井口健二のOn the Production
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2005年04月01日(金) 第84回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、まず誤報のお話から。
 前回クェンティン・タランティーノ監督の次回作として紹
介した“The Ultimate Jason Vorhees Movie”の情報が、全
くの誤報であったことが判明した。
 前回紹介した情報の元は、Variety紙のWeb版3月8日付に
報道されたものだったが、噂としては、その数週間前から流
されていたようだ。それがVarietyt紙に載ったということで
一気に大々的に報道されたのだったが、前回のページの更新
を行った直後の3月15日(現地の報道は14日付)に、タラン
ティーノ本人による否定の発言が行われてしまった。
 このタランティーノの発言によると、ニューラインからの
打診はあったものの、それにOKをしたことはなく、報道は
全くのでっち上げだということだ。確かに前回の報道では、
ニューライン側の発言はあったが、タランティーノ側の反応
は報告されていなかったもので、多分、ニューライン側の期
待を込めた発言が、そのまま確定情報にすり替わってしまっ
た可能性はあるようだ。
 ただ、誤報を擁護する訳ではないが、こういう報道がされ
ることで滞っていた計画が進み出すこともある訳で、ニュー
ライン側の発言には、その面での期待もあったのかも知れな
い。しかしタランティーノ相手では、そういう作戦は利かな
かったという可能性は考えられるところだ。また今回、タラ
ンティーノ側が直ちに否定コメントを出さず、約1週間を置
いたことにも何か意図的なものが感じられるところだ。
 因に、タランティーノ本人は、2003年12月15日付の第53回
でも紹介している第2次世界大戦を背景にした冒険活劇映画
“Inglorious Bastards”が、次にやろうとしている作品だ
そうで、戦闘中に最前線の敵陣側に孤立してしまった部隊が
窮地を脱出するまでを描く脚本の執筆を進めているとのこと
だ。そして現在は、この作品の実現に傾注しているために、
他の作品のことは考えられないということだそうだ。
 なお“Inglorious Bastards”については、すでにシーン
割りなどの作業は完了していて、次は脚本家を交えて撮影に
用いる撮影台本の作成に取り掛かる段階とのこと。そしてそ
の撮影台本が完成したら、いよいよ製作準備に取り掛かる段
取りのようだ。ただしこの映画の製作は、現状ではミラマッ
クスで行われることになっている。これに対してタランティ
ーノ自身は、前回報告したワインスタイン兄弟の問題では兄
弟側に付くとも伝えられており、それだと製作開始は、兄弟
の離脱が確定する9月以降ということにもなりそうだ。
 一方、タランティーノに関しては、2月15日付の第81回で
紹介したジェームズ・ボンド第21作“Casino Royale”を進
めているマーティン・キャンベル監督が、タランティーノに
俳優としてのオファーを出しているとの情報もあるようだ。
まさか未決定のボンド役ということはないだろうが、タラン
ティーノの風貌ならクリストファー・リーも演じたことのあ
るボンドの敵役には面白そうだ。これも期待を込めた情報と
いうことで紹介しておく。
        *         *
 さて、以下はいつもの製作ニュースだが、今回は異様に情
報が多いので、さっさと始めることにしよう。
 まずはワーナーから、2004年12月15日付の第77回でも紹介
したDCコミックス原作“Wonder Woman”(ワンダー・ウー
マン)映画化の計画が、公式に発表された。
 この計画については、前回にも紹介したように“Firefly/
Serenity”や、“Buffy the Vampire Slayer”(バフィー/
恋する十字架)などのクリエーター=ジョス・ウェドンに、
脚本、監督のオファーがされていたものだが、今回はその起
用が正式に決定したということだ。因にウェドンには、前回
も書いたようにブライアン・シンガーが抜けた後の“X-Men
3”への起用も噂されていたが、これでその可能性はなくな
ったことになる。
 また、ウェドンはこれも前回紹介したように、自作の短命
だったテレビシリーズ“Firefly”の劇場版“Serenity”の
映画化をユニヴァーサルで進めていたが、この作品はすでに
ポストプロダクションが完了しているということだ。
 なお“Wonder Woman”の計画は、『マトリックス』などの
ジョール・シルヴァが長年進めてきたもので、実は2001年に
最初に企画が立上げられたときには、サンドラ・ブロックが
主演する計画だったとも伝えられている。しかし今回の発表
では配役は未定となっており、星条旗のコスチュームを一体
誰が身に付けるかは、これからいろいろな情報が飛び交いそ
うだ。前回報告したようにミニー・ドライヴァーが選ばれれ
