井口健二のOn the Production
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2005年06月16日(木) 第89回(後)

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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≪昨日の続き≫
 続いてはリメイクの話題で、2004年3月1日付の第58回で
紹介した“The Poseidon Adventure”のリメイク計画が本格
的になってきた。
 オリジナルは、『ジェニー』などのファンタシー小説や、
『ハリス夫人』シリーズなどのユーモア小説で知られるポー
ル・ギャリコの原作を、『宇宙家族ロビンソン』などの人気
SFテレビシリーズを手掛けてきたアーウィン・アレンの製
作で映画化したもので、巨大な横波を受けて転覆した大型客
船の船内に取り残された乗客が、一縷の望みを賭けて上下逆
さまとなった船内を船底に向かって上って行くというお話。
 1972年に公開された映画は、転覆シーンの巨大なアクショ
ン(ボウルルームが逆さまになる)や、上下逆さまとなった
船内の時に幻想的な造形で、その後10年以上も続くパニック
映画(disaster film)ブームの走りとも呼ばれた作品だ。
因にアレンは、この2年後の1974年にパニック映画の頂点と
も言える『タワリング・インフェルノ』を製作する。
 この作品のリメイクが、以前からワーナーでウルフガング
・ペーターゼンの製作により計画されていたものだが、この
ほど6月18日からの撮影開始と、キャスティングの第1弾と
してカート・ラッセル、リチャード・ドレイファス、それに
『オペラ座の怪人』のエイミー・ロッサムの出演が正式に発
表された。なお前回の報告では、ペーターゼンは製作のみ担
当するということだったが、今回の情報によると監督も手掛
けることになっているようだ。
 脚本は、マーク・プロトセヴィッチとアキヴァ・ゴールズ
マンが担当し、ギャリコの原作と、1972年のオリジナル映画
化をベースに再構築されている。因に、キャスティングの紹
介によると、ラッセルは元消防士で、ロッサム扮する娘と彼
女のボーイフレンドと共に旅行中に災害に襲われる。また、
ドレイファスは、世間から見捨てられたゲイの男という役柄
だそうだ。キャストはさらに追加されることになっている。
 前にも書いたように、このオリジナルでは大型客船の転覆
シーンなどでアカデミー視覚効果賞を受賞しているが、ペー
ターゼンは『パーフェクト・ストーム』の成功を踏まえて、
さらに見応えのあるシーンを造り出すとしており、期待が持
てそうだ。
 ただし、同じ原作に対してはアメリカNBCテレビでTV
ムーヴィ化も進められており、こちらはスティーヴ・グテン
バーグ、ピーター・ウェラー、ルトガー・ハウアーらの出演
ですでに撮影が完了していて、当然先にテレビ放映されるこ
とになるが、映画館の大画面の迫力で負けないものを作って
もらいたいものだ。
        *         *
 以下は新しい情報で、
 メキシコ出身のギレルモ・デル=トロ監督と、アルフォン
ソ・キュアロン監督がチームを組み、彼らの長年の協力者で
製作者のフリーダ・トレスブランコと共に製作会社を設立し
たことが報告された。
 この新会社はOMMと名付けられたようだが、2人の監督
が相互の協力の下でスペイン語及び英語での映画製作を行う
もので、さらにメキシコやラテンアメリカ、またヨーロッパ
では特にスペインの若手監督の発掘にも取り組みたいという
ことだ。同様の思想では、すでにリュック・ベッソンがエウ
ロパ Co.を設立しているが、ちょうど良い好敵手が現れたと
いうところだろう。
 そしてその新会社の第1作として、デル=トロ監督による
“Pan's Labyrinth”という計画が発表されている。この作
品は、スペイン内戦後の社会を13歳の少女の目を通して描い
たダークファンタシーということで、2002年スティーヴン・
フリアーズ監督の“Dirty Pretty Things”に出演したセル
ジ・ロペスや、1994年のアカデミー賞外国語映画部門を受賞
した“Belle epoque”に出演のマリベル・ヴェルドゥ、アリ
アドナ・ジルらが共演し、7月に北部スペインで撮影開始さ
れることになっている。
 さらにデル=トロは、英語でアレクサンドル・デュマ原作
の“The Count of Monte Cristo”を撮る計画を進めている
他、同社からはスペインの新人監督ホアン・アントニオ・バ
ヨナによるゴーストストーリーで、“El Orfanato”という
作品の製作も計画されているようだ。
 しかし、人気監督の2人にはすでに各社と結ばれた契約も
残されており、デル=トロはリヴォルーションで“Hellboy
II”の脚本を手掛ける他、キュアロンはワーナーとの3年契
約の下で複数の計画が進行中とのこと。当分は大変の状況が
続きそうだが、頑張ってもらいたいものだ。
 なおこの会社にはもう1人、メキシコ出身で“21 Grams”
などのアレハンドロ・ゴンザレス・イナリトゥ監督も参加を
呼びかけるようだ。
        *         *
 次も、個人的な映画プロダクションの話題で、『ヘルレイ
ザー』などの小説家で映画監督のクライヴ・バーカーが、映
画製作者のジョージ・サラレジーと組んで、バーカ−が先に
発表した全6巻の短編集“The Books of Blood”や、彼のオ
