井口健二のOn the Production
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2005年09月28日(水) Movies−High 6

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※このページでは、毎年招待を受けているNWC(ニュー※
※シネマワークショップ)の新作発表会に今年も出席させ※
※てもらったので、その感想を述べさせていただきます。※
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今年のMovies−High 6では、特別プログラムと
してプロの監督が講師となっている演技クラスの作品も上映
された。                       
作品は、『青空のゆくえ』を7月に紹介した長澤雅彦監督に
よる6本と、古厩智之監督の4本、五十嵐匠監督の2本、富
樫森監督の4本だが、これらの作品はプロの脚本演出による
ものであり、また、監督たちはこのような上映を想定してい
なかったと思われるので、詳しく紹介することは遠慮する。
しかしそれぞれさすがプロという感じがしたものだ。   
特に、長澤監督の6本は、全体を『Doors』というタイ
トルで括った連作になっており、それぞれは短編と言うより
ショートショートと呼びたくなる長さの作品だが、機知に富
んだもので、このままフィルムで撮り直して一般上映してほ
しくなるような作品だった。              
他の3人の監督の作品も、それぞれ短編映画としてきっちり
と纏まったものだったが、その中で古厩監督の4本は見事な
会話劇で、学んでいるとは言え、まだプロではない出演者た
ちにこれだけの演技をさせていることにも感心した。   
全体を通して演技の質はかなり高く、一部日本映画の飛んで
もない演技を見せられている目には心地よく感じられ、来年
もこの企画は続けてもらいたいと思ったものだ。     
と言うことで、以下には今回上映された12人の新人監督の作
品の感想を述べさせていただきます。          
                           
『ボクと彼女とりんご』                
何となく倦怠期の2人。ちょっとしたことで口喧嘩になった
り、会話もちぐはぐになっているが、些細な出来事でその関
係が元に戻って行く。                 
青春にありがちな風景のスケッチかも知れないが、多分、そ
の青春真っ只中にいる監督の感性が、素敵な物語を作り出し
ている。実は男性が遭遇した出来事は、そんなに些細なこと
ではないのだが、そんなことはどうでも良くなってしまうよ
うな最後の会話が、見事に映画を締め括っている。躊躇なく
好きと言える作品だろう。               
                           
『ソーダポップホリデー』               
大学3年だが、生活実感のまるでない4人の女子学生の夏の
1日。セレブに憧れる4人は、着陸コースの真下の海岸から
手旗でパイロットに電話番号を伝えようとするが…    
こんな女子学生、本当にいるのかなと思いながらも、まあフ
ィクションだからこの程度は許容できるかなと言うところだ
ろう。その行為のむなしさに気付く辺りを、もう少し丁寧に
描いてもいいかなとも思える。また、本作はこれだけでも短
編として充分に成立してる作品ではあるが、逆にもっと長い
作品の途中に納めても良いような感じもする。そんな作品も
見てみたいと思った。                 
                           
『GAME OVER』                
青年実業家との結婚を控えた女性が誘拐されるが、誘拐の際
に携帯電話が紛失する。そこで犯人は彼女のうろ覚えの電話
番号に脅迫電話をかけるが…              
どじな誘拐事件とそれに振り回される人々を描くコメディは
有り勝ちなものと思うが、携帯電話の使い方とのその顛末に
は新しいものを感じた。ただし結末は、これではちょっと単
純すぎていただけない。ここからもう一捻りするのがプロと
言えるかどうかの境界線だろう。それと、強迫された男と自
宅との距離関係が判りにくい。これなら、自宅まで走って確
認に行くような描写があっても良いような気もした。   
                           
『鳥』                        
物語は詩集を買わせてもらったので理解したが…     
ムビハイでは初めてのアニメーション作品。アニメーション
を作ることの大変さは充分承知しているが、あえてムビハイ
でやるものかどうかには疑問を感じた。アニメーションはプ
ロの養成学校も多く、やるならそちらに行くべきだろう。正
直に言って技術的に特に優れているものとも思えなかった。
この詩集を基にするなら、実写でドキュメンタリーのような
作品にするのも手だったような感じもする。この詩の通りの
映像を実写で集めたら、それも素敵な作品になると思うが。
                           
『一銭店屋の帰り道』                 
駄菓子屋の主人から特別にもらった特大のスーパーボール。
その大事な宝物を秘密基地に隠すことにした主人公は、早朝
家を抜け出して基地に向かう。             
子供時代のいろいろな出来事をごった煮にしたような作品。
『スタンド・バイ・ミー』の幼年版というような感じもする
が、ちょっと前半が長すぎる感じがした。もっと後半の冒険
に集中して描いたほうが素敵な作品になったと思うし、正直
後半があっけなかった。早朝子供を使っての撮影は大変だと
思うが、昼間を早朝に見せる方法はいろいろある訳で、その
辺も使えばもっと映画らしくなったような気もした。   
                           
