井口健二のOn the Production
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2005年11月15日(火) 第99回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は普通に製作ニュースから始めることにしよう。
 まずは、今年の夏に公開された『アイランド』では未来系
アクションに挑戦したスカーレット・ヨハンソンから、今度
は太古の女戦士アマゾンを演じる計画が発表された。
 この物語は、紀元前2世紀を時代背景としたもので、祖国
を外敵によって破壊された主人公が復讐に立ち上がるという
内容。題名は“Amazon”と発表されている。因にアマゾンと
いうのは南米の河の名前ではなく、ギリシャ神話に出てくる
女戦士のことだ。
 そしてこの計画は、元々は『アイランド』の撮影中にヨハ
ンソンの方から提案されたもので、同作の脚本を担当してい
たアレックス・カーツマンとボブ・オーチにアイデアが提示
された。しかし彼らは自分たちの得意分野ではないと判断し
たのか、概要のみをまとめて以後は製作を引き受けることと
し、代って来年6月にワインスタインCo.で製作される予定
の“Outlander”というヴァイキング映画を手掛けるダーク
・ブラックマンとハワード・マッケインに脚本をオファー。
彼らが執筆を契約したということだ。
 なお、執筆を契約したブラックマンは計画について、「映
画は『ワイルドバンチ』と『七人の侍』を合わせたようなも
のになる」と発言しているようだ。また、ヨハンソン主演の
新作“The Black Dahlia”の製作を担当し、本作も製作する
シグネチャー・ピクチャーズのモッシュ・ディアマントは、
「このような美しくてセクシーな女性が、こんなアイデアを
出してくるなんて…これは本当に特別な計画だ。神秘的な舞
台で繰り広げられる物語で、ラヴストーリーの要素もある」
と物語の概要を説明している。
 実際に計画が動き出すのは、マッケインが監督も担当して
いる“Outlander”以後となるが、勢いに乗るヨハンソンが
どのような女戦士ぶりを見せてくれることか。脚本家が挙げ
ている作品から察すると、仲間を集め策略を張っての戦いと
なりそうだが…これは楽しみな作品だ。
 因にヨハンソンの予定では、上記の“The Black Dahlia”
はブライアン・デ・パルマの監督ですでに撮影完了。他には
ニール・ジョーダン監督で“Borgia”という作品と、さらに
ワインスタインCo.が彼女の主演用に“The Nanny Diaries”
というベストセラーの映画化権を獲得したことも発表されて
いる。
        *         *
 続いては、上の記事にも名前が出てきたが、1969年のサム
・ペキンパー監督作品“The Wild Bunch”の現代版リメイク
が、『U−571』などの脚本家デイヴィッド・エイヤーの
監督で行われることになった。
 このリメイク計画については、2003年5月15日付け第39回
でも紹介しているが、元々ワーナー傘下のジェリー・ワイン
トローブの製作で数年前から進められていたものだ。そして
前回の情報では、エイヤーがこの脚本を契約したことが報告
されたものだった。しかしその脚本は、物語を現代化して全
体を大幅に改変するということもあって、それを任せられる
監督がなかなか見つけられないでいた。
 ところがここに来てエイヤーは、クリスチャン・ベールと
エヴァ・ロンゴリアの主演による“Harsh Times”と題され
た潜水艦アクション映画を、自宅を抵当に入れた自己資金で
製作して監督デビュー。しかもこの作品がトロント映画祭で
上映されて好評を博し、全米配給権が600万ドル以上という
好条件で契約されることになった。そしてこの成功を受けて
エイヤーは、ワイントローブに自らのリメイクに賭けるヴィ
ジョンを改めて説明、それが認められて監督も担当すること
になったということだ。
 つまりこの一件は、なかなか監督を見つけられない現状に
対して、止むに止まれなくなったエイヤーが賭けに出たとい
うようにも取れるが、本人は「恐ろしい体験だったが、映画
製作に自分の資金を使ってはいけないという基本ルールを破
ることが、今回は一番のやり方だった」とも発言しており、
その賭けに勝ったということのようだ。なおリメイクの撮影
は、できれば来年夏に行いたいとしている。
 因にオリジナルは、第1次世界大戦前夜のメキシコ国境を
舞台に、荒くれ者の盗賊団と戦うロートルガンマンの姿を描
いたものだったが、リメイクされる現代版では同じ国境線で
の麻薬組織とCIAの闘いが背景になるということだ。ただ
し主人公などのキャラクターはオリジナルの設定を活かすと
している。またオリジナルでは、強烈なガンアクションと鮮
烈な血飛沫の描写も話題となったものだが、『トレーニング
・デイ』『S.W.A.T.』の脚本家がどのような映像を造り出す
