井口健二のOn the Production
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2005年02月28日(月) 最後の恋のはじめ方、フィーメイル、コンスタンティン、ZOO、レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語、ブレイド3、帰郷

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『最後の恋のはじめ方』“Hitch”            
ウィル・スミス主演のロマンティック・コメディ。    
スミスというと、『バッド・ボーイズ』から『アイ,ロボッ
ト』までアクションスターの印象が強いが、元々はグラミー
賞も受賞したラップ歌手でコメディのセンスも良い。従って
そのセンスの活きた『ID4』や『MIB』の人気が高いの
は当然のところだろう。                
しかしロマンティック・コメディという形で主演するのは、
意外と初めてのようだ。                
そのスミスが演じる主人公のヒッチは、他人の恋を成就させ
るデートドクター。口コミで営業する彼は、顧客の一途な恋
心を巧みな演出で相手の女性に伝え、百発百中で恋を成就さ
せてきた。そして今回も、セレブな女性に恋心を抱く証券マ
ンの恋の演出を始めたが…               
一方、タブロイド紙記者のサラは、セレブ達の恋のスキャン
ダルを追う毎日だったが、自分自身の恋にはあきらめの気持
ちが日々増していた。ところが酒場で偶然ヒッチと出会い、
やがてゴシップに絡んで名前の出た彼に会いに行く。彼の本
当の仕事は知らないままに…              
後の話はご想像に任せるが、物語の展開はともかく、特に前
半はヒッチの繰り出す恋を成就させるための手練手管が笑わ
せてくれる。相手の趣味や興味を調べ上げ、それに合わせて
偶然を装った演出を仕掛けるのだが、そのエピソードの積み
上げ方は見事なものだ。                
ただ物語の全体では、ヒッチとサラの恋に至る過程が、ちょ
っとピンと来ない。多分こちらは一目惚れということになる
のだろうが、その辺をもう少し明確にするエピソードが欲し
かった感じもした。                  
ロマンティック・コメディというのはアメリカではかなりの
確率で大ヒットが生まれるが、日本では文化の違いなどでど
うもピンと来ないことが多い。特にアメリカ国内での南北問
題や人種問題などが根底にあると、違和感が大きくなる。 
しかしこの作品ではそういった点は問題なく、どちらかとい
うとヒッチの繰り出す手練手管を見せることが主眼の映画だ
し、それは馬鹿馬鹿しいところも多々あるけれど、判りやす
くて面白い作品だった。                
共演のサラ役は、『レジェンド・オブ・メキシコ』などのエ
ヴァ・メンデス。監督は『メラニーは行く』などのアンディ
・テナント。デートの背景として、ニューヨークの名所旧跡
なども次々に登場し、観光気分にもなれて、気楽に楽しめる
娯楽作というところだ。                
                           
