井口健二のOn the Production
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2005年05月30日(月) ナチュラル・シティ、50回目のファースト・キス、バースデー・ウェディング、ジャマイカ/楽園の真実、ダンシング・ハバナ、理想の女

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ナチュラル・シティ』(韓国映画)          
架空の原子力潜水艦による日本攻撃という大胆な内容と、見
事なアクションで話題を呼んだ1999年公開の映画『ユリョン
〜幽霊〜』のミン・ビョチョン監督が、5年の沈黙を破って
発表した近未来SF作品。               
韓国製のSF映画では、昨年『イエスタデイ』という作品が
あったのだが、残念ながら紹介を割愛せざるを得なかった。
まあ、今回宣伝部の人の話を聞いても、元資料には言及がな
かったようだから、本作が韓国SF映画の本格的な夜明けを
告げる作品と言ってよいようだ。            
舞台は2080年、アンドロイドが量産され、兵器や人の享楽に
も奉仕しているが、アンドロイドには暴走を防ぐために一定
の廃棄期限が設けられていた。しかし奉仕してくれるアンド
ロイドに恋をし、その挙げ句に廃棄期限に殉死する者も出る
事態になっていた。                  
一方、アンドロイドの中にも、自らの延命を願い違法に職務
を離脱するものがあった。主人公は、そんな離脱アンドロイ
ドの捜索を行う特別捜査班の刑事。しかし自ら愛するアンド
ロイドの廃棄期限が迫り、違法な延命処理を行うという裏社
会へ足を踏み入れる。                 
離脱アンドロイドとそれを追う刑事という図式は、『ブレー
ドランナー』のそれを思い出させる。描かれた世界はその延
長と言える。しかし本作では、それより1歩踏み込んで、ア
ンドロイドと人間の恋愛関係という新たな局面を描き出して
いる。                        
実は、アンドロイドの感情の存在が微妙に表現されていて、
アンドロイド自身が延命を望んでいるかどうかが正確には判
らないのだが、その分、人間の側の描き方がうまくて、例え
ば不治の病に陥った人間同士のような感じで納得できる仕掛
けになっている。                   
この辺が、廃棄期限に殉死するという説明と合わせて、SF
的設定を理解させ易くしようという努力のようにも思える。
自分は元来がSFファンだから、ここまでの説明は余分のよ
うにも思えたが、確かに最近のSF映画全般の説明不足傾向
の前には、この位はするべきだという必要性も考えさせられ
た。そういった意味でも、この映画の作り手の意識の高さを
感じた。                       
VFXやCGIもかなりの高水準で見事だし、韓国映画特有
の激しいアクションも決まっていて、新たな韓国映画の展望
を感じさせてくれた。                 
                           
『50回目のファースト・キス』“50 First Dates”   
アダム・サンドラー、ドリュー・バリモア共演で、交通事故
の後遺症による短期記憶喪失障害を背景としたロマンティッ
クドラマ。                      
主人公は、ハワイの水族館に勤める獣医。セイウチの生態研
究でアラスカに行くことを夢見ており、その旅に女性の同行
は無理と考える彼は、女性との付き合いに深入りを好まず、
しかし観光客専門のプレイボーイといった感じで、女性の扱
いには抜群の才能を発揮する。             
そんな彼が、アラスカに行くための船の訓練航行中に事故に
遭い、たどり着いた浜辺のカフェで1人の女性に巡り会う。
現地の人が経営する素朴なカフェで意気投合した2人は、再
会を約束して別れるのだが、翌日訪れた彼を彼女は初対面の
ように拒絶する。                   
実は、彼女は1年前に交通事故に遭い、以来1日の記憶を翌
日に持ち越せない、短期記憶喪失障害となっていた。そんな
彼女を周囲が気遣い、彼女は以来毎日を事故当日の日曜日と
して暮らしていたのだ。                
そんな彼女に本気の恋をしてしまった主人公は、彼女に毎日
新しい恋を仕掛けることになるのだが…彼女の周囲の人々は
彼女を守ろうとし、一方、彼の周囲も研究の夢を捨ててまで
のそんな恋はあきらめろと忠告する。          
正直に言って、短期記憶喪失障害の問題は、アルツハイマー
などとの関係もあって微妙な感じの題材だし、興味本位に扱
われては困るものだが、本作ではその点の扱いも細かく神経
が行き届いている感じで、さすがにハリウッドの作品という
感じのものだ。                    
もちろん映画は主人公の悪戦苦闘が中心となるものだが、そ
こに描かれる彼女の周囲の人々の様々な気遣いの有り様が切
なくて、特に後半はスクリーンが曇ってしまうことも多かっ
た。そしてそんな困難の中を敢然と進んで行く主人公が見事
に描かれていた。                   
2人の周囲の人々のキャラクターもよく描かれている(彼女
の弟役のショーン・アスティンがサムワイズ並の献身ぶりを
見せるのも良い感じだ)し、獣医という職業柄登場する海洋
生物の愛らしさもうまくアクセントになっている。    
前にも書いたかも知れないが、サンドラーのコメディ作品は
アメリカでは大ヒット(ほとんどの作品が1億ドル前後の興
行を記録)するものの、日本人の感覚になかなか合わないよ
うな気がする。特にファンタシー系の作品は僕自身、最悪と
感じているものも多くある。              
しかし本作は、サドラーの作品ではベストのものと僕は考え
る。また本作は、舞台が日本人には馴染みの深いハワイであ
るし、短期記憶喪失障害は最近の映画ではいろいろ登場して
いるテーマということで、日本人にもアピールしやすい作品
と言えそうだ。                    
                           