ば、それも面白いと思うが。
        *         *
 一方、ウェドンに振られた“X-Men 3”の監督には、イギ
リス人監督のマシュー・ヴォーンの名前が発表された。
 ヴォーンについては、これも第77回で紹介した“The Man
from U.N.C.L.E.”の監督に抜擢されたことを報告している
が、今回の情報との関係がどうなっているかは明確でない。
しかし“X-Men 3”の製作に関しては、2006年5月26日の全
米公開が決定されているということで、これが事実とすると
“The Man from U.N.C.L.E.”の計画は一先ず置いといて、
ということになりそうだ。
 なお“X-Men 3”の製作では、前2作の出演者の内、ヒュ
ー・ジャックマン、イアン・マッケラン、パトリック・スチ
ュアートの再登場はすでに決定しているとのこと。また、ハ
リー・べリーに関しては交渉中ということだが、べリー自身
は、キャラクターの設定をもっと原作コミックスに近づけて
くれたら交渉に応じるという発言を公にしており、希望が叶
えば出演は決まりのようだ。
 X-Menのメムバーからは、すでにサイクロプス役のジェー
ムズ・マースデンの“Superman”への出演が発表されている
が、上記の4人が揃えば、他は何とかなるだろうという感じ
だ。ただスチュアートについては、シンガーがスーパーマン
の実父ジョー・エル役をオファーしているという情報もあっ
たものだが、今回の発表でそれはなくなったようだ。
 因に、このジョー・エル役には、1978年の第1作の製作で
撮影されたマーロン・ブランドの未使用の映像を使うという
情報もあるようだが、第2作での使用も拒否したブランドの
遺志はどうなってしまうのだろうか。
        *         *
 この夏にワーナーが配給するロアルド・ダール原作、ティ
ム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の映画“Charlie
and the Chocolate Factory”の公開に関連して、チョコレ
ートメーカーのNestleから、総額500万ポンドに及ぶ大々的
なタイアップキャンペーンの実施が発表された。
 実は元々Nestleでは、ダールの原作に因んだ「ウィリー・
ワンカ・チョコレートバー」という商品を2年前まで発売し
ていたということで、今回は映画の公開に合わせて、この商
品の再発売を絡めたキャンペーンが行われるということだ。
因にこのチョコレートバーの味は3種類あって、それぞれ、
Whipple Scrumptious Fudgemallow Delight、Nutty Crunch
Surprise、Triple Dazzle Caramelと名付けられているもの
だが、さてそのお味は…他にNestleからは、映画に登場する
お菓子の詰め合わせのセットなども売り出されることになっ
ている。
 また、Nestleは映画の撮影にも全面協力し、工場の中を流
れるチョコレートの川などのセットの建造の他、映画に登場
するチョコレートの包装は、同社の工場で商品の包装に使っ
ている実際の機械で行われたそうだ。
 大作映画のタイアップは決まりものになってきているが、
子供嗜好の商品でこれだけ映画に密接なタイアップも珍しい
もので、面白い展開を期待したい。なおこの他に、ペンギン
ブックスからは原作本の表紙の変更、また玩具メーカーのフ
ァンライズトイからは、模型セットやフィギュア、ゲームの
発売も予定されているようだ。
        *         *
 先日のアカデミー賞で2度目の主演女優賞に輝いたヒラリ
ー・スワンクが、ジョール・シルヴァ、ロバート・ゼメキス
主宰によるホラー専門プロダクション=ダーク・キャッスル
の作品に主演することが発表された。
 この作品は“The Reaping”と題されているもので、宗教
の関わるいろいろな謎を解き明かすスペシャリストの女性を
主人公にした物語。本作では、この女性が宗教的な10の災厄
に襲われたテキサスの小さな町に、その調査に訪れるところ
から、お話が始まるということだ。ブライアン・ルーソのオ
リジナル脚本を、チャド&カーリー・ヘイズがリライトし、
2003年にヴァル・キルマーが主演した“Wonderland”のジェ
ームズ・コックスが監督する。
 因みに、1999年に発足したダーク・キャッスルでは、ほぼ
年1作の割合で作品を製作しているが、2003年にはオスカー
受賞直後のハリー・べリー主演で“Gothika”(ゴシカ)を
発表しており、今回のスワンクといい、本当に女優の気持ち
を掴むのが巧いようだ。
        *         *
 昨年再公開された『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』
や『ジャイアント・ピーチ』などで知られる人形アニメーシ
ョン監督ヘンリー・セリックが、所属しているヴィントン・
スタジオのスタッフと共に、“The Wall and the Wing”と
