井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2005年07月15日(金) 第91回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 最初は、映画製作とは直接関係はないが、気になった話題
から。
 この作品については、僕には試写状も届かなかったし、別
段ここで取り上げる義理もないものだが、6月末に公開され
たSF映画“War of the Worlds”(宇宙戦争)について、
結末がいい加減だとか、捻りが無いなどという批判を見かけ
たので、SFファンとして一言ここで述べておきたい。
 確かにこの物語はあっけなく終結する。しかしそれは、H
・G・ウェルズが描いた原作通りの展開なのであって、しか
もこの原作は、この結末のあっけなさゆえに成立している物
語とも言える。従って、もしこれ以外の結末を付けたとした
ら、それは最早ウェルズの映画化とは呼べなくなってしまう
ものなのだ。
 ここで、上記のようなことを言っている人たちが、例えば
地球人が大々的に反攻して侵略者を叩きのめすようなものを
期待していたのだとしたら、それこそが思い上がりというも
のであって、そのような物語はウェルズが最も否定したかっ
たものだろう。
 つまりこの物語のテーマは、思い上がった地球人にさらに
上位のものがいるかも知れないということを教えたかったも
のであって、その侵略の前に為す術もなかった地球人が自然
界の微生物によって助けられるという皮肉を描いたものなの
だ。しかしそういうことも理解できずに、ただ地球人はいつ
でも偉いという思想に固まっている人たちこそ哀れというも
のだろう。
 ついでに書いておけば、1996年に公開されたローランド・
エメリッヒ監督の“Independence Day”では、地球人の反攻
によって侵略者を撃退するが、ここで侵略者を倒すために利
用した手段は、正にこのウェルズの原作にオマージュを捧げ
ているものなのだ。そしてこの作品がウェルズの没後50周年
の年に公開されたことも考えると、エメリッヒのSFへの思
い入れを感じたものだ。
 つまり、ウェルズの原作に絡めて地球人が反攻する作品は
すでにこのとき作られているのであって、それを改めて作る
必要性は全く無かったとも言える。日本人が歴史を顧みない
国民であることは、あらゆる面で言えることだが、多少なり
ともオピニオンリーダーになるような人たちは、もう少し考
えて発言してほしいと思うところだ。
        *         *
 もう一つ、こちらはポジティヴな話題で、俳優のモーガン
・フリーマンが、半導体メーカーのインテルと組んで、映画
の配信を行う新会社を設立したことが発表された。
 この話題は、インターネット関連の情報なので、日本のウ
ェブ上でも一部で報道されていたようだが、その新会社のこ
とはさておいて、僕はフリーマンとインテルという組み合わ
せが気になったところだ。
 実はこの組み合わせについては、2002年6月15日付の第17
回で報告しているが、フリーマンが長年計画しているアーサ
ー・C・クラーク原作“Rendezvous With Rama”の映画化で
も協力が発表されているもので、今回の報道でその関係が切
れていないことが確認できてほっとしたものだ。
 一方、この映画化に関しては、2002年12月15日付の第29回
で報告したようにパラマウントの参加も発表されているが、
上記したパラマウント製作“War of the Worlds”では、フ
リーマンがウェルズの台詞を代弁するナレーターを務めたり
もしており、この人間関係はかなり期待が高まるものとも言
えそうだ。
 ただしこの計画に関しては、監督にデイヴィッド・フィン
チャーの名前も発表されているが、フィンチャーは後述する
ように、これもパラマウントも絡んですでに来年までスケジ
ュールが詰まっており、このままだとまだ時間が掛かりそう
だ。そこで、何とかその間隙を突いてもらいたいと言う感じ
ではあるが、あまり拙速に作られても困るものだし、いろい
ろ悩むところだ。
        *         *
 以下は、いつものように製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、上の記事でも触れたデイヴィッド・フィンチャー
監督の情報で、2002年公開の“Panic Room”(パニック・ル
ーム)以来、新作の無かった監督に、今年2月1日付の第80
回で紹介した“Zodiac”に続けて、“The Curious Case of
Benjamin Button”の計画も、ワーナー+パラマウントの共
同で進められることが発表された。
 後者の“Benjamin Button”については、ここでは紹介し
ていなかったようだが、“The Great Gatsby”(華麗なるギ
