| 2005年03月14日(月) |
迷宮の女、バタフライ・エフェクト、英語完全征服、ダニー・ザ・ドッグ、ラヴェンダーの咲く庭で、コックリさん |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『迷宮の女』“Dedales” 最近、時々紹介される多重人格を扱ったフランス製のサスペ ンス映画。 フランス映画では、フィルムノアールと世界的に呼ばれた時 代から、犯罪捜査ものの伝統があるが、本作はその伝統にも 沿って、心理サスペンスが見事に展開している。 事件は確認されるが死体のない連続殺人事件が発生。そこに は防犯カメラの映像や目撃者の証言なども数多く残されてい るが、犯人像が特定できない。そこで、優秀だが他の捜査官 の顰蹙を買うプロファイリング専門の捜査官が呼ばれる。そ して彼の直感的な捜査で犯人が逮捕される。 その半年後、多重人格の傾向のある犯人の治療のため、専門 の精神科医が精神病院に呼ばれる。彼はその犯人の中に4つ の人格を見いだし、その内のミノタウロスと名告る凶暴な人 格に事件の鍵があることを突き止めるが… 映画は、この2つのストーリーが時系列を入れ篭にして構成 されているが、その構成自体は、VFXなども使って判りや すく整理されて違和感もなく、なかなか見事な作品だった。 そしてギリシャ神話をモティーフにした謎解きも良くできて いた感じだ。 多重人格ものというと、最近では『“アイデンティティー"』 が、その展開や映像化の手法でも傑出していたが、それとは 比べられないものの、本作も見事な作品になっている。特に 犯人役を演じたシルヴィー・テスチュの演技は見事だった。 ただ結末が、映像的にちょっとアンフェアな感じがした。し かしこの手の作品には、2度見て確認する作業が要求される もので、僕はまだ1度しか見ていないので結論は控えたい。 『バタフライ・エフェクト』“The Butterfly Effect” 昨年の今頃に全米で公開されて、興行1位を記録したサスペ ンス作品。 この手の作品はどうしてもネタばれになるので、以下は気を 付けて読んでください。 主人公には子供の頃に3人の遊び仲間がいた。初恋の少女と その兄、そしてちょっと太めの少年。また、その頃の主人公 は、時々一時的に記憶を喪失することがあり、その治療の目 的で日記を付けることが習慣になっていた。 しかし、子供の頃の彼の周辺には忌まわしい出来事が多く発 生し、そのため彼と母親は町を離れなくてはならなくなる。 その日、見送りに来た少女に「必ず迎えに来る」という言葉 を残し、主人公は町を離れる。 その後、主人公には記憶喪失が起きることもなく、成長して 州立大学で心理学を学ぶ学生となっている。そして少女との 約束も忘れられ、楽しい学園生活を送っていたのだが、ふと 日記を読み返したとき、彼は喪失したはずの記憶がそこに書 かれていることに気づく。 そして彼の周囲に変化が生じ始める。 簡単に言ってしまえば、ジャック・フィニーの『ふりだしに 戻る』なのだけれど、この映画の脚本、監督を手掛けたエリ ック・ブレスとJ・マッキー・グラバーは、実に緻密に、そ して大胆にこの物語を構築している。 彼らが先に脚本を手掛けた『デッド・コースター』は、正直 に言って僕が買わない作品の一つだが、その頃すでにこの作 品は進行していたと言うことで、片手間の仕事と本腰の仕事 の違いは歴然のようだ。 まあ、本当は片手間でも良い仕事をしてほしいとは思うとこ ろだが、それでも、そのおかげで本作が実現したのだから、 それなりの仕事ではあったということだろう。 泣き笑いのバランスもうまく構成されているし、謎解きも見 事、特に結末は拍手ものだ。アメリカでリピーターが出たの も理解できる。 なお日本公開は、SF/ファンタシー系の路線では宣伝され ない予定だが、その手の映画のファンには特に満足してもら える作品のように思えた。 『英語完全征服』(韓国映画) 原題はハングルだが、漢字表記は邦題と同じものだそうだ。 英会話学校を舞台に、女性主人公の恋愛騒動を描いた有りが ちのコメディ作品だが、これにアニメーションや合成も取り 入れて、相当の作品に仕上げられている。 主人公は役所の窓口係。ある日、窓口に来た外国人に誰も対 応できず、上司から役所を代表して英会話学校行きを命じら れる。そしてやってきた完全征服が売り物の学校だったが、 初心者のクラスは多士済々、その目的もまちまちだ。 そんな中で、主人公はプレイボーイ気取りのセールスマンに 心を引かれ、勉強への意欲も増すのだったが、彼の方は金髪 の女性教師が目当てで彼女にはつれない。そして勘違いや、 誤解の積み重ねで物語は進行して行く。 まあドタバタではないけれど、日本で言えば吉本か松竹新喜 劇のような関西風のノリの物語が展開する。これにアニメー ションや合成が取り入れられて、笑いあり涙ありの映画とし てはなかなかの出来という感じだ。 韓国映画の良さは、昔の日本映画の良いとこ取りというのは 以前にも書いたと思うが、この作品にもそんな良さが感じら れた。それ以上でも以下でもないけれど、見ている間は楽し めるし、意外とタップダンスのシーンなどがしっかりしてい るのは気に入った。 『ダニー・ザ・ドッグ』“Danny the Dog” 中国出身のカンフースター=ジェット・リーと、先日のアカ デミー賞で助演男優賞受賞のモーガン・フリーマンの共演に よるアクションに彩られた人間ドラマ。 脚本はリュック・ベッソン、監督は『トランスポーター』の ルイ・レテリエが担当した。 リー扮する主人公ダニーは、子供の頃に拉致され、ボブ・ホ スキンス扮するギャングの男に闘士として育てられた。