かも楽しみだ。
        *         *
 続いてもリメイクの情報で、1976年にニコラス・ローグ監
督、デイヴィッド・ボウイの主演で映画化された“The Man
Who Fell to Earth”(地球に落ちてきた男)の再映画化を
ワーナー傘下のインディペンデスで行うことが発表された。
 この作品は、ウォルター・ティヴィスが1963年に発表した
同名の小説を映画化するもので、瀕死の惑星から地球にやっ
てきた異星人が、卓越した科学技術で産業を築き上げ、その
資金で故郷の惑星を救おうとするのだが…というお話。オリ
ジナルは、ボウイの哀愁を帯びた表情とそれを食い物にしよ
うとする地球人の横暴さが好対照となる鮮烈な作品だった。
 そして今回のリメイクでは、1998年にアリスン・マクリー
ン監督、ビリー・クラダップ、サマンサ・モートン、ジャッ
ク・ブタック、ホリー・ハンター、デニス・ホッパーらの出
演で映画化された“Jesus' Son”などを手掛けるオーレン・
ムーヴァマンが脚色を契約したもので、現代にマッチした新
たな脚色が行われることになっている。製作時期は未定。
 因に“Jesus' Son”という作品は、1970年代のドラッグ・
カルチャーを題材にしたもので、不連続なフラッシュバック
などを多用したかなり複雑な構成のもののようだが、評価は
悪くないようだ。また、ムーヴァマンは、『エデンより彼方
に』などのトッド・ハインズ監督の次回作“I'm Not There:
Suppositions on a Film Concerning Dylan”の脚本も担当
しているということだ。
        *         *
 もう1本リメイクの話題で、1985年に発表されたジョージ
・ロメロ監督作品“Day of the Dead”(死霊のえじき)の
再映画化が、スティーヴ・マイナー監督の手で行われること
が発表された。
 オリジナルは、言うまでもなくロメロのゾンビシリーズの
第3作で、Night、Dawnときたシリーズがついに昼間になっ
たという作品。オリジナルの物語は、すでに地上のほとんど
がゾンビに支配されてしまった時代を背景に、軍の地下壕で
研究を続ける軍人と科学者たちの姿を描いたもので、そこに
拉致されて研究材料にされているゾンビの知性が研究された
り、何となく交流が始まる雰囲気も漂わせていた。
 ただし映画は、後半アクションになっては来るが、前半は
どことなく牧歌的という感じの描写が続くもので、封切りで
見たときにはあまり好印象は持たなかった記憶がある。今見
直すといろいろ発見もありそうな気もするが、当時は“Dawn
of the Dead”の鮮烈なイメージに比べるとちょっとという
感じもしたものだ。
 その作品をリメイクする訳だが、監督のマイナーは、『13
金』のパート2や『ハロウィン』の20周年記念作を手掛けて
いる他、『ガバリン』というちんけな邦題で公開されたが、
ホラーコメディの元祖とも呼べる1986年の“House”なども
監督しており、映画のセンスはそれなりの人と考えている。
 またリメイクの脚本は、2000年の『ファイナル・デスティ
ネーション』などを手掛けるジェフリー・レディックが担当
しているもので、この組み合わせならホラーとしてもそれな
りのものが期待できそうだ。それに製作を、アクション専門
のエメット/ファーラが担当しているのも期待を持たせると
ころで、間違っても『ドーン・オブ・ザ・デッド』にはなっ
て欲しくないものだ。
        *         *
 お次は、『マダガスカル』が好調のドリームワークス・ア
ニメーションから、またまた動物を主人公にしたCGIアニ
メーションの計画が発表されている。
 今回の作品は“Kung Fu Panda”と題されているもので、
お話の舞台は、いろいろな動物たちが集まって暮らす平和な
谷間。ところがある日、その谷間の出入り口に強力な敵が現
れ、谷間の住人たちはその敵と戦うヒーローの登場を待ちわ
びることとなる。
 そして主人公は、その谷間に住む動物たちの中でも一番怠
け者と思われているポーという名前のジャイアントパンダ。
彼は何となく武道大会に参加するのだが、彼が何気なく繰り
出す技はそれを見つめる師範たちに目を見張らせるものばか
り。このため彼には「選ばれし者」の称号が与えられること
になるのだが…
 あのジャイアントパンダが空手とは…という感じのお話だ
が、さらにこの声をジャック・ブラックが演じているという
から、まあお似合いというか、これは面白いことになりそう
だ。そしてこの作品の声の出演者には、この他にもオールス
ターキャストが発表されている。
 その顔ぶれは、ダスティン・ホフマン、ジャッキー・チェ
ン、ルーシー・リュー、イアン・マクシェーン。この内、ホ
フマンはシフという名の伝説のカンフーマスター、チェンは
猿の師範、リューは毒蛇の師範の役ということで、彼らがパ
ンダを闘士に仕立てることになるようだ。またマクシェーン
