井口健二のOn the Production
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2005年02月15日(火) 第81回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はこの話題から。
 ピアーズ・ブロスナンの降板宣言などで製作の遅れている
007シリーズ第21作について、この新作の題名を“Casino
Royale”とすることが、映画の配給元のMGMから正式に発
表された。
 この題名については、昨年10月1日付の第72回でも触れた
が、本来故イアン・フレミングが執筆した原作シリーズには
長編12作と短編9作があり、過去の映画化では長編タイトル
の内11作分がすでに使用されていた。しかし、1953年に発表
された原作第1作の“Casino Royale”の題名だけは、正式
のシリーズの中では使用されていなかったものだ。
 と言うのも、この第1作は、発表の翌年にアメリカCBS
テレビ放送の“Climax”というアンソロジーシリーズの1篇
として最初の映像化が行われており、この際に発生した映像
化権が、正式のシリーズを手掛けるブロッコッリー一族とは
別の製作者の手に渡っていた。
 そこでこの製作者は、当初は正当な映画化を考えた形跡も
あるようだが、出演を依頼したショーン・コネリーが断った
ためにパロディ化を思いつき、主人公の一度引退した諜報員
サー・ジェームズ・ボンド役にデヴィッド・ニーヴン、敵役
にオースン・ウェルズ、ウッディ・アレンを招き、監督はジ
ョン・ヒューストンら6人、さらに脚本には、クレジットは
されていないが、ベン・ヘクト、テリー・サザーン、ピータ
ー・セラーズ、ビリー・ワイルダー、そしてアレンも参加し
たという超豪華な布陣で映画化を敢行。その作品『カジノ・
ロワイヤル』が1967年、本家では『007は二度死ぬ』が公
開された同じ年に、コロムビアから公開されたものだ。
 ただし、この映画化権はその後に買い戻されたという情報
もあり、題名の使用は可能だったということだが、敢えて使
用は見送られていたようだ。この点の前回の報告は正確では
なかった。ところが、前回報告したソニーによるMGM買収
によって、MGMとコロンビアは共にソニー傘下の会社とな
り、その記念という訳でもないのだろうが、次回作がこの題
名で製作されることになったものだ。
 因に、映画化の題名は、第11作までは上述のように原作の
長編タイトルによっているが、第12作から第15作までは短編
のタイトルに基づいている。そして、その後はオリジナルの
タイトルが使用されてきたものだが、実は第16作の『消され
たライセンス』の後に、短編のタイトルから“The Property
of a Lady”を使用する計画もあったようだ。しかし、当時
主演のティモシー・ダルトンの出演拒否などのゴタゴタもあ
って製作が見送られ、ここでシリーズには6年間の中断が生
じることとなった。
 そして今回、第21作の監督には、その6年間の中断後の最
初の作品、1995年の『ゴールデンアイ』を手掛けたマーティ
ン・キャムベルの再登板がすでに発表されている。キャムベ
ルは、007以後では、1998年の『マスク・オブ・ゾロ』、
2000年の『バーティカル・リミット』、2003年には『すべて
は愛のために』などを監督し、現在は“Legend of Zorro”
を監督中だが、前回の登板はブロスナン=新ボンドの初登場
作品。今回もボンド役の交代が予定されるときには、好適と
考えられているようだ。
 新作の脚本は、ニール・パーヴィスとロバート・ウェイド
が担当し、キャムベルは近々彼らと共に詳細な内容の検討を
開始するとしている。なお、新作では“Casino Royale”の
タイトルは使用するものの、物語は第1作のものを映画化す
るということではなく、オリジナルな物語が展開されること
になる。そして製作される新作は、ソニー傘下のMGMから
2006年の公開が予定されている。
        *         *
 お次は、1987年度のアカデミー賞外国語映画部門にノミネ
ートされたノルウェー映画“Ofelas”(アメリカ公開題名は
Pathfinder)がハリウッドリメイクされることになり、その
監督に、昨年公開された『テキサス・チェーンソー』のリメ
イク版を担当したマーカス・ニスペルの起用が発表されてい
る。
 オリジナルは、古代ノルウェー民族が、外敵の侵略によっ
て戦いに明け暮れる日々を描いたものだったそうだが、リメ
イクでは1000年以上前の北欧ヴァイキングとアメリカ先住民
との交流が物語の中心になるということで。ヴァイキングの
一員として北米大陸に渡った少年が仲間に置き去りにされ、
アメリカ先住民に拾われて、白い肌で金髪を棚引かせる長身