題された児童向け小説のCGアニメーション化を手掛けるこ
とが発表された。
 この原作は、2006年にハーパーコリンズから出版される予
定のもので、魔法を使った冒険物語と紹介されているが、セ
リックの発言によると、長編映画化するのにピッタリの作品
だということだ。ただし、原作者の名前は、今回の報道では
紹介されていなかった。
 因みにヴィントン・スタジオは、1974年のアカデミー賞短
編アニメーション部門を受賞した粘土を使ったアニメーショ
ン=クレイメーション作品“Closed Mondays”などのウィル
・ヴィントンが創始したアニメーションスタジオで、その後
は1985年にディズニーが製作した“Return to Oz”(オズ)
などにも参加して一世を風靡したものだが、近年はテレビの
番組中で公開される作品などの製作が中心で、大きな作品は
手掛けていなかったようだ。
 しかし2003年に、前Nikeの社長だったフィル・ナイト氏が
スタジオのスポンサーとなり、同氏が全製作費の半額を出資
するという契約で、長編作品の製作への道が開けたというこ
とだ。また今回のセリックの参加も、潤沢になった資金の関
係と思われる。そして本作では、4〜6千万ドルの製作費の
半額が同氏から出資されることになっているものだ。
 なおセリックは、2004年10月1日付の第72回で紹介したニ
ール・ゲイマン原作“Coraline”の脚本監督を手掛けている
他に、前回は不明確だったティム・バートン企画の“Corpse
Bride”にも参加しているようだ。また、日本では初夏に公
開される“The Life Aquatic with Steve Zissou”(ライフ
・アクアティック)に登場する海洋生物のアニメーションも
担当している。
        *         *
 “Alien vs.Predator”(エイリアンVSプレデター)のポ
ール・W・S・アンダースン監督が、1975年にロジャー・コ
ーマン製作、ポール・バーテル監督で発表されたカルトSF
“Death Race 2000”(デスレース2000年)のリメイクを手
掛ける計画が発表された。
 オリジナルは、デイヴィッド・キャラダインの主演で、シ
ルヴェスター・スタローンが出演していたことでも知られる
作品だが、重装備のレーシングカーの爆走する迫力が売りの
反面、人を跳ねるとポイントが上がるというようなかなりエ
グイ設定だったと記憶している。しかしそのブラックなユー
モアセンスが評価され、ガイドブックなどの評価はそこそこ
高いものだ。また1978年には、同じくキャラダインの主演で
続編の“Deathsport”という作品も作られている。
 その作品を今回は、コーマンとC/Wのトム・クルーズ、
ポーラ・ワグナーの製作で、パラマウントがリメイクするも
ので、タイトルは“Deathrace 3000”と発表されている。 
 そして脚本も担当するアンダースンは、「オリジナルでは
歩行者をひき殺すシーンなどが強調されているが、これは実
際のレースでは有り得ないことなので、その点は少し改善し
たい。本作では2020年を背景として、重装備のGMエスカレ
ーダやフェラーリ、アストン・マーティンなどが、超暴力的
なルール無視のレースを展開する内容になる」と発言してお
り、さらに、多少『マッドマックス』的な要素も入れた物語
にしたいということだ。
 因にアンダースンは、この企画には復帰なのだそうで、実
は1995年に彼が“Mortal Kombat”を発表した当時にもこの
企画が進行していたようだ。しかしこの時は実現に至らず、
今回は『バイオハザード』などの成功を引っ提げての復帰と
なったものだ。まあ上記の発言から見ると、多分当時はコー
マンの力も今より強かったろうし、その辺での対立があった
のかも知れない。しかし今回は…というところだろう。
 なお、アンダースンに関しては、前々回に“Man With the
Football”という計画を紹介しているが、彼自身は今回の
作品の方が長年気になっていた作品ということで、本人は直
ちにこの脚本に取り掛かりたい意向のようだ。ただし、現在
は“Resident Evil”(バイオハザード)の第3作の脚本を
執筆中だそうだ。
        *         *
 『シックス・センス』などのM・ナイト・シャマラン監督
の新作がワーナーで製作されることになった。新作の題名は
“Lady in the Water”というもので、内容は、自分が管理
しているアパートのプールに、「海の精」が住んでいるのを
見つけたビル管理人を主人公にした物語ということだ。
 シャマランは監督デビュー以来の4作をディズニーで発表
してきたが、別段優先契約等を結んでいた訳ではなく、以前
から他のスタジオからのアプローチもあったようだ。そして
今回は、ワーナーの数年に亙るアプローチに応えたもので、
シャマランは今回の経緯を、「彼らの私の映画に対する個人
的な繋がりを感じ取った」と説明している。なおシャマラン