普段 は首輪をしておとなしいダニーだが、一旦その首輪が外され ると、彼は殺人マシンとなって闘犬のように相手に襲いかか る。 しかしある日、骨董品の置かれた倉庫で出番を待つ内に、フ リーマン扮する盲目のピアノ調律師に巡り会う。そしてその 人間性に触れる内、彼の人生が変わり始める。 映画では、巻頭と最後に大掛かりな武闘シーンがあり、中間 にもいくつかの武闘シーンが用意されている。これらの振り 付けは、『マトリックス』がユエン・ウー・ピン担当し、見 事なアクションが展開する。 しかし、映画の全体はアクションに流されることなく、見事 な人間ドラマを描いている。そして演じられるアクションに も、それぞれに違う意味が持たせられ、それに合わせて演じ 方も微妙に変化して行く。このあたりのバランスが見事な作 品だった。 また、台詞は全編英語なのだが、リーの役柄は外界から隔離 されて成長したという設定で、喋りがたどたどしいというの も、巧いとしか言いようのない設定だった。 実は、試写会の翌日にリーの記者会見があり、その席でリー は、初めて役作りをしたと語っていた。確かに今までのリー が演じた役は、どれもただ強いだけの男で、ただアクション さえできれば良く、その意味では役作りなど必要がなかった のだろう。 しかし本作では、少年の心のまま大人になってしまった主人 公など、今までのリーには見られない役柄で、役作りが必要 とされた。そしてその孤独感を体感するために、撮影後もホ テルに戻らず、ただ一人でスタジオで一夜を過ごしてみたり もしたそうだ。 そんなリーの意気込みが伝わってくる作品とも言える。 なお、記者会見では、映画のキーとなるモーツアルトのピア ノソナタが、フジ子・ヘミングの生演奏で紹介された。それ は素晴らしい演奏だったが、演奏後のコメントで、彼女は、 「リー本人は素敵だけど、この映画は嫌いです。」と言って しまった。 確かに、高齢のご婦人には刺激の強すぎるアクション映画だ ったかも知れない。しかし、リー自身も「この作品はハリウ ッドでは作れない」と言っているように、ただの見た目が派 手なアクションだけではない、見事な人間ドラマが描かれた 作品だ。 『ラヴェンダーの咲く庭で』“Ladies in Lavender” 『ジェームズ・ボンド』シリーズでMを演じるジュディ・デ ィンチと、『ハリー・ポッター』でマクゴナガル先生を演じ るマギー・スミス。このイギリスを代表するデームの称号を 持つ2人の女優が共演した人間ドラマ。 第2次大戦前夜のイギリスの寒村での物語。ディンチとスミ スが演じるのは、海辺の館に住む仲の良い姉妹。遺産によっ て慎ましいが安定した生活を送っていた2人は、ある日、海 岸に漂着した1人の若者を救助する。 その若者は、最初は英語が通じなかったが、やがて片言のド イツ語でポーランド人であることが判る。そして若者の看病 を続けるうち、姉妹の妹に微妙な感情が生まれ始める。 しかしその内に、彼にはヴァイオリニストの才能があること が判明する。そしてその音色に誘われるように、ドイツ語を 話す若い美貌の女性が現れる。 スミスが姉を演じ、ディンチが妹を演じる。特にこの妹が、 恥じらうように若者を見つめる姿は、当時の時代背景なども 表わしながら、実に素晴らしく演じられている。映画は間違 いなくこのディンチが主演の作品だ。 一方の若者役は、『グッバイ、レーニン!』のダニエル・ブ リュールによって、初々しく演じられている。 また『スター・トレック』のデイヴィッド・ウォーナーや、 『トゥルーマン・ショー』のナターシャ・マイクルホーン、 『ハリー・ポッター』でスプラウト先生役のミリアム・マー ゴリーズらが脇を固めている。 そしてもう一点、この映画の陰の主役とも言えるのが、ジョ シュア・ベルによるヴァイオリンの演奏だ。ベルは、1998年 の『レッド・バイオリン』でも演奏を担当していたが、特に 本作では、若者が村人との交流を深めるシーンなどが見事な 演奏で描かれていた。 因に、本作では姉をスミス、妹をディンチが演じていたが、 実際の年齢は同い年で、ディンチの方が19日ほどお姉さんの ようだ。 『コックリさん』(韓国映画) 2000年『友引忌』、2002年『ボイス』に続くアン・ヒョンギ 監督の韓国ホラー第3作。 山間の寒村の女子高で、いじめにあっていた都会からの転校 生が、いじめグループへの復讐のためにコックリさんを使っ て忌まわしい霊を呼び出す。そして復讐が始まるが… 僕は、『友引忌』は見ていないが、『ボイス』は最後でいろ いろな駒がピタッと揃うパズルのような面白さが気に入った 作品だった。 それに比べると本作は、確かにスケールも大きく、演出も格 段に巧くなっていることは認めるが、日本のホラー映画には なくて、『ボイス』で感じられた新鮮さのようなものが、少 し物足りないと言うか、日本映画と同じになってしまったよ うな感じがした。 つまり『ボイス』という作品は、ホラーでありながら、その 辻褄の合わせ方が妙に理詰めだったりして、その辺が僕の気 に入ったものだが、考えてみればそれはホラーの本質ではな い訳で、今回の作品は本来のホラーに戻ったというところな のだろう。 その意味では、恐怖感の煽り方も良かったし、見ている間は 楽しめる作品だった。 なお、コックリさんは、韓国ではブンシンサバと呼ぶようだ が、映画の中での呪文が日本語で「分身様、分身様、御出で 下さい」と聞こえるのは面白かった。解説によると「サバ」 はインドの古代語から来た仏経用語らしいが、「様」と書く こともあるようだ。
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