ャツビー)などのF・スコット・フィッツジェラルド原作の
短編小説を、“Forrest Gump”などのエリック・ロスの脚色
で映画化するもの。年齢が徐々に若返って行くという不思議
な状況に陥った50代の男性が、30代の女性に恋をするが…と
いう特殊な状況の中での男女の恋愛が描かれるものだ。
 そしてこの物語を、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシ
ェットの共演で、ニュー・オーリンズを舞台に描く計画とな
っている。因にピットとフィンチャーは、“Seven”“Fight
Club”に続いて3度目の顔合せになる。
 なおこの計画は、実はパラマウントとワーナーの共同製作
では、“Zodiac”より先に進んでいたものだが、VFXの多
用による製作費の高騰などが予想されて頓挫していた。しか
し今回の発表で、この作品も、“Zodiac”の製作完了後の来
年10月に撮影開始されることになったようだ。フィンチャー
としては本当に念願の作品だったようで、無事完成すること
を期待したい。
 一方、“Zodiac”については、主人公の捜査官を演じるマ
ーク・ラファロ、新聞記者役のロバート・ダウニーJr、共演
のジェイク・ギレンホール、アンソニー・エドワーズらに加
えて、ゲイリー・オールドマンの出演が決定され、今年9月
の撮影開始が発表されている。なおオールドマンが演じるの
は、サンフランシスコ在住で「不法行為の帝王」とまで呼ば
れたメルヴィン・ベリという弁護士の役、彼は、1969年に殺
人鬼からのクリスマスカードを兼ねた犯行予告の手紙を受け
取った人物ということだ。
        *         *
 お次は、1972年にジョージ・ロイ・ヒル監督で発表された
“Slaughterhouse 5”(スローターハウス5)などの原作者
カート・ヴォネガットが1963年に発表した“Cat's Cradle”
(猫のゆりかご)を映画化する計画が、レオナルド・ディカ
プリオのプロダクションから発表された。
 この作品は、常温で水を結晶化させる新たな構造の氷(ア
イス9)を巡る終末的な地球の姿を描いたもので、一時はノ
ーベル文学賞の呼び声もあったアメリカ人作家の出世作であ
り、代表作とも呼ばれている作品の一つだ。
 物語は主に、カリブ海に浮かぶ小島国サン・ロレンゾで進
む。その島にはボコノン教と呼ばれる独自の宗教があり、そ
の教えによって国の政治も経済も成立しているのだが、その
裏にはアイス9(それは一旦地上の水と接触すれば、一瞬の
内に世界中の水を凍結させ、人類を破滅に導く)による究極
の終末思想が形成されていた。このボコノン教の思想が一時
は学生の間でも大いに持て囃されたものだ。
 そして今回はこの脚色を、クライヴ・カッスラー原作の映
画化“Sahara”(サハラ)の脚色を手掛けたばかりのジェー
ムズ・V・ハートと、彼の息子のジェイクが担当することに
なっている。因に父親は、ロシア生まれの女流作家エイン・
ランドが1957年に発表した社会主義に屈したアメリカを描い
た近未来小説“Atlas Shrugged”の脚色も、『サハラ』を製
作したボウルドウィン宛に手掛けているようだ。
 なお、ディカプリオは先にワーナーと優先契約を結んで、
新作の“The Departed”は同社で製作されているが、本作の
製作に関しては未定のようだ。
        *         *
 ロバート・アルトマン監督がミネアポリスで撮影を開始し
た新作“A Prairie Home Companion”に、メリル・ストリー
プ、リリー・トムリン、リンゼイ・ローハン、ウッディ・ハ
レルソン、ケヴィン・クライン、ジョン・C・ライリー、そ
してトミー・リー・ジョーンズらの出演が発表されている。
 この作品は、1974年の放送開始以来、全米で500局以上に
ネットされ、数多くの賞にも輝いている同名のラジオ番組を
モティーフにしたもので、多くのミュージシャンやパフォー
マーが登場したこの番組の「最後」の1日を、番組司会者の
ガリソン・ケイラーが執筆した脚本で描こうというもの。因
に、脚本はフィクションとして描かれているものだが、映画
にはケイラー本人も自身の役で登場するようだ。
 そして映画では、大団円を迎える番組の出演者や舞台裏な
どの様子が描かれることになるが、これだけの役者陣を揃え
て、“Gosford Park”(ゴスフォード・パーク)などでお馴
染みのアルトマンお得意のアンサンブル劇が思い切り展開さ
れることになりそうだ。なお、ストリープとトムリンは番組
に出演する姉妹の役、ローハンはこの騒ぎに紛れ込んだ純朴
な少女の役、またジョーンズは番組の終了を決めたスポンサ
ーから派遣された人物の役ということだ。
        *         *
 全米で1億ドルを突破した“Batman Begins”の続編製作
は当初から決まっていたようなものだが、そのキャスティン