のインディアンに成長して行く姿を描くものになるようだ。
 そしてこの脚本を、公開中のオリヴァ・ストーン監督版の
『アレキサンダー』や、ジェームズ・キャメロン監督の次回
作と言われる“Battle Angel”の脚色も手掛けているリータ
・カログリディスが担当することも発表されている。また、
多分主人公を助ける先住民の役で、渡辺謙にオファーを掛け
ているとの報告もあった。
 製作は、元ソニー・ピクチャーズ首脳のマイク・メダヴォ
イが率いるフェニックス。同社では、1950年度のオスカー作
品賞受賞作“All the King's Men”のリメイクを、スティー
ヴ・ザリアン監督、ショーン・ペン主演で、ソニー傘下のコ
ロンビアの配給で製作中だが、本作の配給に関しては未定と
いうことだ。
 因に、ニスペル監督の『テキサス…』は、全世界で1億ド
ル以上を稼ぎ出している。また監督の次回作には、パラマウ
ントから“Need”というサイコスリラーが予定されている。
        *         *
 ニコール・キッドマンに2003年度のオスカー主演賞をもた
らした『めぐりあう時間たち』の原作者マイクル・カニンハ
ムの未刊行の新作“Specimen Days”の映画化権が、前作の
映画化も手掛けた製作者スコット・ルーディンと契約され、
製作が進められることになった。
 因に前作は、作家ヴァージニア・ウルフの時代と50年代と
現代の時間が見事に交錯するものだったが、今回契約された
小説も、過去と現代と、そして未来が舞台となる三部作で構
成されたもので、19世紀のニューヨークに実在した詩人ウォ
ルト・ホイットマンを中心に、第1部では産業革命を背景に
した幽霊物語、第2部では現代の自爆テロリストの物語、そ
して第3部では150年後のニューヨークを訪れる地球外生物
の逃亡者たちの物語が展開するということだ。
 なお、ルーディンは、前作も今回の作品も個人の資金で契
約を結んでいるもので、前作は元々彼が本拠を置くパラマウ
ントで製作されたが、本作の製作会社は未定ということだ。
また原作は、今年の5月に初版50万部でアメリカの出版社か
ら刊行されることになっている。
        *         *
 マイクロソフト社のX-box用に開発され、2001年に発表さ
れた第1作は1280万本(総売り上げ6億ドル)のベストセラ
ーを記録したというヴィデオゲーム“Halo”を映画化する計
画が発表された。
 ゲームはマルチプレーヤーで行われるものだそうだが、基
本的な内容は、マスター・チーフと呼ばれる戦士が、エイリ
アンのグループと戦うというもの。その人気ぶりは、昨年発
表されたゲームの第2作が640万本(昨年度第2位)を売り
上げた他、インスパイアされた小説もすでに3作が発表され
ているそうだ。そして今回の発表では、この脚色を、レオナ
ルド・ディカプリオ主演で映画化された『ザ・ビーチ』の原
作者で、『28日後...』の脚本でも知られるアレックス・
ガーランドが、7桁($)の契約金で担当することが紹介さ
れている。
 なお、この脚本の契約はマイクロソフト社が直に行ったも
ので、今後は完成された脚本と映画化権をセットにして、製
作会社への売り込みを行う計画だそうだ。つまりマイクロソ
フト社としては、任天堂が権利を売り渡して話をめちゃくち
ゃにされた“Super Mario Bros”と、全部自前で製作して失
敗したスクエアの“Final Fantasy”の轍は踏みたくないと
いう意向だそうで、自分たちの満足のいく脚本を自前で完成
して、それからの映画化は製作会社に任せるという方針を取
ることにしたようだ。
 この方針を定めた裏には、“Final Fantasy”を手掛けた
当時のコロムビア首脳だった人物の陰が見えるとの情報もあ
るようだが、いずれにしても期待の作品が最高の条件で製作
されることを希望したい。ただし、原作となるゲームでは、
登場人物の性格付けなどはほとんど行われていないというこ
とで、ガーランドには大幅な自由が与えられる反面、それが
マイクロソフト社の意向に合うかどうか、かなり難しい挑戦
になるようだ。
 また、ガーランドの計画では、昨年12月1日付の第76回で
“Time Keeper”という作品を紹介しているが、その時は6
桁と言われた契約金が、今回は7桁に上がっているもので、
注目の脚本家になっているようだ。
        *         *
 角野栄子原作、宮崎駿監督で、1989年に製作された『魔女
の宅急便』の英語による映画化をディズニーが行うことにな
り、その脚色に、2002年に公開された『イノセント・ボーイ
ズ』などのジェフ・ストックウェルの起用が発表された。 
 この原作は、アニメ化された物語を第1話としてシリーズ
化がされており、昨年その原作シリーズの第1話が“Kiki's
