井口健二のOn the Production
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2005年07月01日(金) 第90回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に事務連絡を3つ。
 一つ目は訂正で、前回の6月15日付で紹介した“Asterix
aux Jeux Olympiques”の記事で、ジェラール・ドパルデュ
ーが再演するのはオベリスク役、ラングマンが捜すことにな
るのがアステリックス役だった。この配役は、大ベテランの
ドパルデューが主人公を演じていると思い易いが、体形の関
係で彼が演じているのはオベリクスの方。実は以前に映画紹
介を書いたときにも間違えそうだなと思ったものだったが、
案の定、間違えてしまった訳で誠に面目ないと思っている。
 お次は、先日、某パーティの会場で“Batman Begins”の
サウンドトラックについて、作曲家が2人いるのは何故かと
いう質問を受けた。僕は音楽に関しては専門ではないので、
その場で直ぐには答えられなかったが、調べてみたらちょっ
と面白いのでここに紹介しておこう。
 これは、Variety紙に掲載された“Batman Begins”のFilm
Reviewによるものだが、この作品におけるハンス・ジマー
とジェイムズ・ニュートン・ハワードの音楽は、本当の意味
でのコラボレーションが行われたものだということだ。
 それは、一方が物語の展開に合わせた音楽を作曲し、他方
がその曲にコミックスの映画化に合わせたエレメントを加え
ると言うものだそうで、具体的にどちらがどの役割を担当し
たかは明らかにされていなかったが、従来のように2人の作
曲家がそれぞれ独立した場面を担当すると言うようなもので
はなく、真にコラボレーションを行ったということだ。
 そしてこのコラボレーションは、シリーズの第2作でも継
続されるということで、本編の中で匂わされていた続編も、
この作曲家2人立で行くことになるようだ。それにしても、
『ライオン・キング』での受賞を含む6回のオスカー・ノミ
ネーションのジマーと、同じく6回のオスカー・ノミネーシ
ョンのハワード。それぞれ手掛けた作品は100本以上という
人気作曲家2人のコラボレーションとは、製作者がこの音楽
に掛ける意気込みも相当なようだ。
 それともう一つ、同じパーティの席で、昔のテレビドラマ
の話題が出て、その中で、「有人衛星が通信機の故障で地上
と連絡が取れなくなり、その軌道の真下の都市が町中の電灯
を点滅して連絡を取る話は何か」という質問を受けた。これ
には、「デジル劇場」でリー・マーヴィンが主演した“Man
in Orbit”と即答ができたのだが、それ以上のデータは記憶
していなかったので、ここに調べ直した結果を報告する。
 今回調べ直したところによると、この作品には原作があっ
て、1970年代にTVシリーズ化された“The Immortal”(不
死身の男)の原作者でもあるジェームズ・ガンがGalaxy誌の
1955年2月号に発表した“The Cave of Night”という作品
が基になっているようだ。そしてこの作品は、当時のGalaxy
誌の掲載作品をラジオドラマ化していた“X Minus One”と
いうNBCラジオの番組で放送され、さらにその番組がテレ
ビ化されることになってドラマ化権も設定された。しかし、
そのテレビ化は実現しなかったものの、その後にその権利が
デジル・プロダクションに売却されて、1959年5月11日に上
記の題名で放送されたということだ。
 物語は、通信機は故障したものの、実は宇宙から地上への
一方的な通信は行われており、主人公は聞こえているかどう
かも判らないまま、宇宙から見た地上の様子を伝え続ける。
そこには国境の無い世界が広がっており、彼は平和を訴え続
けるのだが、やがてそれが…というお話だ。日本では1963年
以降に放送されたものだが、僕は子供の頃に見て非常に感動
した記憶がある。できれば見直してみたいものだ。
 なお、ガンの原作と、“X Minus One”で放送されたラジ
オドラマの音源は、インターネット上の電子出版のサイトで
有料ダウンロードが可能になっているようだ。
 以上で事務連絡は終りにして、以下はいつものように製作
ニュースを紹介しよう。
        *         *
 日本では1961年に『南海漂流』の邦題で公開された1960年
製作のディズニー作品“Swiss Family Robinson”のリメイ
クが、ジョナサン・モストウの監督で計画されている。
 この原作は、1743−1818年にスイスで生涯を送ったヨハン
・デイヴィッド・ウィースという人が執筆したもので、牧師
でもあったウィースが、自分の4人の息子のために語って聞
かせた物語が基になっているということだ。従って、物語の
成立は18世紀ということになりそうだ。お話は、4人の息子
