井口健二のOn the Production
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2005年07月14日(木) さよならCOLOR、青空のゆくえ、空中庭園、チャッキーの種、銀河ヒッチハイク・ガイド、アイランド、奥様は魔女

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『さよならCOLOR』
竹中直人が原田知世をヒロインに迎えて監督・共同脚本・主
演した最新作。
竹中の監督作品は本作が5作目になるようだが、今までの作
品は1本も見ていない。これは多分試写状をもらっていなか
ったせいだと思うが、演技者としての竹中はいろいろ見てき
たので、それなりに興味はあったものだ。
物語の舞台は鎌倉。総合病院の勤務医として働く主人公は、
40代半ばで独身だが、飲み屋の女将が愛人だったり、女子高
生に援交を申し込まれたり、女性看護師のお尻を触っても冗
談で済ませられる程度の男性だ。
そんな主人公の前に一人の女性患者が現れる。彼女は主人公
の高校時代の同級生で、彼の憧れの的だったのだが…彼が名
前を告げても、彼女は彼のことを全く覚えていない。他の同
級生や先生のことは詳細に思い出せるのに、なぜか彼の思い
出だけが欠落している。
結局、彼の学生時代はそんな存在でしかなかった人間のよう
だ。しかし憧れの女性を前にした主人公は、彼女の病気克服
のため全力を挙げ始める。それは、同時に彼女に自分の存在
を思い出してもらう為でもあった。そしてその努力は徐々に
彼女に伝わって行くが…
ドラマになるような華やかなものではなかった青春。しかし
多くの学生時代はこの主人公のようなものであったはずだ。
そんなドラマにならない青春を見事にドラマにしてみせた、
そんな感じの作品。エピソードとして描かれる思い出には、
甘酸っぱいものを感じさせる。
そして彼女の為に全力を傾ける現在の主人公の姿が、実に等
身大で分り易く、見事に描かれて行く。
共演は、段田安則、雅子、中島唱子、水田芙美子。特に段田
の演じる普段とは違ったキャラクターが良かった。また、共
に医師役でゲスト出演の内村光良と中島みゆきが、それぞれ
良い感じで、竹中の監督としての力量を感じさせた。
実は先日、自分も同窓会があって、そこではお互い覚えてい
たりいなかったりでも、意外と自分が考えている以上に覚え
ているものだとも感じた。だから、こんな風に忘れられてし
まうということにはちょっと疑問に感じるところもあるが、
それは映画として、作品は素晴らしいものだった。

『青空のゆくえ』
『ココニイルコト』『13階段』などの長澤雅彦監督の最新
作。僕は上記の作品は見ていないが、第3作の『卒業』とい
う作品は東京国際映画祭で見て、それなりに評価をした記憶
がある。
中学3年の夏休み直前。バスケ部のキャプテンが家族の都合
でアメリカへ転校することを発表する。ところがその時、彼
が「やり残したことがある」と発言したことから、いろいろ
な波紋が広がり始める。
彼の周囲には、幼馴染みや、同姓なので名前を呼んだことの
ない学級委員長、バスケ部の女子キャプテンや、彼だけが話
し相手だった突っ張りの少女、さらに帰国子女などもいて、
それぞれの間で彼の思惑とは違った確執が始まる。
一方、彼には1年の時に不良少年グループに目を付けられ、
彼が助けることができずに登校拒否となってしまった友人も
いる。そしてその原因となった不良少年や、バスケ部の副キ
ャプテンなど、さまざまな人間関係が描かれて行く。
同じ日に見た『さよならCOLOR』とは正反対の、皆の注
目を浴びている少年の物語。でも彼自身に自覚はなく、また
男女の関係の自覚も薄い。そんな彼の態度が、一層、皆の思
いを乱れさせるのだが…そんなことにも無頓着だ。
ありそうで、なさそうで、そんな青春ファンタシーといった
感じの作品。今の中学生がこんなに清純かどうかも分からな
いが、ファンタシーとしては見終って清々しい気持ちになれ
る作品だった。
『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』のように
特殊なことをやっている訳でもなく、ごく普通の子供たちの
お話。何かテーマがあれば物語も作り易いが、この作品はそ
うではない。それでもこれだけの物語がある。そんなところ
にも魅力を感じる作品だ。
出演は、主人公に映画初出演の中山卓也。彼を取り巻く少女
たちに森田彩華、黒川芽以、多部未華子、悠城早矢、西原亜
奇。他の男子生徒に、佐々木和徳、三船力也、橋爪遼。  
いずれも1986−89年生まれで、新人といってもCMやドラマ
などの演技経験を積んでいる子達が多く、すでに他の映画で
主演の子や顔を見るとおやと思う子もいた。個性も豊かで、
今見ておくとこれからが楽しみなメムバーとも言えそうだ。

