井口健二のOn the Production
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2005年01月30日(日) ロング・エンゲージメント、エターナル・サンシャイン、レクイエム、ライトニング・イン・ア・ボトル、アイ・アム・デビッド、コーラス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ロング・エンゲージメント』             
         “Un long diamanche de fiancailles”
『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督と、主演女優の
オドレイ・トトゥが再びコンビを組んで繰り広げる歴史ロマ
ン。                         
第1次世界大戦を背景に、戦場での死が伝えられた恋人を、
「彼に何かあれば、私には分かるはず」という直感だけを信
じて、恋人の後を追い続けた女性の物語。        
ドイツ軍と対峙するフランス軍最前線の塹壕。その中を5人
の兵士が連行されて行く。彼らは戦場を逃れようと自らの身
体を傷つけ、その罪で死刑を宣告されているのだ。その5人
の中に、若い兵士マネクも含まれていた。        
しかし刑の執行を嫌った塹濠の隊長は、彼らをドイツ軍との
中立地帯に追い出すことにする。そこは両軍の砲弾が飛び交
い、誰に目にも生きたまま脱出できる場所ではなかった。そ
してその中で、次々倒れる彼らの姿が目撃される。    
マチルドは幼い頃に罹ったポリオのために片足が少し不自由
だった。そして内向的で、友達もいなかった。そんな彼女に
マネクは声を掛けた。やがて2人は愛し合うようになり、将
来を誓い合う。しかしそんな2人の間を戦争が引き裂く。 
そして戦争が終って3年後、マチルドにマネクが死んだとい
う情報が伝えられる。しかし彼女には、マネクが死んでいな
いという直感があった。彼女は探偵を雇い、弁護士を使って
マネクの行方を追い求める。それは、戦場で起きた真実を暴
くことでもあった。                  
映画を見ていて、『コールド・マウンテン』を思い出した。
あの作品も、恋人が生きていると信じて疑わなかった女性の
物語だったが、ニコール・キッドマンが演じた主人公がただ
待ち続けたのに対して、トトゥの演じるマチルドは積極的に
彼を追い求める。この行動力が何とも素晴らしかった。  
そして戦場の描き方も、その残虐さと狂気を見事に描き出し
ており、この点でも『コールド…』に通じるものを感じた。
また、宣伝には使わないようだがジョディ・フォスターの演
じる兵士の妻のエピソードにも、戦争の悲劇が見事に描かれ
ていた。                       
ただし、『コールド…』が映画全体として文芸の香り高く描
いているのに対して、本作はトトゥの個性もあり、時にはユ
ーモアも交えて絶妙に描き出す。僕は『コールド…』も高く
評価するが、それ以上に、この作品の描き方には脱帽してし
まったものだ。                    
セバスチャン・ジャプリゾの原作はミステリーとして発表さ
れたもののようだ。本作でも謎解きの面白さなども描かれて
はいるが、この映画化には、それとは別のちょっと不思議な
魅力が生まれていた。                 
                           
『エターナル・サンシャイン』             
       “Eternal Sunshine of the Spotless Mind”
人気脚本家のチャーリー・カウフマンが、2001年に『ヒュー
マンネイチュア』で組んだ映像作家ミシェル・ゴンドリーを
再び監督に迎えた作品。ただし計画は、『ヒューマン…』よ
り先にあったようだ。                 
恋人と別れるとき、その恋人の記憶を全て消し去ることが出
来たら…人の記憶の中から特定の条件のものだけを消去する
という医療技術を背景に、ジム・キャリーとケイト・ウィン
スレットが男女の愛憎を演じる物語。          
ある朝、目覚めの悪かったキャリー扮する主人公は、通勤の
ための乗車駅から逆方向の電車に乗り、人影もまばらな海岸
を訪れる。そこで1人の女性(ウィンスレット)と出会い、
2人は思いもかけず意気投合してしまうのだが…     
上記の設定でこの発端、これだけで物語は大方読めてしまい
そうなものだが、これが一筋縄では行かないのがカウフマン
の魅力だ。といっても、別段トリッキーな物語ではない。実
にありそうな物語が、ちょっと異常な設定の中で見事に進め
られる。                       
カウフマンの脚本では、いつも設定にオーソドックスな映画
からはかけ離れたものが提示されるが、その基本にあるのは
人への信頼のように感じる。見た目は奇を衒ったような展開
の物語だけれど、大元がいつも暖かいと感じられるのだ。 
キルスティン・ダンストのサイドストーリーも良いし、さら
にイライジャ・ウッドの絡みも納得できるものだった。そし
てこれらが絶妙のバランスで描かれる。すでにゴールデング
ローブの脚本賞を受賞したのも分かるところだ。     
その他、思わず頬が緩むような描写(待合室に注目)なども
あり、1時間47分が短く感じられる作品だった。     
                           