は、監督デビュー以前に、コロムビア製作の『スチュアート
・リトル』の脚色を担当したことがある。
 新作の撮影は今年の8月にフィラデルフィアで開始され、
公開は来年6月の予定ということだ。
 一方、今回の動きに関連してディズニーでは、「我々は、
シャマランと強い絆で結ばれており、将来に向かって新たな
計画も持っている」とのことで、関係は今まで通り継続され
るようだが、これでシャマラン監督の製作のペースが上がる
ものなのかどうか、また、さらに他社での製作があるのかな
ど、この後の動向も気になるところだ。
        *         *
 昨年8月1日付の第68回で紹介したProject Greenlightか
ら、また1本映画化の計画が発表された。
 このプロジェクトからは、すでに優勝したパトリック・メ
ルトンとマーカス・ダンストンの共作による“Feast”とい
う脚本の映画化が、主催者のマット・デイモン、ベン・アフ
レックの製作により、監督部門の優勝者ジョン・ガラガーの
監督で進められていて、この作品は今秋、ミラマックス傘下
のディメンションから公開されることになっている。
 また、他の2本のファイナリストの中からは、第74回で紹
介したようにマーシャル・モスリーが応募した“Wildcard”
という犯罪ものの作品が、ウェス・クレイヴンの製作監督で
進められることも発表されていた。
 そして今回は、残る1本のリック・カー応募によるタイム
トラヴェルコメディ作品“Does Anyone Here Remember When
Hanz Gubenstein Invented Time Travel?”の脚本が、アフ
レックとアート&ロジックというプロダクションによってオ
プション契約がされたもので、これで昨年の第3回Project
Greenlightからはファイナリストの3作全ての映画化が計画
されることになったものだ。
 まあ、オプション契約というのは、必ず実現されるという
ものではないが、これで作者には契約金が支払われるものだ
し、今回の契約は大手の製作会社相手ではないから、実現の
可能性は高いと見られる。
 それにしても、『グッド・ウィル・ハンティング』でオス
カー脚本賞を受賞したデイモンとアフレックが、自分らの受
けた恩恵を後輩たちに分かち合いたいとして始めたProject
Greenlightは、着実にその成果を挙げてきているようだ。
        *         *
 そろそろ紙面が残り少なくなってきたが、最後に続編の話
題をまとめて紹介しておこう。
 まずは3月14日付の映画紹介に掲載した“The Butterfly
Effect”の続編が計画されている。この計画はフィルムエン
ジンというプロダクションが提出したもので、前作を配給し
たニュー・ラインが優先契約を結んで製作がスタートされる
ことになった。なお脚本はマイクル・ウェイスという脚本家
が新たに執筆したもので、関係者の発言では「バタフライ効
果を新たな段階に高める」ものになっているそうだ。また、
登場人物は一新され、従ってアシュトン・カッチャーの出演
はないとされている。監督は『モータル・コンバット2』の
ジョン・レオネッティが担当。オリジナルの脚本監督を手掛
けたエリック・ブレスとJ・マッキー・グラバーの2人は、
ストーリーでクレジットされるようだ。
 “Saw”の続編については、昨年11月15日付の第75回でも
紹介したが、この続編の脚本と監督をミュージック・ヴィデ
オ出身のダーレ・リン・ボウスマンが担当することが発表さ
れた。なお、ボウスマンはすでに脚本を書き上げているよう
だが、この脚本は前作を手掛けたリー・ワネルとジェームズ
・ワンの協力の下に執筆されたということだ。キャスティン
グなどは未定だが、撮影は5月2日にトロントで開始され、
今年のハロウィンの公開を目指すことになっている。
 “Final Destination”の第3作“Cheating Death: Final
Destination 3”が、オリジナルを手掛けたジェームズ・ウ
ォンとグレン・モーガンの脚本と、ウォンの監督で実現され
ることになった。なお、オリジナルは全米で1億1200万ドル
の興行成績を上げ、第2作も8900万ドルを稼いでいるが、こ
の続編の出来は僕には納得できないものだった。それが今回
第3作ではオリジナルの2人が復帰するということで、期待
が増すところだ。なお登場人物は一新され、今回はライアン
・メリマンとマリー・ウィンステッドの2人が死神と対決す
る高校生を演じることになる。この2人は“The Ring Two”
にも出演しているそうだ。撮影は4月4日にヴァンクーヴァ
ーで開始され、公開は2006年の予定。
 もう1本、“Spider-Man 3”の敵役に、『サイドウェイ』
でオスカー助演賞候補のトーマス・ヘイデン・チャーチの出
演が決まったようだ。第3作の敵役は果たして噂のザ・リザ
ードとなるのだろうか。


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井口健二