井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2005年12月13日(火) シャークボーイ&マグマガール3-D、春が来れば、あぶない奴ら、タブロイド、美しき運命の傷痕、リトル・ランナー、PROMISE

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『シャークボーイ&マグマガール3-D』         
      “The Adventures of Sharkboy and Lavagirl”
『シンシティ』のロベルト・ロドリゲス監督が、『スパイキ
ッズ3-D』に続けて放つお子様向け3D映画。      
『スパイキッズ』は、普段は衝撃的な作品を作り続けている
ロドリゲス監督が、自分の子供に見せられる作品を作りたい
と言うことで始めた作品だが、今回はそれを見た7歳の息子
のアイデアを映画化したというもので、まさにファミリー映
画という作品だ。                   
お話は、ちょっと落ちこぼれ少年の主人公が、彼のイマジナ
リーフレンドの住む世界の危機を救うために活躍するという
もの。もちろん、子供のアイデアらしく御都合主義満載の作
品だが、それを3D映像でそれなりに映画ファンも喜ぶ作品
に仕上げている。                   
と言っても、特にマグマガールに関しては、本来は触るもの
全てに火が点くという設定のはずなのに、怪我をしたシャー
クボーイに肩を貸したり、もう少しは考えてくれても良いよ
うな場面もあった。でも、大前提は子供の夢ということで…
いずれにしても大人はいろいろ突っ込みたくなる作品だが、
実は日曜日に家族招待で行われた試写会で会場はかなり幼い
子供が満載。しかしその子供たちが、多少はお茶の間感覚の
ところはあったものの最後まで大騒ぎもせず見たのだから、
大したものと言えそうだ。               
なお、3Dは赤青フィルターによるもので、このシステムは
上映に一番手間が掛からない方式ではあるが、ほぼ90分連続
というのは多少目が疲れた。『スパイキッズ3-D』の時は
確か何度か掛けたり外したりしたが、あれも多少煩わしかっ
たし難しい。                     
因に、ディズニーが『チキンリトル』で全米公開で採用した
3Dはディジタル上映によるシャッター方式によるもので、
これなら2D−3Dの切り替えも自在になるはずだが、アメ
リカでも普及には手間取っているようだ。        
一方、撮影に使われた3Dカメラは、ジェームズ・キャメロ
ンとソニーが共同開発したものだが、本作を製作したロドリ
ゲス自前のトラブルメーカースタジオには常備されているも
ののようだから、出来れば今後もいろいろな新作で楽しませ
て欲しいものだ。                   
                           
『春が来れば』(韓国映画)              
本作が監督デビュー作のリュ・ジャンハによる2004年作品。
ジャンハはホ・ジノ監督の『春の日は過ぎゆく』などに助監
督として付き、脚本にも参加していたということだ。   
主人公は、もう若いとは言えないトランペッター。長年交響
楽団の団員になることを夢見て来たが、その夢は叶わず、そ
の間夢につきあってきたガールフレンドは、彼の許を去って
別の結婚話が進んでいる。               
それでも、母親との2人暮らしで気楽な人生を送っていた主
人公だったが、ある日、彼は一念発起して少し離れた炭坑町
で、全国大会優勝の過去の栄光もある中学校の吹奏楽部の指
導を担当することになる。               
しかし、すでに過疎が始まっている町では吹奏楽部員の数も
減少し、今回入賞を果たせなけれは廃部の噂もある。そして
その他にも、いろいろな現実が彼を待ち構えていた。そんな
中で、彼の人生観が徐々に変わって行く。        
韓国では、独身男性世帯の数が激増しているそうだ。それは
韓国国民に根強い儒教思想の影響や、今だに続く男尊女卑の
傾向が根底にあるなど、いろいろ分析されているようだが、
本作の主人公はまさにそれを地で行く存在のようだ。   
確かに、そう言った意味での主人公の人生観には、日本人と
は多少異なる面もあるかも知れない。しかしこの物語の全体
に流れるのは、ふと異郷に紛れ込んでしまった主人公が感じ
る人との交流の大切さであり、それが現代社会でのオアシス
のように描かれた作品だ。               
そしてそんな現代社会の問題は、おそらく日本でも共通に感
じられるところでもあるし、一方、舞台となる炭坑町トゲの
風景は、日本では忘れられた原風景のようにも感じられるも
ので、日本人の心にも深くしみ入ってくる作品だった。  
それにしても、この作品や以前に紹介した『スタンド・アッ
プ』や『ディア・ウェンディ』でも鉱山町が舞台になってい
たが、今の日本にこのような鉱山町は現存しているのだろう
か。昔は炭坑を背景にした映画もいろいろあったように記憶
しているが…                     
なお、炭坑町ということで町には鉄道が敷設されており、そ
こを走るいろいろな機関車の姿も楽しめた。もちろん『殺人
の追憶』など鉄道が登場する韓国映画も少なくはないが、こ
の作品のようにいろいろな機関車を見られるのは、ちょっと
珍しいように感じたものだ。              
                           