『空中庭園』
角田光代原作の婦人公論文芸賞受賞作の映画化。
東京郊外の団地に住む一家の物語。一家の住む部屋にはルー
フテラスがあり、そこには母親が丹精を込めた空中庭園が作
られている。そして一家は、家族の間に秘密を持たない主義
で、高校生の娘と息子にも、彼らを身籠もった過程まであか
らさまに話すほどの開放された家庭だ。
しかしその実体は、父親は2人の女性と不倫を重ねており、
娘も息子も登校はせず街をふらついている。そして母親は、
家族の前でも周囲の人々の前でも、いつもにこやかに振舞っ
ているのだが、実はこの母親には、家族に絶対言えない秘密
があった。
そしてある日、母親がパート先の同僚の若い女性に、彼女の
母から聞いたという高校時代の忌わしい思い出を暴露された
辺りから、この家族の関係が崩壊し始める。母親は、自分の
忌わしい過去から逃れるために理想の家族を作ろうとしてい
たのだが…
昨年の韓国映画『誰にでも秘密がある』ほどではないにして
も、どんな家族にでも互いに家人に言えない秘密はあるもの
だろう。しかしこの一家の場合は、秘密を持たないという約
束があるがゆえに、一層歪んだ秘密になってしまっている。
しかし、どんな秘密があろうと無かろうと、結局のところ家
族は家族なのであって、そんな「理想の」家族の現実が、ダ
ークなユーモアを彩りにして描かれて行く。そしてその戯画
化によって、現代社会における家族の一面が見事に描き出さ
れた作品と言えそうだ。
出演は、母親に小泉今日子、長女を鈴木杏。また大楠道代、
ソニン、永作博美といったちょっと癖のある顔ぶれが脇を固
めている。中でも小泉のいつも作り笑いを浮かべている表情
が、物語全体に無気味な感じを与えて、見事な世界を構築し
ていた。
小泉はアイドルと呼ばれていた時代から、ちょっと他の同年
代の女性タレントとは違う感じの人だったが、『踊る大捜査
線 THE MOVIE』でのハンニバル・レクターのパク
リ以外の何者でもない役柄を演じた辺りから芸風が広がった
感じで、本作でもいい味を出していた。
そして演出も、要所で血糊をたっぷりと使用するなど、かな
り過激な描き方で、この異常だけれど普通な物語を見事に描
き出している。万人向けの作品とは言えないかも知れないけ
れど、映画らしさという点では満足できるし、特に結末の演
出は見事だった。

『チャッキーの種』“Seed of Chucky”
1988年に始まった“Child's Play”シリーズの第5作。 
このシリーズは1991年までに3作が作られたが、そこで一時
中断。その後1998年に、ウッディ・アレン監督の『ブロード
ウェイと銃弾』で1994年度のオスカー助演賞候補にもなった
女優ジェニファー・ティリーを迎えた“Bride of Chucky”
で復活し、今回はその後を受けた7年ぶりの新作となる。
そして今回の物語は、チャッキーと前作の花嫁ティファニー
との間に生まれた子供が、その後に行方不明となりイギリス
で腹話術の人形となっているところから始まる。その子供は
自分の手首にあるMade in Japanの刻印から、両親は日本人
だと思っているが…
一方、女優のジェニファー・ティリーはチャッキーの惨劇の
“実話”の映画化に主演しているが、オスカー候補の実績も
あり、ウォシャウスキー兄弟の監督デビュー作“Bound”に
も主演している自分にこんな役しか回ってこないことに苛立
っている。
そして、その映画に登場するチャッキーとティファニーの人
形は、ワイアーに繋がれて人形師の意のままに操作されてい
るのだが、そこにイギリスから密航してきた子供が現れたこ
とから、意識を目覚めさせる。そして再び惨劇が始まる。
実はこのシリーズも以前の作品は見ていなくて、今回チャッ
キーとは初遭遇だった。しかし基本的な設定は、チャッキー
がヴードゥーの秘術により殺人鬼の魂の憑依した人形という
くらいで、それさえ判っていれば別段問題はなかった。
そして本作では、ティリーが本人役で主演するなどパロディ
感覚一杯に物語が展開し、そのパロディも、『サイコ』から
『シャイニング』までの正に王道を行くものばかりで実に判
りやすい。また、人形一家の親子関係などもうまく描かれて
いて、かなり面白かった。
他にもラッパーのレッドマンが本人役で登場したり、映画監
督でもあるジョン・ウォーターズがパパラッチに扮して重要
な役を演じるなど、一部にはハリウッドの裏側も見えたりし
て、映画ファンには興味のつきない作品と言えそうだ。
なお監督は、第1作から全作の脚本を手掛けているドン・マ
ンシーニが満を持して担当。製作は、こちらも全作を手掛け
るデイヴィッド・カーシュナーで、正に大事に育て上げてき
たシリーズの最新作という感じだ。
因に、製作会社のローグは、ユニヴァーサルの傘下でアート
系作品を専門に扱うフォーカスが新たに立上げたホラーブラ
ンドで、同ブランドからはすでに多数の企画が発表されてい
て、これからが楽しみと言えそうだ。