『フィーメイル』                   
姫野カオルコ、室井佑月、唯川恵、乃南アサ、小池真理子と
いう今を代表する女流作家たちが、それぞれ映画化を前提と
して書き下ろしたエロスをテーマにした原作を、篠原哲雄、
廣木隆一、松尾スズキ、西川美和、塚本晋也の監督で映像化
したオムニバス作品。                 
僕は、日本映画は基本的にインディーズのものしか見ていな
いが、偶然にも、『深呼吸の必要』『ヴァイブレータ』『恋
の門』『六月の蛇』と、本作が2作目の西川監督を除く各監
督の近作を見ており、その意味でも興味深い作品だった。ま
た試写会では、松尾監督を除く4氏の舞台挨拶もあり、意外
と饒舌だったりシャイだったりと、監督の人となりを見られ
たのも収穫だった。                  
それで内容は、短編映画なのでストーリーを書くとネタばれ
してしまうことになるが、姫野=篠原作品は、地元を離れた
女性が里帰りで過去を振り返るお話。室井=廣木作品は、男
運のない3人の女性の話。唯川=松尾作品は、婚期を逃した
女性がふと手に入れた神秘の香炉を巡るファンタスティック
な物語。乃南=西川作品は、小学生男子の性の芽生えの話。
小池=塚本作品は、ちょっと意味ありげな男と女のお話とな
っている。                      
この中では、唯川=松尾の作品が自分のテリトリーに一番近
いし、その意味で興味もひかれた。           
そこでこの作品を中心に書くことにするが、まず松尾監督は
前作『恋の門』でも見事に無邪気な演出を見せてくれて感心
したものだ。その演出ぶりは今回も健在で、恐らく、既成の
監督ではここまではできないだろうという演出を見事にやっ
てくれている。                    
お話は、唯川の書いた通りのものだとすると、今回のテーマ
を離れても成立するものとも思えるが、逆に松尾監督は、こ
れをエロスというよりポルノに近い演出で成立させてしまっ
た。それを意図したかどうかは判らないが、これはちょっと
凄い。                        
それにしても主演の高岡早紀は、本当にここまでやっちゃて
良いのかなあ、という感じの熱演。本作のR−18指定は、こ
の一編だけでなったのではないかと思うほどだ。テーマが女
性の妄想だから内容も凄いし、結末もいろいろ想像させる面
白さがあった。                    
他の作品も、少なくとも4人の男性監督の作品は、それぞれ
個性が出ていて面白く見られた。一方、西川監督については
本来の作風は判らないが、本作は女性らしい素敵な感性の作
品として見られた。                  
母体となっているのは、Jam-Filmsという短編映画のシリー
ズ企画で、これは第1作だけ以前に見ているが、それに比べ
ると、本作は中心になるテーマがあるせいか纏まりも良かっ
たし、各編の水準も高く感じられた。こういう企画は今後も
続けて行って欲しいものだ。              
                           
『コンスタンティン』“Constantin”          
DCコミックス刊行のグラフィックノヴェルを原作として、
キアヌ・リーヴスの主演で映画化したアクション作品。  
現世は地獄と天国の境界に位置している。しかし天国の住人
は現世に入ることができず、また地獄の住人も現世には入れ
ない。地獄、天国から現世に入ってこれるのは、ハーフ・ブ
リードだけだ。ところが、そんな現世への地獄からの干渉が
頻繁になり始める。                  
主人公は悪魔を見分ける能力を持ち、その宿命から逃れよう
とたった2分間だけ成功した自殺のために天国へ行くことを
拒否されている男。しかし彼は、同時に見てしまった地獄の
姿に恐怖し、天国へ切符を得るために、神の命じるままに、
地獄からの侵入者を元の場所へ送り戻す任務に着く。   
そんな彼は、優秀な悪魔払い師として神父からの信頼も厚か
ったが、頻繁な喫煙のために肺ガンを患い、余命1年と診断
されていた。そんな彼が、神の目に留まる最後のチャンスを
得るために、地獄からの最大の難敵と戦うことになる。  
近着の海外ニュースによると、ローマ大学に悪魔払いの講座
ができたそうだ。同じ記事では、年間20件程の悪魔払いが現
実に行われているという。それでなくても、現世が地獄の干
渉を受けているという設定は、今の世の中を見ていると妙に
説得力があるものだ。                 
そんな設定の物語だが、現世と地獄を行き来するリーヴス演
じる主人公には、どうしても『マトリックス』のネオのイメ
ージがつきまとう。しかしこの作品は、ある意味でそれも利
用して作られているという感じもするものだ。      
そして本作では、地獄の描写から現世に現れる地獄の使者た
ちの姿までが、満載のVFXで見事に描き出される。その映
像にリーヴスの姿がよく似合っていた。『マトリックス』の
評価は、最後の最後で大幅に下落したと思うが、リーヴスに
はその失地回復の意志も感じられた。          
リーヴス自身は、別段このようなVFXに頼る作品に出続け
る必要はないと思うのだが、その彼が1年足らずで再びこの
ような作品に挑戦してくれた心意気にも感謝をしたい。  
ただ、映画全体が余りに暗いのは気になる。テーマがテーマ
だから仕方ない面はあるが、ワーナーの最近の作品は、『キ
ャットウーマン』にしてもちょっと暗くしすぎている感じが
した。ただし、これは『バットマン』復活への布石と考えれ
ば良いのかもしれない。それなら、次は『スーパーマン』だ
から、それまでには明るくなってくれると思いたい。   
なお、「ハーフ・ブリード」という言葉が、字幕にも片仮名
でそのまま出てくる。一応、日本語の訳語もある言葉だが、
映画では片仮名のままで定着させたい意向らしい。意味が判
った方が、映画も理解しやすいと思うのだが。      
                           
