2005年05月31日(火) |
バットマン・ビギンズ、愛についてのキンゼイ・レポート、クレールの刺繍 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『バットマン・ビギンズ』“Batman Begins” 1997年の“Batman & Robin”から8年、ついにバットマンが 復活した。 その復活を指揮したのは、『メメント』『インソムニア』の 新鋭クリストファー・ノーラン。彼は、『ブレイド』のデイ ヴィッド・S・ゴイヤーと共に綿密な脚本も執筆し、バット マンの起源に迫る、全く新しい作品を作り上げた。 バットマンの起源については、幼少時代の事件のことが確か 前のシリーズでも第2作辺で紹介されたと記憶しているが。 今回はさらにそれを掘り下げ、バットモービルやバットケイ ヴまでもの誕生秘話が語られる。 従って本作は、前シリーズとは完全に切り離された作品で、 全く新しいシリーズの開幕と言うことができる。 バットマンことブルース・ウェインは、ゴッサムシティの大 富豪ウェイン家の一人息子として成長する。ウェイン家は不 況下で犯罪のはびこるゴッサムシティの立直しに奔走し、そ の端緒が見えた矢先に事件が起きる。 その心の痛みを負ったブルースは世界中を放浪し、自分自身 の向かう道を探究する一方、いろいろ技を身に付けてゆく。 そしてヒマラヤの奥地で巡り会ったラーズ・アル・グールが きっかけとなり、ゴッサムシティへ戻ってくる。 しかし彼が舞い戻ったゴッサムシティは、以前にも増して悪 の巣窟と化し、もはや警察もまともには機能しない事態とな っていた。この現状にブルースは、代々ウェイン家を守る執 事アルフレッドらの力も借りて、バットマンとなって街の浄 化に乗り出すが… この物語に、ブルース・ウェイン=バットマン役クリスチャ ン・ベール、アルフレッド役マイクル・ケインを初め、リー アム・ニースン、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリ ーマンという錚々たる顔ぶれが脇を固め。 さらにキリアン・マーフィ、トム・ウィルキンスン、ルトガ ー・ハウアー、渡辺謙、そして紅一点ケイティ・ホームズと いう布陣が挑む。 バットマンは、前のシリーズでは、特にそのダークなイメー ジが注目されたが、本作もそれは踏襲している。しかしティ ム・バートンが始めた前シリーズが、時代の要請もあって、 ある意味病的な暗さで描かれていたのに対して、今回は健康 的な暗さという印象を持つ。 これは、先にも書いたバットモービルの誕生などの説明が、 至って科学的に行われている点にもあるのだろうが、全てが 明快で、何らやましいところを感じさせないというところが 素晴らしかった。ノーラン=ゴイヤーの脚本の勝利と言える ものだ。 ノーランもゴイヤーも以前の作品では、どちらかというと病 的な印象を持っていたが、それを吹っ切った本作は見事。こ こには“Spider-Man”の影響も微かに感じられるが、良い方 向に活かされているのだからそれも歓迎したいところだ。 以下、ネタばれを含みます。 なお、試写会の際に1枚のプリントが配られ、劇中で描かれ る列車の脱線シーンについての釈明が書かれていた。 確かにこのシーンの衝撃は物凄いものがあるが、当然このシ ーンは尼崎の事件の前に製作されたものだし、ましてやこれ が物語の中で犯罪行為として起きるものではなく、正義のた めに行われることを考え合せれば、何らこれに文句を言われ る筋合いのものではない。 それでもこのシーンに事件を想起する人は多いとは思うが、 郵政民営化の審議に絡んで、民営化先輩格のJRの不祥事を 早く風化させようとする動きが見られる中では、かえってそ れを思い出させるこのシーンが存在することに意義があるよ うにも感じた。 『愛についてのキンゼイ・レポート』“Kinsey” アメリカ人の性に対する意識を研究した「キンゼイ・レポー ト」で有名なアルフレッド・キンゼイ博士の生涯を追った伝 記映画。 厳格な父親の許に育ち、その父に反発して家を飛び出したキ ンゼイは、やがて志望した生物学で博士となり、昆虫に対す る研究では第一人者と呼ばれるまでになる。しかし、大学の 要請で性について学ぶ結婚学の講座を開いたとき、彼は新た な研究対象を発見する。 アメリカにおける性の実体の研究。