『銀河ヒッチハイク・ガイド』
       “The Hitchhiker's Guide to the Galaxy”
銀河バイパス建設のために突如破壊された地球の唯一人の生
き残りとなった主人公が、ガイドブックの執筆者や、逃亡中
の銀河大統領、地球生まれのヒロイン、それに欝病のロボッ
トらと共に、銀河を旅して回る物語。
1978−1980年に放送されてカルト的な人気を誇ったBBCの
SFラジオドラマの映画化。
因に、今回の映画化では、原作者のダグラス・アダムスが自
ら脚色を手掛けたものだが、その完成直後にアダムスが他界
したために、仕上げだけ『ジャイアント・ピーチ』などのケ
アリー・カークパトリックが担当している。
そして完成された映画は、英米では5月末の週に公開され、
いずれも公開第1週に興行成績第1位を記録したものだ。
とは言うものの、日本では大元のラジオドラマは放送されて
いないし、アダムスが自ら執筆したノヴェライズの翻訳はあ
るものの、さして評判になった訳ではない。従って、日本で
は原作のファンで見に来る観客はほとんど望めない状況と言
えそうだ。
しかし作品は、確かに原作からの引用部分もあるが、ほとん
どのシーンは本作だけでも理解できるようになっており、特
に、ロボット・マーヴィンのキャラクターなどは、アラン・
リックマンの声のお陰で『ギャラクシー・クエスト』のトカ
ゲ頭を思い出したりして、これだけで充分に楽しめた。
他にも、最初と最後に流れるイルカの歌の歌詞も笑えるし、
また映画の全体を通じてはいろいろなギミックのオンパレー
ドで、特に後半の惑星創造のシーンの映像はVFXも決まっ
て見事なものだ。
出演は、主人公に『アリG』のマーティン・フリーマン、銀
河大統領に『コンフェッション』のサム・ロックウェル、ガ
イドの執筆者役に『ミニミニ大作戦』のモス・デフ、ヒロイ
ン役に『あの頃ぺにー・レインと』などのズーイー・デシャ
ネル。
他にも、ジョン・マルコヴィッチが怪しげな伝導師役で登場
したり、また、名演技を見せるマーヴィンの着ぐるみには、
『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』にも出演して
いる侏儒役者のウォーウィック・デイヴィスが入っているそ
うだ。
英米では『エピソード3』『宇宙戦争』の2大作の前に公開
されたが、日本では後の公開になる。同じSFジャンルの作
品と言うことになるが、2大作のような殺伐としたものでは
なく、柔らなユーモアと暖かさに溢れた作品で、見ていて心
が和む感じがした。

『アイランド』“The Island”
『アルマゲドン』のマイクル・ベイ監督による近未来SF。
地球全体が汚染され、汚染を逃れた人々は施設に集められて
集団生活を送っていた。そこでは簡単な作業が日課としてあ
るだけで、食事も充分に与えられる。そして彼らの希望は、
地上でただ一カ所汚染のない“アイランド”への移住者を決
める抽選に当ることだった。
そしてこの日も、一人の黒人男性がアイランドへの抽選に当
り、彼は喜んで旅立って行ったが…そんな生活に疑問を感じ
る男が現れた。彼は、夜ごと自分がアイランドへ向かう船か
ら転落して溺れる悪夢に苦しめられていたのだ。
以下、ネタバレになります。
まあこの筋立てで、クローン技術が背景にあると聞けば、大
抵のSFファンならこの謎は簡単に見破ってしまうところだ
ろう。しかしこれがこのままで終わらせないのが、監督マイ
クル・ベイの腕の見せ所という感じの作品だ。
楽園からの逃亡というテーマでは、僕としては1976年に映画
化され、その後テレビシリーズにもなった“Logan's Run”
を思い出さない訳には行かない。しかし、至って牧歌的な風
景だった1976年作に比べると、その逃亡の描き方もずいぶん
様変わりしたものだ。
何しろ主人公は、かなり早い時間に謎を見破って施設を逃亡
してしまうのだが、それから後は、まあ見てくださいと言う
ような展開となる。しかも主な舞台は未来のロサンゼルスに
なるのだが、これがちょっとレトロな未来図という感じでニ
ヤリとさせられた。
他にも、奇抜なデザインの乗物や、未来の大陸間鉄道まで登
場するが、これらもまた、どれもちょっとレトロな雰囲気を
出しているのも良い感じだった。美術は、ニール・ジョーダ
ン監督作品や、最近では『トロイ』を手掛けたナイジェル・
フェルプス。
VFXアクションもどんどん手慣れてきて、本当に何でもで
きそうな感じになってきているが、アクションの出来映えは
一面では掛ける物量の勝負にもなってくる訳で、こういう作
品を見せられると、日本映画はどう踏ん張っても足下にも及
ばないと感じてしまう。
中心はフリーウェイでのチェイスということになるが、『マ
トリックス・リローデット』を髣髴とさせるスピード感に、
さらに現実味と重量感を付け加えた感じで、その迫力には目
を見張るものがあった。VFXはILMが担当している。