『ZOO』                      
乙一作の同名の短編集から、新鋭監督やCM作家、CGアニ
メーターらが競作したオムニバス作品。         
作品としては、『カザリとヨーコ』『SEVEN ROOMS』『陽だ
まりの詩』『SO-far』『ZOO』の5作が映画化され、前後の
2作ずつが実写、真中の作品がCGアニメーションによる映
像化となっている。                  
内容はそれぞれ、一方が母親に愛され、他方が疎まれている
双子の姉妹の話。7つ並ぶ部屋に閉じ込められ、順番に殺さ
れるのを待つ女性たちの物語。製作者を埋葬するために作ら
れた少女ロボットの話。母親と父親が互いの存在を否定する
家庭で暮らす少年の話。廃園の動物園を訪れたことから始ま
る男女の奇妙な関係を描いたお話、というものだ。    
僕は原作を読んではいないが、特に前半の3作品、CGアニ
メーションまでの作品の感性には心地よいものを感じた。こ
れに対して、後半の2作はちょっと在り来りな感じがした。
これらを不条理劇として面白く感じる人はいるのかも知れな
いが、僕には今更の感じがしたものだ。         
それに比べて前半の3作には、それぞれに物語を伝えようと
する意欲が感じられた。短編映画というのは、どうしても語
り口が舌足らずになりがちだが、この3作はそれを見事に伝
えている。その意味で、僕はこの前半の3作を好ましく思う
ものだ。                       
また、前半の3作がそれぞれ物語として登場キャラクターに
対する愛情が感じられるのに対して、後半の2作にそれが感
じられないことにも違和感を持った。もっとも、これは最近
の一般的な風潮のようにも感じられるものだが。     
                           
『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』     
  “Lemony Snicket's A Series of Unfortunate Events”
原作はすでに11巻刊行され、その全巻が児童書の全米ベスト
セラーリストに登場したという人気シリーズからの映画化。
題名通り、主人公の子供たちは次々に不孝の奈落に突き落と
され、それを克服する。その繰り返しの物語だが、この不孝
が手を替え品を替えて本当にシリーズで襲いかかってくると
共に、それを子供たちが知恵と勇気で見事に克服するのが見
所になっている。                   
そして、その不幸の元凶となるのが、ジム・キャリー扮する
オラフ伯爵。これがまた性懲りもなくいろいろな手を打って
くるのだが、その手立てというのが結構理にかなっていて、
子供だましでないところが凄い。            
もちろん、特異なシチュエーションが前提になっている物語
ではあるが、それぞれがそれなりに説得力のあるものになっ
ているのだ。この辺の手抜きのないところが、原作の人気の
理由なのだろうし、映画はそれをちゃんと映像化している感
じがした。                      
一方、その不幸に襲われる子供たちを演じるのが、『ゴース
トシップ』で少女の霊を演じたエミリー・ブラウニングと、
『ロード・トゥ・パーディション』でトム・ハンクスの息子
役のリアム・エイケン。さらに2002年生まれで、1歳前から
ドラマに出演していたというカラ&シェルビー・ホフマン。
この子役たちが本当にうまい。             
しかもこれに、メリル・ストリープや、ジュード・ロウ(ス
ニケット=ナレーター役)らが加わって、映画を一層盛り上
げているというものだ。                
『ハリー・ポッター』の成功以後、児童書の映画化の計画は
目白押しだが、なかなか実現には至っていないのが実情だ。
その理由は、物語に盛られた豊かなイマジネーションを映像
化すること自体の困難さによるところが大きい。     
実際『ハリ・ポタ』などは、物語をそれなりに追えばいいも
のだし、映像的にもVFXを多用する必要はあるが、それも
判りやすいものだった。ところが本作のような作品では、描
かれているものを映像として納得できるものにすること自体
が難しい。                      
その点でこの映画化は、ブラッド・シルバーリング監督以下
のスタッフが実に良い仕事をしている。次々登場する不思議
な風景は、原作に挿絵が付いていたらきっとこうなのだろう
と思わせるものだし、そこで繰り広げられるアクションも見
事に演出されていた。                 
                           