リジナルアイデアに基づくホラー映画を、年2作ずつ製作し
て行く計画を発表している。
 そしてその第1作として、短編集に所載の作品から“The
Midnight Meat Train”の映画化が、レイクショアの資金調
達で製作されることになった。この作品は、ニューヨーク在
住の写真家が「地下鉄の殺人鬼」の噂を追求して行く内に、
邪悪な秘密に導かれて行くというもの。ジェフ・ビューラー
の脚色で、クリーチャーデザインのヴェテラン=パトリック
・タトポウロスが監督、この秋の撮影が予定されている。
 さらにバーカー原作の“Pig Blood Blues”がアンソニー
・ディブラシの脚本で、またバーカーのオリジナルアイデア
による“New York Resurrection”がジョン・ヘファーナン
の脚本で、それぞれ2006年に映画化が予定され、続いてバー
カーの原作から“Age of Desire”がチャールズ・カンツォ
ネッリによって脚色が進められているということだ。
 この他、バーカーとセラレジーは、ハル・メイスンバーグ
とティール・ミントンによるオリジナル脚本“The Plague”
という作品を、メイスンバーグ監督でこの夏に撮影を計画し
ており、さらに、ロリ・ラーキンという脚本家のオリジナル
アイデアによる“Revelation”という計画も進めている。 
 そしてこれらの作品では、全ての脚本にバーカーが最終的
な磨きを掛けるということで、バーカーはこれらの作品を全
てRレイトに仕上げるとしている。またバーカーは、「自分
がPG−13の作品を作ったら、遠慮なく外に連れ出して撃って
くれ。我々の望みは、あなたたちが我々はちょっと狂ってい
ると思ってくれることだ」と抱負を述べたということで、か
なり飛んでる映画が作られそうだ。
 またこのプロダクションでは、旧作のリメイクやシリーズ
化も目指すとしているが、それらも単に温め直したような作
品ではなく、常に新鮮なものが盛り込まれた作品を作り出す
ということだ。
 配給会社は、資金調達などの関係で作品ごとにばらばらに
なりそうだが、ちょっと期待して見ていきたい。
        *         *
 最後に短いニュースを2つ。
 まずはソニーから、“Monsters Imc.”の脚本家コンビ、
ロバート・L・ベアードとダニエル・ガースンのオリジナル
脚本による“Monster Hunter”の映画化を、ウィル・スミス
の製作で行うという計画が発表された。 
 この作品は、ビッグスケールの実写によるファミリー・ア
ドベンチャーということで、主演には“Hitch”(最後の恋
のはじめかた)でスミスと共演したケヴィン・ジェイムズの
起用が報告されている。
 そして彼が演じるのは、子供相手の精神科医の役で、実は
彼にはモンスターを見る潜在能力があり、その能力を使って
洋服箪笥やベッドの下に潜むモンスターを見つけ出しては退
治していたのだが、ある日、とんでもないモンスターに遭遇
してしまう…というお話。つまり『モンスターズ・インク』
の流れをそのまま引き継いだような作品ということになりそ
うで、これを実写とVFXで描き出すというものだ。
 なお主演のジェイムズは、8年間主演したテレビシリーズ
を撮り終えたところで、これから本格的に映画界への進出を
狙っているようだが、すでにディズニーで“Field Trip”と
ニューラインで“Man in Unform”という作品に出演してい
るものの、大型作品への主演は初めてとのこと。そして今回
は“Hitch”の出演で意気投合したスミスが製作を担当して、
彼にちょうどいい脚本を捜していたところ、この企画が見つ
かったということだ。
 撮影時期や監督などは未定のようだが、製作を担当するス
ミスは、『インディペンデンス・デイ』から『メン・イン・
ブラック』までこの手の大型作品には何度も主演しており、
その経験が製作に活かされることを期待したい。
        *         *
 もう1本はディズニーで、実写とアニメーションの合成に
よる“Enchanted”という計画がようやく動き出しそうだ。
 この計画については、2003年5月1日付第38回や同年11月
1日付第50回でも題名を紹介しているが、実は1997年から進
められていたもので、準備にはすでに10年近い歳月が掛けら
れている。そして今回は、この計画に1999年の“Tarzan”の
アニメ版や、2000年の“102 Dalmatians”などを手掛けたケ
ヴィン・リマの監督起用が決まったものだ。
 お話は、アンダラシアと呼ばれるアニメーション世界の王
国の王女が、本物の恋を見つけるために王国を抜け出し、現
実世界のニューヨークにやってくる。そこで彼女は本物の恋
を見つけられるか…という展開だが、どうやらこのニューヨ
ークにアニメーションの住人が出没することになりそうだ。
 そして今回監督に決まったリマは、『102』では実写と
CGIの合成を経験済ということで、この計画にピッタリの
人材と考えられたようだ。また、『102』は全米の興行で
1億8300万ドルの数字を上げており、さらに海外の成績は国
内を上回ったということで、この実績も今回の起用につなが
った要因だろう。さらに『ターザン』では、全世界の合計で
4億4900万ドルの興行を記録しているそうだ。
 なお撮影は、ニューヨークで9月開始が期待されている。


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井口健二