『あぶない奴ら』(韓国映画)             
暴力的な取り立て屋とその標的の若者が繰り広げる大騒動を
描いたアクションコメディ作品。それにIT産業スパイや、
台湾マフィア、国家安全情報局までもが絡んで、話は飛んで
もない方向に進んで行く。               
典型的なアクション・コメディだが、何しろ痛快の一言とい
うような作品。主人公2人は暴力沙汰も引き起こすが、頭は
切れるし、協力してくれる仲間もいろいろいて、巨大な敵に
見事に挑んで行く。                  
しかもその間、味方の側には負傷者は出るが死者はなし、こ
の明解、且つスマートな展開が心地よく決まっていた。しか
も携帯電話やGPS(?)などの現代的な小道具も見事に使
いこなされている。                  
何しろとやかく言う必要は全くなし。見れば面白い。しかも
アクションもかなりハードに決めているし、サーヴィス精神
は満点というところ。まあ、真面目な人には、ばかばかしい
と思われるかも知れないが、これが映画の楽しさだと言える
作品だ。                       
主演は、アン・ソンギとのコンビで韓国映画のバディ・フィ
ルムをリードしてきたというパク・チュンフンと、『猟奇的
な彼女』などで韓国トップ女優の相手を務めてきたチャ・テ
ヒョン。その2人がコンビを組んで、見事に主役を張ってみ
せた作品。                      
また、モデル出身で1999年度のミスワールドユニバーシティ
というコリアンビューティ、ハン・ウンジョンが映画初出演
で華を添えている。他にも、ソウル市内のランドマーク的な
建物も次々登場するようで、ソウルに行ったことのある人に
は、そういう楽しみ方もできるようだ。         
                           
『タブロイド』“Cronicas”              
アルフォンソ・キュアロン製作によるメキシコ、エクアドル
合作による社会派映画。子供ばかりを狙った連続誘拐殺人事
件の謎を追うテレビ番組のレポーターが、思わぬ落とし穴に
引き摺り込まれて行く。                
ジョン・レグイザモが演じる主人公は、マイアミをキー局に
放送されているラテン世界向けのドキュメント番組のレポー
ター。その主人公を含む番組の取材クルー(カメラマンと女
性ディレクター)がエクアドルに降り立つ。       
彼らはエクアドルで発生中の子供ばかりを狙った連続誘拐殺
人事件の取材に来たのだったが、その被害者の葬儀の取材中
にインタビューを試みた被害者の双子の弟がトラックに引か
れる事件が起こる。                  
そして被害者の父親が怒り狂って加害者の運転手に灯油を掛
け、火を付けようとした瞬間に、主人公がその場を制して運
転手を救出、その模様が全て撮影され、番組で放送されたこ
とから人々の間で彼自身が英雄になってしまう。     
ところが、一応逮捕された運転手に同じく逮捕された父親は
執拗に復讐を試み、その様子を取材に行った主人公に、運転
手は釈放に協力してくれたら連続殺人犯の情報を教えると言
い出す。そして、彼が漏らした情報から新たな遺体が発見さ
れてしまうのだが…                  
以下ネタばれがあります。
実は映画では最初に犯人を示唆する重要な描写があり、主人
公が犯人に踊らされている図式が明確に描かれている。従っ
て観客には、主人公のスクープを狙うあまりの行き過ぎた行
動や、その顛末が見事に見えてくる仕組みの作品だ。   
最近、日本で起きている幼女誘拐殺人事件でも、被害者の友
達の子供への取材など、報道の行き過ぎとも言える取材が目
立っているが、そんな報道関係者が一歩間違えれば陥ってし
まうかもしれない奈落の底を見事に描いている。