『バースデー・ウェディング』             
日テレ系『全日本仮装大賞』のADや最近では『東京湾景』
等にも携わっているという田澤直樹監督の映画デビュー作。
父子家庭で育った女性の結婚式の前夜、娘は父親の礼服のポ
ケットに仕舞われた自分の幼い頃のヴィデオテープを見つけ
る。そこには、自分と遊ぶ母親の最後の姿と、自分に宛てた
メッセージが収録されていた。             
1時間13分という上映時間には、正直に言って長編映画とし
ての資格はないのではないかと思う。一般公開はレイトショ
ーということで、それなら逆にこれくらいの長さの方が適当
という感じもするが、やはり充分なドラマの描き込みは難し
い。                         
そんな条件の中で、この作品は観客を泣かせるという単目的
では良く作られた作品と言えるだろう。もちろん極めてあざ
とい作品で、最後などは見え見えで泣きに持ち込まれるもの
だが、まあそれも作品の目的ということでは認めざるを得な
いところだろう。                   
ただ、作り方が余りにストレートで、捻りも仕掛けもないと
ころがちょっと物足りなくも感じられるもので、まあ予算の
関係とか上映時間の制限とかあったのだろうが、何かもう少
し工夫が欲しかった感じもする。            
また、父親役の俳優は若い頃との対比を撮りたかったのだろ
うが、どちらもがちょっと老け過ぎな感じでイメージが合わ
なかった。確かに男手一つで娘を育てたらこんな風になって
しまうかも知れないとは思うが、本来ならもう少し若い姿で
はないかと思う。                   
まあ、監督は映画デビュー作ということで、こんなもんかな
あというところだろう。次回作に期待したい。      
                           
『ジャマイカ/楽園の真実』“Life and Debt”      
国際通貨基金(IMF)及び世界銀行の名の元にジャマイカに
対して行われた“経済支援”の現実を描いた2001年製作のド
キュメンタリー作品。                 
IMFと世銀は、数千億ドルの資金を発展途上国に投入し、
その経済の立直しを支援していると報道されているが、その
実体は高金利の貸し付けで各国の経済を縛り上げ、復興の道
を閉ざしている。                   
また世界貿易機関(WTO)は貿易不均衡の是正の名の下に、
実はアメリカの意向に従い、特に経済発展途上国に対して、
アメリカ経済にとって都合の良い世界の貿易を在り方を押し
つけている。                     
そんなメッセージがジャマイカのレゲエ音楽を伴奏に次々に
写し出されてくる作品だ。               
15世紀末にコロンブスによって‘発見'されたジャマイカは、
アフリカ人奴隷によって開拓され経済発展を遂げるが、やが
て19世紀に奴隷制度が廃止され、20世紀に独立を果たした国
家は、結局アメリカ主導の世界に隷属した存在でしかない。
その現実の姿は、ジャマイカ産バナナについて端的に説明さ
れる。                        
世界で最も美味しいとされるジャマイカバナナは最寄りのア
メリカには輸出されず、元宗主国のイギリスに97%が輸出さ
れている。これはアメリカの輸入規制によるもので、一方、
イギリスは元植民地の経済支援のため関税優遇策を実施して
いるのだ。                      
しかしアメリカは、自国の輸入規制は棚に上げて、イギリス
の採る関税優遇策をWTOに訴え、その廃止を求めている。
だがアメリカ国内ではバナナは生産されておらず、その背景
にはチキータ、デルモンテ、ドール等のアメリカ人経営果実
会社保護の政策があるという。             
しかもこのWTOへの訴えを表明するのが、ブッシュではな
くクリントンだという辺りが笑わせてくれる。クリントンは
カリブ諸国の経済発展を支援する処置の一環だと説明するの
だが…こんな歪んだ世界経済の実体が、いろいろな実例を挙
げて説明される。                   
確かに政治的プロパガンダの強い作品で、その描き方には多
少辟易するところもあるが、日本からは地球の裏側で世界経
済の名の下に行われている迫害の現実は、重く受けとめられ
る作品だった。              
                           
