井口健二のOn the Production
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2005年03月01日(火) 第82回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、日本時間2月28日に発表された第77回アカデミー
賞について書こうと思っているが、まずはその前に、前々回
アカデミー賞候補と一緒に紹介したVisual Effects Sociaty
(VES)賞の結果から報告しておくことにしよう。なお、
この賞の受賞式は2月16日に行われた。
 前々回候補を紹介した映画関係の10部門の中で、まず実写
映画での環境創造賞は“Spider-Man 2”でのニューヨークの
夜景、VFXに使用された特殊効果賞は“The Aviator”、
ミニチュア及び模型賞も“The Aviator”のFX11の墜落シー
ンが受賞している。さらに合成賞は“Spider-Man 2”の列車
シーンが受賞した。
 一方、実写映画でのアニメーションキャラクターの演技賞
には“Harry Potter and the Prisoner of Azkaban”のヒポ
グリフ、アニメーション映画でのキャラクターの演技賞には
“The Incredibles”のボブ・パー(Mr.インクレディブル)
が選ばれた。また、VFX映画における俳優の演技賞には、
“Spider-Man 2”におけるアルフレッド・モリナが選ばれて
いる。
 さらに、単独のVFX賞は“The Day After Tomorrow”の
津波シーンに贈られ、VFX中心でない映画でのサポートV
FX賞は“The Aviator”が受賞。そして、本賞とも言える
VFX中心の映画におけるVFX賞には“Harry Potter and
the Prisoner of Azkaban”が選ばれた。
 つまり作品別では、“The Aviator”と“Spider-Man 2”
が3部門ずつ、“Harry Potter”は2部門だがVFX中心の
映画におけるVFX賞を受賞したということで、この3作が
2004年のVFXを代表する作品ということになったようだ。
 それにしても、具体的に対象となったシーンも含めて受賞
作を見渡すと、成程どれも納得できるものばかりで、さすが
に専門家たちが選んだ賞と言うことが出来そうだ。来年もこ
の賞には注目したい。
        *         *
 ということで、続いてはアカデミー賞の講評だが、僕が一
番気になったVisual Effects部門には、ソニー・イメージワ
ークスが担当した“Spider-Man 2”が輝いた。この受賞は、
上記のVES賞とは異なる結果になったものだが、以前リチ
ャード・エドランドにインタヴューしたときに、「オスカー
は専門家でない人たちが選ぶから、見た目派手なものが受賞
しやすい」と言っていたのを思い出して納得した。
 もう一部門、Makeup賞は、“Lemony Snicket's A Series
of Unfortunate Events”が獲得。この作品については昨日
付の映画紹介で掲載しているが、確かにジム・キャリーの変
化ぶりは面白かったし、3候補の内の1本は見ていないが、
まあ順当な線と言えそうだ。
 で、その他では、やはり“The Aviator”が5部門の最多
受賞は果たしたものの、主要な賞ではケイト・ブランシェッ
トの助演女優賞しか得られなかったことが気になる訳だが、
正直に言ってアカデミー賞のVFX部門では無視されたもの
の、VES賞では最多受賞するような作品は、なかなかオス
カーでの主要賞の受賞は難しいということだ。
 それにこの手の作品では、昨年“Return of the King”に
大量の賞を出したところでもあり、2年連続その手の作品と
いうのは考え難い。結局オスカー獲得には、そういう時期の
問題も大きく影響するということだ。これはもう、エドラン
ドも言っていたように、専門家や評論家が選んでいるのでは
ないのだから、仕方のないことと言わざるを得ない。
 また、昨年の“Return of the King”はニューライン製作
配給で、いわゆるメイジャー作品ではなかったものだが、今
年は主要賞のほとんどをメイジャーが獲得しているのは、各
社が巻き返したと言うこともできるかも知れない。おかげで
ミラマックス配給の“The Aviator”などが割りを喰ったと
も言えそうだ。
 なお、長編アニメーション賞は“The Incredibles”、ま
たオリジナル脚本賞は“Eternal Sunshine of the Spotless
Mind”となっており、これも順当という感じだ。それから
5本の候補が全てSF/ファンタシー系で気になった作曲賞
には“Finding Neverland”が選ばれた。ジョニー・デップ
主演のこの作品は7部門で候補になっていて、候補の数では