ロックフェラー財団の資 金援助も受けたこの先見的な研究は、実に全米18000人に及 ぶ人々にインタヴューを敢行し、アメリカ人の性の営みを明 らかにする。そして、1948年に刊行された研究レポートは大 ベストセラーとなるが… 性に対する無知が生み出す因習や、一部の法律にまで矛先を 向けたこの研究は、アメリカ社会を根底から揺るがすことに なるが、それはキンゼイ自身の人生にも多大な影響をおよぼ すことになる。 こんなキンゼイ博士の生涯が、『シカゴ』などの脚本家ビル ・コンドンによる巧みな脚本と演出によって、ユーモアも交 えて見事に描き出される。そして中で紹介されるレポートの 数々も、キンゼイ博士の遺志を継ぐようで、その描き方も素 晴らしかった。 また出演者では、キンゼイ博士役のリーアム・ニースンとそ の妻クララを演じたローラ・リニーは、壮年期から老境に至 るまでの年齢の積み重ねを見事に演じており、メーキャップ の力もあるのだろうが、特に壮年期のキンゼイを演じるニー スンの若々しさには目を見張った。 また、最後のインタヴューを受ける女性の役でリン・レッド グレーヴ、キンゼイ博士の母親役でちょっと懐かしいヴェロ ニカ・カートライトが出演していた。 なお、年齢制限の指定はR−15になっているが、これはテー マの都合上そのような画像がスクリーンに登場するためで、 映画の内容が猥褻と言うわけではない。 『クレールの刺繍』“Brodeuses” 2004年のカンヌ映画祭国際批評家週間でグランプリを受賞し たエレオノール・フォーシェ監督作品。女流監督のフォーシ ェは本作が長編第1作で、脚本も執筆している。 主演は、『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』に出て いたローラ・ネマルクと、セザール賞主演女優賞受賞者のア リアンヌ・アスカリッド。つまりこの作品は、女性による女 性のための女性映画というところだ。 ネマルク扮するクレールは17歳で一人暮しをして自活してい たが、多分妻子ある男の子供を身籠もってしまう。そのこと を両親にも打ち明けられない彼女は、匿名出産制度での出産 を決め、妊娠の事実を隠すために勤め先のスーパーも辞めて 隠れ住むようになる。 しかし、友人の家を訪れた時に、以前に刺繍の手解きを受け た夫人が、一人息子を事故で亡くしたことを知り、自作の刺 繍を持って夫人の家を訪ねる。夫人は、今では刺繍だけを生 き甲斐に日々を送っていたが、彼女が手伝うことを認め作業 が始まる。 とは言え、心を開かない夫人と、妊娠を隠し通そうとする彼 女の関係はぎくしゃくしたものだったが、やがていろいろな ことが起こり、2人は心を通わせていくようになる。 いや、何せ心に傷を負ったり重みを背負った女性の物語で、 しかもそのどちらもが女性特有の事柄に拠っているから、男 性である僕には率直に全てが理解できたとは言い難い。しか し、何となく理解できる点もいろいろあり、その辺で素直に 良かったと言える作品。 女性が見れば、多分もっといろいろ見所があるのだろうが、 その評価は女性の方に任せたいと思う。でも男性の目で見て も、いろいろ得るところはある作品だった。 ただし、映画の中には沢山の素晴らしい刺繍が出てくるのだ が、それが一部を除いて全貌が紹介されていないのが残念に 思えた。上映時間が88分しかない作品なのだし、もう少し時 間を割いて刺繍をちゃんと見せてもらいたかった気もした。 『ミリオンダラー・ベイビー』(補足) 4月14日付の紹介では、この映画の結末について多少の疑問 を記したが、その後5月25日に行われたヒラリー・スワンク とモーガン・フリーマンの来日記者会見でそれに対するスワ ンクの発言があった。 これは記者団からの「あなたがその立場ならどうしますか」 という質問に対して答えたもので、それまで和やかに受け答 えしていたスワンクの表情が突然引き締まり、「この映画製 作は、私も監督もjobとして行ったものであり、ここには自 分たちのopinionは一切入っていない」と発言していた。 この会見では結局、彼女自身のopinionがどうなのかは判ら なかったが、この問題に関しては、アメリカでもかなり微妙 な状況にあるという印象を受けた。
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