『ダンシング・ハバナ』“Dirty Dancing: Havana Nights”
1987年に公開された“Dirty Dancing”のリメイク。と言っ
ても、本作ではキャラクターも舞台も違えて、全くの新しい
作品になっている。                  
因に本作は、アメリカ版『シャル・ウィ・ダンス?』の振り
付け師の一人ジョアン・ジャンセンの実体験に基づいている
ということで、これはオリジナルとは別の物語だ。    
時代背景は1958年。その年の年末が近い頃、とある一家が父
親の転勤によってキューバに引っ越してくる。そこでの一家
の生活は、高級ホテルの部屋を自宅とし、メイドやボーイの
サーヴィスを受けるリゾート気分の何一つ不自由のないもの
だった。                       
その一家の2人娘の姉ケイティは18歳。学業優秀な彼女は、
転入したアメリカンスクールを半年で卒業したら、アメリカ
の大学に進学することを夢見ていた。          
そんなある日、スクールバスに乗り遅れて徒歩で帰宅しよう
とした彼女は、街角で激しく歌い踊るキューバ人のグループ
に遭遇する。そして、その中にホテルのプールサイドで働く
青年の姿を認め、彼の踊る姿に魅かれて行く。      
しかし、禁止された客との交際が発覚した青年はホテルを解
雇されてしまう。そんな彼を支援したいケイティは、彼と共
に賞金5000ドルが得られる大晦日のダンス大会に出演するこ
とを決意し、彼と共にダンスの練習に励むことになるが… 
実は、彼女の両親は元社交ダンスのプロで、彼女にもその素
養があるという背景もあるのだが、そんな彼女が形式的な社
交ダンスとは全く違う、情熱に満ちたキューバ音楽のダンス
に目覚めて行くという物語だ。             
そして、この主人公をイギリスの新星モローラ・ガライが演
じ、相手役には『天国の口、終りの楽園』のディエゴ・ルナ
が扮して、キューバ音楽に乗せた激しいダンスを見事に披露
している。ダンス自体はカット割りなどでごまかしてもいる
が、見た感じはよかった。               
なお『天国…』では、共演のガエル・ガルシア・ベルナルが
一躍人気者になったが、僕は以前からルナの方が親しみやす
くて良い感じに思っていた。本作は、そのルナの親しみやす
いキャラクターが見事に活かされた作品と言えそうだ。  
他に、1987年作に主演したパトリック・スウェイジが、ダン
ス・インストラクター役で出演して見事なダンスを見せてく
れるのも見所と言えそうだ。また、主人公の妹役で『アトラ
ンティスのこころ』などのミカ・ブーレムが出演している。
一つのことに打ち込んで行く青春の素晴らしさが見事に描か
れた作品で、この作品の感じは、僕の一番好きなタイプのも
のだ。そしてこの作品には、1958年という時代背景も見事に
織り込まれていた。                  
1時間27分の上映時間もこの内容には手頃で、同じくギャガ
配給の『シャル・ウィ・ダンス?』の併映には持ってこいと
いう感じ。2本立てのメッカ早稲田松竹あたりで上映された
らまた見に行ってしまいそうだ。            
                           
『理想の女』“A Good Woman”             
オスカー・ワイルド原作の戯曲“Lady Windermere's Fan”
を、1930年のイタリア南部のリゾート地を舞台に脚色した作
品。                         
大恐慌もどこ吹く風でイタリア南部のリゾート地に集う金持
ちたち。そんな社会に1人の美貌の女性が現れる。その彼女
には、男性問題でニューヨークの社交界を追われた女だとい
う評判が立つが、たちまち男性たちを虜にして1軒の別荘を
借りて住むようになる。                
それからほどなく、その別荘に足繁く通う若い男の姿が噂に
なり始める。彼は、結婚1年目を迎えたばかりの資産家で、
彼女の家には資産管理の相談で行っていると話すのだが、彼
の若い妻は、小切手帳の控えからその女に多額の金を渡して
いることを知ってしまう。               
この美貌の女性をヘレン・ハントが演じ、若い妻をスカーレ
ット・ヨハンセンが演じる。              
原作をご存じの方には今更だろうが、原作を知らずに見てい
た僕は、スリラーやアクションでもないこの作品に、これだ
けドキドキしたのは久しぶりだった。人間模様やその機微が
見事に描かれ、まさに文芸作品という感じの作品だ。   
しかもこれを93分の中にきっちりと納めた演出も見事。監督
は本作が4作目のイギリス出身のマイク・バーカー。これか
らが楽しみになりそうだ。               
ハントが演じる運命に翻弄された女性の姿も見事だし、ヨハ
ンセンの初々しさに溢れる若妻の演技も魅力的だった。特に
ハントの、声も仕種もすべて押さえた演技の中に、必要な情
熱を込めた演じ方が素晴らしかった。          


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井口健二