はタイ・ランという名の敵役の雪ヒョウとされている。
 ホフマンは、今春公開の『レーシング・ストライプス』で
もシマウマを競争馬に訓練するポニーの声を宛てていたが、
この手の役をやらせると、正しくはまり役というところだ。
それにチャンの猿というのも判る。一方、リューが演じる毒
蛇はシャイで女性的な見かけだが、内には戦士の魂を持つと
いうことで、これもはまりそうだ。
 作品は、ジョン・スティーヴンスンとマーク・オズボーン
の監督で、公開は2008年5月の予定とされている。
        *         *
 前回も紹介したが、第4作の『炎のゴブレット』が11月18
日に全米公開されたハリー・ポッターシリーズで、第5作の
“The Order of the Phoenix”の撮影計画と、第6作“The
Half-Blood Prince”の脚本家の名前が発表された。
 まず第5作の撮影は、前回報告したように来年2月にリヴ
ァースデン撮影所で開始されるものだが、この撮影には1億
5000万ドルの製作費が計上されているということだ。そして
実は、今までイギリスでの映画撮影には税制上の優遇措置が
採られていたものだが、その措置が3月31日に撤廃されるこ
とになっており、製作費3500万ドル以上の撮影では7%近い
税金の増加が見込まれるとされている。
 このため、一時はチェコに撮影が移されるのではないかと
いう憶測も流れたようだが、ワーナーでは撮影開始を2月に
繰り上げることで旧税法での取り扱いが得られるようにし、
ロケーション撮影も含めた全編の撮影をイギリス国内で行う
と発表したものだ。従って、次回以降の撮影がどうなるかは
不明だが、税法の改正でイギリス国内で撮影されるハリウッ
ド映画の総製作費が40%(約6億ドル)落ち込むという試算
も発表されているということで、先行きは不透明なようだ。
 そしてその2月に撮影開始される第5作の脚本は、1997年
の『コンタクト』などのマイクル・ゴールデンバーグが担当
したものだが、第6作ではスティーヴ・クローヴスが復帰す
ることも発表された。
 因にクローヴスは、第4作までの脚色を担当していたが、
第5作の脚色を行う時期には、自ら“The Curious Incident
of the Dog in the Night-Time”という作品を脚色監督す
る計画があったために降板を余儀なくされていた。しかしそ
の計画が頓挫してしまい、改めて第6作の脚色に復帰となっ
たもので、いよいよ佳境となる物語をどのように脚色するか
注目されるところだ。
 なお、僕は原作の第6巻をすでに読み終えているのだが、
この巻は、次回の最終巻に向けてかなり溜めに入っている感
じもして、派手なアクションなどは相当に抑えられている。
その分、人間関係などは克明に描かれているのだが、さてこ
れを映画化するには、脚色に相当の力量が要求されそうだ。
ここにベテランの復帰は心強いが、大変な作業になることは
変わりがないものだ。
        *         *
 東京国際映画祭では、女性タレントとの2ショットばかり
が話題になっていた『ブラザーズ・グリム』のテリー・ギリ
アム監督だが、続いて行われたロンドン映画祭の記者会見で
は、今後の映画製作の計画についての質問にも答えている。
そしてその回答として、2000年9月に撮影開始されて直後に
中断された“The Man Who Killed Don Quixote”の製作に再
開の可能性が出てきたということだ。
 この製作が中断に至った経緯については、2003年2月に紹
介したドキュメンタリー作品“Lost in La Mancha”でも詳
しく報告されていたものだが、撮影の行われたスペインの高
地が突然大雨に見舞われたり、上空をNATOのジェット戦
闘機が飛び交ったり、挙げ句にキホーテ役に起用されたフラ
ンス人俳優ジャン・ロシュホールの体調が不良となって、結
局それが引金で撮影開始6日目に製作が断念されたものだ。
 この結果、それまでの撮影準備などに掛かった経費に対し
ては保険金が支払われることになったが、その引き換えに映
画の脚本は保険会社の管理下に置かれ、その許可無しにはこ
の映画の製作は出来ないこととなっていた。
 しかしここに来て、フランスの製作会社が保険会社に対し
て脚本を取り戻すための交渉を開始、つまりそれは必要な金
を払って脚本を買い戻すと言うことだが、その交渉がまとま
りつつあるようだ。またギリアムは、先に行われたトロント
映画祭で主演のジョニー・デップと会って話し合ったことも
認めており、デップも再度主演することを了承しているとい
うことだ。
 ということで、“The Man Who Killed Don Quixote”の製
作が再開できるかも知れないことになったものだが、撮影が
中断された2000年当時と今とでは、主演のデップの人気のス
ケールもずいぶんと拡大してきており、この時期に本人が乗