グの噂が飛び交い始めている。
 それによると、まず敵役として続編にはトゥー・フェイス
が登場し、その役には2000年に“Model Behavior”というテ
ィーン作品に出ているジャスティン・ティンバーレイクとい
う噂だ。また、降板が噂されているケイティ・ホームズに変
わる新たな恋人役には、『スクービー・ドゥー2』や『ハッ
カビーズ』、それに新作の“Wedding Crashers”などに出て
いるアイラ・フィッシャーの名前が挙がっている。
 なお続編の敵役については、第1作の中では別の名前も出
ていたものだが、第1作も敵役はラーズ・オ・グールとスケ
アクロウの2人だったし、続編も2人ということになるのだ
ろうか。一方、恋人役の役名は不明だが、ラーズ・オ・グー
ルの娘のタリアという説もあるようだ。
 それにしても、まだ駆け出しと言っていい俳優の名前が並
んでいる感じだが、第1作のキリアン・マーフィもそれに近
いものだったし、前のシリーズではハリウッドの大物スター
を並べた製作方針から、今回は180度方向転換ということに
なるのだろうか。
 バットマンのクリスチャン・ベールには3作の契約という
情報もあり、主要なキャスティングは継続される模様だが、
さて、この続編の製作は一体何時になるのだろう。
        *         *
 お次も続編の話題で、今年20年来と言われるアメリカ映画
界の不振の原因は、続編ばかり作り過ぎているせい、という
意見もあるようだが、それにもめげずソニーから3本の続編
の計画が発表されている。
 その続編は“I Know You Did Last Summer 3”(ラスト・
サマー3)、“Hollow Man 2”(インビジブル2)、そして
“Road House 2”(ロード・ハウス2)の3本。
 この内、1997年と1998年に前作が作られた『ラスト…』の
第3作については、オリジナルも手掛けた『ワイルド・スピ
ード』や“Stealth”などの製作者ニール・モリッツが進め
ているもので、脚本はマイクル・ウェイスが執筆中となって
いるが監督は未定。また主人公は10代の若者ということで、
前2作に主演したジェニファー・ラヴ・ヒューイット、フレ
ディ・プリンゼJrと、第1作に主演のサラ・ミッシェル・ゲ
ラーら、オリジナルキャストの再演はなさそうだ。
 一方、人間を透明にする実験の顛末を描いた『インビジブ
ル』はレッド・ワゴンの製作で、オリジナルは2000年にポー
ル・ヴァーホーヴェンの監督で映画化されたものだが、今回
の続編では、脚本のジョール・スワッソンと、監督のクラウ
ディオ・ファーがすでに決定しているということだ。
 そして、『ロード…』のオリジナルは、1989年にジョール
・シルヴァの製作、パトリック・スウェイジの主演で発表さ
れた作品だが、実はこのオリジナルは、当時はMGM傘下の
UAで製作されたもので、昨年のMGM買収の効果がいよい
よ現れて来ているようだ。
 まあ、これらの作品はいずれも大作と呼べるものではない
が、それぞれオリジナルの製作当時は話題になったもので、
その続編が登場すればそれなりに話題にはなりそうだ。ただ
し今回の計画では、配給をコロムビアにするか、ホラーブラ
ンドのスクリーン・ジェムズにするか、あるいは直接DVD
での発売になるかは未定ということだ。
        *         *
 続いては新技術の話題で、ドルビー研究所が新たに開発し
た3D上映システムの第1作として、ディズニーが今年11月
4日に全米公開する“Chicken Little”に採用されることが
発表された。
 この新システムの詳細は明らかではないが、従来の赤青フ
ィルタを使用したものではないとされており、敢えてこのシ
ステムに対比されているということは、最近話題になってい
る琥珀と水色のフィルタを使うシステムの可能性もありそう
だ。またこのシステムは、専用のデジタル上映館で実施され
るもので、全米では25都市100館程度の上映になるようだ。
 因に、現在の全米のデジタル上映館は80館程度と言われて
いるが、今回の上映はそれとは別に新規に設置される100館
で行われるもので、これにより全米のデジタル上映館の数が
一挙に2倍以上に増える勘定だそうだ。
 一方、今回の“Chicken Little”の製作では、あらかじめ
2Dで製作されたCGIアニメーションを3D化したものと
いうことだが、この3D化に当ってはディズニーの要請に応
えてILMが技術協力をしたということだ。しかしそれは、
単なるポストプロの枠を超えて共同製作に近いものだったと
も言われている。ただし今回の3社間の契約は相互に排他的
なものではなく、今後はそれぞれの会社が開発した新技術は
独自に使用できるということだ。
 まあ、具体的なシステムが判らないと正確なことは言えな
いが、これによって今までより多くの映画会社の3Dへの参