“The Aviator”に次ぐものだったが、アメリカではミラマ
ックスが配給しており、上記の状況があるとすれば、1つぐ
らい取っておくのが順当というところだろう。
        *         *
 以上でアカデミー賞の講評は終わりにして、以下は定例の
製作ニュースを紹介することにしよう。
 まずは、昨日付の映画紹介に掲載した“Hitch”(最後の
恋のはじめ方)が、ロマンティック・コメディ映画史上最高
のオープニング成績、しかも2週連続の週末興行成績第1位
という大ヒットを記録したウィル・スミスの主演で、ちょっ
と捻ったスーパーヒーロー物の計画が進められている。
 計画されている作品の題名は、“Tonight, He Comes”。
実はこの計画については、2002年8月15日付の第21回でも一
度紹介しているが、落ちぶれたスーパーヒーローが一般市民
との生活の中で自分を取り戻して行くという物語。以前の報
告では12歳の少年との交流が中心となるとされていたが、今
回の情報では主婦との恋愛が描かれるということで、映画の
企画も2年半も経つといろいろ進化するようだ。
 オリジナルは、6年ほど前にヴィンセント・ンゴという脚
本家が発表したもので、以来、映画化されていない優秀脚本
の一つとして各所で話題に上っていた。そして前回報告した
時点では、このオリジナル脚本を、『ビューティフル・マイ
ンド』でオスカーを受賞したばかりのアキヴァ・ゴールズマ
ンが再構築し、ゴールズマンの製作で、『ブレア・ウィッチ
・プロジェクト』などのアーチザンが映画化するとなってい
たものだ。また当時の報道では、監督候補にトニー・スコッ
トの名前が上がっているともされていた。
 しかし、スコットの名前は早々に消えたようで、その後は
『コラテラル』などのマイクル・マン監督の線で企画が進め
られていた。ところがアーチザンでは充分な製作体制が取れ
ないことが判明し、結局同社は製作を断念してしまった。 
 これに対してゴールズマンは計画を続行、マン監督も製作
者に引き入れ、ついには『ターミネーター3』のジョナサン
・モストウを監督として起用することに成功する。そして監
督に決まったモストウは、新たに10ページの概要を作成して
スミスに提示。これを見たスミスが、映画への主演を了承し
たというものだ。
 そして、この配役が決まった時点で再度映画化権の交渉が
行われ、映画各社の争奪戦の末、スミスとの関係の深いコロ
ムビアが権利を獲得している。なお、この争奪戦にはフォッ
クスも参加しており、同社はアーチザンが断念した後、最も
熱心にゴールズマンに働きかけをしていたということだが、
先週の“Hitch”の大ヒットが生まれた直後に、コロムビア
との契約がなされたということだ。
 計画は現在、ヴィンス・ギリガンという脚本家が、モスト
ウの意向に合わせたリライトを行っている段階。因にギリガ
ンは、“The X-Files”の脚本家/プロデューサーの他、マ
ンが製作総指揮を務めたテレビシリーズ“Robbery Homicide
Division”などの脚本も担当しているそうだ。
 なお、この企画は、スミスもモストウも次回作とはしてい
ないものだが、ハリウッド情報によると、2006年のクリスマ
スシーズンの公開が期待されているということだ。
        *         *
 お次は、またまたシリーズ物の計画で、テリー・ブルック
スという作家によってすでに第5巻までが発表され、2006年
に第6巻が出版される予定の“Magic Kingdom”シリーズの
第1巻“Magic Kingdom for Sale”を、『ヴァン・ヘルシン
グ』のスティーヴン・ソマーズ監督で映画化する計画がユニ
ヴァーサルから発表された。
 物語は、最愛の妻を亡くした弁護士が、過去の生活を断切
ろうとした矢先に不思議な広告を目にし、全財産を注ぎ込ん
でそれに応募してしまう。それは魔法王国の支配者になると
いうものだったが、応募が叶っていざその王国を2人の子供
と共に訪れてみると、そこは悪魔や怪物たちが入り乱れての
大混乱の真っ最中だった…
 これが発端の物語ということだが、ここから少なくとも6
巻の話が続くとすれば、かなり楽しめるシリーズになりそう
だ。そしてこの映画化のための脚色に、『きみに読む物語』
や『ナショナル・トレジャー』などを手掛けた大ベテランの
ローウェル・ガンツ、ババルー・マンデルのコンビが当たる
ことも発表されている。
 なおソマーズ監督は、現在は、同じくユニヴァーサル製作
の“Flash Gordon”のリメイク脚本を執筆中だそうだが、今
回の報道によると、そちらは脚本と製作のみで紹介されてい
て、本作では監督を担当することになっている。またソマー
ズ監督関連のユニヴァーサルの計画では、2004年9月1日付
の第70回で紹介した“Airborn”や、その他に“Flame Over
India”“The Big Love”などが進行中ということだ。