なお、本作は2002年のサンダンス/NHK映像作家賞の脚本
部門を受賞した作品で、こういう作品の成立に報道機関が関
わっているというのもおかしな話だが、完成された映画は、
カンヌやトロント、サンセバスチャンの映画祭に出品され、
グアダラハラ映画祭では作品賞の受賞も果たしているという
ことだ。                       
また、テレビ映像の中だけだが、番組のホスト役でアルフレ
ッド・モリーナがあくの強い演技を披露している。    
                           
『美しき運命の傷痕』“L'Enfer”            
1996年に亡くなった『トリコロール』などのクシシュトフ・
キェシロフスキが、ダンテの『神曲』に想を得て進めていた
3部作の内『地獄篇』の遺稿脚本を、『ノー・マンズ・ラン
ド』のダニス・タノヴィチ監督が映画化した2005年作品。 
因に、『天国篇』は『ヘヴン』の題名で2002年12月頃に紹介
しているが、物語上のつながりなどはないようだ。    
3人姉妹の物語。父親は22年前にある出来事で亡くなってお
り、老いた母親も施設に預けられている。3人は独立して暮
らしているが、長女は夫の不倫に悩んでおり、三女は逆に妻
子ある男性を恋している。そして次女の許に1人の男性が現
れる。その次女は悲劇の始まりの目撃者でもある。    
原題は「地獄」の意味で、英語題名も“Hell”となっている
ようだが、3人姉妹それぞれが味わされている過去、現在、
未来の地獄が描かれる。しかも自分自身は正しいと思ってし
たことか、あるいは止められなくなってしたことの結果とし
て生み出された地獄。3人の姉妹と母親は、そんな地獄の中
に生き続けている。                  
物語自体はトリッキーなものではないし、監督の前作や、題
材から多少構えて見始めた僕には、むしろ判りやすい物語の
ようにも感じられた。                 
監督の前作『ノー・マンズ・ランド』は、喜劇とも取れる戦
場での出来事が、やがて途轍もない地獄の入り口であること
が判る物語だったが、本作の地獄も、最初はちょっとした出
来事だったのかも知れない。              
しかし、そこで明かされるべき真実が明かされないまま進む
ことで、悲劇が悲劇を生み出し、やがてそれは人々を地獄へ
と陥れてしまう。そんなドミノ倒しのような物語が展開され
る。しかもそれが、正しいと思ってしたことが原因であるが
故に、よけいに大きな地獄になってしまうのだ。     
ただし、監督の前作がどうしようもない絶望で終わるのに対
して、本作には多少の救いが感じられること、つまり3人の
姉妹がそれぞれ前向きに地獄を乗り越えることができそうだ
と感じさせるところは、後味の良い作品ではあった。   
                           