Delivery Service”の題名で英訳出版された。そして今回
は、そのシリーズ全体を通した物語の映画化がディズニーで
進められるというものだ。
 因に、宮崎監督のアニメ版は、アメリカではキルスティン
・ダンストによるキキ役らの吹き替えによるDVDが1998年
にディズニーから発売されており、そのキャラクターなどの
マーチャンダイジングは、現在も世界中で力を発揮している
ということだ。
 また、今回の製作では、スコットランド出身のスーザン・
モンフォードと、彼女が最近チームを組んだ『リーグ・オブ
・レジェンド』などのドン・マーフィが権利を取得し、マー
フィの盟友マーク・ゴードンを加えた3人で当たることにな
っている。
        *         *
 昨年2月1日付第56回の最後で数行だけ紹介した“Blood
and Chocolate”の製作がようやく進むことになり、春から
の撮影に向けてドイツ出身のカッジャ・フォン=ガーネイア
監督の起用が発表された。
 この作品は、アネット・カーティス・クラウス原作のヤン
グアダルト小説を、『ザ・リング』のリメイクとその続編も
手掛けたアーレン・クルガーが脚色したもので、内容は、東
ヨーロッパを舞台に、自らの血の秘密を隠しながら生きてき
た16歳の狼人間の少女が、ふと出会ったアメリカ人の普通の
人間の少年を好きになったことから、少年への愛と家族の絆
との間で苦悩するという物語。
 実は昨年の紹介では、夏からの撮影が予定されていたもの
だったが、当初予定されていた東洋系の監督が降板し、後任
のユダヤ系の監督も撮影に漕ぎ着けられなかったということ
で、今回ドイツ人の監督がようやく決定したものだ。まあ、
舞台が東ヨーロッパで、原作者も脚本家もドイツ系の名前の
ようにも見受けられるし、これでドイツ人の監督なら丸く納
まりそうな感じだ。
 なお、フォン=ガーネイア監督は、アメリカではHBOで
放送された“Iron Jawed Angels”という作品で知られてい
るということだ。また、現在は同作を手掛けた製作者リディ
ア・ディール・ピルチャーと、脚本家サリー・ロビンスンが
再結集して、ピーター・ジャクスンが次回作に選んだことで
話題を呼んだ“The Lovely Bones”の原作者アリス・ホフマ
ンの別の作品“The Probable Future”の映画化も進めてい
るようだ。
 製作はMGMとレイクショアの共同で行われ、MGMから
は“The Brothers Grimm”を手掛けたダニエル・ボブカーが
製作者として参加。また、脚本家のクルガーは製作総指揮で
も名を連ねている。
        *         *
 2007年5月4日の全米公開が予定されている“Spider-Man
3”に関して、その脚本に第2作の脚本を担当したアルヴィ
ン・サージェントの参加が発表された。
 この脚本については、監督のサム・ライミが、実兄のイヴ
ァンと共に執筆していることが公表されていたが、実は第1
作もクレジット上はデイヴィッド・コープになっているが、
最終的な脚本はサージェントが仕上げたものだそうで、前2
作を通じての迫力ある展開は、どちらもサージェントの腕に
よるものだったようだ。
 そのサージェントが、今回も参加することになったものだ
が、実は、ライミ兄弟はすでにストーリーを完成させている
と言うことで、サージェントの参加は、そこから映像化に向
けての最後の詰めを行うためのようだ。しかしこの詰めのた
めにコロムビアでは7桁($)の契約金を支払うというのだ
から、彼の手腕への期待の大きさが判るというものだ。
 なお、サージェントは『ルート66』などのテレビの脚本
でキャリアをスタートさせ、その後に映画界に進出。すでに
1977年の『ジュリア』と1980年の『普通の人々』で2度のオ
スカーを受賞、また1973年の『ペーパー・ムーン』でノミネ
ートを得ている大ベテランだ。今年4月に74歳になるという
ことだが、それで“Spider-Man”の脚本を書けるのだから、
本当に素晴らしい才能と言うところだろう。
 因に、同様のシリーズと脚本家の関わりでは、“Mission:
Impossible”シリーズの全作を、『チャイナタウン』でオ
スカー受賞のベテラン脚本家ロバート・タウンが見ているそ
うだ。
 また今回の情報で、Variety紙にはサージェントが第4作
のオプション契約も結んだと報じられていたが、以前に報告
したように現時点でそれは考えられない話で、他の情報誌な
どの引用では無視されたようだ。今回は“Specimen Days”
の記事でもテーマとなる詩人の名前が間違っていたし、ちょ
っと気を付けた方が良いようだ。
        *         *
 1982年にディズニーが映画化した史上初のサイバースペー