        *         *
 もう1本シリーズ物の映画化の計画で、こちらはワーナー
から“Midnight for Charlie Bone”という作品を第1作と
するシリーズの映画化権を獲得したことが発表された。  
 この作品は、ウェールズ出身のジェニー・ニモという作家
が発表しているもので、原作本はすでに3冊が発刊されてい
るようだが、ワーナーでは上記の第1作に続く4作分までの
映画化権を獲得したとしており、とりあえずシリーズは第5
巻までは続くようだ。
 シリーズの内容は、写真を見るだけでその写真が撮られた
ときの被写体の人々の会話を聞くことの出来る能力を持った
10歳の少年を主人公としたもので、主人公はこの能力を使っ
て行方不明になった少女の行方を捜そうとするのだが、この
行為が、彼の人生を策謀と危険に満ちたものに変えて行くと
いうもの。一応は若年向けのファンタシーとなっているが、
主人公の能力も特殊だし、ちょっと不思議なムードの作品に
なりそうだ。
 製作は、ワーナー傘下のサンダーロードというプロダクシ
ョンで進められ、ここからすでにニール・オルシップという
脚本家に脚色の依頼もされている。なおオルシップは、長年
テレビのナイトショウなどで、ホスト用の台本を書く仕事を
してきた人だそうだが、今回の起用は、彼が先にワーナーに
提出したオリジナル脚本が首脳陣の目に留まって実現したと
いうことだ。ファンタシーの脚色にナイトショウの台本作家
という組み合わせも気になるところだ。
        *         *
 お次もワーナーで、2005年2月号のヴァニティ・フェア誌
にジュディ・バカラックという雑誌記者が発表した“U Want
Me 2 Kill Him?”と題された記事に基づく映画化権を獲得
し、この計画を、3月に“Superman”の撮影を開始するブラ
イアン・シンガー監督で進めることが発表されている。
 この作品は、題名の表記からも判るようにインターネット
を題材としたもので、14歳と16歳の少年がネットを通じて知
り合い、14歳の少年が殺人を計画し、16歳の少年がそれを実
行して行くという内容。しかもその展開には、かなり捻った
ものがあるということだ。そしてシンガー監督は、この計画
の脚本から監督まで全権を委ねられることになっている。
 シンガー監督は、“Superman”の前にも、『X−メン』の
2作などVFXを多用したアクション映画を監督していて、
今回の計画は、彼の最近の作品の傾向とは異なるものだ。し
かし、元々のシンガー監督には“The Usual Suspects”や、
イアン・マッケラン、ブラッド・レンフロ共演による“Apt
Pupil”(ゴールデン・ボーイ)などのようにダークな心理
描写を扱った作品もあり、本作はその路線での作品というこ
とになりそうだ。
 なお、本作は実話に基づく作品ということで、映画化には
慎重を期す必要があり、製作には記事を書いたバカラックも
コンサルタントとして参加することになっている。
 一方、シンガー監督には、2004年3月15日付の第59回で紹
介した1970年代SF映画のリメイク“Logan's Run”の計画
もまだ健在のようだ。
        *         *
 断じて、アイザック・アジモフ原作ではない“I,Robot”
を発表したアレックス・プロイアスの監督で、“Knowing”
と題された超常現象もののスリラーが計画されている。
 この作品については、2003年7月15日付の第43回で一度紹
介しているが、ライン・ピアソンという小説家がオリジナル
脚本を書き下ろしたもので、内容は、過去から未来に渡る恐
ろしげなものが、一杯に詰まったタイムカプセルを開けてし
まった男の物語ということになっている。
 そしてこの計画は、実は数年前からコロムビア傘下のエス
ケープ・アーチスツで進められていたもので、2002年にロバ
ート・レッドフォードが主演した『ラスト・キャッスル』を
手掛けたロッド・ルーリーや、『ドニー・ダーコ』のリチャ
ード・ケリーといった監督たちが計画に参加していた。しか
しなかなか実現に至らず、ついにコロムビアは手を引くこと
になってしまった。
 従って、現在はエスケープ・アーチスツが単独で計画を進
めているものだが、同社ではプロイアスを監督に起用すると
共に、脚本のリライトに、スタン・ウィンストン・スタジオ
のスタッフで、『ジュラシック・パーク』などの製作コーデ
ィネーターを務めたスタイルズ・ホワイトと、その妻のジュ
リエット・スノーデンのコンビを起用して、映画化の実現を
目指すことにしたものだ。なお夫妻は、今年公開されるホラ
ー作品で“The Boogeyman”の脚本も手掛けている。 
 因に本作の配給は、報道の時点では未定ということだが、
エスケープ・アーチスツ製作の近作の配給はパラマウントと
ソニーが行っており、配給がソニー=コロムビアに戻る可能
性もあるようだ。
        *         *