『放課後とキャンディ』                
クラスメイトの男子に密かな恋心を抱く主人公は、目指す相
手が日直の日に放課後まで教室に残って、彼にキャンディを
渡すチャンスを得る。                 
自分の中学生時代を思い出せば判るような初恋物語。わざと
窓の鍵を開けて、翌日も日直になるように仕向けたり、彼の
悪口をいう女子に思わずむきになったり。一方、もらったキ
ャンディを奪われて取り戻すために蛮勇を振るったり…そん
な青い思い出が蘇ってくる作品。とは言え、何か物足りなさ
も感じてしまう。それは結局、青春という題材自体の中途半
端さ故のものであって、仕方のないのものなのだが。   
                           
『透明なシャッター』                 
主人公はカメラマン志望だったが、父親の病状が思わしくな
くなり、夢を諦める決心をする。しかし父親が最後に彼に望
んだことは…                     
映像を学ぶ人たちだけあって、毎年1本はカメラマンを主人
公にした話があるような気がする。多分、心情とかも一番理
解しやすいのだろう。そして映画の中で作り手側の分身であ
る息子は、父親の意見に従うつもりでも、そこに一婁の期待
も持っている。そして父親側の年代である自分(観客)は、
息子をこんな風に理解してやりたいと思っているのだが。作
り手の気持ちが、一番理解できた作品のように思えた。  
                           
『Nature Calls Me』          
今回上映された中では唯一のSF作品。用を足すときにその
便座ごと大自然の中に瞬間移動する。そんな究極の癒し商品
「極楽便座」を巡って、欲と欲がぶつかりあう物語。   
100万円はちょっと高いけれど、あったら欲しいかも知れな
い商品。でも、明らかにPL法で取り締まられそうだ。単純
なアイデアストーリーとしては良いと思うし、捻りもいろい
ろある。ただし時間の流れが無茶苦茶すぎて、その辺はもう
少し論理的な説明が欲しいところだ。CGIを使った映像は
見事なものだったし、技術的なレベルはOKだが、その分、
結末が物足りなく感じられてしまったのは残念だ。    
                           
『痩せる薬』                     
娘がいじめに合っている家庭。嫌がらせの郵便物も数多く届
き、それを詰めた段ボール箱が部屋中に堆く積まれている。
そして遂に娘は復讐の手を打つが…           
いじめというのは当事者でないと判らないものだと思うが。
本作ではそれを戯画化して描こうとしている。それ自体はか
まわないが、どうせやるなら、もっと徹底的に段ボール箱の
数を増やして、徐々に家庭が浸食されていく様子や、最後に
押しつぶされそうになる姿まで描いたほうが良かったのでは
ないかと思った。正直に言って復讐の手口は実際にあったも
のだし、それを描くだけでは物足りないと感じるものだ。 
                           
『マリアンヌの埋葬』                 
何となく出会ってつきあった女子高生。つながりはそれで終
りのはずだった。その日、彼女から道端で見つけた猫の死体
の始末をしてくれと頼まれるまでは…          
遊びに明け暮れてドライに生きていると思われる女子高生。
しかし優しさも少しは残っていて、道端の猫の死体は放置し
ておけない。でも頼める相手は誰もいなくて、結局その日つ
きあった男性に電話をしてしまう。僕はこの映画の中に、そ
んな現代人の孤独を感じた。そしてそんな女性に、明らかに
下心抜きでつきあってやる、そんな男の優しさにも良いもの
を感じた。この線で人間を見詰めていってほしいものだ。こ
の作品も躊躇なく好きと言える。            
                           
『チェリーハイツ』                  
アパートの隣の住人が怪しい。ベランダの植物は枯れたし、
電気ガスは止められて変な匂いも漂ってくる。主人公は友人
を誘ってその部屋を調べようとするが…         
本当にありそうな物語。異臭がして入ってみると死体を発見
なんてニュースは日常茶飯時だ。そんな事態に遭遇した人物
を、如何にもありそうに描いている。最初はおっかなびっく
りでも、だんだん大胆になって行く。しかも入って見た部屋
は異常この上ない様子になっている。そんな捻りも結構楽し
めた。主人公が女子というのもありそうで、男だったらまず
こんなことはしない。そんな風にも考えた。       
                           
『扉よ開け』                     
オカルトホラー感覚の作品。主人公は愛猫家のごく普通の若
者だが、黒魔術の同好会にも入っている。その会に悪魔と取
り引きしたという謎の男が現れて…           
恐怖は映画の原点の一つというのは、この作品の監督も心得
ているようだ。それはその通りだが、安易にアクションやス
プラッターに逃げてしまっては、その志もあやふやになる。
本作では、特に主人公も含めて簡単に殺されすぎだ。これは
結末に対する監督の考え方もあると思うが、つまり監督の言
うところのハッピーエンドにしすぎなのだ。この物語は、本
来は悪魔との取り引き者は誰なのかを決めるものであり、そ
のためには全員がハッピーになってはおかしい。ハッピーエ
ンドは主人公と猫のチンペイだけに絞って、他は全員不幸な
エンディングの方が良かったと思うが、どうだろうか。  
                           
以上、12作品への感想とします。            
なお、SFホラー関係の作品には、自分なりの思い入れがあ
りますので、多少厳しいと思いますがごめんなさい。でも、
『扉よ開け』の監督も言っているように、ホラーは映画の原
点の一つでもありますので、できれば毎年挑戦してくれるこ
とを期待します。                   
来年もよろしくお願いします。             


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井口健二