り気の作品となったら、これは製作会社としては、いくらお
金を積んでもぜひとも実現したいと言うのが本音だろう。も
ちろんギリアムもそれを見込んで、最初にデップの了承を得
に行ったのだろうし、これは再開の可能性もかなり高いと見
て良さそうだ。
 ただし、現状では前回製作が中断された原因については何
も解消されていないもので、このまま再開しても同じ事態に
なる恐れは多分にある。しかしこの点についてギリアムは、
「前の撮影では自分のやり方を守れなかったところがある。
そのことは後で皆に指摘されたが、今度は自分のやり方を貫
いてやれる」としており、ギリアム自身も前の時とはずいぶ
んと違ってきているようだ。
 因にデップは、“The Pirates of the Caribbean”の2本
の続編の撮影とその仕上げに来年の初旬までは掛かりそうだ
ということだが、その他にも、以前から紹介している“The
Rum Diary”や“Shantaram”、“The Diving Bell and the
Butterfly”などの計画が山積みになっている状態。でも、
ここはぜひとも再開を祈りたいものだ。
        *         *
 またまたヴィデオゲームからの映画化で、コナミから発表
されているヴァンパイアもののシリーズ“Castlevania”の
映画化をポール・S・アンダースンの脚色と監督で進めるこ
とが発表された。
 このゲームは1986年に第1作が発表されたという長寿シリ
ーズで、その最新作の“Castlevania: Curse of Darkness”
は今年11月8日に全米で発売されたばかりということだ。物
語は、ドラキュラと、ヴァンパイア・キラーの一族ベルモン
ト・クランとの闘いを描いたもので、この一族が人類最後の
希望になると思われている…という設定のもののようだ。
 そしてこのゲームの映画化権を、ニコラス・ケイジ主演の
コミックスの映画化“Ghost Rider”などを手掛けるクリス
タル・スカイ・ピクチャーズが獲得し、この計画にアンダー
スンが参加することになったものだ。
 なおアンダースンは、1995年の“Mortal Kombat”を手始
めに、2002年と2004年の“Resident Evil”(バイオハザー
ド)、さらに2004年“Alien vs. Predator”と、ヴィデオゲ
ームの映画化では、第1人者という感じだが、ドラキュラと
なると、それなりに決まりごともあるもので、その辺をどの
ように料理してくれるかも楽しみになりそうだ。
 撮影は2006年の中頃に行われる予定だが、キャスティング
等はまだ発表されていない。ただしアンダースンには、以前
に紹介したように“Resident Evil 3”の計画もあるはずだ
が、そちらはどうなっているのだろう。
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 最後はワインスタインCo.の計画で、アダム・A・ゴール
ドバーグとアーネスト・クラインという脚本家による“Fan
Boys”と題された脚本を契約したことが発表されている。 
 この作品は、アメリカ中西部に住む『スター・ウォーズ』
ファンの若者たちを主人公にしたもので、彼らの仲間の一人
が不治の病に罹り、その仲間に一目撮影のセットを見せよう
と、皆で西海岸のスカイウォーカー・ランチを目指すという
もの。この手のお話は、今までにもいろいろ作られていると
いう意見もあるようだが、目的地が『スター・ウォーズ』の
製作地というのも良いし、それにワインスタイン兄弟が契約
したということでも期待できそうだ。
 来年2月1日に撮影開始の予定で、監督は新人のカイル・
マン。また製作は、ケヴィン・スペイシー主宰のプロダクシ
ョン=トリガー・ストリートが行うことになっている。
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 もう一つ、訃報というか悲惨な事件だが、9日に発生した
アンマンの爆弾テロで、『ハロウィン』シリーズ全8作の製
作総指揮を務めたムスタファ・アッカドが亡くなったことが
報道された。
 アッカドは名前からも判るようにアラブ系の人で、監督と
してイスラム教を扱った『メッセージ』『砂漠のライオン』
などの作品でも知られている。特に後者は、20世紀前半のリ
ビアでの対イタリアレジスタンスを描いたもので、この映画
化にはリビアのカダフィ大佐も資金提供をしたとも言われて
いる。従って、どちらかと言うとテロリストの側にも近い人
のようにも見え、そんな人がなぜ…というところだが、正に
無差別テロという感じで恐ろしいものだ。
 映画人として優秀な人だったかどうかはよく判らないが、
取り敢えずはジョン・カーペンターにチャンスを与えた人と
して記憶されることになりそうだ。冥福を祈りたい。


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井口健二