を抱えたスイス人の一家が新天地オーストラリアへの移住を
目指して航海を始めるが、途中で船が難破して絶海の孤島に
流れ着き、そこでのいろいろな苦労を重ねる内に家族の絆を
深め、また息子たちも成長して行くというもの。なるほど、
息子たちに読み聞かせたという感じのお話だ。
 そしてこの原作は、ハリウッドでは戦前から繰り返し映画
化が行われており、戦前では、1940年にRKOで、翌年『市
民ケーン』を同社で発表するオースン・ウェルズがナレーシ
ョンを担当した作品が製作されている。また、上記のディズ
ニー作品は、後に『素晴らしきヒコーキ野郎』や『バルジ大
作戦』を撮るケン・アナキンの監督で、アニメーション合成
などの特殊効果を活かしたアクションで評価が高い。なお、
ディズニーランドに設けられているアトラクションのツリー
ハウスは、この作品に由来したものだ。
 この他、1958年にはパティ・デュークの主演によるテレビ
版があるそうだし、1975−76年のシーズンには、アーウィン
・アレンの製作、マーティン・ミルナーの主演によるテレビ
シリーズも作られている。また1965−68年に、やはりアレン
が製作したテレビシリーズの“Lost in Space”(宇宙家族
ロビンソン)が、この原作からインスパイアされた作品であ
ることは言うまでもないところだろう。
 そして今回の計画は、1960年ディズニー版のリメイクを、
『T3』のモストウ監督で進めるもので、因にモストウは、
60年版が子供の頃に大好きだった映画の1本なのだそうだ。
また製作者のトッド・リーヴァーマンも、このようなイヴェ
ントムーヴィには、モストウのような才能が欠かせないと期
待を膨らませている。
 なお、今回のリメイクでは、製作者とディズニーとの話し
合いの結果、背景を現代にするということで、グレッグ・ポ
ワリエールの脚本から、『ブレーキ・ダウン』と『U−57
1』でもモストウに協力した脚本家のサム・モンゴメリーが
リライトを行っている。ただし、配給を担当するブエナ・ヴ
ィスタの首脳からは、原作通りの時代背景に戻す可能性も示
唆されているそうだ。
 一方、モストウ本人も、2002年8月15日付第21回で紹介し
ている“Tonight, He Comes”が、ウィル・スミスの主演で
コロムビアで進み始めており、また“Terminator 4”の計画
も、『T3』を手掛けたマイクル・フリアースとジョン・ブ
ランケイトの脚本待ちという状態だそうで、これらが先に進
行する可能性はあるようだ。
 従って計画の実現には、まだ多少時間が掛りそうだが、子
供が夢見るようなファンタシーが一杯に詰まった作品には、
大いに期待を持ちたいところだ。
        *         *
 お次は、ちょっと意外なところから登場してきた話題で、
25年前の1980年に亡くなった俳優スティーヴ・マックィーン
の遺品の中から、彼が生前映画化を夢見ていた作品の1700ペ
ージに及ぶストーリーボードや覚え書きが発見され、改めて
その実現をワーナーで行うことが発表された。
 この作品は“Yucatan”と題されたもので、マックィーン
の息子のチャドと、孫のランス・スローンが遺品の整理をし
ている中で、古い2個のトランクに詰められた特注の皮表紙
で装丁された16冊の本を発見。それを開くと、中には映画化
を目指した詳細なストーリーボードやノートがぎっしりと納
められていたということだ。
 作品の内容は、主人公を含む窃盗団の一味がメキシコに赴
き、そこで数百年に渡ってユカタン半島に隠されてきた財宝
を発見するというもの。そこには、生前マックィーンが興味
を持っていたという征服者に支配されたメキシコの歴史や文
化が織り込まれる一方、マックィーンの代表作『大脱走』を
髣髴とさせるオートバイによるチェイスなどのアクションも
満載で、もしこの作品が『ジョーズ』よりも前に公開されて
いたら、アクション映画の歴史が変わっていたかも知れない
と思えるほどの完成度の高いものだということだ。
 そしてワーナーでは、この作品の製作者に『ハリー・ポッ
ター』シリーズのデイヴィッド・ヘイマンを指名し、さらに
脚本化を、テレビシリーズ“Prison Break”のクリエーター
で製作も手掛けるポール・ショイリングに依頼。ショイリン
グは、現代にマッチするよう多少の手直しはするものの、マ
ックィーンの意志を最大限に尊重した脚本を完成させるとし
て、すでに自ら現地に赴いて海底洞窟に潜水するなどの実地
調査を行っているそうだ。また、チャドとランス・スローン
も製作総指揮として参加することになっている。
 ただし今回の計画は、まだ監督も出演者も製作時期も未定
のものだが、最近再公開された『大脱走』やパニック映画の
最高峰とも言える『タワリング・インフェルノ』などを見て
も、マックィーンのアクションは当時の水準からは頭抜けて
洗練されたものだった。そのマックィーンが夢見た作品の映