『ブレイド3』“Blade Trinity”            
ウェズリー・スナイプスの主演で、ヴァンパイアキラーの主
人公の活躍を描いたシリーズの第3弾。         
ブレイドというのは、元々は1972年にマーヴェルコミックス
から刊行された“The Tomb of Dracula”の中に登場したマ
イナーなキャラクターだったということだが、1998年にスナ
イプスの主演で映画化された第1作は、全米で7000万ドルの
スマッシュヒットを記録。そして2002年に続編が製作され、
今回その第3弾が作られたものだ。           
物語的には、第1作では全能の力を得ようとした吸血鬼のリ
ーダーと闘い。第2作は死神族と名告る吸血鬼集団と闘った
ものだったが、本作第3作では、シリア砂漠での太古の眠り
から甦った吸血鬼の始祖との闘いが描かれる。      
この吸血鬼の始祖というのが、純血であるが故に現代の生き
残りの吸血鬼より強大な力を持ち、吸血鬼たちはその力を自
らのものにしようとしている。それを阻止するのがブレイド
の使命だが、吸血鬼たちも有名になったブレイドにいろいろ
な罠を仕掛けてくる。                 
そしてブレイドはその罠に填って、ついにはFBIも敵に廻
すことになるのだが…今回はブレイド側にも強力な助っ人が
現れる。                       
というような展開だが、基本的にこのシリーズは、格闘技で
黒帯5段の実力を持つというスナイプスのアクションを描く
のが目的で、さらにそれにVFXが華麗な彩りを添えるとい
うのが見所の作品だ。従って物語の粗さなどは、多少は目を
つぶることにしよう。                 
なお設定としては、吸血鬼は殺すと灰となって燃え尽き死体
が残らない。従ってブレイドは、吸血鬼を何人殺しても罪に
問えないというもので、これはテレビの『インベーダー』で
も使われた設定だが、その辺はうまく再利用された感じだ。
なお本作は、本シリーズ化の一翼を担った脚本家のデイヴィ
ッド・S・ゴイヤーが監督も担当したもので、これで3部作
の完結というふれこみになっている。          
                           
『帰郷』                       
1998年の『楽園』という作品で芸術祭賞なども受賞している
萩生田宏治監督の作品。                
都会で暮らしている30代半ばの男が、独り身だった母親の再
婚の祝いに呼ばれて帰郷することになるが、そこには初恋や
初体験などの苦い思い出が渦巻いている。しかも初体験の相
手は、バツ一になってその町で暮らしており、彼女は女手一
つで娘を育てていた。                 
そして再会した2人は再び関係を持ち、翌日男は誘われるま
まに彼女の家を訪ねるが、そこには娘だけがいて、母親は蒸
発していた。こうして主人公は、幼い子供と共に母親の行方
を探すことになるのだが…               
別段、自分にこのような体験があるわけではないが、近いと
はいえ故郷を離れて東京で暮らしている身には、主人公の心
情はそれなりに理解できる。故郷で旧交を温めるシーンでの
疎外感なども、うまく描かれていた感じだ。       
ただし本作は、そこから発展して自分探しの旅になって行く
ものだが、その辺の気持ちも判る物語だった。      
ただ撮影のテクニックで、意図的かも知れないが、夜間シー
ンでのハレーションが煩わしく、少し疑問に感じた。充分な
ライティングのできない撮影での難しさはあるかも知れない
が、もう少しなんとかしてもらいたかったものだ。    
それから物語では、主人公が翌日出勤と言い続けながら、出
勤できないとなってからも、その連絡を取るシーンのないこ
とが気になった。まあ些細なことだが、上映時間82分の作品
なのだから、もう1分ぐらい使ってそのシーンを描いたほう
が、安心できると言うものだ。             
なお出演者の中で、娘役の守山玲愛がなかなか良かった。  


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井口健二