『レクイエム』“Wake of Death”            
ウェズリー・スナイプス主演の『アウト・オブ・タイム』、
スティーヴン・セガール主演の『一撃』とセットで公開され
るアクションシリーズの一篇で、本編の主演はジャン・クロ
ード・ヴァンダム。                  
舞台はロサンゼルス(ただし撮影のほとんどは南アフリカ、
ケープタウンで行われたようだ)。マルセイユを起源とする
組織のナイトクラブで用心棒をしている主人公が、惨殺され
た妻の復讐のため中国系組織の首領と対決する。     
物語をもう少し詳しく書こうと思ったのだが、どうにも展開
がいい加減で、お話がうまくまとめられなかった。まあ所詮
B級のアクション映画なのだから、これで良いのかもしれな
いが、ちょっと度が過ぎる感じだ。           
しかもよく人の死ぬお話で、これもB級のアクション映画だ
から仕方がないと言われればそれまでだが…       
ということで頭を切り替えて、B級のアクション映画の魅力
ということで考えれば、カーアクションからバイクアクショ
ン、銃撃戦に格闘戦、さらにベッドシーンと、何しろてんこ
盛り。しかも爆発に至ってはかなり大掛かりなものが仕掛け
られている。この爆破シーンについては、主演にヴァンダム
を迎えたことで製作費が上積みされたとかで、成るほどそう
いう効果もあるのかと再認識した。           
作品の全体を見ても、これだけサーヴィス精神を旺盛に描い
てくれれば、それなりの価値はあると言わざるを得ない感じ
だ。残念ながら他の2本は試写を見逃したが、このレヴェル
で揃っているなら、まあ文句を言う人は少ないだろう。  
でもこの3人は、もっとA級の作品でも活躍しそうな顔触れ
だが、最近のアクション映画はVFX全盛で、なかなかこの
人たちに陽が当たらないのかも知れない。そう言った意味で
も、これらの作品が日本で公開されたことに価値があると言
えそうだ。                      
                           
『ライトニング・イン・ア・ボトル』          
               “Lightning in a Bottle”
2003年2月7日に、ブルース誕生100年を記念してニューヨ
ークのラジオシティ・ミュージックホールで開催されたコン
サート「Salute to the Blues」の模様を収録したドキュメ
ンタリー。                      
製作総指揮というかコンサート自体の主催をマーティン・ス
コセッシが務めており、監督は『キング・アーサー』などの
アントワン・フークアが担当。オリジナルのコンサートは5
時間に及ぶものだったということだが、本作はそれを1時間
50分に凝縮。さらにアーカイヴの映像やリハーサルシーンな
ども交えて構成されている。              
映画の開幕は、楽屋にいろいろな顔触れが集まって来るとこ
ろから始まる。その様子は同窓会のようでもあり、ブルース
音楽に詳しくない自分でも、この顔触れが物凄いものである
ことが分かってくる仕組みだ。             
そしてコンサートは、ブルースのルーツである黒人音楽をさ
らに遡って西アフリカの民俗音楽でスタート、ここからディ
ープサウスのデルタと呼ばれる黒人音楽を経て、ブルースへ
と歴史がたどられて行く。そこには、会場のスクリーンにも
写し出された奴隷売買の様子や、大樹から果物のようにぶら
下がる虐殺死体など、音楽に同期した画像も挿入される。 
しかしブルースの時代に入ると、そこにはすでに故人となっ
たミュージシャンたち演奏風景や歌唱する姿が写し出され、
会場は一気に盛り上がって行く感じとなる。そして彼らの音
楽が、若いミュージシャンによって引き継がれて行く。  
最近、音楽ドキュメンタリーがいろいろ公開されているが、
ただ1回のコンサートを記録して、ここまで奥深い作品に仕
上げた作品には、見事としか言う言葉がない。      
もちろん、スコセッシの関わり方からして、最初から構成さ
れたコンサートであり映画であることは見えてくるが、それ
にしても、この作品がブルースに対する最高のサリュートで
あることは間違いない。                
                           