 ディズニー・アニメーションから、“Peter Pan”(ピー
ター・パン)の前日譚を映画化する計画が発表されている。
 計画は、ピュリッツァー賞受賞コラムニストで、2002年に
ティム・アレンとレネ・ルッソの共演、バリー・ソネンフェ
ルド監督で映画化された“Big Trouble”などのユーモア小
説の作家でもあるデイヴ・バリーと、“The Diary of Ellen
Rimbauer”などの作品で知られるサスペンス作家リドリー
・ピアスンが共同執筆した“Peter and the Starcatchers”
という子供向けのベストセラー本を映画化するもので、この
原作本は、昨年8月にディズニーの出版部門から刊行された
ということだ。
 本の内容は、ジェームズ・バリーの原作からヒントを得て
創作されたもので、8歳のピーターに率いられてネヴァーラ
ンドと呼ばれる船で暮らす孤児の少年たちの冒険を描いてい
る。そしてある日、ピーターと仲間のモリーは、魔法の星の
粉の入ったトランクが、海賊黒ひげの手に落ちる前に取り戻
さなければならなくなる、というお話が展開されるものだ。
 なお今回の計画では、監督や脚本家などのスタッフはまだ
発表されていないが、製作は3D−CGIによる長編アニメ
ーションで行われることになっている。
 ディズニーからは、一昨年に続編の『ピーター・パン2/
ネバーランドの秘密』が公開されているが、今回は前日譚と
は言ってもちょっと正統派とは異なるようで、その辺がどう
なるかも楽しみだ。
        *         *
 後は短いニュースを2つ紹介しておこう。
 まずは、『エイリアンvsプレデター』を発表したポール・
W・S・アンダースン監督で、“Man With the Football”
という計画が発表されている。この計画は、実は1994年に立
上げられたもので、当時はシルヴェスター・スタローンの主
演ということでキネマ旬報にも紹介した記憶があるが、題名
の中のFootballというのは、常にアメリカ大統領の傍に置か
れている核戦争の開始を指示する命令装置の入ったブリーフ
ケースのこと。そして物語は、このブリーフケースがテロリ
ストの手に渡ったことから始まるサスペンスを描いたものと
いうことだ。脚本は、2002年版『ローラーボール』や『ゴー
ストシップ』のジョン・ポーグが執筆している。製作はニー
ル・モリッツ、コロムビアが配給する。
 もう一つは続報で、昨年10月1日付の第72回で紹介したテ
レビ版『スーパーマン』の主演俳優ジョージ・リーヴスの死
の謎を探る“Truth,Justice and the American Way”にベン
・アフレックとダイアン・レインの出演が発表されている。
この作品には、事件を捜査する刑事役でエイドリアン・ブロ
ディの出演がすでに発表されていたが、今回発表されたアフ
レックはリーヴス役、そしてレインは、リーヴスとの不倫関
係が伝えられたハリウッドの映画会社の重役の妻トニ・マニ
ックスの役ということだ。リーヴスの死に関しては、一般的
には自殺と伝えられているが、いろいろ不審な点もあるよう
で、これに不倫話まで出てくると、かなり生臭いものになり
そうだ。製作配給はフォーカス・フィーチャーズ。
        *         *
 最後にファンには期待の情報で、劇場版“Star Trek 11”
の計画が、ごく初期の段階ではあるが開始されていることが
公表された。
 “Star Trek”に関しては、現在放送中の“Enterprise”
の製作打ち切りが発表され、アメリカでは5月13日の放送を
以て、1987年9月26日“Star Trek: The Next Generation”
の開始から足掛け19年間連続したシリーズが途切れることに
なっているが、実はこの発表に対して、2月13日にはパラマ
ウントスタジオ前でトレッキーによる抗議行動が行われた。
 そして今回の情報は、これに関連して報じられたもので、
それによると、テレビ及び映画版シリーズ製作者のリック・
バーマンは映画版の第11作の準備を開始し、エリック・イェ
ンドルセンという脚本家がこれに契約したということだ。
 因にイェンドルセンは、2002年に『ER』のエリク・ラ=
サルが出演した“Crazy As Hell”という病院を舞台にした
ミステリー作品で脚本を担当している他、ナショナル・ジェ
オグラフィック製作で、ロバート・レッドフォードが主演す
る予定の“On the Wing”という作品の脚色も手掛けている
そうだ。
 現状で、この計画がどの世代を描いたものになるかなどの
詳細は全く不明だが、以前の報道では、ウィリアム・シャト
ナーが再びカーク船長を演じたいと言っているなどの情報も
伝えられており、出来るだけ多くのファンを満足させる作品
を期待したいものだ。


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井口健二