ス映画“Tron”(トロン)のリメイクが計画されている。
 オリジナルは、後に『風の惑星/スリップストリーム』な
どの作品も発表するスティーヴン・リスバーガーの脚本監督
で製作されたもので、電脳世界に入り込む技術を発明した主
人公が、誤ってコンピューター内に送り込まれ、管理ソフト
などと闘いながら脱出の道を探るというお話。コンピュータ
用語がアレンジされて別の意味で使われるなど、当時のコン
ピュータマニアにはそれなりに面白がられたようだが、物語
自体は単調で面白味に欠けるものだった。
 また、製作にはCGが使われたことになっているが、実際
はコンピュータで打ち出された幾何学的な線画に、台湾で着
色が行われており、基本的にはセルアニメーションにジェフ
・ブリッジス、デイヴィッド・ウォーナーらの俳優の演技を
合成しただけの作品だった。
 ただし前評判はかなり高くて、当時には珍しい日米同時公
開だったこともあり、雑誌記事の執筆などはかなり苦労した
ものだが、郊外の東映撮影所かどこかの保税上屋で通関前の
作品を、大蔵省の特別許可で見せてもらったものの、見終っ
て頭を抱えた記憶もある。
 そういう作品のリメイクだが、時代は変わって今はCGI
も当たり前の世の中だし、そんな今にどのような作品が再提
示されるかには、ちょっと興味を引かれるところだ。また映
像的にも、当時ののっぺりした壁ばかりの背景がどのように
進化するかにも興味が湧く。
 なお今回の報道は、このリメイクの脚本に、ブライアン・
クラグマン、リー・スタンタールという脚本家チームの起用
が決まったというもので、彼らはインターネットが発達した
現代に合った物語を展開したいと抱負を語っていたようだ。
因に、この脚本家チームは、『パッション』などのイコン社
の製作で、ギャヴィン・オコンナーが監督する歴史ドラマの
“Warrior”や、『イレイザー』のチャック・ラッセル監督
によるコミックスの映画化“Black Cat”などの脚本を手掛
けているそうだ。
        *         *
 『ライオンキング』の舞台で2度のトニー賞獲得の偉業を
引っ提げて映画界に進出し、1999年アンソニー・ホプキンス
主演の『タイタス』と、2002年サルマ・ハエック主演の『フ
リーダ』で見事な成功を納めたジュリー・タイマーが、再び
映画に挑む計画が発表された。
 今回の作品はミュージカルで、題名は“All You Need Is
Love”。言うまでもなくビートルズのヒット曲名をタイトル
としたものだが、内容は1960年代のロンドンを舞台に、幸せ
薄い恋人たちの姿を描くということだ。そしてこの物語を、
タイトル曲を始め18曲のビートルズの音楽が彩るとされてい
る。脚本は、『ザ・コミットメンツ』のディック・クレメン
トとイアン・ラ=フレネイスが担当。
 『タイタス』も、『フリーダ』も必ずしも明るい話ではな
かったし、今回も幸せ薄い(star-crossed)と最初から設定
されているものだが、これにビートルズの音楽で、しかもミ
ュージカルというのはちょっと不思議な感じだ。製作会社は
リヴォルーション。製作者はマット・グロスで、これに『メ
メント』や『オースティン・パワーズ』を手掛けたスザンナ
&ジェニファー・トッドのチームトッドが加わっている。
 撮影は今年の9月からで、公開は2006年秋の予定。
        *         *
 最後に短いニュースを2つ。
 まずはディズニーで“Navy Seals”と仮題の付けられた計
画が進められている。この題名、1990年にチャーリー・シー
ンが主演したアクション映画の“Navy SEALS”(ネイビー・
シールズ)と混同されそうだが、実は映画はseal(アシカ)
が登場するもので、アメリカ海軍がイルカやアシカなどの海
洋生物を訓練して、海上に不時着したパイロットの捜索や救
助をさせようという研究に基づくもの。元々は2つのアイデ
アを合体して1本の映画にしようというもののようだが、海
軍が背景の物語でも、ディズニーで動物がテーマならあまり
殺伐としたものにはならないだろう。但し、本作はまだ脚本
家も決まっておらず。実写でやるか、アニメーションにする
かも未定の計画だそうだ。
 若年向けファンタシー作家ダレン・シャンのベストセラー
小説“Cirque du Freak”を映画化する計画が、ユニヴァー
サルで進められている。原作はすでに10冊以上発行されてい
るシリーズのようだが、映画化はその最初の3冊に基づくも
の。そしてこの脚色に、『ROCK YOU!』のブライア
ン・ヘルゲランドが契約したことが報告された。なお、ユニ
ヴァーサルでは、最終的に3部作の映画になることを期待し
ているそうだ。


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井口健二