画化には、一刻も早く出会いたいものだ。
        *         *
 “The Polar Express”が大成功を納めたCGアニメーシ
ョンの新技術パフォーマンス・キャプチャーの第2弾は、す
でに“Monster House”が2006年夏の公開を目指して製作中
だが、それに続いて、再びロバート・ゼメキスの監督による
“Beowulf”の計画が正式に発表された。
 この作品については、今年2月1日付の第80回でも1度紹
介しているが、10世紀にイギリスで完成された長編叙事詩に
基づくもので、物語では主人公が巨大な怪獣と戦う姿なども
描かれている。また脚本は、『もののけ姫』のアメリカ版を
手掛けたニール・ゲイマンと、『パルプ・フィクション』の
ロジャー・アヴェリーが共同で作り上げたものだ。
 そして今回はこの出演者に、レイ・ウィンストン、アンソ
ニー・ホプキンス、ブレンダン・グリースン、ロビン・ライ
ト・ペンが発表された。なお新技術では、出演者は声だけで
なく、演技も取り込まれることになっているが、昨年紹介さ
れたトム・ハンクスによるパフォーマンスはかなり愉快なも
のだった。しかし今回の出演者もそれは全員了承済というこ
とで、ホプキンスもその中に含まれる訳だが、彼がセンサー
の付いたボディスーツを着て演技をしている姿を想像すると
かなり面白そうだ。
 これはぜひとも撮影風景も見せてもらいたいものだが、同
時にこれだけの顔ぶれが揃って撮影がうまく行けば、この後
に続く俳優への交渉も楽になるもので、今後に製作される作
品への展望も大いに開けそうな感じだ。
 なお、出演者のトップに挙がっているウィンストンは、ア
ンソニー・ミンゲラ監督の新作“Breaking and Entering”
や、マーティン・スコセッシ監督による『インファナル・ア
フェア』のアメリカン版リメイク“The Departed”にも出演
しているということだ。
        *         *
 2002年1月15日付の第7回と2004年2月1日付の第56回で
も紹介したPCゲーム“American McGee's Alice”の映画化
の計画が、ようやくユニヴァーサルから発表され、この監督
を“The Texas Chainsaw Massacre”のリメイク版を手掛け
たマーカス・ニスペル。主演を“Scooby-Doo”やアメリカ版
『呪怨』のサラ・ミッシェル・ゲラーで進めることが報告さ
れた。
 この作品は、以前にも紹介したように、ルイス・キャロル
の『不思議の国のアリス』の物語をゴシック調に描き直した
もので、大人になったアリスが不思議の国を再訪し、トラン
プ兵たちと戦いを繰り広げるという内容。ゲームのジャンル
はファンタシーアクションとなっているが、かなりダークな
物語が展開されることになりそうで期待が持てる。
 ただしゲラーは、現在はドウェイン‘ザ・ロック’ジョン
スン共演による“Southland Tales”というSF作品を7月
撮影開始の予定でワーナー・インディペンデンスで準備中、
さらに秋からは、同じくWIで、メリッサ・バンク原作のベ
ストセラー“The Girls' Guide to Hunting and Fishing”
を映画化する計画も予定されており、今回の計画が実現する
のは、ちょっと先になりそうだ。
 なお、映画化の題名は“Alice”となるようだ。
        *         *
 “Pirates of the Caribbean”の2本の続編の撮影でバハ
マに滞在中のジョニー・デップが、撮影中の作品に付いてイ
ンタビューに答え、作品に対する並々ならぬ思いを語ってい
る。
 それによると、まず彼がジャック・スパロー船長を再演し
た経緯については、「この役が好きでたまらない」、「請わ
れれば“Pirates 7”までもやりたい」とのことだ。また、
噂されているローリング・ストーンズのキース・リチャーズ
の出演については、まだ実現はしていないものの、デップ自
身が出演交渉をして良い感触を得ているそうで、後はストー
ンズのツアー日程との兼ね合いということだが、「実現すれ
ば最高だ」とも述べている。
 まあ、リップ・サーヴィスの面も多分にあるとは思うが、
それにしてもデップクラスの俳優が、ここまで役にのめり込
んでいるというのも珍しいこと。各社持っている作品のシリ
ーズ化には躍起となっているところで、主演俳優のこの発言
は製作者には願ってもないところだろう。後は、脚本家と監
督の意向もあるとは思うが、これらはいざとなれば取り替え
は利くものものだし、製作者のブラッカイマーが本気になっ
たら、これは面白そうだ。
 なお、4月に始まった撮影は9カ月以上掛りそうだという
ことで、先日は出演者の一人が耳の治療でロンドンに戻った
ために、1カ月半ほど中断するとも発表されていたが、デッ
プには“Charlie and the Chocolate Factory”のプロモー