『リトル・ランナー』“Saint Ralph”          
コーマに陥った母親を目覚めさせるために、ボストンマラソ
ンに挑戦しようとする14歳の少年の姿を描いたドラマ。  
時代設定は1953年。カソリック系の私立校に通う主人公は、
問題児というほどではないが、喫煙したり、神を冒涜する言
葉を繰り返したり、さらに自慰に耽ったりで、品行方正とは
言い難く、厳格な校長からは目を付けられている。    
そんな彼にさらなる問題が発生する。長く入院していた母親
が突然コーマに陥ってしまったのだ。そして医者には、母親
を目覚めさせるには奇跡が必要だと言われてしまう。そこで
少年は自ら奇跡を起こすべく行動を始めるのだが…    
宗教的なことが被るので多少判り難いところがあるが、結局
のところ、聖人が奇跡を起こすと、それに伴っていろいろな
ことが起きる。それが奇跡と言うものらしい。だからこの物
語では、少年が奇跡を起こせば、お母さんが目覚めるかも知
れないと言うことなのだ。               
そして少年が目指したのは、ボストンマラソンで史上最年少
の優勝を果たすこと。これが実現したら正しく奇跡というも
のだろう。しかも彼は、あるきっかけで神の啓示を受けたと
信じ込み、それに邁進して行くことになる。       
ということで、1950年代のそれなりに純真なミッションスク
ールの少年には、あってもおかしくはないお話という展開に
なる。                        
実は、試写会の前に舞台挨拶があって、その中で脚本監督の
マイクル・マッゴーワンはこの物語が出来た経緯について、
最初に14歳の少年がボストンマラソンで優勝するというアイ
デアを思いつき、それからそこに至る道筋を考えたと話して
いた。                        
正に本末転倒だが、まあ物語の成立というのは、えてしてそ
んなものだろう。そして本作では、最初に思いついたアイデ
アもさることながら、そこに至るように考えられた道筋(展
開)が実に上手くできていて、この映画を素晴らしいものに
している。                      
因に監督は、デトロイトマラソンでの優勝経験や、東京シテ
ィ駅伝にカナダ代表チームのメムバーとして出場したことも
ある元長距離ランナー。従ってアイデアは、単純にそこから
出てきたものと思われる。               
しかしその後、彼はカナダのテレビ界に転じて、子供向けの
アニメーションシリーズや、コメディシリーズなどの演出家
としても知られており、映画の全体にはその演出家としての
才能が発揮されているようだ。             
なお物語は、単純にはスポ根もののように展開するが、実は
最初は独学で始めた主人公が怪しげな精神論で書かれた古い
教習本を手に入れて実践したり、コーチをしてくれる神父が
ニーチェ被れでトラブルが起きるなど、いろいろ皮肉たっぷ
りな部分もある。                   
多分、配給会社は感動で売りたいだろうし、実際に見れば感
動する物語ではあるが、上記のように、それ以上にいろいろ
考えさせられるところもあって面白い作品だった。    
それから、主演したのはテレビ出身の若手だが、その回りを
『チャイルド・プレイ』で花嫁役のジェニファー・ティリー
や、『シャル・ウィ・ダンス』で夫婦の娘を演じたタマラ・
ホープ。さらに、『シッピング・ニュース』のゴードン・ピ
ンセット、『アンダーカバー・ブラザー』のショーナ・マク
ドナルドら、いずれもカナダ生まれのちょっと捻った配役も
楽しめた。                      
                           
『PROMISE』“無極”              
中国映画の第5世代と呼ばれるチェン・カイコー監督による
ファンタシー色の濃い武侠作品。全ての男から望まれる美貌
と引き換えに、真の愛は得られないという運命を受け入れた
女と、その女の運命に翻弄される男たちの物語。     
刺客に襲われ負傷した大将軍の代りに華の鎧を付けて国王の
救出に向かった奴隷の男は、美貌の王妃を救うために王を殺
してしまう。しかし王妃は大将軍に救われたと思い込み、大
将軍は王殺しの汚名を着てまで王妃の思いを受けとめようと
する。そして奴隷の男は、真実を口に出せないまま王妃と大
将軍に仕え続ける。                  
この大将軍・光明を日本の真田広之、奴隷の男・昆崙を韓国
のチャン・ドンゴン、王妃・傾城を香港のセシリア・チャン
の3人が演じる。この3人の国籍の組み合わせはちょっと微
妙な感じだが、そんな小賢しいことを考えるような作品では
ない。                        
特に真田は、比較的若い2人を相手に緩急自在の演技という
感じで、傾城の思いに溺れて行く姿などは中年男の匂いをぷ
んぷんさせて、なるほど適役という感じのものだ。一方、チ
ャン・ドンゴンも一途さを全面に出して、一番の儲け役を見
事に演じている。また、セシリア・チャンの儚い美しさも絶
妙というところだ。                  
この他に、敵役の候爵を香港から『ジェネックス・コップ』
などのニコラス・ツェー、刺客を大陸から『山の郵便配達』
などのリウ・イェ、運命を司る女神を監督夫人で製作も務め
る『北京ヴァイオリン』などのチェン・ホンが演じている。
中国の武侠映画もついにチェン監督まで駆り出されたか、と
いう感じだが、元々第5世代で言えばチャン・イーモウも監
督しているし、特に驚くことではないかも知れない。とは言
うものの、大量のVFXも使ったかなり派手な作品になって
いたのには、ちょっとびっくりした。          
なお、VFXは香港のセントロ・ディジタルが担当。また、
アクションの振り付けには、『バレット・モンク』などのウ
ェイ・トンと、『スパイダーマン2』などを手掛けたディオ
ン・ラムの2人が当っている。             


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二