元々はもっと未来を想定して描かれた物語だったようだが、
現実のクローン技術の進歩に合わせて最終的には今から15年
ほどの未来に設定された。従って、全体的な雰囲気は現代と
さほど変わらないが、その中に未来が存在する。そんな現実
感が楽しめた。
原案とオリジナル脚本は、『すべては愛のために』のカスピ
アン・トレッドウェル=オーウェン。これを、この秋公開の
“The Legend of Zorro”や、来年公開夏予定の“Mission:
Impossible 3”を手掛けたアレックス・カーツマン、ロベル
ト・オーチーのコンビが完成させている。
主演は、ユアン・マクレガーとスカーレット・ヨハンソン。
これに、ショーン・ビーン、スティーヴ・ブシェミ、マイク
ル・クラーク・ダンカン、そして『イン・アメリカ』でオス
カー候補となったジャイモン・フンスーらが共演している。

『奥様は魔女』“Bewitched”
1964−1972年に亘って放送された往年の人気テレビシリーズ
を、『めぐり逢えたら』のノーラ・エフロン監督とオスカー
女優ニコール・キッドマン主演で劇場版リメイクした作品。
オリジナルのテレビシリーズは、今でも再放送が続いている
ほどの人気番組だが、日本での放送開始は1966年だったとい
うから、まあ僕などはもろにそれを見ながら育った世代と言
えそうだ。その僕が見てこの映画化は、見事にその人気番組
の雰囲気を再現しているものだ。
物語はオリジナル同様、人間界で暮らすことを夢見る若い魔
女が、ハリウッドに引っ越してくるところから始まる。彼女
は、人間界では魔法を使わずに暮らそうとしているが、彼女
の父親はこの考えには大反対だ。
一方、『奥様は魔女』のテレビシリーズでのリメイクが企画
され、そのダーリン役に落ち目の映画スター男優の起用が決
まる。彼は自分を引き立たせるため、サマンサ役には新人の
起用を求めるのだが、例の鼻を動かす仕種のできる女優がな
かなか見つからない。
そして、ふと見かけた女性が見事に鼻を動かしていたことか
ら、彼女を起用するのだが…この女性が、実は本物の魔女だ
ったという展開になる。
まあ、このテレビシリーズのリメイクという辺りが捻りと言
えば捻りだが、この部分は言わば往年のシリーズのファン向
けのサーヴィスという感じで、ここには知っていれば知って
いるほど面白い楽屋落ちが次々と登場してくる。
しかし映画はこの部分を除いても、いわゆる魔女もののコメ
ディをストレートに作り上げているもので、その部分は安心
できると言うか、本当に当時のファミリー向けのテレビシリ
ーズの雰囲気を見事に再現したものになっている。
正直に言って、もっと大掛かりな今風の大特撮シーンが出て
くるのではないかとも期待はしたが、そんなものはこの作品
には不似合いだったと言うところだろう。と言っても、もち
ろんVFXは当時とは比べものにならない進化を遂げている
が…
キッドマン以外の出演者では、ダーリン役の落ち目の俳優に
ウィル・フェレル、魔女の父親役にマイケル・ケイン、エン
ドラ役のベテラン女優(魔女ではない?)にシャーリー・マ
クレーンなど。
特にフェレルは、アメリカでは大評判の主演作“Elf”も日
本では未公開のコメディアンだが、途中で魔法に踊らされる
シーンの芸達者ぶりは見事なもので、僕はようやくフェレル
を見ることができたということでも、うれしく感じられたも
のだ。


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