『アイ・アム・デビッド』“I Am David”        
1963年の北欧児童書コンクールで最優秀賞に選ばれ、その後
18カ国で翻訳されたという原作を、ニューヨーク在住のプロ
デューサーとUSC出身の監督が映画化した作品。    
1950年代のブルガリアの収容所を脱出し、自由があるという
デンマークを目指した12歳の少年の冒険を、ジム・カヴィー
ゼル、ジョアン・プロウライトらの共演で描く。     
主人公のデイヴィッドは、1950年代のブルガリアの収容所に
いた。そこでは、文化人だった両親とも引き離され、一人で
過酷な労働や日々の生活に耐えていた。頼れるのは、ヨハン
という名の青年だけ。しかしある日、その生活に耐え切れな
くなった少年は…                   
そして収容所を脱出した少年は、いろいろな人たちの助けや
妨害に合いながらも、イタリアからスイス、そしてデンマー
クへ向かって旅を続ける。               
原作は東西冷戦のさ中に発表されたもので、かなり政治的、
道徳的なものが押し付けがましい作品だそうだが、現代の映
画化ではそのような思想的なものは薄められて、いたいけな
少年の冒険の旅という描き方にされている。       
先の登場人物が良いタイミングで再登場したり、御都合主義
の点は多々あるが、まあそういう作品ということで我慢する
しかない。それは別としても、結末があっけないのも気にな
るが、これも原作がそうであるなら仕方ないところだろう。
差し当たってはお子様向けの作品なのだろうし、その意味で
は適当な謎解きがうまく挿入されていたり、純真な心で見れ
ば結末はそれなりに感動できるものになっている。試写会で
は涙している女性も見られたものだ。          
                           
『コーラス』“Les Choristes”            
アカデミー賞の外国語映画部門の候補にも挙がっているフラ
ンス映画。本国では昨年3月に公開されて、『アメリ』を抜
いて歴代第1位の興行成績を記録したようだ。      
「池の底」と名付けられた寄宿学校。そこにはいろいろな事
情で他校には行けない生徒たちが集まっていた。当然、風紀
は最悪で、校長はそれに体罰を以て応えていたが…    
そこに一人の音楽教師が新たな舎監として赴任してくる。し
かし、早々に用務員が男性が生徒のいたずらで重傷を負うな
ど、前途多難の仕事始めとなる。ところがそんなある日、彼
は生徒が先生たちの陰口を歌にしているのを耳にする。そし
て…                         
簡単に言ってしまえば、熱血教師の奮戦記という感じの作品
だが、その奮闘が生徒にコーラスを教えるという展開になる
のがうまい。しかもその生徒の主人公を演じるのが、実際に
サン・マルクという合唱団でソリストをしている少年という
のが見事だ。                     
なお劇中のコーラスは、このサン・マルク合唱団が吹き替え
ているようだが、主人公の少年は当然ながら吹き替えではな
い。そしてこの歌声が、まさに天使の歌声という感じで、そ
の上、ちょっと陰のある少年の風貌が…これは間違いなく女
性の心を捉えそうだ。                 
俳優でもあるジャック・ペランが製作と出演も兼ね、他にジ
ェラール・ジュニョ、フランソア・ベルレアンらが出演。そ
して、少年を演じるのはジャン=バティスト・モニエ。彼は
昨年合唱団と共に来日して、日本の家庭にホームステイもし
たことがあるそうだ。                 
脚本、監督はペランの甥のクリストフ・バラティエ。彼は、
劇中で歌われるコーラス曲の作詞作曲も手掛けており、その
1曲はアカデミー賞の歌曲部門にノミネートされている。 
なお物語は、1944年公開の映画『春の凱歌』からインスパイ
アされたと記されていた。               


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井口健二