入が期待されているようだ。
 最近の3D映画の制作システムでは、ソニーとジェームズ
・キャメロンが開発して“Ghost of the Abyss”やロベルト
・ロドリゲス監督の“Spy Kids 3-D”で採用されているもの
や、昨年の“The Polar Express”でIMAX社が開発した
システムが実用化されているが、今回はそれとは違う方面か
ら出てきたもので、新しい動きになるものだ。
 ただし今回の技術では、実施は新規に設置されるデジタル
上映館に限るということで、日本では、新規のシステムとい
うことではなかなか採用が難しそうだ。今回のケースでは、
ドルビー研究所が直接働きかけるとなれば、それなりの動き
も出そうだが、1館でもいいから日本で採用されることを期
待したい。
        *         *
 後は続報をまとめておこう。 
 1本目は、2003年3月15日付の第35回でも紹介した“The
Secret Life of Walter Mitty”(虹を掴む男)のリメイク
で、製作を担当するパラマウントから、主演にオーウェン・
ウィルスンを起用することが発表された。
 このリメイクでは、当初はジム・キャリーの主演で、ニュ
ーラインでの製作が進められていたものだが、オリジナルを
製作したサミュエル・ゴールドウィンの子息で、リメイク権
を持つゴールドウィンJrとニューラインとの意見が相違し、
以前の紹介ではこの製作権がパラマウントに移されたことを
報告したものだった。
 しかしその時、併せて報告されたスティーヴン・スピルバ
ーグの監督は結局実現しなかったもので、さらにキャリーの
出演もキャンセルとなっていた。そして現在は、リンゼイ・
ローハン主演の“Mean Girl”などを手掛けたマーク・ウォ
ーターズ監督と、脚本はリチャード・ラグラヴェニース執筆
によるものが進行しているようだ。
 その主演にウィルスンの起用が発表されたものだが、キャ
リーとウィルスンでは、コメディの方向性が多少違うような
感じもする。ただし、オリジナルはダニー・ケイが演じてい
たもので、その点から言うとウィルスンの方が近いような感
じもするものだ。しかし、似すぎてもリメイクの意味が無く
なるわけで、その辺がどうなるか仕上がりが楽しみだ。
 なお、1947年製作のオリジナル版では、第2次大戦で行方
不明になった王冠の宝石を巡るエピソードがあるが、リメイ
クではその部分で現代的な味付けがされているようだ。
        *         *
 2本目は、2003年1月1日付第30回などで紹介した“Mad
Max”の第4作の計画で、当時、撮影開始寸前まで行きなが
ら、イラク戦争の勃発のために無期延期となってしまった計
画について、監督のジョージ・ミラーはまだあきらめていな
いことを宣言している。
 これはオーストラリアの映画雑誌Empireが行ったインタビ
ューでの発言のようだが、その中でミラーは、「人々が期待
を持っていてくれる限り、監督は常に前の作品より良いもの
を作ることを目標に作品を作り続ける」と答えており、実際
“Mad Max VI”については「現実的な希望がある」と答えた
ようだ。ただし、主演のメル・ギブスンについては、契約か
らは程遠い状況にあるようで、ギブスン抜きの“Mad Max”
は考えにくい面があるし、その辺が問題になりそうだ。
 なおミラー監督本人は、現在はCGIアニメーション作品
“Happy Feet”(2003年4月15日付第37回参照)の製作が追
い込みに掛かっているようで、当面はその完成を目指すとし
ている。
 それにしても、今回のミラーの発言は、サンフランシスコ
に新スタジオを建設した苗字は違うが同じ名前のアメリカ人
監督にも聞かせたいものだ。
        *         *
 最後は、今年1月1日付の第78回で紹介した“Pirates of
the Caribbean”の続編にチョウ・ユンファの出演が正式に
発表された。
 この情報は、以前の紹介では続編2本に出演という話だっ
たが、今回の正式発表では“Pirates of the Caribbean 3”
のみへの出演となっているようだ。またこのパート3は、副
題が“World End”になるとの情報もあり、これは香港の海
賊が世界の果てのカリブ海に向かうのか、それともスパロー
船長らが香港に出向く可能性もありそうだ。
 なお撮影は、現在中断中だが、8月にロサンゼルスで再開
され、その後にカリブ海に戻ってパート2の続きと、パート
3の撮影が行われるということだ。なお公開は、パート2は
“Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest”の題名で
2006年7月、またパート3は2007年の夏の公開予定となって
いる。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二