ションも挟んで、相当に余裕のある撮影体制が採られている
ようだ。
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 後半は短いニュースをまとめておこう。
 まずは続編の話題を3つ。
 その1つ目は、5月1日付の第86回で紹介した“National
Treasure”の続編の計画が正式に発表されている。
 この発表は、ディズニー・スタジオと製作者のジェリー・
ブラッカイマーによって行われたものだが、ジョン・タート
ルトーブ監督の再登板も予定され、脚本は上の“Swiss …”
にも登場のグレッグ・ポアリエールが新たに担当することに
なっている。ただし続編の題名は“National Treasure 2”
となっていて、先日監督が中国で口走った“International
Treasure”ではないようだ。
 とは言え、製作の準備が開始されたのは事実で、今後数年
以内に、またまた世紀の謎に挑む大冒険を見ることができそ
うだ。
 お次は“Resident Evil”(バイオハザード)で、すでに
プレプロダクションが開始されている第3作に続く、第4作
の計画が報告されている。
 このシリーズでは、昨年9月15日付の第71回でも紹介した
ように、第1作の監督と第2作の脚本製作を担当したポール
・W・S・アンダースンが、第3作となる“Resident Evil:
Afterlife”の脚本をすでに完成させているが、今回はさら
に第4作の構想が明らかにされたもので、それによると第4
作では東京を舞台にするということだ。
 因に、アンダースンの構想では、第1作ではゲームの始ま
る前、第2作がゲームそのもので、第3作はゲームの後=ゲ
ームが世界に拡散して行く姿を描くとしていたが、さらに第
4作の舞台が東京というのは、一体何を描こうというのだろ
うか。この第4作の構想は、恐らくは第3作の脚本執筆中に
発展してきたものと思われるが、かなり気になるところだ。
 ただし、実はプレプロダクション中と言われる第3作の監
督もまだ決定しておらず、この監督が決定して撮影が近々に
行われたとしても、第4作の製作はさらに2年ほど先という
ことになりそうだ。
 続編の話題3つ目は、マット・デイモン主演で2002年に第
1作の“The Bourne Identuty”が発表され、昨年第2作の
“The Bourne Supremacy”が製作されたジェイスン・ボーン
シリーズで、第3作の“The Bourne Ultimatum”の脚本に、
前2作を手掛けたトニー・ギルロイが三度契約したことがユ
ニヴァーサルから発表された。
 このシリーズはロバート・ラドラムの原作に基づくものだ
が、実は記憶を失った政府機関の殺し屋という基本的な設定
は用いられているものの、ストーリーの展開はかなり自由に
作り替えられているということで、今回もギルロイの手腕に
期待が集まっている。また製作状況では、監督は未定で、主
演のデイモンに関しては彼以外に考えられない当たり役にな
っているものだが、そのデイモンからも、脚本を読んで判断
するという返事が来ているそうで、全てはギルロイの脚本に
掛っているようだ。
 なおこのシリーズでは、故ラドラムの原作は第3巻で終っ
ているものだが、果たして映画化も第3作で終りにするもの
かどうか、すでに自由な発想で物語が展開しているのなら、
この後も延長戦が可能になりそうだが、これもギルロイの腕
に掛っているようだ。
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 最後にもう1本、リメイクの情報で、『呪怨』のアメリカ
版リメイク“The Grudge”を成功させたサム・ライミのゴ
ースト・ハウスから、ホラー映画の古典中の古典とも言える
“Monkey's Paw”をリメイクする計画が発表されている。  
 この物語は、元々はW・W・ジェイコブスというイギリス
人作家の短編小説に基づく舞台劇がオリジナルとなるようだ
が、願いを叶える「猿の手」のミイラを手に入れた一家が、
願いは叶うもののどんどん不幸に陥れられるというお話で、
記録によると1915年の無声映画による最初の映画化から、主
にイギリスで繰り返し製作され、またオムニバス映画の1篇
としても映画化が行われているようだ。
 そして今回は、その最新の映画化を、“Invasion of the
Body Snatchers”のリメイクにも関わっているデイヴ・カジ
ャニッチと、トム・マカリスターの脚色で進めるもので、最
新技術を駆使したリメイクが期待される。
 なおゴースト・ハウスでは、この他に、“The Grudge 2”
や、ライミ監督の出世作“The Evil Dead”のリメイク、ま
た香港出身のホラー監督パン兄弟のアメリカ進出の計画など
も進めているものだ。


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井口健二