンスンとヒュー・ジャックマン共演による“Scoop”の
撮影は完了しているということだが、今年中にもう1作品を
イギリスで製作した後の2007年に、今回報告されたスペイン
での製作を計画しているようだ。
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 2003年11月15日付の第51回などで紹介してきたモーリス・
センダク原作による“Where the Wild Things Are”の製作
がユニヴァーサルで断念され、その後をワーナーが引き継ぐ
ことが発表された。
 この計画は、元々はユニヴァーサルでオールCGIで進め
られていたものだが、トム・ハンクスが主宰するプレイトー
ンが製作母体となって前回の報告では『アダプテーション』
などのスパイク・ジョーンズの監督起用が発表され、同時に
実写とCGIの合成による製作への変更も発表された。しか
しこの変更がユニヴァーサルでは承認されなかったようだ。
 結局のところ、ジョーンズと作家のデイヴ・エッガースが
執筆した脚本をユニヴァーサルが拒否したということだが、
原作者で製作にも加わっているセンダクは、「この脚本が気
に入っている。もしスパイクとデイヴがこの映画に関わらな
くなったら、自分としては直ちに他の人間による映画化を見
たいとは思わない」と発言するなど、センダクとユニヴァー
サルの関係も悪化していたようだ。
 そして、昨年末の段階でユニヴァーサルから計画の断念が
発表され、年が変わった1月8日に『ポーラー・エクスプレ
ス』などでハンクス=プレイトーンとの関係も深いワーナー
がその後を引き継ぐことが発表されたものだ。
 今後のスケジュールは流動的だが、ワーナーではできれば
今年の後半には製作準備を進めて、再来年の夏のテントポー
ル作品としたい意向のようだ。また製作費の調達には、昨年
の『バットマン・ビギンズ』と今年は“Superman Returns”
にも協力しているをレジェンダリー・ピクチャーズの参加も
発表されている。
 因に、プレイトーン=ワーナーで今年8月4日に全米公開
予定のCGIアニメーション“The Ant Bully”も、元々は
ユニヴァーサルで企画されていたもので、2作続けて同じ状
況になってしまったようだ。


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井口健二